中野姉妹は風太郎と別れる前に、風太郎からサイレントヒルの地図を映した写真をメールで受け取っていた。中野姉妹は、一花と三玖、二乃と五月、四葉に分かれて探索していた。
一花と三玖は、「ローズウォーター公園」を目指して大通りを歩いていた。と言っても、ローズウォーター公園に辿り着くこと自体が目的では無く、歩いている最中に偶然抜け道を見つけられるという算段だ。途中、並んで歩く人影が二つ見えた。一花と三玖は、突然現れた巨大壁のことや抜け道の在処を聞こうとその人影に近づいた。
「あの、すみません。聞きたいことが……っ!?」
一花が声をかけるが、異変に気づき声を途切らせた。霧にぼやけていた相手がこちらを振り向くと、のっぺらぼうで両腕の無い容姿が顕となった。そいつらは、身体をふらつかせながら近づいてくる。
一花と三玖は、得体の知れない存在に恐怖し、逃げ出した。途中で化物の方を振り向くと、かなり遠く離れた位置にいた。どうやら化物の足はかなり遅いようで、それに安心した二人は体力を回復し温存するためにスピードを緩めた。
この方角がだめなら別の通りから迂回すればいいと判断し、さっきは真っ直ぐ進んだ交差点を右へ曲がった。……のだが、やっぱ左へ行かなければならなくなった。くねくねの化物が道の中央で通せんぼしていたからだ。
「三玖、こっち!」
「一体何なの!?」
町の至るところでクネクネがうろうろしていた。三玖はスマホを取り出し、風太郎に電話をかけると抜け道らしきものを見つけられたかどうかの質問をし、大量の化物がうろうろしていることを知らせた。そして、風太郎からいざという時に抵抗するために武器を持った方が良いという助言をもらった。
また化物が向こうでうろうろしている。全ての道が塞がれ、これでは先へ行くことができない。どうしたものかと頭を抱えていると、近くに鉄パイプが落ちているのが見えた。一花はそれを拾い上げると、化物に向かって走り出した。やむを得なくなった一花は、拾った鉄パイプで化物を殴り倒そうとしたのだ。
「危ない!」
何かを察知した三玖が大声で呼び掛けた。一花が、化物の醜く歪んだ体の目の前まで迫った瞬間、鼻腔の奥を焼くような腐臭が彼女を襲った。一花はその場にしゃがみ込み、鼻をつまみながらゴホゴホと咳き込んだ。頬の辺りの感覚が無くなり、口の中の舌がどこにあるのかさえわからなくなってしまいそうだった。
毒だ。そう一花は断定した。でも、一体どこから?化物を見上げると、胴体に裂けた部分があり、黒ずんだ内臓が覗いているのが見えた。きっとそこから毒霧を吐き出したのだろう。
化物はのけぞり返り、深呼吸するような仕草を見せた。また毒を浴びせるつもりだ。そうはさせまいと咄嗟に立ち上がり、両手で化物を押し倒した。すぐに起き上がろうとするが、両腕が無いが故にもたついている。その隙に、持っていた鈍器を化物に向けて何度も振り下ろした。
「一花、大丈夫!?」
「うん、何とか……ゴホッゴホ」
一花の体調を心配した三玖が駆けつけてきた。まだ咳き込んではいるが、程度がマシになってきている。わずかに毒が引いたようだ。
一方、化物は悲鳴を漏らして身をくねらせ、がに股のポーズで足を必死に動かすと、匍匐前進を始めた。一花たちから逃げ去るのかと思いきや、二足歩行のときよりも素早いスピードでUターンして戻ってきた。
二人は身体の隅々まで毒が回ったかのように、全身に鳥肌を立たせ、脚を震わせながら後退した。背後の金網のフェンスに寄りかかった時、ガタガタと揺れ動く感覚が三玖の背中へ伝わった。
「っ! 一花、早くこの中に!」
三玖が寄りかかっていたのは扉だった。フェンスの反対側に逃げ込めば、化物も追ってこれないはず。急いで向こう側に入り込み、扉を閉めて鍵をかけた。
入り込んだ先には、三階建てで木造の集合住宅があった。玄関のプレートには、「ウッドサイド・アパート」という名前が刻まれていた。
化物の姿はもう見えない。安全圏内に逃げ込むことができた二人は安堵のため息をついた。一花の頬の麻痺はまだ少し残っているが、あとは何の問題もなかった。
「ねぇ、一花。このアパートに誰か住んでないかな? もしかしたら、この町について何か聞けるかもしれない」
「そうだね、とりあえず順番に回ってみようか」
一花と三玖は、何か情報を掴むため、アパートを訪ねた。
二乃と五月は、とりあえず片っ端から巡回するという計画を基に行動していた。その途中、五月は二乃にある提案をした。
「そういえば、二乃には二年生の頃にできた女友達がいましたよね? その人たちに知らせて助けを呼んでもらえばいいのでは?」
「そっか! ちょっと待ってて、今かけてみるわ」
社交的でコミュニケーション能力が高い二乃は、二年生の夏に旭高校に転校してきて早々、二人の女友達ができていた。彼女たちに電話をかけようとするが……。
「なんで? つながらない……」
「そんな!? 圏外ではないのに……」
電話がつながらなかった。通話がだめならとメールを送ろうとしたが、それもできない。だが、圏外ではない。第一、圏外だとしたら風太郎からの地図付きのメールは受け取れないはずだし、閉じ込められた六人の間で通話することもできない。次に四葉に電話をかけてみる。今度はつながった。何故、四葉との通話はできるのに女友達とはできないのか?
「もしかして、あの壁が関係しているのではないのでしょうか?」
五月が閃いて話した。あの壁とは、この町の唯一の出入り口を塞ぐ巨大壁のことだ。通路だけではなく電波すらも阻んでいると推測したのだ。二乃は四葉にこのことを伝え、電話を切った。
「これじゃあ外へ連絡できないわ……。仕方ないわね、抜け道を探しましょうか」
二人は、町の外への連絡は諦め、大人しく抜け道を探そうと歩き出す。その矢先、後ろから足音が聞こえてきた。ただ、何かおかしい。コツコツという靴音ではなく、べたべたという奇妙な音だった。二人はじっとして、霧の中からだんだんと見えてくる人影を注視していた。そして、ついにその人影の正体が明らかとなった。
「っ!? 何よ、あれ……」
「ヒィ! ば、ばけもの!?」
二人はくねくねした化物に慄いた。特に、怖がりの五月は恐怖のあまり正気を失いかけていた。
「二乃! 早く逃げましょう!」
「あっ、待ちなさい!」
五月が真っ先に逃げ出し、それを二乃が追う。どこへ行っても化物で通路が塞がれていて、化物と遭遇しては五月が一足先に逃げ出し、二乃が追うという流れを繰り返していた。そんな流れを何度か繰り返していると、ようやく化物のいない通路へと着いた。
「ハァ、ハァ……何だったんですかあれは?」
「ハァ、ハァ……まったく、この町のどこが心地よいっていうのよ」
二人は息を切らしながら呟いた。体力を回復させようと、その場で留まっていると風太郎からメールが届いた。化物に抵抗できるように武器を持っておけという内容だ。二乃は抜け道よりも先に武器になるものを見つけようと再び歩き出そうとした。しかし、五月が問題だった。
「五月、何してるの? 早く行くわよ!」
「い、嫌です! あんな化物がうろついている町なんて歩きたくないです!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!? ここまであの化物が追って来るかもしれないのよ!」
五月は泣きながら喚いた。異形な生物がうろついているというのに、その場を動きたくなかったのだ。だが、今居る場所が安全地帯ではなくなるのも時間の問題だった。さっき出会った化物が、ここまで迫ってきていた。
「嫌ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ちょっ、待ちなさいってば! ……まずいわ、どこへ行ったの?」
五月がまた猛スピードで走り出し、霧の中へと消えた。二乃は五月を見失ってしまった。
四葉は、町の外周に沿って歩いていた。もしかしたら、本当はもう一本別の通路があって、そこから町の外へ出られるのではないかと踏んだのだ。しかし、現実はそれを許してはくれなかった。あの巨大壁は、あの道を塞いでいるだけではなく、町を囲むように立ちはだかっていたのだ。
四葉は、これ以上外周を探索するのは無駄だと踏ん切りをつけ、町の中央へと向かった。その途中、スマホから着信音が鳴った。二乃からの電話だ。
『もしもし、どうしたの?』
『四葉!? 私の声が聞こえてるのね! さっき友達に電話をかけてみたんだけど、つながらなかったの。メールを送ろうとしてもだめだった』
『えっ、何で? 圏外じゃないのに。私とは通話できてるのに……』
『あの壁が原因かもしれないの。あの壁の所為で電波が届かないんだと思う』
『そんな、じゃあ助けを呼べないってこと……?』
『そういうことになるわね……早く抜け道を見つけましょ! 五月はこの空間に完全にビビっちゃってるし』
『うん、そうだね。お互い頑張ろう!』
通話を終え、町の中央を目指して再び歩き出し、数分が経過した頃、今度は風太郎からメールが届いた。化物に抵抗できるように武器を持っておけとのことだ。四葉はこのメールの意味を理解できなかった。「化物ってなんだ……。この町にはそんなやばい生物がいるのか?」という思考が頭の中を支配した。
考えても仕方がなかったので、とりあえずメールの意味を考えるのは後回しにして、今は探索に専念しようと切り替え、大通りへ入る。すると、霧の中で人影が蠢いているのが微かに見えた。四葉は、風太郎や他の姉妹のうちの一人、或いはこの町の住民だと思い込んだ。仮にこの町の住民だとしたら、抜け道の在処を聞き出せるかもしれない。この機を逃すまいと、その人影の下へ駆け足で近づいた。
「おーい……えっ?」
四葉の目は、クネクネの姿を捉えた。そして、ようやく風太郎が送ってきたメールの意味を理解した。まだ武器を持っていない彼女は、なす術がないためクネクネから逃げ出した。抜群の運動神経から成る足の速さにより、身体を震わせながらもあっという間に化物から大きく距離を離していた。至るところに化物がいて、しばらく走り回り、化物がいない小路へと身を潜めた。
身体能力にはそれなりの自信を持っている四葉だが、化物と戦うとなると話は別だ。相手の攻撃手段が分からないし、下手をすれば一撃で命を奪われかねないからだ。無闇に素手で攻撃を仕掛けるような無謀行為はしたくない。四葉は、風太郎のメールでの指示に従い、武器を探すことにした。
意外にも近くに落ちていた。拳銃だ。四葉はそれを武器として選び、拾った。拳銃を持ち歩くだなんて物騒なことであるとは承知していたが、こんな状況の中ではそうも思っていられない。
使い方がわからないので、スマホを使って調べようとした。その時、遠くから何者かの声が聞こえてきた。その声は段々とこちらへ近づいて来ている。さっき見た化物の声? いや、人だ! 間違いなく人間の声だ!しかも、よく聞き覚えのある声……。
「五月!」
「四葉……四葉ああぁぁぁぁ!」
五月は大泣きしながら四葉に抱きついた。そんな五月を、四葉は頭を撫でてやりながら慰めた。
「二乃と一緒のはずじゃ……」
「化物から逃げていたら、はぐれてしまったんです」
「じゃあ、今二乃は一人で……早く二乃を見つけよう! この空間で一人になるのは危険だよ!」
「そういえば、上杉君も一人だったような……」
「行こう、五月! 二乃と上杉さんを見つけに!」
「でも、化物が……」
「安心して! さっきこれを拾ったから」
五月を安心させようと、拾った拳銃を見せた。
「ヒィ! あ、あの、私は撃たないでくださいね……」
「狙いを外さない限りは大丈夫だよ」
「怖いこと言わないでくださいいぃぃぃぃぃ!」
こうして、四葉と五月は合流し、風太郎と二乃を見つけるために歩き出した。
読者様に質問です。「五等分の花嫁(アニメまたは漫画)」、「サイレントヒル2(ゲームまたは小説)」についてです。当てはまる方を選択してください。
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