Fate/DebiRion.   作:遥野みしん

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31.お城へ

【聖杯戦争が始まって一週間以上経つっていうのに、だーれも脱落していない。聖杯戦争は全く進んでいない。これはどういうことだろう、マスターやサーヴァントに願望を叶える意欲がないのか? それとも他のマスターたちが潰し合うのを狙っているのか、みんながみんな? なんて臆病な! いや、いやいやいや、そんなことはないだろう。僕はこう思うんだ。きっと、色んな偶然が重なって、めぐりあわせも悪く、機会を捉えかねているんだろう、ってね。じゃあ、僕がその機会を作ろう! 僕のサーヴァントがみんなのために立派なお城を作ってくれた。ここでパーティーを開こうと思う。美味しい料理にお菓子もたくさん用意している。個室のベッドに温泉もあって宿泊もできる。是非ともマスターたちには参加してもらいたい。この城を舞台に他のマスターと戦うもよし、語り合うもよし、とにかく他のマスターと接触する機会としてこの場を活用してもらいたいんだ。もちろん、純粋にパーティーを楽しみたいマスターには僕が護衛を用意する。この場が公平な場であることを証明するものとして、この聖杯戦争の監督役、冬木教会の叶神父のサインもいただいた。だからどうか、マスターのみんな、この城に集ってほしい。皆を信じてお城で待ってるよ。 ましろ】

 

「うわ、本当にお城がある……」

 

 驚愕と言うよりかはドン引き、頬を引き攣らせる鷹宮の見上げた先には大きな城があった。

 

「小娘~、あっちに門があった」

 

 視界の悪い森の中で、空から全体像を見てきた悪魔が鷹宮の肩に降りてくる。

 

「おっけー」

 

 二人は城の側面を回り込んで正面に向かった。

 ハートのオブジェの掲げられた門は開かれていて、門の横には服をめかし込んだ白兎が立っていた。

 

「あ、あのときの!」

 

 と悪魔が指差し、鷹宮が慌ててその指を下げさせる。白兎は気にせず笑った。

 

「あのときは申し訳ない。貴重な時間が過ぎることに耐えられないタチでして。ええ、では決まりですので、お手紙を確認させてもらえますかな」

 

 鷹宮は持ってきた手紙を渡す。

 

「けっこうでございます。それでは良きお時間を」

 

 白兎は頭を下げて二人を見送った。

 

「あいつ、キャラ変わってねえか?」

 

 悪魔が振り返ったが、ちょうどそのとき白兎は懐から金の懐中時計を取り出し、ぼそぼそと呟いていたところだった。

 

「遅い、遅い……後一人だというのに一体何をしているのだ……パーティーに遅刻する気なのか? それは困る、困る、私の時間が……」

 

「あ、あんま変わってねえわ」

 

「そうそう変わんないでしょ」

 

 二人は会話しながら城へと続く庭の小道を進んでいく。開かれた城の入り口にはトランプ兵が槍を持って立っていたが、鷹宮と悪魔を見ると一礼して通してくれた。

 エントランスは赤い絨毯が敷かれ、シャンデリアの蠟燭の炎で適度な明るさが保たれていた。

 

「うわぁ……」

 

「これすごいね」

 

 二人はシャンデリアの下をゆっくりと歩いていった。正面の両側から降りてくる真っ白な螺旋階段の奥には大広間へと続く扉があり、鷹宮たちを確認したトランプ兵がその扉を開いた。

 

 聞こえてくるのはピアノと哀しげな歌声。海の中を模した水色のライトが壁や天井までを彩っていた。ステージの方を見ると、スーツを着たグリフォンがピアノを弾き、同じくスーツを着たウミガメがマイクの前で歌っていた。

 

 きっとウミガメが歌っているからライトで海みたいな雰囲気にしたんだろう、と鷹宮は謎の納得を得る。

 

 部屋には料理の並ぶ大きな丸テーブルがいくつも並び、会場にいるマスターやサーヴァント、そして仮面をかぶって着飾っている人々に二足歩行の動物たちは、自由に席を移動してものを食べたり、人と話したりできるようだった。

 

「おい、早くタッパーに詰めるんだ!」

 

「いや、リーダー気が早いって。一泊して明日も食べればいいんだよ!」

 

「そうか! よし、では我々はなるべく粘ってたくさん食べるぞ!」

 

「うっす、任せてください!」

 

 はしゃいでいるメイド服を着た怪しげな巨漢と女子高生を見なかったことにして、鷹宮は手を振っている緑の方に歩いていった。

 

「やあ鷹宮、待ってたよ」

 

 緑は学生服ではない、前掛けのあるチャイナ服を着て足を組んでいる。学校での緑とはまるで雰囲気が違った。

 緑の横には白髪の老人のサーヴァントがあり、鷹宮が目をやると会釈をしてきたので 鷹宮も会釈を返した。

 

「緑さん、聖杯戦争に参加してたんだ……」

 

「うんまあね。強い望みがあるわけじゃないんだけど、何の因果でって感じかな」

 

「へぇ、まあ色々ありますよね」

 

 鷹宮が視線を逸らした先では、制服の上にパンダ柄の上着を着こみ、パンダの耳の付いたフードを深くかぶった女子高生の姿があった。

 

「ってあれ、笹木さん?」

 

 鷹宮が気付くと、その女、笹木咲はちょうど食べていた恵方巻を喉に詰まらせたらしく、げほげほと周りに米粒を撒き散らしながらせき込んだ。

 

「あ~、リオン、ちゃん……お久しぶり、です」

 

「ええ、お久しぶり。二人、組んでたんだ」

 

「あー、たまたまだよ、たまたま」

 

「ふ~ん、そう……」

 

 鷹宮は緑仙の言葉を信じるつもりもなく、どうでもいいことのように受け流す。色々、あるのだろう……それ以上踏み込む必要も感じない。

 

 鷹宮はちらと笹木の横にいる戦士風の大柄な男に目をやる。彼はニヤニヤ笑いながら一心にパフェに食らいついていた。トランプの給仕たちが慌ただしく空いたグラスを下げては次のパフェを持ってくる。あれは王冠……王様? あの背中に背負ってるのは剣……槍? っていうか筋肉すご! ……鷹宮にそれ以上観察できることは無かった。

 

「ねえ、鷹宮の肩に乗ってるそれって、あの動画に出てた、悪魔のでびでび・でびる?」

 

 と緑仙が尋ねる。

 

「え、ええ。そうですけど……」

 

 鷹宮は悪魔を肩から降ろそうとするが、悪魔はその手を振り払って自分の翼でテーブルに降り立った。

 

「えー、こほん。魔界の悪魔にして動画配信者、でびでび・でびる! よろしかったらチャンネル登録を頼むぞ」

 

 と悪魔は胸を張ったあとぺこりと頭を下げる。

 

「え、もうしてるよ」

 

 緑仙は携帯を取り出しチャンネル登録の証を見せた。悪魔は度肝を抜かれた様に仰け反るが、改めて胸を張り、感謝を告げる。

 

「おお……崇拝ご苦労!」

 

 緑仙はなんてことも無いように続けて言う。

 

「たまに投げ銭もするよ」

 

 これに鷹宮は吹き出した。

 

「うっそでしょ……献金感謝!」

 

「あー、うちも今から登録しよかな」

 

 と笹木も携帯を取り出して操作し始める……。

 

「あのー、すいませ~ん」

 

「うんしてして。今めっちゃ熱いから! でびリオンチャンネル。笹木さんの願いも運が良ければ叶うかも?」

 

 と鷹宮が勧めるが、笹木はそれに顔をしかめる。

 

「なにそれ、怪し。変な宗教みたい~」

 

「うっ!」

 

「ぐさっ!」

 

 動画のコメントでちょくちょく見る言葉も目の前で言われると刺さるらしい、鷹宮と悪魔は胸を押さえて俯いた。

 

「ッスゥー……あの、聞こえてない……ですよね」

 

 その声はようやく鷹宮に届いた。鷹宮が振り返ると、そこには貴族のような二人組が立っていた。どちらも白髪で黒と金を基調にした服装だったが、片方は華やかな若い王子という出で立ちであり、もう片方は落ち着いた雰囲気の王だった。

 

 サーヴァントを見てわかったが、鷹宮は最初、その王子のような男が葛葉であると思わなかった。

 

「ちょ、葛葉くん⁉ え、いつものジャージは?」

 

「いや、パーティーにジャージはマズいだろ……あと葛葉さんな?」

 

 と葛葉は頬をかく。

 

 ふと鷹宮が緑仙と笹木の方を見ると、二人は目を丸くして葛葉と鷹宮の間で視線を往復させていた。

 

「あ、えっと……こちら、わたしと同盟を組んでる葛葉くんとそのサーヴァントです」

 

「うん、葛葉さんな。あ、どうもぉ~、えーっと。鷹宮さんと同盟組んでます。葛葉って言いますぅ。席、座ってもいいですか?」

 

「どうぞ」

 

 緑仙が空いている席を勧めたので、葛葉とそのサーヴァントは席に着いた。

 

「え、ちょっと待って? この席にいるマスターって今4人?」

 

 笹木が席にいる面々を見渡して確認するように言った。

 

「2,3、4……うん、4人いるみたいだけど……ああ、そういうこと?」

 

 緑仙が納得したように笑う。それで意味が分かったのか、葛葉もつられて笑い、離れたテーブル席のマスター二人組を挑発するようにちらちらと見始める。

 

「え、なに どういうこと?」 

 

 鷹宮が悪魔に聞くが、悪魔は料理に夢中だった。手でがっつきそうなものだったが、しっかりとナプキンを着けてフォークとナイフでステーキを食す様は、どこかこだわりのある美食家のようで、鷹宮はしばらく目を奪われる。

 

 見兼ねた葛葉のサーヴァント、バーサーカーに呼び掛けられて我に返った。

 

「よいか? このテーブルに集まったマスターは4人、パーティの主催者を除けば、残るマスターは二人。つまり、もう派閥も敗者も決定したということだ」

 

 バーサーカーの示した方に目を向けると、そこにはぐぬぬぬぬ……! と声が聞こえそうなほどあからさまに歯噛みして、こちらを睨んでいる離れた席のマスター二人組がいた。

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