歴史資料館を出て、レイクビュー・ホテルを目指していた五人。──だったが。
「しまった。そういえば、橋が崩れているんだった」
レイクビュー・ホテルへの通り道となる橋が壊れていて、先へ進むことができずにいた。
「どうしましょう? これではホテルに辿り着けませんよ」
「どこかに別の通路があればいいんだけど……」
五月と三玖が話す。
その時、風太郎はあることを思い付いた。マンホールの中を通って辿り着けないかと。地上に道が無いなら地下道を進むしかない。
もしかしたら町の外へ続いているかもと一瞬思ったが、そんな都合の良い事は起こらないだろう。とにかく目指すはレイクビュー・ホテルだ。
蓋を開けると、奈落の底が顕となった。降りてみよう。奥がどうなっていようとも……。
地下道に降りて、スマホで辺りを照らしながらしばらく先へ進むと、水路に出た。膝下までの水位の下水道だ。
制服姿のまま入るのは躊躇われるが、謎を解くための答えが彼らを待っているのだ。今さら後には引けない。五人は渋々と下水道に踏み入る。
下水道の途中にも、クネクネの集団が待ち構えていた。先頭を歩く風太郎は、慣れた手つきで鉄パイプを振り、一体ずつクネクネを撃退する。何体か、仕留めきれなかったクネクネが逃げていくが、追いはしなかった。水に浸かった足場ではどうせ追いつけまい。
ほどなくして、水路の終点らしき場所に着いた。水路から一段高い乾いた通路が延びていて、途中には壁が崩れたことによってできた穴があった。
その穴の中へ入ると、独房らしき部屋に出た。どうやらトルーカ刑務所の地下エリアにいるらしい。この穴はたぶん、囚人が脱獄するために開けたものだったのだろう。
独房から廊下に出た。長い廊下の真ん中で向かい合わせに扉が並び、片方は脱衣所のような場所、もう片方の部屋は広間のような空間だった。
広間の中央に何か大きなものがそびえていた。処刑台だ。絞首刑のためのロープが輪を作り、ぶら下がっている。
もし、ここで三角頭の怪物に捕まってしまえば、この刑を受けることになるのだろうか?
両腕を身体の後ろで縛られて処刑台に立たされた風太郎たち……。
そして、裁判官気取りの看守たちが罪状を読み上げる。一花、三玖、四葉、五月、風太郎の順に読まれていく……。
罪状が読み終わり、今度は三角頭の怪物が現れ、「早く首を輪にかけろ」と急かしてくる。
準備が完了し、看守の合図と同時に足元の床が開かれて首吊り状態になる……。
風太郎は不本意ながら想像してしまった。そして、猛烈な吐き気を催しその場に座り込んでしまった。
「フータロー、大丈夫!?」
「上杉君、急にどうしたんですか!? 凄く顔色が悪いですよ!」
四人は心配して風太郎のそばに駆け寄った。
「す、すまない。俺たちが絞首刑を受けるシーンを想像してしまったんだ」
「なっ、フータロー君! 何てことを想像してるの!?」
「縁起が悪過ぎますよ、上杉さん!」
「怖いことを言わないでください!」
四人は、風太郎の思いもよらぬ言葉を聞いて顔を青くした。
「と、とりあえずここから出ようよ。この部屋、不気味だもんね。特に何もなさそうだし、フータロー君は体調が悪そうだし」
一花たち四人の女性陣は、風太郎の身体を支えながら共に部屋を後にした。
続いてやって来たのは、刑務所監視員の待機所らしき部屋だった。待機所の奥は武器庫になっていた。武器庫の中には問題の解決へと導いてくれる答えなどありはしなかった。だが、化物退治に打って付けのものならある。
風太郎はライフルとその弾薬を手に入れた。この強力な武器が、五人の恐怖心を和らげてくれた。たぶん、クネクネ程度なら一撃で吹っ飛ばせるだろう。頑丈な敵への応戦も幾分やりやすくなるはずだ。
一同は新たな武器、そして予備の弾薬を持ち、先へ進む。
途中、通路がいくつも枝分かれした地点に着いた。それぞれ延びた通路の行き止まりには階下に降りる階段があり、迷路のようになっていた。刑務所にこんなところがあるなんて不自然だ。これもまた、町の異変とやらの仕業だろう。サイレントヒルの秘密を暴こうとする者を惑わすために違いない。
階段を降りてみると、金網の床の通路に出た。金網の下で蠢くものがいる。ソール通りのトンネルで風太郎を襲った、吸盤の化物だ。
風太郎は思わず後退った。トンネルでの記憶が甦り、実はまだ少し残っていた足の痛みが疼いた。
「どうしたの、フータロー?」
「あいつだ……。吸盤の化物だ」
「吸盤の化物……? そういえば、ソール通りの途中でもそんなことを言ってましたね。上杉君の見間違いじゃなかったんですか?」
「フータロー君、一体何が見えてるの?」
「お前らには、やっぱり見えていないのか?」
吸盤の化物は、やはり風太郎にしか見えていないようだった。
その場で戸惑っていると、暗闇の奥から、金網をガシャンガシャンと踏み鳴らして何かが近づいてくる。スマホの光を向けた先にいたのは、強烈な威圧感をまき散らす悪魔……三角頭だった。
大鉈を引きずる音がしなかったのは、手にした物が変わっていたからだ。太く長い槍を抱えていた。歴史資料館にあった絵と同じように。
身体が自然と震え上がった。あれで自分たちの身を串刺しにされるのかと思うと、戦慄が湧いてくる。二乃を殺された憎しみや復讐心よりも恐怖心が勝り、心に巣くっていた。
踵を返して階段を駆け上がり、上階の通路に逃げ戻った。そして、別の階段の所まで大急ぎで走る。三角頭が追いかけてくる恐怖に背中を炙られているようだった。どの通路がどこまで続くのかはわからないが、迷っている暇はない。闇雲に迷路を進んだ。
いつの間にか三角頭は撒いたようだ。
「まさか、ここまで追ってきていたとは……」
「先回りしてたのかもね……」
風太郎と一花は、逃げきった安堵から、その場に座り込んだ。直後、四葉が何かに気づいて喋った。
「ねえ、三玖と五月は……?」
辺りを見回すと三玖と五月の姿がなくなっていた。
「あいつら、どこ行ったんだ!? 早く見つけないと!」
逃げている最中に分かれてしまった。迷路内には、まだ三角頭がうろついているはずだ。今、はぐれてしまうのはまずい!
「とにかく、片っ端から探っていこう。くれぐれも離れ離れにならないように気を付けてくれ」
三人は、三玖と五月を見つけるために迷路を彷徨った。
だいたい20分が経った。──が、二人は見つからなかった。風太郎と四葉が再び歩き出そうとすると、一花が尋ねてきた。
「ねえ、フータロー君。フータロー君の推理をもう一度聞かせてくれる?」
「ん、推理? サイレントヒルの謎のことか? 病院にあった入院患者の記録について話したろ? あれを見て思ったんだ。
まず『非現実』という言葉から、目に見える異変は全て幻なんじゃないかと考えた。だが、町を囲む壁や化物の存在は間違いなく本物だ。よって、この説は誤っているということになる。
だけど、まさかあんな現象が自然に起きたとは考えられない。それを引き起こすきっかけがあるはずなんだ。
そして、今度は『想像』という言葉に焦点を当てて考えてみたんだ。誰かの想像が具現化しているんだって。まあ、それこそ馬鹿馬鹿しい考えだとは思うが、幻でもなく自然に起きたものでもないとすれば、俺にはこの説しか思い浮かばなかった」
「もし、仮にフータロー君の説が正しいとしたら、あの三角頭の怪物も誰かの想像ってことになるよね? 私……心当たりがあるんだ。私たちを狙う人物について」
「えっ、本当か!?」
「実はね、今のお父さんは、お母さんの再婚相手で、実の父親じゃないの」
「そういえば、五月から聞いたことがある。でも、それが今の状況と何の関係があるんだ?」
「その実の父親についてなんだけど……お母さんのお腹の中にいる子供が、私たち五つ子だとわかった途端に姿を消したの。たぶん、今もその罪悪感に苛まれてると思う。でも、あんな無責任な人のことだから……」
「待てよ……。まさか!」
「あの人は、私たちを消すことで罪から逃れようとしてるんだ。私たちの存在が鬱陶しくなって……」
「それで、この町に閉じ込めて、三角頭の怪物を生み出し、そいつにお前たち姉妹のことを始末してもらおうと願ったわけか……」
「フータロー君も追われているのは、きっと私たちに関わったからだと思う。さっき言った事実を知られるかもしれないと思って、フータロー君のこともターゲットに含んだんじゃないかな? フータロー君だけじゃなく、私たちに関わった人は全員……」
「そうだとすれば、親父やらいは(風太郎の妹)、それにマルオ(中野姉妹の「現在の」父)さんも対象になっているわけか。もし、ここにいたらみんなも三角頭の怪物に追われていたっていうのか!」
衝撃的な告白だった。まさか、中野姉妹の母親の再婚の背景にはそんな過去が絡んでいたとは。それはそうと、まったく無責任な奴だ。自分の子供の顔すら見てやらずに逃げ出すなんて。その上、存在が邪魔だから消そうと考える始末である。逆恨みもいいところだ。
三角頭の謎の核心に至った気がした。あの怪物が誰かの想像が具現化したものだとして、その想像の主が中野姉妹の実の父親だとしたら、今までの考察よりも遥かに筋が通っている。
アパートで風太郎を見逃したのは、中野姉妹の殺害を優先したかったからだろう。罪悪感の根本的な要因となる彼女たちを先に殺したがるのは、別におかしなことではない。
「三角頭の怪物の謎は解けた。あとは、町の異変自体のきっかけと他の化物のことも知れるといいが、たぶんレイクビュー・ホテルのテレビを見ればわかるだろう」
最も知りたかった謎が解決し、とりあえず一段落がついた。
三玖と五月を探して歩いている最中、四葉が口を開く。
「あの、三角頭の怪物についてなんだけど、実は私──」
「ぎゃああああああああああああああっ!」
四葉の言葉を遮って、耳をつんざくような悲鳴が鳴り響いた。
「今の声は、五月ちゃん!」
「まさか、あの怪物に! あっちから声が聞こえた。急ごう!」
三人は、五月の悲鳴が聞こえた所へと猛ダッシュした。五月が悪魔に襲われているのだ。スタミナの消耗など考える暇もなく走り続ける。途中で通せんぼしていたクネクネは、ライフルの一発で蹴散らしながら悲鳴の元へと急いだ。
クリーチャーの解説
・三角頭(追加情報)
①大きな槍を武器として持つ。
②二乃を殺した。
③正体は、中野姉妹の実の父親の妄想?(これまでの考察の中で最も信憑性が高い)
④中野姉妹を全員殺した後、彼女たちに関わった人間(主に風太郎)も殺そうとしている?