「フー君! 会いたかった!」
風太郎の下へと、無我夢中で全力疾走する二乃。
「え……?」
人影だけで風太郎だと判断したのが間違いだった。すぐ近くまできた時にようやく気づいた。そいつは風太郎じゃない。赤いピラミッドの形をした頭を持つ人型。悪魔だ……赤い悪魔だ。
そして、右手に持った巨大な何かとは鉈だった。大鉈だ。見るからに重たいそれは、もはや人間には扱えまい。オリンピック記録を持つ重量挙げの選手でも到底不可能だろう。それを地面に擦り、金属音を鳴らしながら近づいてくる。
「い、嫌……。来ないで……」
腰が抜けて尻もちをついてしまった二乃。恐怖のあまり身体はガクガクと震え、起きあがろうにも起き上がれない。鉄棒を持っているが、そんなものはこいつには効かないということは考えるまでもなかった。
三角頭が、座り込み動けない二乃の傍まで近寄ると、持っていた大鉈を両手で持ち上げ、刃の先端を彼女に向ける。そして、悪魔を見上げる彼女の顔面に突き刺し、貫いた。
大鉈を引き抜くと、顔面中央にできた穴から血が大量に噴き出し、三角頭の体に浴びせられた。悲鳴を上げることも無く、亡骸はそのまま地面に倒れ込んだ。
さらに追い討ちをかけるが如く、今度は大鉈を振り下ろし、亡骸の上半身と下半身の継ぎ目を切断し、もう一度振り下ろして首を刎ねた。
二乃を殺した三角頭は、彼女の首を左手に持ち、血まみれになった現場に背を向け、アパートへと引き返した。
二乃とアパートで落ち合うことになった風太郎は、二乃がアパートに着くまでの間にアパート内の見回りをすることにした。
風太郎は、三階の部屋に全て訪れたが結局住人には会えなかった。三階を後にし、意を決して化物だらけの二階の住居スペースへ向かう。
住居スペースに通じる扉を開けた瞬間、クネクネが待ち伏せしていたと言わんばかりに、いきなり毒霧を吐き出してきた。風太郎は反射的に後ろに下がり、微量を吸い込んでしまったものの、身体がほんの少し痺れる程度で済んだ。
風太郎はこれまでに数々の化物と戦ってきたことで、戦闘にある程度慣れていた。クネクネがもう一度毒霧を吐こうと予備動作を行なっている隙に木材でぶっ叩くことなど、今となってはもはや朝飯前だ。
何度か振るっているうちに木材が折れてしまった。アパートの廊下は、町の通りみたいに広くはないのでかわして進むのは至難の業だろう。勿体ない感じはするが、拳銃を使うしかない。このアパート内でも銃弾の予備を新しく見つけていて、元から拳銃に入っていた分も含めれば40発くらいある。
クネクネやマネキンは、銃弾を2〜3発食らわせれば倒せるほど脆かった。ただ、やはり数が多い。風太郎は、化物に遭遇するたびに足止めをされ、銃弾を消費してしまうことに対して恐怖するのではなく、むしろ苛ついていた。
「くそ、消えろよ!」
初めてだった。こんな暴言を吐いてしまうくらいに苛ついたのは。いや、初めてではない。暴言を吐くことはなかったが、同じくらい苛ついた過去がある。しかも、今の状況とある意味似たような経緯でだ。思い出す度に腹が立つ……。
(いかんいかん、こんな時に何を思い出しているんだ。いつまでも過去の事を恨むだなんて馬鹿馬鹿しい。それよりも今は化物退治に専念しなければ……って、あれ?)
苛ついていた風太郎は、ハッとなって冷静さを取り戻した。我に帰り、辺りを見回すと化物はほとんど倒れていた。我を失っている間の出来事だった。
自分が怖くなってしまった。だって、まるで化物どもに八つ当たりをしていたみたいじゃないか。このアパートにあの姉妹たちがいなくてよかった。もしかしたら、見境が無くなって……。いや、もうやめよう。考えたくもない。
(……ところで二乃はまだアパートに着いていないのか? もう15分以上経っているのにまだ連絡が来ない。普通に歩いても5分はかからないと言っていたのに。まさか、化物に……いや馬鹿な! あいつに限ってそんなはずはない! きっと化物を避けるために遠回りをしているんだ、俺がせっかちなだけだ! 頼む……無事でいてくれ。二乃……)
風太郎は、二階の部屋を番号順に回っていく。201〜204号室は鍵が掛かっていて返事もない。205号室は、鍵は開いていたが誰もいなかった。そんな流れを繰り返していると、ついに最後の部屋まで来た。
鍵は開いていた。声をかけて覗いてみるが誰もいない。というよりも、元から住んでいなかったようだ。インテリアが何も置かれていない。
なんで未使用の部屋の鍵が開いていたのか気になるところだが、そんなことはどうでもいい。銃弾の予備を見つけた。30発分もだ。たぶん、町の不良たちが何らかの方法でこの部屋に忍び込んだのだろう。廊下の化物の駆除で、かなりの数を使ってしまったのでちょうどいい。
弾の予備を手に入れ、部屋を後にしようとしたその時、廊下の方から金属らしきものを床に引き摺るような音が聞こえてきた。その音はこっちへ近づいてくる。そして、この部屋のすぐそばまで音が近づいてきた時、風太郎は二乃かと思い声をかける。
「二乃……っ!?」
ついに死角からそいつは現れた。307号室で見た悪魔だ。しかも、今度は右手に巨大な刃物を持っている。最初に見かけたとき以上の威圧感が風太郎を襲った。津波の前触れのように顔面から血の気が引いていき、冷や汗が全身をびっしょりと濡らした。
三角頭の足元には、風太郎がまだ仕留めていなかったクネクネの死体が転がっていた。その死体を跨ぎ、怪物は一歩だけ風太郎に近づいた。風太郎からすれば、一歩近づかれただけで何十倍も恐怖が増した気がした。
暗くてよく見えないが、左手にも何かが握られている。ボール? いや、ボールにしては形が歪すぎるし、それに毛のようなものが大量に生えている。
そんなことを考えていると、左手に持った何かをこちらに投げてきた。床に落ちた何かは、不規則にバウンドし、風太郎の足元まで転がってきた。
「うわああああああああああああああ!」
風太郎は絶叫した。足元に転がってきたのは……顔面のど真ん中に大きな穴が開けられ、血まみれになった二乃の首だった。
風太郎は、巨大な刃物を持ち二乃の返り血を浴びた悪魔が目の前にいる、刎ねられた二乃の首がそこにあるというショッキングな光景を目の当たりにし、戦慄のあまり身動き一つ取れなくなってしまった。
(殺される……。ついに俺は殺されるんだ。あのマネキンのように身体を折り曲げられて死ぬのか? いや、普通に考えて首を刎ねられるんだ。二乃のように)
もう悪魔に殺されるしかないと諦めて跪いた。
「すまない、二乃……お前を助けられなかった。すまない、一花、三玖、四葉、五月……お前たちにはまだ教えてやりたいことが山ほどあるのに……」
死を悟った風太郎は、五つ子への遺言を唱え、顔を俯かせながら悪魔による処刑を待った。
「……何してるんだ?」
いつまで経っても処刑が行われず、痺れを切らして顔を上げると、三角頭はまだ一歩も動いていなかった。そして、あろうことか風太郎に背を向けて部屋を出て行ってしまった。
予想外な三角頭の行動に対し、呆気に取られてしまった風太郎。しかし、ある可能性が頭をよぎった。
(あいつは、俺が怖がっているのを楽しんでいるんだ。姉妹たちが惨殺された姿を、俺に見せびらかして、恐怖のどん底に叩き落とそうとしているに違いない。俺を極限まで怖がらせてから殺そうとしているんだ。畜生め! なんてたちの悪い怪物だ!)
あの三角頭に弄ばれているような感じがして、恐怖に混じった怒りが湧いてきた。せっかく九死に一生を得たのにちっとも喜べなかった。
「とにかく、みんなに知らせないと!」
風太郎は、三角頭の存在やそいつに二乃が殺されたこと、次に四人のうちの誰かを狙いに来るかもしれないことを他の姉妹たちに知らせるために携帯電話を取り出し、メールを送った。
クリーチャー解説
・三角頭(追加情報)
①巨大な鉈を武器として携帯し、地面に引き摺りながら持ち運ぶ。
②二乃を殺した。
③風太郎の殺害をあえて後回しにして、姉妹たちの死を見せびらかすことにより、風太郎に恐怖心を植え付けて楽しもうとしている?
読者様に質問です。「五等分の花嫁(アニメまたは漫画)」、「サイレントヒル2(ゲームまたは小説)」についてです。当てはまる方を選択してください。
-
五等分の花嫁を知っている。
-
サイレントヒル2を知っている。
-
どちらも知っている。
-
どちらも知らない。