「ここは……」
ついさっきまでロビーで二体の三角頭の怪物と戦っていたんだが……気がつくと、レイクビュー・ホテルの玄関前にいた。
そうか、俺は勝ったんだ。だから今、ここにいる。
風太郎は何気なくアメリカの観光地の一覧が載ったサイトを覗いた。修学旅行前、観光地探しの時に使ったサイトだ。
「やっぱりそうだったか」
そのサイトからサイレントヒルの項目だけが消えていた。いや、始めからそんなものは無かった。思った通りだ、あれは風太郎たちをこの町に招くための幻だったのだ。
「もうここに用は無いな……」
ボソッと呟き、風太郎はトルーカ湖のすぐ前に立つ。そして、携帯電話を取り出して一花と四葉にメールを送った。
『町を囲っていた壁は消えた。たぶん化物ももういない。早く宿泊先のホテルに帰れ。お前たちの居場所はわからなかったから一人で向かっているところだ』
修学旅行の宿泊先のホテルに早く戻るように伝えた。とっくに日にちが変わってしまって、どのみち先生からはこっぴどく叱られることに変わりはないが、少しでも早く帰るに越したことはない。
だが、風太郎は嘘をついている。風太郎はホテルに帰るつもりはない。行くべき場所が他にあるのだ。罪深い存在として……。
けれど、いざとなるとなかなか、あと一歩を踏み出すことができない。三角頭に勝利して決心がついたつもりだったが、そう簡単には勇気がわいてこなかった。
しかし、ふと思った。二乃と三玖、五月は、彼女たちからすれば得体の知れない怪物に殺されたのだ。とても怖かったに違いない。息の根を止められた顔がどれも戦慄に満ちていたのが何よりの証拠だ。
そうだ、あいつらの方がずっと怖かったはずだ。それに比べれば……。一体俺は何を怖れていたんだろう。自らの意志で大切な人を失うこと以上に怖いことなんて、この世にありはしないのに……。
やっと決心できたよ。最初からこうすればよかったんだ。
風太郎は行くべき場所へのあと一歩を踏み出そうとした。
「フー君」
「フータロー」
「上杉君」
聞き慣れた声が三人分聞こえてきて風太郎は後ろを振り向いた。すると、そこには三角頭に殺られたはずの二乃と三玖、五月が並んで立っていた。
「お前たち……何でここに? 死んだはずじゃ……」
「ええ、間違いなく私たちは死にました。でも、あなたが私たちに会いたいと望んだからここにいるんですよ。といっても、幻ですけどね」
風太郎は三人を見つめながら呆然として立ち尽くしていた。しばしの沈黙の後、風太郎が口を開いた。
「二乃、三玖、五月……すまない。俺は誰かに必要とされる人間になりたかった。小学生の頃、とある女の子と交わした約束の一つだ。だけど、俺はお前たちから拒絶されて存在意義を無くし、自分自身を見失ってしまった時があった。それが苦しくて耐えられなかったんだ。心を入れ替えて俺に付いてきてくれたというのに、ずっと根に持ってお前たちのことを信用してやろうとしなかった。お前たちのことを憎んでいたんだ。消えてしまえばいいのにとさえ思った」
風太郎は自分がこれまでに抱えていた感情を吐露した。その直後、激しくかぶりを振って否定した。
「いや、違う! 逆恨みしてただけだ。五月と初めて会った頃、お前を怒らせるような発言をしなければよかったんだ。それだけじゃない、俺が家庭教師としてお前たちの下に来ることを拒否された時点で潔く諦めればよかっただけのことだ。お前たちが望んでもいないのに、俺は無理矢理お前たちの居場所に足を踏み入れた。俺は金稼ぎのことしか考えていなかったんだ。拒絶されて当然だ。お前たちは何も悪くないのに、俺は……」
風太郎の目から涙がこぼれる。
二乃も涙を流しながら話した。
「フー君……ごめんね。フー君は家族や私たち姉妹を支えようとしてあげたかっただけなのに、私は何度もフー君にきつく当たってしまった。恨まれて当然よ。だから私は裁かれたんだわ」
「やめてくれ、謝らないでくれ」
二乃の謝罪に対して、風太郎は拒絶した。自分の罪が肯定されることを怖がっているのだ。
「俺が謝ってもらう義理は無い。俺はお前たちの死を望んだ悪魔なんだ。あの怪物と同類だ」
「違うよ、フータロー」
今度は三玖が語りかける。
「私が殺される間際に言ってたよね。『何度も俺を苦しめないでくれ』って。フータローは私たちが死んだことで苦しんでる。それで充分だよ」
三玖に続いて五月が話す。
「自分を責めないでください。私たちはあなたを困らせた罪人です。そんな私たちを見かねた神様が天罰を下しただけですよ」
風太郎の涙の勢いが増した。三人は穏やかに風太郎のことを見つめている。
「フー君。私はあんたのことを恨んでなんかいない。むしろ、私が恨まれるべきだわ。でも、フー君がどれだけ私のことを恨んでいようと私の気持ちはずっと変わらない。好きよ」
最後の告白の後、二乃の姿が透けていき、やがて消えた。
「フータローが私の家庭教師でよかった。私に自信を持つことを教えてくれてありがとう。勉強を教えてくれてありがとう。そして……素敵な恋を教えてくれてありがとう。私はフータローが好き」
三玖も思いを告げた後、姿を消した。
「上杉君。本音を言うと、あなたは私の理想とする教師像からかけ離れすぎています。でも、あなたがいたから……あなたが私たちの家庭教師を引き受けてくれたから、私たちは変わることができたんです。勉強の面においても、人としても。あなたでなければ、きっと私たちは成長できなかったでしょう。つまり上杉君……君だって私の理想なんだよ。最後にそれだけ聞いてほしかったの」
五月の姿が消えていく。
「ありがとう、上杉君……」
五月の姿が完全に消えた。
「お前たちだけじゃない。俺だって、お前たちと出会ったことで変わることができたんだ。ありがとう、俺を必要としてくれて……。俺を救ってくれて……」
風太郎は天を見上げ、もういなくなった三人に向けて感謝の言葉を述べた。
……そうだ。あいつらは俺のことをずっと信用してくれていたんだ。だから俺が二度も家庭教師を辞めることにしようとした時、あいつらはそれを引き留めてくれたんだ。
「フータロー君!」
「上杉さん!」
一花と四葉が駆けつけて来た。
「お前ら、まだここにいたのか」
「三玖がいなくなっちゃったの。見かけなかった?」
「一花、三玖は……」
風太郎は深刻な表情を浮かべた。
「そっか、三玖まで……」
一花と四葉はその意味をすぐに察した。目尻に涙が溜まる。
「そんな、三玖もやられちゃったんですか……?」
「すまない、俺のせいだ……」
「え、それってどういうことですか?」
「俺があいつらを消してくれと願ったんだ。それを怪物が叶えたんだよ」
四葉は啞然とした。まさか自分の姉妹の死に風太郎が関わっていたなんて……。
「どうして……どうしてそんなことを!」
怒りの口調で風太郎を責めた。泣きながら風太郎を睨んでいる。
「待って、四葉」
一花が四葉を制止した。
「フータロー君は傷ついていたんだよ。私たちに反抗されて、特に二乃からはきつく当たられて……。それで心を病んで、無意識に願ったんだよ。私たちが反抗しなければ……フータロー君の心の闇に気づいてあげられればよかったんだ。私たちの責任だよ」
この惨劇の真相をある程度知っている一花は、風太郎を何度も困らせ、彼の心の闇に気づいてやれなかった自分たちに責任があると、風太郎を擁護した。
「上杉さん……私にも説明してくれませんか?」
風太郎は真実を改めて伝えた。ホテルの306号室で見た映像のこと、四葉だけに見えていなかった三角頭の怪物のこと、姉妹たちの死を望んだわけを。
「そういうことでしたか……ごめんなさい。上杉さんのことを何も知らずに責めてしまって」
「いや、お前は何も間違ってねえよ。大事な姉妹の死に関わっているんだから、当然の反応だ」
四葉は納得した様子だ。怒りのこもった表情はもう見られない。
「ねえ、フータロー君。もしかして、湖に飛び込もうとしてたでしょ?」
「……ああ。相変わらず勘がいいな」
「気持ちはわかるけど、それだけはやめてほしい。私はもっとフータロー君から教わりたい! フータロー君じゃなきゃだめなの」
「私も、もっと上杉さんから勉強を教えてもらいたいです! 二乃と三玖、五月の分も……」
「お前ら……」
風太郎はやっと気づくことができた。自分がすべきことは自ら命を絶つことではない。一花と四葉が自分を必要としてくれる限り、彼女たちのそばにいてやることだ。それが正しい罪の償い方だと思った。
「フータロー君はいつも自分のせいにしたがるよね。でも、今回ばかりはフータロー君に責任はないよ。私が保証する。それでも罪の意識が消えないのなら……私たちの罪の重さとフータロー君の罪の重さを三人で分け合えばいい。そうすれば、きっと少しは楽になるよ」
一花の言葉の通り、本当に身軽になった気がした。風太郎はまた救われたのだった。
修学旅行の宿泊先のホテルに戻ると案の定、教師たちからひどく怒られた。罰として三人は反省文を書くことになってしまったが、二乃と三玖、五月を失ったことに比べれば軽いものだ。
教師たちからの説教の後、風太郎たちは班ごとの行動に移った。
「珍しいね。上杉君が先生の言いつけを破るだなんて」
風太郎と同じ班の武田が言った。
「道に迷ったんだよ。入り組んだ道が続いていて地図を見てもわかりにくかったんだ」
風太郎は道に迷ったと誤魔化した。あの出来事を話したところで誰も信じないだろう。
同じく風太郎たちの班員の前田が言う。
「そういえば、少し不思議な話を偶然耳にしたんだけどよ。修学旅行の旅行費が三人分多く支払われてたみたいだ。ホテルの予約人数も三人多かったみたいなことを先生たちが話してたんだ。おかしいと思わねえか? 普通もっと前に気づくはずなのによ」
「確かに不思議だね。旅行費の過不足や生徒の人数はあらかじめ確認するものだと思うけど」
「しかも生徒の人数の間違いはともかく、旅行費の余りがきっかり三人分って偶然にしては上手すぎねえか?」
風太郎は前田の話を何となく聞いていたが、『旅行費がちょうど三人分多く支払われていた』というのがどうも気になった。前田の言う通り、誰かがたまたま多めにお金を出していたとしても偶然にしてはちょうどよすぎる。そもそも、事前に金額の確認をした時に気づくはずだ。
それにもう一つ気がかりなことがある。二乃と三玖、五月の存在についてだ。なぜ教師たちは三人がいないことを気に留めない? 別のクラスの担任はともかく、風太郎や五つ子のクラスの担任なら彼女たちがいないことくらいわかるはずだろ?
修学旅行の最終日、ついに日本へ帰って来た風太郎たち。旭高校からの解散となり、風太郎は途中まで一花と四葉と帰路を共にし、家に辿り着いた。
「ただいま」
「おかえり、お兄ちゃん」
「よっ、久しぶりだな風太郎」
家に入ると、妹のらいはと父の勇也が風太郎を迎えた。
「お兄ちゃん、修学旅行は楽しかった?」
「ああ、悪くなかったぞ」
「おーい風太郎。風呂の湯入れてあるから、先に入ってきたらどうだ?」
「ありがとう、そうさせてもらうよ。そうだ、お土産買ってきたからここに置いとくぞ」
他愛もない話を済ませ、風太郎は風呂に入る。
入浴を済ませてリビングに戻ると、らいはが風太郎の携帯電話を渡して話した。
「お兄ちゃん、一花さんから電話がきてたよ」
「ああ、ありがとな」
風太郎は携帯電話を受け取り、一花のスマホに電話をつないだ。
『もしもし、フータロー君?』
『どうしたんだ?』
『あのね……お父さんがおかしいの』
『え、お父さんってマルオさんのことか? マルオさんがどうかしたのか?』
『記憶が無いらしいの。二乃と三玖、五月ちゃんの……』
『いや、そんなわけ……待てよ』
風太郎は思い出した。旅行費がちょうど三人分多く支払われていたこと、誰一人として二乃と三玖、五月の失踪について触れなかったことを……。
嫌な予感がした。まさかとは思い、風太郎はらいはと勇也に質問した。
「らいは、親父。中野二乃と三玖、五月っていう人を知ってるか? 俺の同級生の女子なんだけど……」
知らないはずがない。らいはも勇也も会ったことがある人だからだ。
「さあ、知らないな。その子たちがどうかしたのか?」
「もしかして、お兄ちゃんの気になる人だったりして」
嫌な予感が的中してしまった。らいはも勇也も三人の記憶を無くしてしまっている。
言葉だけでわからないのなら実際に見てもらうしかない。二年生の頃、らいはと五月との三人で撮ったプリクラの写真を見せた。せめて五月のことだけでも思い出してほしいと願って。
「ほら、見てくれ。これが五月だ。何回かここに来たことがあっただろ?」
「お兄ちゃん……一体何のことを言ってるの?」
らいはが呆れた様子で言った。
「ガハハハ! お前、時差ぼけのせいで頭までボケてんじゃねえか」
勇也はギャグをかまして大笑いをした。
「いや、何言ってんだ! ここにいるのが……え?」
風太郎は写真を見て呆然とした。五月が立っているはずの箇所に彼女の姿が見られない。皆の記憶からだけでなく、写真からも消えてしまったのだ。まるで最初からいなかったかのように……。
修学旅行後の連休が終わり、風太郎が自分のクラスの教室に入るとなにやらありとあらゆる噂が広まっているようだ。
「ねえ、修学旅行の時からこのクラス、変だと思わない?」
「わかる。旅行費の件もそうだけどさ、教室の座席の数も三人分多かったの知ってる?」
「知ってるよ。今日俺が登校してきた時に、先生たちが机と椅子を運んでたんだ」
「怖いよな。なんで今更気がついたんだろう? もっと早く気がつくはずなんだけどなぁ」
風太郎はすぐに察した。二乃たちのことを言っているのだと。まるで最初から彼女たちがこのクラスにいなかったかのような言い様だ。
「おはよう、上杉君」
「よお、上杉。出入口の真ん前に突っ立ってると邪魔になるぞ」
武田と前田が風太郎に挨拶をしてきた。風太郎は二人に尋ねる。
「武田、前田。二乃と三玖、五月って名前の生徒を覚えてるか? 同じクラスで中野って苗字の……」
「うーん、そんな名前のクラスメイトはいなかったと思うけど」
「このクラスの中野といえば、一花さんと四葉さんしか思いつかねえぞ」
武田も前田も、三人のことを覚えていないようだ。
「そうか……ありがとな」
風太郎は雑に礼を言って、屋上へ上がった。そして、自分の雇い主である中野姉妹の父のマルオに電話をかけた。
『どうしたんだい、こんな時に?』
『えっと、少しお尋ねしたいことがありまして……。お父さんには子供が五人いましたよね? そのうちの三人の記憶が無くなったというのを一花から聞いたのですが……』
ぎこちない口調でマルオに問いかけた。
『君にお父さんと呼ばれる筋合いはないよ。それに僕の子供は元から、一花と四葉の二人だけだ』
案の定マルオも三人の記憶を無くしてしまっている。
『いや、違う! 二乃と三玖、五月は俺が手に掛けてしまったんです。ごめんなさい。あなたの大事な子供を三人も犠牲にしてしまって。謝って済むことではないのはわかっています』
『上杉君、君は相当疲れているようだね。たまには息抜きをした方がいい。過度な疲労は肉体的にも精神的にも大きな影響を及ぼす』
『いや、そんなことは──』
『まあ、人のことを言える身ではないけどね』
珍しくマルオが自分のことについて話し始めた。
『僕もずいぶん前から疲労が溜まっていたようでね、色々とミスを犯していたんだ。例えば、今まで君への給料を三人分多く渡してしまっていた。それから、マンションの部屋の契約をした時、どういうわけか五人用の部屋を選んでしまったんだ。幸い仕事でのミスはまだ無いが、気をつけなければならないね。ちなみに、多めに渡してしまっていたお金についてだが、今更返金してもらうのも決まりが悪いし、そのまま受け取ってくれて構わないよ。君の功績に対する僕からのご褒美だと思ってくれたまえ。──おっと、外せない用事ができた。すまないがここまでにさせてもらうよ。他に言いたいことがあるなら後で受け付けよう』
電話が途切れた。
風太郎は確信した。皆の記憶が無くなったのではなく、最初からいないことになっているのだと。プリクラの写真から五月の姿が消えていたのが何よりの証拠だ。
通話を終えて教室へ戻る途中、一花と四葉に会った。
「フータロー君、お父さんだけじゃなくて同級生も三人の記憶を無くしてるみたいだった」
「何でこんなことに……」
「記憶を無くしているというよりは、始めからいなかったような様子だ。たぶん、サイレントヒルで死んだ人間は元から存在していなかったことになってしまうのかもしれない。あるいは、俺がそう願ったからか……」
クラスメイトが会話で盛り上がっている中、三人はただ悲嘆に暮れていた。
「嫌だよ……。二乃と三玖、五月がみんなの記憶から消えちゃうなんて」
四葉が嘆いて言った。
「大丈夫だ、四葉。例えみんなの記憶から消えたとしても、あいつらは俺たちの記憶の中で生き続けている。せめて俺たちだけは覚えていよう」
同日の放課後、風太郎は四葉から屋上に呼び出された。
「四葉、どうしたんだ? こんな所に呼び出して」
「上杉さんに話さなければならないことがあるんです」
真剣な表情で四葉が語る。
「上杉さんが小学生の頃、京都で会った女の子のことを覚えていますか?」
「え、どうしてお前がその子のことを?」
風太郎が驚いて尋ねた。
「私は……上杉さんとの約束を破ってしまいました。勉強して頭が良くなって、必要とされる人間になろうって誓ったのに」
「まさか……お前が」
「ごめんなさい、上杉さん。いや……風太郎君。ずっと言えなかった。言いたくなかったの。風太郎君にがっかりされるのが怖くて。でも、風太郎君は二乃たちの死に自分が関わっていることを告げてくれた。だから私も……」
四葉は、昔風太郎が京都で会った女の子が自分であることを告白した。
「そうか、お前だったのか」
「幻滅したよね……。思い出の子が私だったなんて」
「いや、お前には感謝しなければならない」
風太郎は四葉の発言を否定した。
「お前と出会ったからこそ、俺は必死に勉強するようになった。だから今の俺がいる。お前が始まりだったんだ。お前が俺を導いてくれた」
続けざまに風太郎が話した。
「それに、俺だって約束を守れなかった。勉強のことばかりを意識していた結果、誰にも必要とされる人間になれなかった。でも、お前たち姉妹と出会って、あいつらと分かり合えたことでようやく約束を果たせたんだ。お前もいつかはきっと果たせるさ。俺がサポートしてやるから、これからも勉強を頑張っていこうな」
四葉が風太郎に尋ねた。
「勉強はどうにかなるとして、私は誰かに必要とされてるのかな?」
「お前はいろんな部活のサポートをやっていただろ。それを称賛する声を俺は何度も聞いてきた。向こうからお願いされることもあったはずだ。それは間違いなくお前が必要とされているからだ」
四葉が微笑んで言う。
「ありがとう。あのね、もう一つ言いたいことがあるの」
風太郎に一歩近づいて……。
「好きだったよ。ずっと」
唐突な恋の告白を受けた風太郎は少し顔を赤くした。だが、真剣な表情で言った。
「それはありがたいけど……俺は自分の願いによって、お前の大事な姉妹を三人も犠牲にしたんだ。それでもお前は俺のことを?」
四葉は迷わずに言った。
「私の気持ちは変わってないよ。風太郎君のことを想い続けてる。それに言ったでしょ、私と一花と風太郎君で罪の重さを分け合おうって。風太郎君が二乃たちの死を望んだ悪魔だとしたら、風太郎君に心の闇を持たせて、それに気づけなかった私たちだって悪魔だよ」
四葉の言葉を受けた風太郎は、思い立って言った。
「なら……俺からも言わせてくれ。俺はお前が好きだ。過去の約束なんて関係ない。お前がいなければ、俺はとっくにつまずいていた。俺は弱い人間だから、この先も何度もつまずき続けるだろう。その時には四葉、俺のそばにお前がいてくれると嬉しいんだ。お前は俺の支えであり、俺はお前の支えでありたい」
四葉は目から涙を流して……でも、嬉しさで溢れた表情を浮かべた。
「よろしくね、風太郎君……」
五年後、風太郎と四葉は結婚した。結婚式を終えて三週間後、二人は新婚旅行でアメリカへとやって来た。高校の修学旅行の時に満喫できなかった分をこの新婚旅行で取り戻そうという算段だ。
「二度目にはなるが、案外飽きないもんだな」
「あはは、あの時は全然回れなかったもんね」
二人は修学旅行の時のことを振り返りながら街を歩いていた。良い思い出ではないが。
しばらく歩いていると、見覚えのある通路に出た。サイレントヒルに通じる階段がある通路だ。
あの時と同じようにサイレントヒルは濃い霧で覆われている。だが、不気味な気配は感じられなかった。風太郎の心の闇が消えたことを示唆しているのだ。
きっと三人のことを気にしているからだと風太郎と四葉は思った。
通路を歩いていると、聞き覚えのある三つの声が風太郎には聞こえていた。サイレントヒルの方から……。
フー君
フータロー
上杉君
おめでとう、お幸せにね。
雑談
風太郎と二乃、三玖、五月の最後の会話のシーンで泣いちゃいました。