こんな残酷な小説を作っているので説得力が無いかもしれませんが、私は風太郎も中野姉妹(五人全員)も大好きですよ。ちなみに私は四葉推しで、四葉→一花→二乃→三玖→五月の順に好きです。
第13話 終着点へ
五月の悲鳴が上がる前の事……。
風太郎と一花、四葉とはぐれてしまった三玖と五月も、三人を見つけるために迷路を歩いていた。
「どうしましょう? 連絡した方がいいのでは?」
「でも、目印になるものが無いから伝えられない」
入り組んだ迷路となっているため、場所を知らせようにも上手く伝える術が無かった。仕方なく、片っ端から探っていくことにする。
しばらく歩いたが、やはりそう簡単には見つからなかった。
通路を歩いていると、向こうにある扉から物音が聞こえてきた。
「もしかしたら、あそこに上杉君たちが!」
扉を開けると、そこは住居になっていた。質素なリビングルームの雰囲気で、いかにも貧乏人が暮らすような空間だった。
「どうして、こんなところにこんな場所が?」などと考えている余裕は無かった。風太郎たちの代わりに化物がその部屋にいたのだ。ドアノブが固定されて、扉を開けなくなっている。
新種の化物だった。人のようにも見える二体の肉塊が、寝台の上に覆いかぶさったような姿である。覆いかぶさる体から寝台を突き破って伸びた両手と両足が、そのまま四本の脚になっていた。
その不自然な脚を無理矢理に駆使する小刻みな動きで二人に迫ってくる。熊が敵を威嚇するかのように、四つん這いの体勢からいきなり立ち上がった。爛れたような肉をプルプルと震わせながら迫ってくるのは、二人に覆いかぶさって押し潰すつもりだ。
三玖と五月は、素早く「寝台の化物」に銃口を向け、連射した。狭い部屋の中で化物との間合いを取るのは難しかったが、幸い化物の動きはかなり鈍くて攻撃も隙だらけだ。これまでの戦いの経験も相まって、苦戦はしなかった。
何度か銃弾を打ち込むと、ようやく絶命した。ドアノブも動くようになっている。
「結構な時間を取られてしまいましたね。早く三人を見つけましょう」
扉を開き、通路へ出て左に行こうとした時、五月が何者かとぶつかった。風太郎だろうか?
「うえす──っ!?」
違った。大きな槍を持った三角頭の怪物が扉のそばで待ち伏せしていた。寝台の化物との戦いに夢中で接近に気付かなかったのだ。
三角頭は五月の首を片手で掴んで持ち上げると壁に叩きつけ、そして床に叩きつけた。五月は仰向けに倒れたまま動けなくなったが、まだ意識がある。
「五月!」
三玖は、追撃を阻止しようと三角頭に向けて拳銃を連射するが、全く応えず怯みすらしなかった。拳銃を連射する三玖をよそに、倒れた五月を見下ろして威嚇している。
「お願い、もうやめて!」
銃弾が尽きてどうしようもなくなった三玖は、泣きながら懇願した。だが、そうしたところで話が通じる相手ではなかった。
「ぎゃああああああああああああっ!」
三玖の懇願に答えたのは、五月のけたたましい悲鳴だった。三角頭が五月の右膝を踏み潰したのだ。続いて、左膝も同じように踏みつけて粉々にする。五月の悲鳴が再び鳴り響いた。
両脚を破壊して五月の身動きを封じた三角頭は、持っていた槍の先を五月に向けて振り上げる。
「やめてええええええええええええ!」
三玖は、喉が張り裂けんばかりの大声で叫んだ。──が、手遅れだった。叫び終えた頃には、既に五月の胸の中心が貫かれてしまっていた。
「そんな……」
三玖は絶望し、五月の亡骸をただ見つめている。二乃に続き五月まで……。
だが、これで終わりではなかった。三角頭の怪物が今度は三玖を仕留めようとこちらへと歩いてきた。三玖は腰が抜けて動けなくなってしまった。自分もここで殺されるのだ。三玖の目からこぼれていた涙の勢いが増していく。
(死にたくない。助けて、誰か……)
三角頭が三玖を貫こうと槍を振り上げる。
「待ちやがれ!」
風太郎の怒号が鳴り響き、それに続いて銃声がした。ライフルの音だ。
ライフルの弾が怪物の胸の中心を貫いた。不意を突かれた怪物は体勢を崩して、床に尻を付いて転んだ。
「大丈夫か、三玖!?」
「フータロー……ありがとう」
風太郎が三玖の手を引き、立たせた。三玖は、五月の死に対する悲嘆と自分が助かったことによる安堵が混じったような表情を浮かべる。
三角頭が立ち上がろうとした時、風太郎は再びライフルの銃口をそちらへ向けて連射した。
「終わりにしてやるぞ、この悪魔が!」
ライフルの弾が尽きるまで三角頭の胸を打ち続けた。一時は完全に倒れ込んだが、すぐに弾痕から血を流しながらも立ち上がった。しかし、都合が悪くなったのか怪物は去っていった。
「そんな、あれだけ銃弾を打ち込んでも生きているなんて。不死身なのかあいつは!?」
高威力の弾を何度も食らわしても平然と歩いていた三角頭を見て、風太郎は驚愕した。
「三玖、大丈夫だった!?」
一花が三玖のそばで駆け寄った。
「うん、フータローのおかげで。でも五月が……」
五月の亡骸は苦悶に満ちた表情を浮かべていた。
「五月ちゃん……五月ちゃんまで」
一花はすぐそこに倒れた亡骸を見るなり泣き出し、哀れんだ。
「すまない、五月。あの時にはぐれなければ……もっと早くお前たちを見つけていれば、お前のことも助けてやれただろうに」
風太郎は合掌して、五月に謝罪の言葉を述べた。
「あの、みんな」
四葉が他の皆に問いかけた。
「みんな、さっきから……いや、ずっと前から変だよ! 上杉さんも一花も三玖も五月も! 一体どうしたの!? この空間のせいでおかしくなっちゃったの!? 今まで黙ってたけど、もう流石に我慢の限界だよ!」
唐突な四葉の言葉に他の皆は困惑した。
「は? 急に何言ってんだ?」
「一体私たちのどこがおかしいの?」
「フータローも一花も五月も私も、ただ町から脱出するために行動してただけだよ」
「そうじゃない。みんなそろって私を置いて走っていくし、上杉さんに関しては突然何もない所に向かって銃を連射するし狂っているとしか思えないよ! ……いや、ごめん。やっぱ何でもない。狂っているのは私の方かもしれない……」
今度は急に冷静になって謝りだした。
「えっ……そ、そうか。じゃ、じゃあ先に進もう。これ以上犠牲者が増えないうちに早くレイクビュー・ホテルに行って306号室のテレビを見て、この町から抜け出す答えを掴むんだ」
風太郎は戸惑いつつも、先へ進もうと指示を出した。
これまでの推理を踏まえると、あの三角頭の怪物の正体はこいつら姉妹の実の父親の妄想の産物で間違いなさそうだ。
俺は他人の家庭の事情に口出しすることはあまりしたくはないが、今回ばかりはそうもいかない。俺の大事な教え子が二人も犠牲になったんだ。できることならその父親に問い詰めてやりたい。「どうして自分自身の罪から逃げるんだ?」って。
でも、どこにいるのかがわからない。なら、せめてそいつが生んだ三角頭の怪物に……。話が通じないのはわかってる。それでも!
俺は、なぜ罪から目を背けてまであいつらを狙うのかという疑問を抱えていた。だが二人の仇を取る……そんなふうに意識してはいなかった。あくまで罪から逃れるわけを知りたいだけだ。
あの怪物に一方的でもいいから疑問をぶつけてやりたいと思った。それは同時に、自分の教え子を二度も護り損ねたことを、あの怪物のせいにして納得しようとする自分の「闇」である気がした。
なぜだろう、知りもしないはずの五つ子たちの実の父親の姿に自分自身が重なる。俺もあの父親と同じように逃げているというのか? だとしたら……俺は一体何から?
「ここはどこだ?……」
通路から広い場所に出た。踏みしめる地面の感触は土。
ライトを向けると向こう側で光輪が描かれ、四方を囲む壁の存在が確認できた。光は他にも、土の上に立つ石の群れを照らし出し、それは墓石だった。墓地である。
埋葬された者の名前が墓石に刻まれている。何気なく周辺を見回していると、よく知った名前を見つけて四人は愕然とした。偶然では済まされない、四つの名前だ。
『Ichika Nakano(なかの いちか)』
『Nino Nakano(なかの にの)』
『Miku Nakano(なかの みく)』
『Itsuki Nakano(なかの いつき)』
四人の墓石が一緒に並び、一花と三玖の墓穴がぽっかりと口を開いていた。飢えた獣の口のように、埋葬される死者を待ちわびる穴。まるで二人の運命を示しているかのようだ。
これも中野姉妹の実の父親の仕業だと風太郎は思った。自分の子供の遺体はちゃんと埋葬してやりたいとせめてもの情けをかけたのだろう。しかし、それならどうして四葉の墓が用意されていない? 自分の子供が五人いるのは知っているはずだろう?
三玖の墓穴には階段がある。次の場所に向かう入口のようだ。あるいは死後の世界に通じているのかもしれないが……。
一同は恐る恐る三玖の墓穴の階段を下った。この先も通路になっていた。先ほどのような迷路ではなく、まっすぐな廊下である。その先にあった扉を開けると、いきなり冷気が四人の全身を包み込んだ。
ここは冷凍庫だった。奥の方にまた扉がある。扉を開けると今度は自分たちの通う旭高校の体育館並に広い冷凍倉庫で、解体された無数の食肉が吊るされていた。
また扉が待ち構えていた。冷凍倉庫を出た先は、霧が立ちこめる外界だった。あれだけ地下深くに降りたはずなのに、地上に戻ってきたようだ。
これが妄想の世界なら夢と同じで不思議ではなく、そうではなくて現実だとしたらサイレントヒルの異変は空間まで歪めていることになる。
外は明るくなっていて、ここは船着場だった。さっきの冷凍倉庫はトルーカ湖の対岸に食品を搬送するためにあったのだろう。
桟橋の板張りを軋ませて歩き、二人乗りのボートを二艇に分かれて漕ぎだした。トルーカ湖を渡ってレイクビュー・ホテルに向かうつもりだ。
レイクビュー・ホテルの目の前までやって来た。船着場から湖岸の石段を上り、庭園に入った。霧にしっとりと濡れて鮮やかな緑の芝生、その中に点在する優美な噴水の石像といった風情ある佇まいだ。
ようやく終着点に辿り着いた。抑えられない胸のざわつきを覚えた。この町の異変の真相を知ることができるという期待。その一方で不安が渦巻いている。歴史資料館にあった手紙の中にある一文。
『真相の中には知ってはいけないものが存在する』
もしも答えがその類だとしたら……。そのときの落胆が恐ろしくて、早くも気分がふさぎがちになった。
複雑な思いのままで玄関ホールに足を踏み入れた。煌びやかなシャンデリアの照明は四人を迎えてはくれなかった。ライトを向けて玄関ホールの奥まで探ってみても、内部には従業員や宿泊客がいる気配はまったくなく、濃い闇に満ちているばかりだ。
「ん?」
ライトの光に一瞬浮かび上がったものが四人の目を惹いた。ライトを戻して再び照らしたそれは、館内の案内図が描かれたプレートだった。プレートに手書きの文字が綴られていた。306号室の箇所だ。
『ここに来い』
一階のロビーのフロントに306号室の鍵を取りに来た。やはり誰ひとりいないが、経営難でホテルが閉鎖され、廃屋と化した様子ではなかった。埃どころか塵ひとつない掃除のいきとどいた絨毯や喫茶コーナーのテーブルにある飲みかけのコーヒーカップのような、ほんの何日か前までは客で溢れていたであろう形跡がそこかしこに窺える。
フロントの中に入る。呼び鈴を鳴らしたところで誰も出てこないのなら自ら赴くしかない。フロントのキーボックスから306号室の鍵を拝借した。
306号室の前までやって来た。この部屋に入り、テレビの電源を点ければ求めていた答えがある。鍵を開けて部屋の中に入ろうとすると、一花と三玖と四葉がその場に踏みとどまった。
「ねえ、フータロー君。テレビの映像はフータロー君だけが見て、後で私たちに伝えるっていうことにしてもらえないかな?」
風太郎は一花の意図を何となく理解していた。彼女たちの実の父親が三角頭の怪物を生み出し、彼女たちを抹殺しようと仕向けた……彼女たちからすれば、自分たちの実の父親がそんなことをするなんて想像するだけでも怖いはずだ。その映像を見ようものならなおさらだ。
「わかった。テレビの映像は俺だけで見ることにする。そこで待っててくれ」
風太郎は独りで306号室へと入っていった。
クリーチャーの解説
・寝台の化物(ゲームでの名前:アブストラクトダディ)
四角い板の上に人型の肉塊(正確にはベッドの上でうつ伏せになっている人間と、それに背後から覆い被さっているもう一人の人間)が張り付いているかのような不気味な姿をしている。
攻撃時には後ろ足で立ち上がり、身体ごとのしかかるような形で体当たりを仕掛けてくる。
・三角頭(追加情報)
①大きな槍を武器として持つ。
②二乃と五月を殺した。
③正体は、中野姉妹の実の父親の妄想の産物?
④中野姉妹を全員殺した後、彼女たちに関わった人間(主に風太郎)も殺そうとしている?
お知らせ
次の第14話で、ついに真実(一部)が明らかになります。