ガチの思い付きなのでこれは続けません(決意)
鴻上光生
その男は、生まれながらに意識があった。
赤子であるくせに、しっかりと意識を持ち、それゆえに赤子らしい泣き方が出来ずに両親を困惑させた。無理もなかった。
赤子のほうも、状況が理解できなかったのだ。トラックに轢かれた記憶も、通り魔に刺された記憶も、みずからの意志で命を絶った記憶もない。あるのは平凡な暮らしと特撮・アニメ問わないサブカルチャーの記憶だけ。その状態で、急に赤ん坊になってしまえば、愕然とするのは当然だった。
その男にとって、人生が
そして男は、両親に二つ目の名前を頂いた。
―――
それなりの上流階級である
幼少期から努力を続けた彼は、23歳の時に脱サラして起業。
思うように仕事が手に入れられない低迷の日々がしばらく続いた後、経営をV字回復させる。
やがて己が企業に世界中を巻き込んで、自分の会社を日本企業内でトップクラス………いいや文字通りのトップに築き上げた彼は、会社名を新たに、財団を築き上げた。
その名も、鴻上ファウンデーション。
来たる
「おかしい……
調べさせた政治家の家族関係の資料をいくら探しても、火野映司の四文字が見つからなかったのだ。
火野映司。
それは、男の知っている
生粋のお人好しにして、コアメダルという欲望の力で「仮面ライダーオーズ」に変身する「王の器」。
彼がいなければ、グリード復活に対抗できない。物語がそもそも成立しなくなってしまうのだ。
その人物の存在が確認されなかったことで違和感を感じた彼は、更にあらゆる人々を調べていく。
すると、衝撃的な事実が明らかになったのである。
里中エリカはいた。偶然ファウンデーションに雇われた人々の中に、彼女はいたのだ。
だが、伊達明はいなかった。後藤慎太郎もいなかった。真木清人もいなかった。泉信吾も泉比奈もいなかった。
そもそも、コアメダルもセルメダルもなかった。極めつけは、ありとあらゆる歴史書を探しても、『1000年前にグリードが生まれた』という記述もなかった。
味方もいなければ敵もいない。
急に今までの努力が無駄になったような気がして、男は膝をついた。
だが、時間は待ってくれない。それに、会社を築き上げる過程でついてきてくれた社員たちが、共に歩くと誓った伴侶とその娘が、男にとっては支えになっていた。
何故自分だけがこの世界に生まれ落ちたのかという疑問に答えが出ないまま、男は鴻上ファウンデーションの会長として、そして一家の大黒柱として日々を過ごすことにしたのだ。
「この世界はいったいなんの世界なのか」。
その疑問に答えが出たのは、娘が結婚し、孫娘の出産が無事に終わったという連絡がきたその時だった。
「Happy Birthday!!! おめでとう優華!今日から君はお母さんだな!」
『ありがとうお父さん。お父さんも「おじいちゃん」かぁ』
「それで、名前はなんと付けたんだ?」
『
「…なんだって?」
たしか、
珍しい苗字であったがまぁいいかと思っていたが、孫娘の名前を聞いたその瞬間に男の脳内にあったオタクネーム検索に引っかかるものができた。
―――伊地知星歌。
男はその名前を知っていた。
そして、その名が出てくる
「ふぅ………」
「会長、どうかしましたか?」
「いや…」
「?」
「里中君。私はどうやら…勘違いをしていたようだ」
「勘違い?」
「あぁ……かなり長い間していた勘違いが、たった今解けたのだ。
我ながら、鈍すぎて笑えてきてしまうがな」
長年胸に秘めていた疑問。
その答えが出たのは、男が二度目の人生を始めて50年が経った、ある昼のことであった。
あれから29年後。
御年79歳となった鴻上光生は、鴻上ファウンデーションの名誉会長として、実業からは身を引いたものの、いまだ影響のある人物として、日本経済をけん引していた。
そんな彼だが現在、ビルの隣にある自宅のケーキ専用キッチンにて。
もうすぐ80歳とは思えない肉体をせっせと働かせて、長年の趣味となっているホールケーキを作っていた。飾り付けられていたアンティークの蓄音機からは、バリトンの男声がハッピーバースデーを歌う声が室内に響き渡る。
「ハッピーバースデーディア……」
袋に詰めたチョコレートを、雪のように真っ白なケーキのクリームの上に書いていく。
細いチョコペンの先から出てきたチョコレートが、インクのように文字を綴る。
やがて、白地に「Happy Birthday 結束バンド」と書かれた、バースデーケーキが爆誕した。
「結束バンド~♪」
結束バンドとは、生まれ変わった鴻上光生の二人目の孫娘……虹夏が所属するバンドである。
虹夏の母……光生の娘の、交通事故による不幸が起きて以降、光生は星歌と虹夏の孫娘二人を案じていた。
何度も家を訪ね、特に虹夏の話相手になったり、星歌と三人でライブハウスに行ったりもした。
そんな虹夏が、バンドを結成し、夏休みのある日にライブを行うことを、他ならぬ虹夏自身から聞いたのだ。
「誕生」と「欲望」に価値を見出す光生が、ケーキを作って喜ばないワケが無かった。
「ハッピーバースデートゥーユ~~~~~~~~~ッ!!」
「あら、あなた。元気そうね。今日はなんのお誕生日でしたっけ?」
「結束バンドだッ! 虹夏のバンドが、今日『
「…今日は台風ですよ? 無理はしないでとも言われたじゃありませんか」
長年連れ添ってきた光生の妻は、先程の超ハイテンションなバースデーソングなど聞いてなかったかのようにスルーして心配した。
光生の言う通り、今日は17になった孫娘の、4人揃ったバンドの初ライブ日ではあったが、窓の外から見えるのはあいにくの空模様だった。
なんなら、現在進行形で激しい雨が、無数に窓を殴りつけている。
だが、流石は孫のバンドの誕生日ケーキを作り出した男。そんなの関係ないと言わんばかりに嬉しそうな表情を崩さない。
「こんなこともあろうかと、クーラーボックスを用意しておいた! 抜かりはない!」
「…はぁ。言っておきますけど、私は行きませんからね。虹夏には悪いけれど、体力が持たないわ」
「そうか。なら、私から言っておくからな!」
あまりにズレたことを言いながら、壮大で重厚なクーラーボックスを引っ張り出してケーキと保冷剤をしまう光生を、妻はため息交じりに送り出した。
これも、夫婦の信頼がなせる業ではあるが、どうやら光生の妻は、旦那と対を為すような常識人であるらしい。
とはいえ、台風による交通規制にはどうしようもない。時間には余裕を持って出た筈だったが、光生がSTARRYに着いた頃にはもう既にライブは始まっているらしく、結束バンドの楽曲が始まっていた。
観客は十人程度。やはり台風と言う天候が悪かったようで、足を運ぶに運べなかったようだ。機材によって拡大された音が、老いた耳には優しくない。
だがそれでも、光生にとっては嬉しい演奏である。
なにせ孫娘の演奏だ。台風にも関わらず車でやってきた甲斐があるというものだ。
ガラガラの席の一つにつきながら、バンドの様子を見てみる。
まずドラムに、虹夏の姿を確認できた。一心不乱にドラムやらシンバルやらを叩いている。
ベースの少女は、光生も見覚えがあった。いつもケーキを嬉しそうに受け取っていた、虹夏の親友だ。
ギター。長いピンク髪の少女が、俯き気味にギターを弾いていた。
そして真ん中のボーカルは、サイドギターを弾きながら熱唱していた。
光生は音楽の事などまったく分からない。だが「欲望」と「誕生」には敏感な男である。
それゆえに、最初見た結束バンドの演奏をこう評した。
「(少しだが…妙に合っていないような気がする。)」
「(それに、全員、スッキリしていないな。自分の欲望を解放できていない………このままでは、つまらない結果に終わるぞ)」
欲望をプライドや緊張で抑え込む、と言う事を否としたあまりに単純な評価だったが、的を射ていた。
なにが彼女らをそうさせているのか不明だが、それはまるで本来の実力を発揮できてないかのようで。
彼女達に渦巻いているのであろう不安な感情が、光生の心にさえ影を差そうとしていたその時。
ギュイィィィィン、とギターが唸った。
そこから始まる、高速ギターソロ。
それを見ていたバンドメンバーの表情から、緊張が抜けていく。
「!」
生き生きとした表情になった事で、音楽の質も変わっていく。
そのきっかけは紛れもない、ピンク髪の少女のギターソロからだ。
音楽の知識は人並みだが、人を見る目のある鴻上光生は、観客席からそれを一瞬で見抜いたのである。
「―――素晴らしい」
いつもハイテンションで欲望を讃える彼には珍しく、まるで感動する映画に出会った後のように、息を吐きだしながらも結束バンドを称賛した。
彼にしては珍しい絶賛の言葉は、十人程度の拍手と、他でもない鴻上自身の拍手によってかき消されていった。
「ハッピィィバァァァスデイッッッッッ!!!」
「ピギャァァァァァッ!!」
ライブ後。
結束バンドの控室に、ホールケーキを持って突撃する、80代間近には見えない老人の姿があった。
強面から放たれる眼力とSTARRYの壁がピリピリしかねない、絶叫に等しい大声にビックリして、約一名が即死した。
全身の毛が漫画みたいに逆立って、そのまま力なくぶっ倒れる。
「後藤さん!?」
「ぼっちちゃーん!」
「む、驚かせてしまったか」
「おじいちゃん! 大声出さないでよ!ぼっちちゃん死んじゃったじゃない!!」
「何ィ!? 私のせいか!!?」
流石の光生でも、大声で驚かされた程度で死んでしまう人間がいるとは思わなかった。
大急ぎで虹夏と共にぼっちちゃんと呼ばれた少女を蘇生する作業を行ったのち、自己紹介と相成った。
「あの、伊地知先輩、さっきその人を『おじいちゃん』って」
「あー…私とお姉ちゃんのおじいちゃんなの、この人」
「鴻上光生だ。今はまぁ、ただの虹夏の祖父だと思ってくれたまえ」
「そうだったんですね。あ、私
「あっ、えと、後藤ひとりです…」
「喜多君と後藤君だね。では早速受け取りたまえ。誕生祝だ」
軽い自己紹介を終わらせて、光生は満面の笑みを浮かべて。
ホールケーキの入った箱を後藤ひとりと喜多と名乗った少女に渡した。
「あっはい………え?」
「あの、私、今日誕生日じゃないんですけど…」
「そうだろうとも」
「あ~……分かっちゃったわ、おじいちゃん。
まさか、結束バンドの誕生祝でケーキ作ったの? ほら」
「その通りッ! 流石だ虹夏、よく分かってるじゃないか!」
「おじいさんなんですか、ケーキ作ったの!?」
突然渡された身に覚えのない誕生ケーキに戸惑うひとりと喜多。
まるで当然であるかのようにお礼を言って嬉しそうに受け取るリョウ。
虹夏だけが祖父の誕生ケーキの意味を察して、ケーキの容器を開けると、結束バンドに向けた誕生日ケーキが姿を見せた。
色とりどりのフルーツと真っ白な生クリーム、そして冷えて固まったチョコレートがケーキを華やかに仕立てる。
「4人で分けて食べてくれたまえ」
「これで一週間は食いつなげる…」
「消費期限は明日の夜だ山田君ッ! ダメになる前に食べたまえッ!」
ケチケチするなんて欲望が足りてない証拠だぞ、と貧乏性を発揮してケーキだけでしばらく飢えを凌ごうとしている虹夏の友達に、光生は叱りつけた。
そんな派手で強面な鴻上光生に、初対面の二人は「祖父と孫とは思えないくらいに似てない…」と内心で思ったのであった。
やがて全組のライブが終わり、打ち上げに行く虹夏とその仲間たちを見届けた後で、光生は自宅へ帰ることにした。
台風はもう過ぎていて、星空が煌びやかに夜空を照らしていた。
「虹夏」
「なに? おじいちゃん」
「今日のライブ…良かったぞ。おばあちゃんにも見せたかったくらいだ」
「ありがとっ、おじいちゃん!」
「また聞かせてくれ。君達の欲望が混ざり合った、素晴らしい音楽をッ!」
「……褒めてるんだよね?」
わりと近所迷惑になりそうな大声をあげる祖父に、孫娘は困りながらも、笑顔を浮かべた。
光生が見送ってくれたライブの打ち上げ。
宴もたけなわといったところで、後藤ひとりは虹夏がいないことに気が付いて、虹夏を探すために席を外した。
外で涼んでたという虹夏がひとりに、夢の話を始める。
「私、小さい頃にお母さん亡くなって、父親も家に居ないし、お姉ちゃんと…おじいちゃんだけが家族だったんだ。
お姉ちゃんがバンドを始めてライブハウスに連れて行ってくれた時は幸せだった。全部が凄くキラキラして見えた。
それを見たお姉ちゃんはバンド辞めてライブハウス始めたんだ。おじいちゃんもお金を出してくれた」
スターリーはね、お姉ちゃんとおじいちゃんが私の為に作ってくれた場所なんだよ、と。
誇らしげに語る虹夏は続ける。
「私の夢は、お姉ちゃんの分まで人気のあるバンドになること!
そして、スターリーをもっともっと有名にすること!」
虹夏の夢は、壮大で果てしなく、そして無謀にも等しい厳しい夢でもある。
相応な実力は勿論のこと、人や運にも恵まれないと、叶えるのは難しいだろう。
だが。虹夏の祖父は、そういった壮大な夢―――欲望を、良しとする男であった。
「おじいちゃんはすっごく褒めてくれたし、応援してくれた。
……まぁ、あの人は欲望が絡めば何でもOKっぽそうだけどさ。
それでも挫けそうな時もあったんだよ。今日だってみんな自信無くしちゃったし……」
でも、とひとりに向き直った。
「そんな状況を壊してくれたのはぼっちちゃんなんだよ。
今日のぼっちちゃん本当にヒーローに見えたよ」
その言葉に、ひとりはどこか救われたような気分になった。
昔からひとりは「ギターヒーロー」として動画をあげていたが、誰かと合わせることなどしなかった。
そんな彼女が、誰かと練習して、本番では実力が出せてなかったメンバーの為に、ギターソロをアドリブで展開した。
それが今、報われたような。そんな気分だった。
「リョウは今度こそこのバンドで自分達の音楽をやりたいって言ってる。
喜多ちゃんは皆で何かをするってことに憧れている。
みんな、大事な
「生きる、源…?」
「おじいちゃんが言ってたの。『生きるってのは、欲することだ』って。
ぼっちちゃんもさ、あるんじゃないかな。何のためにバンドしてるのかが」
「あっ、私は……ギタリストとしてみんなの大切な結束バンドを―――最高のバンドにすることです」
それで、人気になって高校を中退したい……
そんな陰キャボッチ特有の、人を避けたような夢…というか欲望までひとりが語れば「流石に重い」と言われたが、それでも笑顔で「でも分かった!」と答える虹夏。
「これからも見せて欲しいな。ぼっちちゃんのロック…ぼっちざろっくを!」
「あっはい!」
人懐っこくそう笑いかける虹夏。
ひとりには、その満面の笑みが、ケーキを渡してきた奇妙なおじいさんと重なって見えたのであった。
鴻上光生…自分を『仮面ライダーオーズの鴻上会長』に生まれ変わったと思い込んでいたただの同姓同名の別人。だが自分の欲望のままにファウンデーションまで作り、いざグリードとオーズで一儲けと思ったところでそんなのいないことに気付いて凹む。だが鴻上会長を演じていく内にタフな性格になったのとオリジナルの会長とは(おそらく)違い家族がいたことでサラッと立ち直る。娘が孫の出産をしたことで『ぼっち・ざ・ろっく!の世界に生まれ変わった』事実に気付いた。勝手に背負っていた肩の荷物が下りたことで、孫娘の欲望(と言う名の夢)を叶えるために裏から手を尽くすことに生きがいを見出した厄介で気前の良いおじいさん。しっかりと孫に(悪)影響を与えている。
伊地知虹夏…祖父に無自覚のまま影響を受けている結束バンドの(自称)常識人。欲望を肯定する祖父の影響で、自分の夢を疑わずに頑張れるようになったし、懐もちょっと広くなった。あとバストサイズが地味に増えた。だがその代わりに欲望関係のセーフ判定が怪しくなり、欲望にマイナスイメージを持たなくなった。そのくせ自分では常識人だと思っているし、おじいちゃんに似てるねって言われようものなら、「わ、私が!?流石に欲望全肯定人間にはなってないよ~!!!」と必死で否定する。だが欲望を否定しない時点でお察し。
伊地知星歌…祖父が虹夏に余計な事を吹き込みだしたことで、軌道修正を図ろうとした人。毎回持ってこられるケーキの処分に困っており、何気に体重が悩みの種になっている。
後藤ひとり…陽キャに声をかけられるだけで爆死することに定評のある陰キャぼっち。今回は強面のジイさんに大声で話しかけられる不意打ちであえなく死亡、蘇生。なお、この後光生に誕生日を聞き出されそうになる(虹夏と星歌が阻止)。
山田リョウ…光生の持って来るケーキがとても助かっている金欠ベーシスト。ケーキは何日もかけて食し飢えをしのいでいるとか。なお、誕生日にケーキをくれることを知った瞬間、あっさりと誕生日を光生に教えてしまった。
喜多郁代…虹夏の祖父がハイテンションでケーキ作りが趣味な強面だと知って驚く陽キャ。光生とはすぐに打ち解けたが、誕生日を聞き出された時は、虹夏と星歌にケーキによる体重のリスクを熱弁されたので秘匿した。
仮面ライダーOOOで好きなキャラは?
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火野映司
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真木清人
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鴻上光生