今まで、お知らせを前書きや後書きでしてきましたが、次回から概要欄(あらすじの下)で行うことにしました。その方が真っ先に目に入りやすいと思ったからです。
第9話 入院患者の記録
歴史資料館で、風太郎は四葉と五月と合流した。五月は二乃が死んだことに対するショックから立ち直れずにいる。
「五月……気持ちはわかるが、いつまでも落ち込んでいるんじゃ何も進展しない。せめて、残りの俺たちだけでも脱出するんだ。きっと、あの世にいる二乃も喜ぶだろうよ」
「上杉さんの言う通りだよ。みんなで生き残って、二乃の分まで楽しい生活を送ろう!」
「上杉君、四葉……ごめんなさい。どれだけ願ったところで二乃は帰って来ない。なら、残りの五人だけでも生き残りましょう! それが天国にいるであろう二乃への最高の贈り物です!」
風太郎と四葉の励ましにより奮起した五月。せめて、残りの自分たちだけでも絶対に生き残ろうと志した。
「上杉君、抜け道の他に気になることがあるんです。この異変をどうにかして解決できないかと。過去にも似たようなことが起こっているとしたら、手がかりが残されているのではないかと思ってここへ来たんです。異変を解決できれば道を塞ぐ壁も消えて脱出できるのではないかと考えたのですが……」
「確かに一理ある。だが、資料館の入り口は施錠されていて入れない。ここは一旦諦めるしかなさそうだ。実は俺も気になるものを見つけたんだ」
風太郎は、橋の支柱に留められていた地図を二人に見せる。
「ここにバツ印が描かれてるだろ? どうも気になるんだ。もしかしたらこの病院に何かあるんじゃないか?」
「確かに気になります。上杉君、四葉、行ってみましょう」
印を付けられた場所に何かがあると踏んだ三人は、ブルックヘイヴン病院に向かって歩き出した。
歩くこと二十数分、ブルックヘイヴン病院の玄関前まで辿り着いた。玄関の扉は、まるで三人を誘っているかのように開放された状態だった。
「気を抜くなよ。病院の中にも化物が湧いているかもしれないからな」
「わかってますよ、上杉さん! 三人で協力し合えばどんな危機だって乗り越えられるはずです!」
玄関の入り口をくぐり抜け、病院内へ入った。相変わらず人の気配は感じられない。中は暗かったが、四葉のスマホのライト機能でどうにかなった。
掲示板に病院のマップが貼られていた。探索の役に立つだろうと、風太郎はそれを手にした。
まず、すぐそばの受付の中に入った。受付には特に何も無いようだ。強いて言えば、患者の症状を記した用紙が机の上に置かれていたが役に立ちそうにはなかった。
次に、隣の書類保管室へ入った。四葉と五月は特に重要なものが無いと判断して引き返そうとするが、風太郎は違った。机の上に無造作に置かれた書類が目に入り、それが何となく気になったのだ。
どうやら、とある精神病を患った入院患者について記された物のようだ。
『この病の要因は全ての人の中に存在し得るものであり、そして何らかのきっかけがあれば、彼のように向こう側へ行ってしまうことも容易にありえる。
「向こう側」という言い方は正しくないかもしれない。その間に壁はない。ちょうど現実と非現実の境目が曖昧であるように。近くかもしれず、遠くかもしれない場所だ。
私は時には疑問を抱かざるにはいられない。確かに彼の想像は、我々にとっては虚構である。だが、彼にとってはそれが現実に他ならない。そして彼はそこで幸せなのだ。それなのに、我々は、彼にとっては苦痛でしかない「我々にとっての現実」に引き戻すための治療をしなくてはいけないのだろうか?』
風太郎は、「非現実」というワードに着目して考え込む。
(突如現れた巨大な壁、消えた住民、異形の化物。あまりにも現実味が無さすぎる。もしかして、ただの幻にすぎないんじゃないのか?)
風太郎は、とても現実的とは言えない町の異変や化物の存在を幻だと結論付けようとした。
だが、一瞬にしてそれを否定した。町から出られないこと、これまでに数々の化物と戦ってきたこと、二乃が殺されたことと矛盾するからだ。信じ難いが、町の異変は実際に起こっていて、化物も実在しているということになる。
ならば何故、現実的にありえない現象が立て続けに起きているのかが気になる。何がそれを引き起こしているのだろうか?
風太郎は、今度は「想像」に焦点を当てて考えた。
(この町は誰かの妄想の世界に成り代わってしまったのか? 妄想の主は、書類に記されていた患者のものなのか? それとも、他の誰かのものか?)
「上杉さん、何してるんですか? 置いていくところでしたよ」
「すまない。気になるものを見つけてな」
考えごとをしていると、四葉が尋ねてきた。風太郎は書類について考えていたことを二人に説明した。
「にわかに信じられません。誰かの想像が具現化するだなんて。それこそ非現実的だと思いますが……」
五月は、想像が具現化することこそ非現実的だと否定した。しかし、もはや何でもアリと言わんばかりの現象が連続で起きているのだから、風太郎はその説でさえもあり得ると思ったのだ。
町の異変のわけ、化物たちの存在理由は何なのかと頭を悩ます三人。だが、どれだけ考えても正解らしい答えは出てこなかった。これ以上考え込んでも仕方がないので、とりあえず探索を進めようと別の部屋へと向かう。
周辺の部屋には特に気になるものは無かったので、病室のあるスペースに行こうとした。しかし、そこへ通じる扉は開かなかった。鍵がかかっているというより、奥で何かに押さえられているような感覚だった。
ここから入れないなら回り込めばいいと、二階へ上がる。そして、先に二階を探索することにする。
「……」
風太郎はボーッとしながら廊下を歩いている。あることを気にしていた。三角頭についてだ。もちろん町の異変や化物たちのことも気がかりではあるが、一番の謎は三角頭の目的だ。
風太郎の命を後回しにして一体何になるというのか? これまでは、中野姉妹の死を見せつけて恐怖心を植え付けようとしているのだと思っていた。
だが、言うまでもないが、彼と三角頭は初対面だ。冷静に考えると、初めて顔合わせしたばかりだというのに、そんなことをするのは不自然ではないだろうか? あの時に風太郎を見逃したのは、本当にその目的による行動なのだろうか? それとも--
「危ない!」
四葉の声に風太郎はハッとした。
「うぉ、あぶねっ!」
風を切って振り下ろされたものを寸前でかわした。二階の廊下の角を曲がった直後の事である。
風太郎の頭をかち割るはずだったものが、床に叩きつけられて鈍い金属音を鳴らした。如何にも本気の攻撃だ。
ふと相手の方を見ると、ナース服を身に纏った女だった。人だと思ったが、顔を見た時に異常に気づいた。化物だ。腐乱死体のように、目鼻の在処がわからないほど醜く膨れた顔が何よりの証拠だ。
一旦、「ナース」から距離を取り、拳銃を構える。狙いを定めて2、3回発砲した。すると、ナースの化物はあっさりと倒れた。クネクネやマネキンと同様に、耐久力はそこまで高くなさそうだ。
「大丈夫ですか? 上杉さん」
「すまない、ボーッとしていた」
「しっかりしてください。気を抜くなと言ったのは上杉君でしょう」
「申し訳ない。それと四葉、ありがとう。お前が声をかけてくれなかったら、頭をかち割られていたところだったよ」
二階を一通り探索した後、今度は三階へ向かった。三階にもマネキンやナースの化物が徘徊していた。通路が狭いので、一体一体を相手にしていくしかなかった。風太郎と五月は正面から迫って来る化物たちを拳銃で倒していく。二人とも、使っているうちに扱いが慣れてきたようだ。
三階の探索も徒労に終わり、三人は屋上に出た。病院をうろつくうちに、いつの間にか夜になってしまった。辺りを見渡してみるが霧と闇に町は埋もれ、空の星々も隠されている。
辺りを見渡している時、地面を擦る金属音が下から微かに響いてきた。霧と闇のせいで姿は見えないが、風太郎は三角頭の怪物だとわかっていた。
「四葉、五月。聞こえるか?」
「はい。もしかして、二乃を殺した化物ですか?」
「気をつけろ。あいつに目をつけられたら厄介だ」
「二人とも、何が聞こえてるんですか?」
「よく耳を澄ませてみてください。何かが地面を引き摺るような音がするでしょう?」
「……。何も聞こえないよ」
「遠くの方へ行ってしまったみたいだ。音はもう聞こえない。とにかく、四葉。お前も気をつけるんだ。音が聞こえてきたらすぐに逃げるんだぞ」
風太郎と五月は三角頭の音を聞いて話をしていたが、四葉は音が小さいせいで聞き逃したようだ。
風太郎は、先ほどの音を聞いて再び考え込んだ。
(あいつも誰かの妄想の産物なのか? もしそうだとしたら、一体誰があんな悍ましい化物を産み出したんだ?)
三角頭の目的や正体について、色々と考察するがわかるはずもない。
ただ、何となくわかったことがある。あの入院患者の記録が、真実を知るためのカギとなる……。
クリーチャー解説
・ナース(ゲームでの名前:バブルヘッドナース)
ブルックヘイヴン病院で遭遇した、ナース服を身に纏う女型のクリーチャー。鉄パイプを振り回して攻撃する。
・三角頭(追加情報)
①巨大な鉈を武器として携帯し、地面に引き摺らせながら持ち運ぶ。
②二乃を殺した。
③風太郎の殺害をあえて後回しにして、姉妹たちの死を見せつけることにより、風太郎に恐怖心を植え付けようとしている?(これについては、少し疑わしくなっている)
④誰かの妄想が具現化したもの?
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