転生特典刀一本 作:護廷−十三番
「それでそれで? アーニャのどんなところを好きになったんですか!?」
グイグイくる。
その顔は恋バナに浮かれる街娘にうまく擬態しているが、その目は森羅万象を見通す天上の瞳。
「確かにアーニャは可愛いですけどね、会ったその日に見た目だけで好きになるようないい加減な人には、やっぱり任せたくないわけですよ。ちゃんと見ただけでその人が分かるんなら別ですけど」
「……………見惚れていたが、惚れたわけじゃない」
「え〜…………」
呆れたようなジト目を向けるシル。あんな、傍目から見て丸わかりな大好きオーラ出しておきながら何言ってんだこの男、と考えている。
「お前の言う通り、俺はアーニャの姿を見ただけ。中身を知らない………歩んできた人生も、乗り越えてきた苦難も知らない。なのに好きなところがあるなんて、それこそ滑稽なだけだろ」
「う〜ん。これから知ってく! とでも言えばいいのに。妙なところで真面目ですね? アーニャと話し合うのかな、この人。でも、つまりアーニャに対してはそこまで本気じゃない、と?」
「………………本気も何も、言っただろ。見惚れていただけだ」
「恋愛的じゃない、と? じゃあ、私なんてどうです?」
「…………………………あ?」
今度は鋼夜が呆れたような目を向ける。
「
「………………妻がいる」
「大丈夫です。私気にしませんから」
「俺が気にすんだよ」
なんだこの阿婆擦れ。と、その時………
「ニャー! シル、離れるニャ! 其奴はナンパヤローだニャ!」
「あ、アーニャ♪」
「………………」
割り込んでくるアーニャ。シルは面白そうに笑う。
「もう騙されないニャ! 皆から聞いたニャ、お前、けっこんさぎし? って奴なのニャ!」
「別に金に困っちゃいないが………」
「ふふん。けっこんさぎしは、金をもってるあぴーるするって聞いたから知ってるのニャ!」
ふふーん、と胸を張るアーニャにシルはニッコニコだ。鋼夜もジッと眺める。と、不意にアーニャの後ろに影が……
「客に失礼なこと言ってんじゃないよ!」
「ギニャ!?」
ゴン、とぶん殴られるアーニャ。殴ったのはミアだ。
「あんた、忘れもん届けてもらったんだろ? なら礼に酌の一つでもしてやんな」
「いや、流石にそこまでは………」
「はいニャ! ほらほら、席に着くニャ! おミャーの相手してればサボれるニャ〜」
先程までの警戒は何処にやら。グイグイと腕を引っ張るアーニャに促されるまま席に着く。
「魚、魚がおすすめニャ! このマタタビ酒も美味しいのニャ〜」
厚かましい。が、彼女の笑顔は好きなので注文してやる。ミアは甘やかすんじゃないよ、と呆れる。
「…………不快な思いをさせたなら謝る」
「ふかい?」
「嫌な思いってことだよ、アーニャ」
何故いるシル。
「ニャア………別に、嫌な思いはしてないのニャ」
耳をピコピコさせ俯くアーニャ。自分でもよくわからないが、不思議と彼の言葉は嫌な感じがしない。
「でも………」
「おいおい、なんでハイエナ野郎がココにいるんだぁ?」
「………………」
と、不意に新たな人物が割り込んでくる。顔を赤くした酔っぱらいだ。
「ここは冒険者御用達の店だぜ? てめぇみついな死体漁りがいると酒がまずくなる!」
言葉にこそ出さないがその言葉に同意するように鋼夜を睨む複数の冒険者と自分もと立ち上がる冒険者。そんな彼等を見て、言葉だけの彼等から直ぐに興味を失った鋼夜は水を呑む。
「っ!! お前もさ、こんな奴と一緒にいちゃ駄目だぜ。せっかくかわいいんだからさ…………此奴が誰か知ってるか?」
「鋼夜にゃ?」
「もう一つの名前だよ。
別段否定することでもないと注文した食事を待つ鋼夜。アリーゼ辺りがいたら騒がしかったのだろうが。
「聞いてんのかよ、てめぇのことだよ。ああ、弱い者しかいじめられねえ臆病者には言い返すなんて無理か?」
ゲラゲラと男を筆頭に周りの冒険者が笑う。それでも鋼夜は彼等に視線を一度向けるだけ。
「っ!! なんか言い返したらどうなんだ、ああ!?」
好きなだけ吐き出せば満足するタイプじゃなかったらしく、そろそろ掴みかかって来そうなので面倒だが相手してやることに………
「さっきからうるせえニャ」
と、アーニャが彼等を睨みつける。
「おミャーも何黙って言われっぱなしになってるニャ!」
「言い返したら相手してやらなきゃならねえからな。言いたいことだけ言って満足する相手もいる」
「だからってこんな奴等に好き勝手言われていいわけないニャ!」
「こ、こんな………」
アーニャの言葉にピクピクと目元を歪める冒険者達。
「言ってくれんじゃねえか、嬢ちゃん。俺はな、あの大抗争でも活躍したんだぜ。こんな顔だけの男より余っ程お前等冒険者以外の連中の為に戦ってやったのになぁ!?」
「そんなの、其奴も同じニャ。調子乗ってようが弱ってようが、いゔぃるすぶっ倒してくれるんなら感謝するべきなのニャ」
その言葉に冒険者に絡まれているのをニヤニヤと見ていた冒険者以外が視線を逸らす。
「だから、俺の方が街のために苦労してやったんだよ! 守られる必要もねえのに感謝なんざするか! それよりてめぇ等はまず俺に感謝するべきじゃねえのか、ああ!?」
「ミャーはお前等より強いから関係ないのニャ!」
「は!?」
「おミャー等に護られる必要ないのになんで感謝するニャ?」
本当に不思議そうに首を傾げるアーニャ。皮肉でも何でもなく、お前等がそう言ったと思っているのだろう。
「だいたい、ミャーもどっかで聞いた気がするような噂されるほどのコーヤと何も聞かないおミャー等じゃどっちに街が助けられてるかなんていちもくりょーぜんなのニャ!」
ふふん、と胸を張るアーニャ。冒険者の額に青筋が浮かんでいく。
「だからミャーが感謝するのはコーヤの方ニャ!」
「この、調子のんなメス猫!!」
と、男がアーニャに向かって腕を伸ばす。一人が動けば俺達もと単純な馬鹿共も動き、アーニャが木製のジョッキで男の顎を砕く。
「かかってくるニャー! ………ニャ?」
残りは全員地に伏していた。
「な、んだ……これ………!?」
「か、身体が重………」
見えない何かに魂ごと押し潰されそうになる冒険者達。何が起きているのかは解らないが、誰の仕業かは本能的に察する。
「失せろガキども。息の仕方を忘れても、教えてやる程俺は優しくないぞ」
重圧が消える。解放された冒険者達は大慌てで逃げ出す。
「あ、母ちゃん、食い逃げニャー!」
「財布なら置いてったぞ」
というか鋼夜が取っておいた。
「ニャー…………お前、なんで言い返さないニャ」
「同じ土俵に立つのも面倒だ。俺は別に気にしないしな」
千年ほど眠っていたが、その前に二千年は生きているのだ。今更悪口程度気にする程心の揺らぎはのこっていない。
「……………おミャー、友達はいるかニャ?」
「ともだち…………友達?」
死んだ友達が脳裏に浮かぶ中、勝手に紛れる赤毛の女がふふーんと得意げに笑う。
「………………………アリーゼ」
「いるニャラ、ちゃんと怒るニャ。おミャー等が気にしてなくても、兄さ………知り合いの悪口聞いちゃうのは、いい気分じゃないのニャ」
似たような経験でもあるのか顔が曇るアーニャ。
「………お前も、気分が悪くなるか?」
「……まあ、ミャーに見惚れる辺り、女を見る目はあるみたいだからニャ。特別に気にしてやるのニャ」
「…………なら、言われたままじゃいれねえな」
「…………おミャー、ミャーのこと好きすぎニャい?」
「別に好きじゃないさ。俺はお前の見た目と名前しか知らない……お前が歩んできた人生の、隣に立ってやれなかった。でも、そうだな……」
己を見つめるその瞳に思わず息を呑むアーニャ。
「俺はきっと何度でもお前を知りたいと思って、何度だってお前に恋をするんだろう」
「─────ニャ!!」
ボッとアーニャの顔が真っ赤に染まる。
「お酒とお料理お待たせしましたー! さあ鋼夜さん、アーニャ、2人の今後について話し合いましょう!」
「フニャー!!」
「あれ、アーニャ!?」
アーニャは逃げ出した。