Silent Hill〜五等分の罪〜   作:仙豆大名

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第10話 果てしない謎

 二階、三階、屋上を全て探索し終えた三人は、病棟の一階へと降りた。何かに押さえられて進めなかった扉の向こう側だ。

 全ての病室を探索したが、特に気になるものは無い。「まさか、あの地図のバツ印は、入院患者の記録のためだけに描かれたものなのか?」という疑いを風太郎は持ち始めた。

 次に処置室と書かれた部屋の扉を開けた。救急車に運ばれて来た患者に救命処置を施す場所だ。三人は手分けをして、何かないかと部屋中を探る。

 

 結局何も見つけられなかった。残るは地下室のみ。……だが、ここまで何も無いとなると、地下室の探索なんて無駄だと思えてしまう。

 三人は、そんな思いを堪えて地下室に向かうことにする。処置室を後にしようとドアノブに手をかけたとき──。

「あれ、何だこれ?」

「どうしたんですか、上杉さん?」

「ドアノブが動かないんだ」

ドアノブが固定され、扉を開くことができなくなっていた。

 威嚇する獣めいた唸り声がした。処置室の暗がりのどこからか……。天井だ。天井からぶら下がって何かいる。ぶらり、ぶらーり。振り子のような動きで化物が迫ってくる。

 四角い枠の中に、ぶよぶよとした肉塊がある。鯨にでも飲み込まれた人間が、消化途中で吐き出されたかのようだ。皮膚や筋肉は半ば溶け、内臓が剥き出しになり、あらぬ場所から手足が突き出ていた。

「ぶら下がりの化物」は三体もいた。風太郎たちを取り囲み、ジリジリと迫り来る。

 だが好都合だ。こちらも三人いる。3対3での戦いだ。

 風太郎、四葉、五月は三手に分かれて、一体ずつ相手をした。風太郎と四葉は鉄パイプで、五月は拳銃で応戦する。拳銃の弾はいざという時に、特に三角頭と出くわした時のために取っておきたかったが、五月の武器がこれしか無いためそうも言ってはいられなかった。

 意外にタフなやつらだ。既に15発くらいは攻撃を当てているが、まだ三体とも倒れていない。集中力を再び研ぎ澄ませ、さらに攻撃を続ける。

 出来るだけ間合いを取りつつ攻撃するが、五月が距離を詰められてしまった。ぶら下がりの化物は、下側から生えた二本の足で五月の首を締め上げた。

 五月は息ができなくなってもがき出すが、相手の力には敵わなかった。──が、それに気づいた風太郎が化物に向けて一回発砲すると、化物は怯んで五月を放した。

 

 戦いにある程度慣れていた風太郎と四葉はようやく化物を倒し、残るは五月が相手をしている一体だけとなった。風太郎と四葉は五月の加勢に入り、ついに三体とも撃退した。

 固定されていたドアノブが動くようになり、処置室から出られるようになっていた。処置室を後にし、三人は地下室に向けて足を進める。

 あの扉を押さえていたのは車椅子だった。扉と壁の間につっかえていたのだ。車椅子をどかし、扉を開けて管理棟へ戻ってきた。

 管理棟の階段から地下へと降りた。電気室、ボイラー室、ポンプ室は鍵が掛かっていて入れなかった。入れるのは二つの倉庫のみだけだ。

 まずは、階段の向かいの方の倉庫を探索する。倉庫ということもあって色々なものが置かれていたが、役に立ちそうなものは無かった。

 次に、ポンプ室に面する方の倉庫を調べる。……やっと求めていたものが見つかった。町の地図だ。橋の支柱に留められていたものと同様に町の一箇所を示すバツ印と、文章が書かれていた。

『深淵に見つめられることを怖れる者には、深淵を覗き込むことはできない。真実は進むことでしか得られない。地図に従え。手紙がある』

 新たな道標を入手し、病院での目的を果たした三人は、もうここには用が無くなったため次の場所へと向かい、一階へ戻ろうとする。

 その時だった。ある音がこちらに向かって降りて来るのが聞こえた。

「この音って、まさか!」

五月が最初に反応した。

 風太郎にとってはこれまで何度も聞いてきた、五月にとっては屋上で一回耳にした、四葉が屋上で聞き逃してしまった音が近づいてくる。聞き慣れたくもない、床を擦る不愉快な音だ。

「こっちだ! 早く!」

 風太郎がエレベーターに向かって走り出し、その後に五月が続く。

「ちょ、ちょっと! 待って!」

 四葉がワンテンポ遅れて二人を追いかけた。

 エレベーターの降下ボタンを押し、地下室まで下がって来て扉が開くと、急いで中に入った。

 エレベーターに乗り込み、走って来た方へ振り返ると、意外と近くまで三角頭が迫って来ていた。このままでは、エレベーターの扉が閉まる前に追いつかれてしまう。

 まずいと思った風太郎は、拳銃を取り出して三角頭に銃口を向けると数回発砲した。三角頭は怯んで動きが鈍くなるが、徐々にこちらとの距離を詰めて来ている。

 だが、そいつがこちらへ追いつく前にエレベーターの扉が閉まり、上昇した。危機一髪とはまさにこのことである。

 一階まで上がって病院を後にし、しばらく走り続けた。三角頭の気配や床を擦る音はもうしない。ひとまず撒くことができたようで、風太郎と五月は安堵のため息を漏らした。

 

「……」

 四葉は頭が真っ白になって沈黙していた。たぶん奴の威圧感に怯えてしまったのだろう。

 

 地図の目印の場所へと向かい、足を進める三人。レンデル通りを西に行き、マンソン通りからソール通り、ニーリィ通り、サンダース通りを経て、リンジー通り沿いに目指す場所がある。

 ソール通りの途中は高架のような建物の下をくぐるトンネルになっていた。内部はいっそう濃い闇に覆われている。

 工事中のような金網床の下の穴の底に、蠢く黒い人影のようなものが覗いて見える。化物に違いない。クネクネやマネキン、ナースとは異なるようだ。

 風太郎は駆け抜ければ平気だろうと思った。正直足の速さに自信は無いが、それでもやってみるしかなかった。

 携帯電話の画面の光で足下を照らし、風太郎は「レディ・ゴー!」と心の中で唱えてダッシュした。

 金網を揺らす彼の靴音に混じって、下側から音が聞こえてくる。穴の底から這い上がって来た化物が金網を伝って迫り来る。

 そいつは、棍棒状の両腕の先端に吸盤の様な口がついており、その口で金網の床にぶら下がっていた。

 巧みな動きで風太郎に迫って来ている。何か言いたいことがあって追いすがるかのように──。

「おねがいだ、きいてくれ、わかってくれ……」と言わんばかりに訴えかけている。金網の格子からはみ出した腫瘍のような吸盤で風太郎の足に咬みついた。

「やめろ、こいつ!」

 吸盤に向かって鉄パイプを叩きつけるが、金網を揺らすばかりで、その下の「吸盤の化物」にダメージを与えるのは難しかった。

 痺れをもたらす足の痛みによろめき転んでしまいそうになるのを、トンネルの壁に手をついて堪えた。

 転んだらおしまいだ。身体のあちこちに吸盤が咬みついて金網に貼りつけられ、逃れる術を失って少しずつ肉を食い破られながら死ぬのだ。

 足の感覚が無くなってきた。まだ走れるうちに走らなければ……。とにかく逃げるしかない。トンネルの出口へ向かい、風太郎は必死で化物の吸盤を振り切り、悲鳴とも雄叫びともつかぬ声を張り上げて猛進した。

 四葉と五月は大丈夫だろうか? 二人のことを心配した風太郎が、後ろを振り向くと信じられない光景を目にした。自分はあれだけ必死に走り抜けた金網の上を、二人は何食わぬ顔をして渡っていたのだ。

「お前ら、平気なのか?」

「何のことですか?」

 おかしい。四葉の返事はあまりにも不自然なものだった。あんなやつに襲われて「何のことですか?」と言えるはずがない。

「あなたこそ大丈夫ですか? びっくりしましたよ。急に走り出したかと思えば、突然大声をあげるものですから」

「五月……。お前まで何言ってんだ? 金網の下に化物がいただろ!? 両腕の先端に吸盤みたいな口がついた……」

「もしかして、疲れていますか? そんな化物はいませんでしたよ。四葉だってそうでしょう?」

「うん。私も、何もいなかったと思うけど……」

 見間違いのはずがない。ひどい足の痺れが残っているからだ。……だが、四葉や五月の言うことには納得できた。実際、二人は平然と金網の上を渡っていたのだから。

 だが、自分の目には間違いなくあの化物の姿が映っていた。そして、襲われさえもした。あれも誰かの妄想の産物だとすると、自分のみに向けた当てつけなのだろうか?

 しかし、そうだとすれば犯人は風太郎の身近な存在ということになる。家族、親戚、学校の先生や同級生、まさかとは思うが……中野姉妹のうちの誰か。そして、風太郎を家庭教師として雇っている中野姉妹の父親。この中に、吸盤の化物を産んだ人物がいる。

 

 風太郎は、学校の同級生が犯人である可能性が最も高いと踏んだ。今まで人付き合いに無関心で、人と関わることを避けていた。それで、彼に不満を持った同級生の中の誰かの想像が、あの化物を産み出したのだろう。

 

 じゃあ、三角頭を産んだ人物も同級生の中に……? 風太郎の存在を消そうとして? 

 

 でも、そうであると仮定すると二つの疑問点が生じる。

 一つは、三角頭が中野姉妹にまで襲いかかるということだ。現に二乃が殺されている。

 風太郎と中野姉妹の六人のことが気に入らないという人物によるものだろうか? ところが風太郎はともかく、中野姉妹は容姿端麗だと、男子からも女子からもちやほやされるくらいだ。中野姉妹に関する悪い噂も聞いたことがないし、同級生の中に彼女たちを憎んでいる人物がいるとは考えにくい。

 もう一つは、三角頭が風太郎を見逃したということだ。恐怖心を植え付けた上で殺そうとしているにしても、完全に追い詰めた状態という絶好の機会をわざわざ蔑ろにする意味はないはずだ。

 もしかして……風太郎は「対象外」なのだろうか? しかし、四葉と五月には吸盤の化物の姿が見えていなかったことを踏まえるとそうでもなさそうだ。もし本当に対象外だとしたら、風太郎には三角頭の姿は見えないはずである。いずれ命を狙われる身にすぎない。

 

 考えれば考えるほど、かえって謎に包まれていくばかりだ。




クリーチャー解説
・ぶら下がりの化物(ゲームでの名前:フレッシュリップ)
 ブルックヘイヴン病院の処置室で遭遇した化物。格子に組み込まれた肉塊のような姿をしていて、天井にぶら下がっている。
 下から生えた二本の足で蹴飛ばしたり、首を締め上げたりして攻撃する。耐久力が高い。

・吸盤の化物(ゲームでの名前:マンダリン)
 ソール通りの途中にある高架下トンネルで目撃した化物。棍棒状の両腕の先端に吸盤の様な口がついており、その口で金網の床にぶら下がっている。
 金網越しに腕の先端の口から刃を出して攻撃を仕掛ける。
 何故か風太郎だけに見えていて、四葉と五月には見えていないようだが……。

読者様に質問です。「五等分の花嫁(アニメまたは漫画)」、「サイレントヒル2(ゲームまたは小説)」についてです。当てはまる方を選択してください。

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