伊地知さんちのおじいちゃん   作:伝説の超三毛猫

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あ、ありのまま今起こったことを記すぜ!
「ただの思い付きであげた短編の、書く気のなかった続きをいつの間にか書いていた」
な、何を言っているか(ry
これも全部俺の中にいる欲望全肯定おじさんのせいや!!!


……っていうかこんな短期間でお気に入り100いったの、初めてなんですけど…『まちカド暗黒神』超えてるんですけど………


伊地知虹夏

 十余年前のこと。

 五歳になったばかりの虹夏は聞いたことがある。

 

「おじいちゃん。『よくぼー』ってなぁに?」

 

 それは、物心がつきたての頃から言っていた祖父の口癖について。

 可愛らしく首をかしげる虹夏に、祖父・鴻上光生はおごそかに口を開いた。

 とうとうこの時が来たか、というはやる気持ちを抑えつけ、こう切り出した。

 

「そうだな。例えば……虹夏。目の前に三時のおやつがあったらどう思う?」

 

「たべたい!」

 

「そうだろう。じゃあ、今日の晩御飯はなにがいい?」

 

「ハンバーグ!」

 

「将来の夢はあるかな?」

 

「お姉ちゃんみたいな『ろっくばんど』になること!」

 

「そうだろう、そうだろう。

 いいか虹夏。『欲望』っていうのはな。人が前を向いて生きていくのに必要なものなんだ。

 窓から見える街の、建物のひとつひとつであっても……その人その人が『欲しい!』って願ったから作られるものなんだよ」

 

「んー?」

 

「分からないか?」

 

「うん」

 

「ならコレを食べてみなさい。さっき作ったんだ」

 

「わぁ…チョコレートケーキ!」

 

 虹夏の興味はあっという間にチョコレートケーキに移った。

 フォークをケーキに沈ませ、口いっぱいに頬張ると、砂糖の甘味とチョコレートの風味、ケーキの柔らかな味が虹夏の口の中に広がった。

 幸か不幸か、虹夏は老人の感性を少なからず受け継いでいた。そうなれば、あとは小さなきっかけで満足感と幸福感に浸っていく。

 

「虹夏。そのチョコレートケーキもな、虹夏がさっき『食べたい!』って言ったから生まれたんだ」

 

「そうなの!?」

 

「あぁ。生きることとは、『欲しい』って思う事だ。しっかり味わって食べなさい」

 

「はーい!」

 

 交わされる会話がやや独特なことを除けば、穏やかな祖父と孫娘の団欒。

 そこに、ドアを開ける音が響いた。

 

「ただい―――」

 

「おじいちゃん! 『よくぼー』ってすごいね!」

 

「そうだろう! これが『欲望』の持つパワーなんだ!」

 

「………」

 

「あ、おねえちゃんおかえりー」

 

「おぉ、おかえり星歌。チョコレートケーキを作ったんだ。お前の分もあるぞ?」

 

 呑気に割と怪しいワードを絶賛する五歳児の妹と還暦を超えた祖父。

 それを目の当たりにした、当時17歳だった伊地知星歌は、きっかりと3秒間沈黙し。

 普段にしては珍しく声を張り上げて、祖父に言い放った。

 

「じーちゃん、虹夏に変な事教えないで!!!」

 

 

 

♬ ♪ ♬

 

 

 

 光生が虹夏に欲望のなんたるかを教授してから十数年後。

 

「着いたわよ後藤さん、江ノ島よ!」

 

「あー……」

 

「塩アイス買ってくるから、またね」

 

「おーいもうちょい我慢しろー、自由行動とは言ってないぞー」

 

 虹夏を含めた結束バンドの面々は、下北沢から電車で江ノ島に来ていた。

 事の発端は、後藤ひとりがスケジュールを開けていたにも関わらず誰にも遊びに誘ってもらわなかったという事実が発覚したことだった。

 とは言っても、ずっと受け身で誰とも連絡を取らなかった(というか取れなかった)ひとりにも原因はあるし、郁代もスケジュールが友達との遊びで埋まっていた上に知らない人といるとひとりが委縮するかもという配慮が仇となった面もある。虹夏もスターリーのバイトや家事等で忙しかったし、リョウは郁代か虹夏が誘っているとばかし思っていた。

 全員がボタンを掛け違えた結果起こった冗談みたいな悲劇だが、ひとりがSTARRYの前でひたすらにセミの墓を作り続けているのは事実。このままではひとりの精神がヤバすぎるため、急遽夏の思い出作りに江ノ島旅行が決定したのだ。

 

 パリピから逃げたり、結局アイスを買ったりする中。

 結束バンド一行は、たこせんを見つけ、ひとりを正気に戻すためにそれを買ったのである。

 

「これは…?」

 

「たこせん。たこを1トンの力でプレスするんだって」

 

「どうしてタコをプレスする必要があったんだろう」

 

「そうしたかったからじゃない? 『タコを潰したい』って」

 

 リョウと虹夏の会話に郁代は「んんっ?」ってなった。

 どこの世界に「タコを1トンの力でプレスしたい」なんて具体的な欲望があるものか。

 先日、キャラの強い虹夏の祖父にケーキを貰ったことも相まって、地味に引っかかったのだ。

 

「なんか、ど、独特ですね?」

 

「そう?観光地名物って大体、『欲しい』って思わなきゃ作らないでしょ」

 

 郁代は、ポロっと出た感想にそう返答する虹夏の姿を受けて、ここに来る前のある日のことを思い出していた。

 

 

 

♬ ♪ ♬

 

 

 

『こ、鴻上さん…って、あの鴻上ファウンデーションの会長の鴻上さんなんですか…?』

 

 それは数日前の、スターリーのバイトに行った日のこと。

 初ライブで光生が突撃してきた時に覚えた、彼の名乗った苗字についてふと気になった郁代は、スマホで調べて以降判明したことを尋ねるためにずっと機会を伺っていた。

 そしてその日は偶然、光生がスターリーにやってきた日だったため、意を決して休憩中に聞いてみたのである。

 

『そうだ。私はもうあまり関わってはいないが、色んなものに手を出したっけな』

 

『そこらじゅうで名前聞きますよ!? 提供とか、スポンサーとか…』

 

『あぁ。最近だとロインやトゥイッター、イソスタグラムのスポンサーなんかもやっているな』

 

『そ、そこまで……』

 

 己のスマホに入っていて、当たり前のように使っているアプリにまで鴻上の手が及んでいると知り、急に怖くなった郁代。

 まるで、別次元の世界の住人を目の当たりにしてしまっているかのようだ。

 自分の知っている先輩のご家族が、とんでもない人間だったことに今気づくなんて遅すぎ!どうすればいいの!? と。

 普段のひとり顔負けの動揺っぷりを晒している郁代に、鴻上光生はこう切り込んできた。

 

『…そこまで縮こまれると逆に困ってしまうのだがな』

 

『え?』

 

『今の私は「鴻上ファウンデーションの名誉会長」ではない。「虹夏と星歌の祖父」としてここに来ているんだ。肩の力を抜きたまえ』

 

『は、はい……』

 

 口ではそう言うものの、緊張するななどと言われても簡単に出来るはずもない。

 テレビに出るような有名人が、一般人相手に「楽にしてね」と言われても、なかなかそのようにいかないのが人間だ。

 落ち着かせるような言い方で言葉を投げかけられても、いまだ委縮する郁代。それを見抜いていた光生は唐突にこんな話を始める。

 

『ときに喜多君。君に欲望はあるかね?』

 

『はい?』

 

『欲望だ。夢とか、目標とでも言うべきか。なんでも良い。言ってみたまえ』

 

 欲望、というドロッとしたイメージの言葉が、光生の口から出てきたことに呆気に取られる。

 しかもそれを言ってみて欲しいという、かなりの無茶ブリだ。

 後藤ひとりであったなら、確実に答えられなかったであろう話の流れとテンションと空気だ。

 だが、そこは喜多郁代。年がら年中キタチャンオーラをキターンと放っている彼女からすれば、急に振られた話に乗るなど朝飯前だ。

 欲望という単語は聞き慣れはしないが、一生懸命答えてみる。

 

『そう、ですね……結束バンドの皆で何かをしてみたいって気持ちはあるんですけど』

 

『弱いな…それに抽象的だ。それではまだまだつまらないままだ。もっと欲張りたまえ!』

 

『はいぃっ!?』

 

 だが、答えた結果「弱くてつまらん」と一刀両断される喜多の「目標」。

 流石のコミュ強ポジティブ人間な喜多ちゃんでもこれは面白くない。

 文句のひとつでも言い返そうかと思ったところで、光生の「私はな…」と話し出したことにそれは遮られた。

 

『私は君くらいの年には、もう既に「世界一の起業家になりたい」という欲望を持っていた』

 

『!』

 

『周りには「その小学生みたいな夢からとっとと卒業しろ」と言われたが……全て無視して、私は私の欲望(ゆめ)に忠実に生きた。その結果が、今の姿なのだよ』

 

『夢……叶えたんですね』

 

 光生の若かりし頃の姿を知って、ふと気づく郁代。

 最近の若者は夢を見ないっていつだったかのテレビで言っていたけれど、自分もそうだったんじゃないだろうか。

 そして、その姿を心配して、ひょっとしたら目の前の老人は自分にエールを送っているのではなかろうか。

 そう思った郁代だったが、鴻上光生はその先を行っている。

 

『あぁ。全て夢…否、欲望あってのことなのだッ!!』

 

 欲望という表現を夢という素敵な表現に言い換えた郁代のさりげない気遣いを、全て台無しにしながら力説する光生。

 

『目が眩むような栄光も、歴史に残る実績も、そしてささやかな幸せでさえも。

 全て「欲しい」と望まなければ手に入らないのだッ!

 このテーブルも店も、家もビルも街も国も!!

 全て人々の「欲しい!」という想いが生み出した欲望の塊……!

 赤ん坊は生まれた時に「欲しい」と言って泣く……

 生きるとは!欲することなんだ!!

 そうだろう喜多君!!』

 

『そ、そ、そ…そうなんですか…?』

 

 そうだろうと言われましても。

 なんか自分の知らない理論を次から次へ引っ張り出してきた。

 語れば語るほどエスカレートする光生の謎のテンションというおまけ付きで。

 しかも、あろうことかソレに同意を求めてきた。

 喜多ちゃんであっても、コレの対応にそうそう正解など出せずに、ひとりのように目を回して曖昧な同意をするしか出来ない。

 光生のメチャクチャな話に困惑していたが、そこに救世主が現れる。

 

『喜多ちゃーん、そろそろ交代……』

 

『いいかね喜多君。もう一度言うぞ。

 もっと欲張りたまえ。欲しがっても何が手に入るかは分からないが、欲しがらなくては確実に何も手に入らない』

 

『は…はひぃ……』

 

『…じーちゃん!喜多ちゃんに変な事吹き込まないの!!』

 

 すぐさま郁代から光生を引き剥がしたのは、スターリーの店長の星歌だった。

 光生はまだなにか言いたげだったが、孫に引き止められては仕方がないと言わんばかりに、迫るのをやめた。

 郁代は、後で必ず星歌にお礼を言おうと誓いながらも、光生の独特の理論から放たれた言葉の数々を忘れきる事は出来なかった。

 

 

 

♬ ♪ ♬

 

 

 

 そんな出来事を思い出した喜多郁代は、虹夏の「観光地名物は『欲しい』と思わなければ生まれない」発言を受けて、体が震えた。

 欲望全肯定おじいちゃんこと、鴻上光生の襲撃(笑)の日を思い出したからだ。

 そういえば、あの人先輩のおじいちゃんでしたっけ、なんて思いながら。

 

「い、伊地知先輩が鴻上さんみたいなこと言った…!」

 

「え、ちょ、喜多ちゃん!? なんてこと言うの!!」

 

 郁代のその言葉に、聞き捨てならないと反論する虹夏。

 

「私はおじいちゃんみたいな欲望全肯定人間じゃありません!

 現に、さっき自由行動しようとしたリョウ止めたし!」

 

「…じゃあ聞くけど虹夏、誰かの誕生日についてどう思う?」

 

「え、そんなのめでたい行事に決まってんじゃん。家族の誕生日ならケーキ作ってお祝いするし、これくらい普通のことじゃん。おじいちゃんは関係ないよ」

 

「あ…そういえば虹夏ちゃん、『生きることは欲すること』って……言ってました……」

 

「? 別におかしなことじゃないでしょ?」

 

「これは孫だね」

 

 リョウ、郁代、ひとりは何かを察したように頷き合うが、虹夏は納得いかない。

 誕生日は普通めでたい行事だし、ケーキは必ずと言っていいほど出てくる。

 生きる事と欲する事が深く結びついていることも一度分かってしまえば普通の事実だ。

 それなのになんでありもしない事を察しているのか。

 自分は決して、祖父の欲望を肯定しすぎる所に悪影響は受けていない。

 

「ちーがうって言ってるでしょ!」

 

「説得力ないです…」

 

「はいはい」

 

「………(必死に目を逸らす)」

 

「もー!!!」

 

 必死に否定しても軽く流すばかりで信じようとしないバンドメンバーに、しばらく虹夏はもーもーと牛のように憤慨するのであった。

 ちなみに言っておくが、三人がこの時察したことは、虹夏の思うように誤解として解かれることは決してなかったと明言しておこう。

 

「人はかつて天国に至ろうとする高い塔を造ろうとした…怒った神は人間の言語をバラバラにし、地上を混乱に陥れた……」

 

「あー、バベルの塔ね」

 

「そっ、それから学ばず、また人はこんな高い建物を…」

 

「まー人の欲ってそう簡単に無くならないからねー」

 

「あのー皆さん、景色を……」

 

 リョウが唐突に振ってきた「バベルの塔」の話に対して、人間の欲望が一度罰された程度で消えないなどと言っている内は、少なくとも虹夏が鴻上の孫であるという認識は消えないだろう。

 

 

 

♬ ♪ ♬

 

 

 

「―――なんてことがあったんだよー! ひどくない!?」

 

「いや……欲望を持つのは良い事だぞ虹夏。恥じるべきではない」

 

「私は欲望全肯定人間じゃないって言ってるでしょー!!」

 

「えっ」

 

「お姉ちゃんその『えっ』はなに!!?」

 

 ちなみにだが。

 虹夏がこの不満を家族にぶつけたところ。

 祖父には欲望の大きさをおごそかな口調で褒められ。

 姉には本心からの叫びを「違うのか?」みたいなリアクションを取られたことで、拗ねに拗ねまくって三日ほど祖父と口をきかなかったという。

 




鴻上光生…下北沢の天使を欲望の力で堕天使に変貌させた全ての元凶。なお、本人は欲望を全肯定しているので、悪気は一切ないし、なんなら孫たちにはもっと吹っ切って欲しいと思っている。でも虹夏が口きいてくれなくなった時はとんでもなく凹んだ。

伊地知虹夏…自分の夢には自信を持っているし、祖父や姉が応援している事は嬉しく思っているが、それでも祖父みたいなぶっちぎった欲望全肯定人間みたいにはなりたくないと思っている。しかし言動の節々から欲望の力が漏れ出てしまっている事に気付いていない。

伊地知星歌…妹が幼い頃から祖父に変な事を吹き込まれている影響を受けて、妹よりも欲望に関しては常識人と化している。ただし、家事とかはやっぱり苦手なため、原作とほぼ同じくらいのダメな大人ではある。

喜多郁代…鴻上光生の欲望談義の被害者その1。最初は具体性のない夢しか持ててない自分の背中を叩いて励ましているのかと思ったら、想像の1000倍は欲望にまみれたすさまじい演説を聞かされた。その記憶は、月に1回は夢に見る程鮮烈で壮絶だったという(本人談)。

山田リョウ…虹夏との付き合いが最初からあったので、当然光生との面識もある。また、虹夏が思ったよりも欲望に寛容なのも何となく察してる。ソレをいいことに事ある毎にたかろうとするが、現段階では成功していない。



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