伊地知さんちのおじいちゃん   作:伝説の超三毛猫

6 / 8
あけましておめでとうございます。
お気に入り1200突破&評価バー真っ赤ありがとうございます。
そんな本作において、突然で申し訳ないんですが、この物語は完結するッ!
時系列は5巻よりはるか先の話です。一応書きたかったものを書いて完結とさせていただきます。



ぼっち・ざ・ろっく!
前回までの3つの出来事!

1つ、後藤ひとりの欲望が、鴻上光生に絶賛される!

2つ、鴻上光生、後藤ひとりの身体構造の違和感に気付く!

そして3つ、文化祭での結束バンドのライブが、大成功を収めた!


Count the Music!
現在、結束バンドの持つ楽曲は―――


結束と名曲と欲望の再誕

 結束バンドが有名になり、売れ行きが良くなり始めた、ある日のこと。

 伊地知虹夏は、姉と共に祖父の家に遊びに行った際に、書斎から紙がはみ出しているのを見つけた。

 

「あら、おじいちゃんの机が散らばってる。珍し……」

 

 片付けようとした際に、目に入ってしまった。

 たまたま手に取った紙に、書かれていたものを。

 

「い………ぇ…?」

 

 それは詩―――否、歌詞だった。

 そうとわかった虹夏は、しばしその歌詞に目を取られる。

 いつも自分達が歌っている、後藤ひとりや喜多郁代作詞の独特な歌詞ではない。

 シンプルで、熱めの歌詞だ。虹夏はこの歌詞は嫌いではないし、郁代あたりも好きそうだが、ひとりが見たら蒸発しそうである。

 

「『Anything(エニシング) Goes!(ゴーズ)』……?」

 

 歌詞の題名を読み上げた虹夏は、どうしてこれが祖父の部屋から出てきたのか、首をひねることとなる。

 

 

 

♬ ♪ ♬

 

 

 

「これおじいちゃんが書いたの?」

 

 鴻上光生は、そう言って複数枚の紙を出してきた虹夏に、かつてないほどの焦燥感を感じていた。

 虹夏が出してきた紙に書かれていたもの……それは、『Anything Goes!』を始めとした、『仮面ライダーオーズ』の楽曲である。各コンボのテーマ曲も見事に見つかったのか、まとめて提出されていた。

 

 鴻上光生は、その虹夏の問いになんて答えるべきか、内心で唸っていた。

 まずこの世界の前提として、『仮面ライダーオーズ』が存在しない。

 「仮面ライダー」という概念は存在している。しかし何故か、『仮面ライダーオーズ』だけが、虫食いにでもあったかのように存在していないのだ。つまり、『W』放送後の次は『フォーゼ』が登場していることになる。仮面ライダー1000回記念もフォーゼで放送されていた。

 当然、『オーズ』に出ていた楽曲も存在しない。それらに関わった作詞・作曲者もまた、いくら探しても出てこなかった。大黒○季もいなかったが、代わりに小黒摩貴というニアピン賞みたいな名前の女性歌手がいた。

 つまり、何が言いたいのかと言うと。

 この世界において「Anything Goes!」はライダー史に残る名曲ではない。ただ鴻上光生が作詞だけした、「生まれていない曲のひとつ」に過ぎないのだ。

 

「………それを話すには、ひとつのプロジェクトについて語らなければならない…」

 

「え、そんな壮大なヤツ??」

 

 だが、転生した身の上を話すつもりはなかった。

 ―――これらの曲は前世で何度も聞いた曲だよ。

 そう言ったところで証拠がないからだ。この世界においても、生まれ変わりなんてものは、「信じるか信じないかは貴方次第だ」というカルト系統に過ぎないのである。

 その代わり………鴻上光生は、嘘を一切つかずに虹夏に説明する決意をした。

 

「プロジェクト名は『仮面ライダーオーズ』…」

 

「仮面ライダー? ……って、ニチアサでやってるあの…」

 

「あぁ。その仮面ライダーで合っている。

 私にはかつて、それの製作に関わろうとしていた時期があった」

 

「へぇ~……

 で、それとこれはなんの関係があるの?」

 

「それらは、『仮面ライダーオーズ』で使われるハズだった歌の歌詞だ。すべて、私が書いた」

 

「すごっ!? おじいちゃん歌詞書けたのっ!?」

 

「今はもう書けん」

 

 厳密には、『Anything Goes!』をはじめとした『オーズ』関連の歌を生み出したのは別の人物だ。……ただし、鴻上光生だけが知っている世界にいた、だが。

 この世界においては、歌そのものが生まれていないので、歌詞を最初に誕生させたのは鴻上光生ということになる。

 

「だが。これらの計画は頓挫したのだ」

 

「…どうして?」

 

「私のたった一つの勘違いだ。それだけで、盛大なプロジェクトが丸々潰れてしまったのだよ」

 

「そんな事が……」

 

「冗談みたいだろう? だが事実だ。

 これらの歌詞も、『仮面ライダーオーズ』のプロジェクトの一環で生まれるはずだった。

 だがすべて計画の頓挫によって白紙に戻されてしまってね。

 ここに書かれているのは………いわば()()()()()()()()()()()()()曲なのだよ」

 

 光生の語った事は、すべて事実である。

 ただ、虹夏に話していない事があるだけだ。

 『自分は仮面ライダーオーズの世界に生まれたと思い込み、起こるであろう戦いの為にしかるべき準備をしていた』……この点を伏せているだけ。

 自分が転生したことは話さない。誰にも悟らせるつもりはない。ありもしない戦いに備えた結果、本当に戦争が起きたら笑えないから。だからこの秘密は、墓場まで持っていく。

 それが鴻上光生の………否、鴻上光生として生まれた男の責任の貫き方だった。

 

「おじいちゃん……」

 

 祖父のそんな話を聞いた虹夏の意識は。

 自分が手元に出した、祖父が書いたという歌詞に向けられていた。

 ―――たったひとつの勘違いで潰れてしまったプロジェクトで生まれる筈だった歌詞。

 ―――生まれることができなかった曲。

 

 衝撃だった。

 おじいちゃんが常日頃からあらゆるものの誕生を祝っているのは知っている。

 リョウにもぼっちちゃんにも喜多ちゃんにも、誕生日の度にホールケーキを送っているのもそうだし、自分や姉にもバースデーケーキを作ってくれているのも知っている。

 だからこそ。そんな祖父にとって、生まれることができなかったものをどう見ているのか。

 それを、なんとなく察することができたのだ。

 そうでなければ、あそこまで哀しそうな祖父の顔と声を見逃すものか。

 

 そうして虹夏は、ひとつの決意をした。

 

「おじいちゃん」

 

「ん?」

 

「この歌詞、ちょっと借りても良い?」

 

「良いが……何をするつもりなんだ?」

 

 分かりきっている質問をあえてした。

 虹夏はバンドマンだ。歌詞を預けることが何を意味するか、など何となく察しがつく。

 だがそれでも問うたのは、不安だからだ。

 結束バンドの曲を聞いていた光生には分かる。

 この歌詞と、結束バンドの曲達は―――

 

「おじいちゃんは、このままで良いと思うの?」

 

 虹夏がそう聞き返す。

 光生とて、このままで良いわけがなかった。

 だが、誰にもその歌詞を見せていなかった。

 それは何故か。

 

 納得の行くものが出来ると思わなかったからだ。

 あのメロディーを知っているのは、最早鴻上光生のみ。

 楽器のできない光生に再現など出来るわけがないし、ハミングから再現するにも限界がある。

 下手に誰かに作曲してもらって、自身の考えているものと違っているものが出来上がってしまったら……そう考えると、誰にも依頼する気にはなれなかったのだ。

 

「だが…」

 

「らしくないよ、おじいちゃん。

 いつも強欲に、欲張らないと」

 

「!」

 

 虹夏が、自分の口癖を言ってのけた。

 そこでようやく、己の弱音を自覚した。

 そうだ。あまりに過去の栄光に憧れすぎて、今までの自分を忘れかけていた。

 自分は今まで、貪欲に強欲に、そしてすべての欲望を肯定して生きてきた。

 今更なんだってんだ。こんなところを本来の鴻上光生(オリジナル)に見られでもしたら、鼻で笑われてしまう。

 男の脳裏で、赤スーツにエプロンの宇○氏が「つまらない葛藤はやめたまえ」と叫んだ気がした。

 

「分かった。それが虹夏の欲望なら、止める理由はない!!」

 

 それに。

 ひょっとしたら。

 自分の欲望に真っ直ぐで寛容な……自分と少し似た、この孫娘なら、もしかしたらと思った。

 もしかしたら、『仮面ライダーオーズ』が存在しないこの世に、『Anything Goes!』を復活させられるかもしれない。

 たとえそれが身内贔屓だったとしても、そう思う光生であった。

 

 

 

♬ ♪ ♬

 

 

 

 とはいえ、虹夏は他のバンドメンバーにどう話を切り出せばいいか迷っていた。

 

「う~~~~ん……」

 

「虹夏ー。そろそろぼっちちゃん達来る時間だぞー」

 

「あともうちょっと待ってー」

 

 ライブハウスの奥で、ドラムセットのドラムの上に歌詞を広げて、歌詞と睨めっこをしているかと思えば、その周りをぐるぐる歩いて回る。

 傍から見れば、完全に変人だ。こんなところを誰かに見られれば、虹夏は他のメンバーのことを強く言えなくなる。

 祖父は気付いていたか否か分からないが、彼の描いた歌詞は、今まで結束バンドが書いてきた歌詞(もの)とはまるで方向性が違う。

 バンドメンバーから反発を招かないか……特に、()()()()()()()()()()()()()()()、余計話題の切り出し方に迷ってしまっていた。

 

 どれくらい、そうしてウロウロしていただろうか。

 いくら迷って考えても、答えが出なかった。

 だから―――気付かなかった。

 

「………はぁ。みんなになんて話そう…?」

 

「これのこと?」

 

「うん………うん!!? リョウ!? いつの間に!!」

 

「だいぶ前に。コレ、全部見せてもらった」

 

「声かけてよ!!!」

 

 虹夏に声をかけずに入ってきた山田リョウが、鴻上から貰った歌詞を一つずつじっくり吟味していた。

 相変わらずのマイペースっぷりである。

 

「これ、虹夏が書いたの?」

 

「ううん。おじいちゃんが昔書いた歌詞なんだって」

 

「鴻上さんが?」

 

 作詞者を知ったリョウは、あまりにも意外な名前に呆気に取られたが、すぐに歌詞に視線が戻っていった。

 

「虹夏が書いたんじゃないんだね…」

 

 その呟きが、虹夏にはどういう意味を指しているのか。

 幼馴染としては珍しく、計りかねていた。

 

 後藤ひとりと喜多郁代がSTARRYにやってきてから、結束バンドとして集められた虹夏は、半ば観念したように祖父から聞いた全てを話すことにした。

 歌詞と作詞者も全部公開し、自分達が来るまでずっと悩んでいた事も、リョウによってバラされる形でひとりと郁代も知られる形となった。

 

「確かに、ひとりちゃんと書く歌詞が違いますね。

 ニチアサで放送予定だったって聞くと納得いきます。

 私、この歌も好きですよ」

 

「ゴフッ」

 

「しまったぼっちちゃんには刺激が強すぎたか」

 

「それで。虹夏はこの歌詞をどうしたいの?」

 

 虹夏の予想通り、光生の歌詞を好意的に受け取った郁代と、陽属性アレルギーでダメージを受けるひとり。

 その一方で、リョウは静かに、だがいつもの飄々とした雰囲気とは程遠い大真面目な雰囲気で虹夏に問いかけた。

 長年の付き合いゆえにリョウの真摯さを感じ取った虹夏は、こちらも真剣に答えなければと口を開く。

 

「最初ね、私はどうにかしてこの曲を形にしたい……って思ったの」

 

 三者三様のリアクションを示す。

 ひとりは信じられないような目を向け、郁代は目を見開き、リョウは目を細める。

 しかし、虹夏は「だけどね…」と言葉を続ける。

 

「私達の音楽とはぜんぜん違ってさ。

 歌詞貰ったはいいものの…どうすればいいかわかんなくなっちゃったの。

 私のワガママに付き合わせて結束バンドに支障が出るの嫌だし」

 

 虹夏は、そこまでで言葉を区切ってリョウを見た。

 山田リョウはかつて、今のバンドとは違うバンドに所属していたことがある。

 だが、売れようと必死になった結果歌詞を巡って迷走し、バンドを抜けたという過去がある。

 リョウはその際に、バンド活動そのものが嫌になっていた時期があったが、それを掬い上げたのが虹夏なのだ。

 虹夏はそれを知った上でリョウをバンドに誘ったのだ。

 そんな自分が、リョウを裏切るわけにはいかない。

 勿論喜多ちゃんもぼっちちゃんも大事だけど、皆がいなければ結束バンドの意味がないんだ。

 そういう意味を込めて、虹夏は心の奥を話した。

 数十分にも感じた沈黙の後。リョウが口を開いた。

 

「じゃあ、どうして歌詞を貰ってきたの?」

 

 ご尤もな質問だった。

 作る必要のない曲の歌詞を貰ってくるなど、言っては悪いが無意味に等しい。

 しかも、自分達と曲調が違うというなら尚更だ。

 にも関わらず、歌詞を貰ってきた虹夏の行動の意図を知りたいという、純粋な疑問からリョウはそう問いかけたのだ。

 それに対して、虹夏はこう答えた。

 

「なんだろう…そうしなかったら後悔したから、かな?」

 

「後悔?」

 

「生まれることができなかった曲、って聞いてさ。

 これらがこのまま消えるんじゃないかなって……

 誰の記憶にも残らないままなくなっちゃうのかな、なんて思ったらさ。

 昔のこと、ちょっと思い出しちゃった」

 

「虹夏…」

 

「手元にあったのに、手を伸ばさなかったら後悔する。そんな気がしたから、貰ってきたんだ」

 

 リョウは虹夏が「昔のこと」という単語を出した時に、すぐに彼女の母親のことを連想した。

 虹夏と付き合いの長いリョウは、虹夏の母が事故で急逝したのを知っていた。

 なくなったものが、誰の記憶にも残らずに消えていく。それがどれだけ悲しく…空しいことだろう。

 ひとりもまた、前もって虹夏から聞いていたため、彼女の言う「昔のこと」が母が死んだことかなと心当たりをつけることができた。

 郁代は、虹夏の「昔のこと」に心当たりがなかったが、それでも「手を伸ばさなかったら後悔する」という言葉に共感していた。

 

「つ…つ、作りましょう!」

 

「ぼっちちゃん?」

 

「わ、私…結束バンドの最初のライブ……出れて良かったと思います。

 あの時ああしてなきゃ……き、きっと、こ、後悔してたから……。

 だから、その…………」

 

 ―――私も手伝っても、いい、ですか?

 ひとりのその言葉に。

 リョウも、郁代も、虹夏も。

 数秒前まで緊迫していた表情に、笑顔が灯った。

 

「ひとりちゃん……!

 伊地知先輩! 私もやってみたいです!」

 

 ひとりの次に、郁代が虹夏にそう言った。

 最後まで成り行きを見守っていたリョウはというと。

 

「良いよ。私も協力する」

 

「ありがとう……皆!」

 

「ただし」

 

「リョウ?」

 

「まずどれかひとつ作ろう。それで、鴻上さんや店長さんに判断して貰おう」

 

 そこまで言って、リョウは歌詞の紙束に視線を向けた。

 歌詞の紙は全部で8枚。「Anything Goes!」の他に、「POWER to TEARER(プトティラ)」「Got a keep it real(ガタキリバ)」「Ride on light time(ラトラーター)」など……全コンボの曲がある。『オーズ』本編に流れなかった「Shout out(シャウタ)」もバッチリ書かれていた。

 

「流石に一気には無理…」

 

「ですよね………」

 

 至極当然な意見に同意しながらも、幼馴染はひとりと郁代に続いて奥へと歩いていく。

 STARRYの営業開始が、もう近い時間帯であった。

 

「ねぇ虹夏」

 

「なに?」

 

「虹夏って、意外と欲張りだったんだね」

 

 リョウの言葉に、一瞬だけ呆気に取られたが、おかしなものでも見たかのように笑ってから、虹夏はこう問い返した。

 

「…そうだよ。知らなかったの?」

 

「いつか鴻上さんみたいにぶっちぎりそう」

 

「ちょっと!!!」

 

 今回の歌詞の件、みんなには感謝したい。

 けど、自分は祖父みたいになったりしない。

 欲望全肯定とか、死んでもするもんか。だって、リョウに奢らされそうだし、ぼっちちゃんや喜多ちゃんのトラブルを丸投げされそうだから。

 そう思った虹夏であった。

 

 

 

♬ ♪ ♬

 

 

 

 虹夏に歌詞を渡してから数日後。

 光生の携帯に連絡が着ていた。

 

『今日は絶対に来てね』

 

 孫娘からそう言われて、断る鴻上光生ではない。

 STARRYに辿り着くと、既にステージ上には、結束バンドがスタンバイしていた。

 

「こ、これは一体…?」

 

「じーちゃん、こっち」

 

「なに…?」

 

 光生は、星歌に手招きをされるがままに席に誘導され、席に着いた。

 彼からすれば、何がなんだか分からない。

 

「じーちゃんに聞かせたい歌があんだと」

 

「私に……?」

 

 彼女達とて、最近勢いづいている筈だ。

 忙しいだろうに、合間を縫ってくれたという事だろう。

 だが、そこまでして聞かせたい曲とは一体……?

 

「私達、結束バンドは、色んな方々のお陰でなんと3枚目のCDを出すことができました!」

 

 虹夏のMCが始まった。

 その内容とは、自分達がここまでこれたのは色んな人々のお陰、という言葉から始まるものだ。

 光生は、そのことを知っている。何故なら、星歌の次くらいには、STARRYに来て結束バンドを支えていたのだから。

 

「でも、順風満帆とはいきませんでした! なんなら、後悔したことなんて山ほどありました!」

 

 ―――それも知っている。

 悔しい思いをしている彼女達を、何度見てきた事だろう。

 その度に、出ていって慰めたくなったものだ。歳を取ると、涙腺が緩んでいけない。

 

「これは、これからの私達の決意表明です! 聞いて下さい!!」

 

「――――――――!」

 

 その直後に聞いた曲名に、光生ははっとなった。

 いま、虹夏はなんと言った? 聞き間違いでないのなら、私がよく知っている曲名だ!

 そして……光生の耳が聞き間違いじゃなかったことを保証するかのように、ドラムがリズムを刻み始めた。

 

 ―――Tighten Up(タ・ト・バ!) Tighten Up(タトバ!)

 

 それは、かつての世界で何度も聞いたものだった。

 その音楽は、かつて何度もこの世界で口ずさんだものだった。

 それは、この世界で再現できないのではと、半ば諦めかけた曲だった。

 ギターとベースとドラムが、覚えのありすぎるメロディーを奏でていく。

 

 ―――あの時ああしてなければ?

 ―――アレをやれてたら?

 ―――「もしも」は仮定の話 現実は何も変わらない

 

 ……Regret nothing~Tighten up(タトバ)~。

 『仮面ライダーオーズ』の楽曲にして、主人公・火野映司の心境を歌った名曲。

 なぜそんなものが、という戸惑いと、とうとう生で聞けた、という嬉しさがせめぎ合う。

 結束バンド内でアレンジでもしたのだろうか、メロディー、歌詞ともに記憶と違う部分はある。

 だがそれでも、その違和感さえ、今は嬉しかった。

 

 偉い人も強い人も大人になっても、絶対に過去の後悔に勝てないことも。

 心の傷跡・時間は、もう戻せないという残酷な真実も。

 その記憶がどの人のせいにも出来ないことも。

 たとえ怖くても、へらへら笑うな、という自身に向けた叱責も。

 努力した印を残すしかないと信じる決意さえも。

 

 鴻上光生―――否、鴻上光生として生まれた男にとっては懐かしく、愛おしいものに見えてきた。

 

 ―――I can go nowhere 逃げ出せる場所はないんだ

 ―――向き合って戦うべきRegret nothing!

 

 ……気が付けば、あっという間にラストのサビが終わっていた。

 最後の伴奏だけ残った曲も、必死で弾ききると言わんばかりに一心不乱に各々の楽器を奏でた彼女らに。

 

「―――素晴らしいッッッ!!!!」

 

 光生はただ一人、大声で褒めたたえた。

 席を立ちあがり、一人の拍手なのに何人分かのように、手が破裂しそうな程の音を立てて手を叩き。

 強面の眼からは小川のような涙を流して。

 

 ―――この世界に生まれて良かった。

 

 そう思いながら、拍手を続けて大絶賛をしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 たったひとりの観客に向けたライブが終わりを告げた後。

 そんなやりとりをした後、生まれた曲の行方についての話し合いが行われた。

 まず、曲自体の評価だが、星歌からは散々な批評(もの)をいただいた。

 

「…お前達らしさが薄れてる。このままじゃ価値ねーよ。

 昔のダメダメだったお前ら以下だな」

 

 相変わらずの口下手で言葉足らずで辛口な評価だ。

 だが光生がそれを即座に見抜いて、フォローに入った。

 

「私は、このままの方が良いとは思うが……

 星歌は『もう少しでも君達らしい歌詞に書き直して欲しい』と言っている。

 そうすれば、もっと良くなるはずだ、とね」

 

「言ってないよね!!?」

 

「言ってねぇよ!? 何デタラメ言ってんだ!」

 

「いや、言っていた。

 星歌…お前は相変わらず口下手が過ぎる!

 もっと言葉に貪欲になりたまえッ!」

 

「言葉に貪欲って何だ!!?」

 

「そんなことよりも、だ。

 星歌の懸念は仕方ないことなのだ。

 なにせこの歌、元を正せば作詞したのは私なのだからな」

 

 鴻上の手腕でお通夜状態を回避しつつも、星歌の酷評の原因は自分にあると断言してのけた。

 結束バンドらしさ、という点で課題が見られたのは、自分の歌詞だとする光生に対して、虹夏は反論した。

 

「そうじゃないよ、おじいちゃん!

 もっと私達が頑張っていれば……!」

 

「その向上心もまた欲望ッ! 素晴らしい!!!

 ……だから君達には、これからも頑張って欲しいのだ。

 安心したまえ、今君たちが歌い上げた曲は、決して無駄にはしない」

 

 相も変わらず欲望を全肯定する光生。

 だがその台詞の後半の、意味深な言葉に、リョウは尋ねた。

 

「どういう事ですか?」

 

「君達のお陰で、ホットな頃の自分を思い出せたのでね。かつてのプロジェクトを今風にリビルドして、ホビー・テレビ会社に掛け合ってみようと思うんだ」

 

「それって、伊地知先輩が言っていた…!」

 

「あぁ。『仮面ライダーオーズ』の復活だ…!」

 

 そう。

 鴻上光生は、結束バンドの先程のライブを聞いて、新たな欲望が生まれたのだ。

 即ち―――「仮面ライダーオーズをこの世界に生み出したい」というものだ。

 そして、それを可能としているコネやら何やらを、この男はもう既に持っている。

 

「さしあたっては、OP(オープニング)テーマと挿入歌が欲しい。手当たり次第にバンドやら作曲家やらに当たってみようと思う。

 話が来た際には、オーディションを受けてくれると助かる。()()()()()()()()()()()()()…!

 それまでに、曲を完成させておくことを、強く勧める!!!」

 

 仮面ライダーオーズの復活。

 それに差し当たって、それに関わる音楽の作成依頼。

 それが、結束バンドに向けられたのだ。

 伊地知虹夏の祖父としてではなく、鴻上ファウンデーションの名誉会長・鴻上光生として。

 

 結束バンドの面々は、嬉しさと共に、身が引き締まるような感覚に襲われた。

 自分達のよく知る老人の、知らぬ一面。たった一世代でファウンデーションを作り上げてみせた男からの挑戦状。

 虹夏は、代表であるかのように――実際にリーダー的存在なのだが――光生に一歩近づいて、言った。

 

「おじいちゃん……いや、()()()()!」

 

「…なにかね、()()()()

 

「贔屓なんてしたら、許さないよ?」

 

「素晴らしいッッッ!!! 目標の為に、私の手さえも借りぬ真摯さ!

 欲望に忠実だよ!! 流石は私の孫だ! 実に素晴らしいッッッ!!!」

 

「おーい、早速私情が漏れてるよー」

 

「おっと!」

 

 孫と祖父。だが後に、仕事の依頼主と依頼されるであろうミュージシャンの一人として、仕事の会話を交わしはしたものの。

 今はどう見ても孫と祖父にしか見えないやり取りに、STARRYは笑い声に包まれた。

 

 

 

♬ ♪ ♬

 

 

 

 ―――2年後。

 ある日のSTARRYでは。

 

「ねぇリョウ、見た? 昨日の『()()()』」

 

「うん、見た。最高だった」

 

「難民になっちゃったよね〜」

 

 嬉しそうに会話を交わす伊地知虹夏と山田リョウの姿があった。店奥では、虹夏の姉の星歌と祖父の鴻上光生がその様子を見守っていた。

 虹夏とリョウの話題……それは、先日最終回が放送された特撮・仮面ライダーオーズについてだった。

 

 そう。あの日以降の鴻上光生の活躍により、『仮面ライダーオーズ』のプロジェクトは成功し、放送するまでに至る事が出来た。

 セイバーの次、という、本来の流れを知る者からすればあり得ないレベルの遅刻になってしまい、その影響でテクノロジー方面で色々変化こそあったものの、それでも最終回まで漕ぎつけられたのは、光生にとっては幸運であった。

 

 結束バンドの面々も、『仮面ライダーオーズ』を見るようになった。

 というのも、彼女達はプロジェクト始動時に行われた楽曲のオーディション……それにて、『Regret nothing~Tighten up(タトバ)~』及び『Time judge it all(タジャドル)』の作曲で採用される、という快挙を成し遂げたからだ。

 流石に他の曲のオーディションには落ちてしまったが、8曲中2曲が選ばれるというのは、光生だけでなく、他の製作陣からも結束バンドの実力が認められた事を意味していた。

 歌手こそ違えど、特撮で自分等が作った曲が流れるとあっては、見ない訳がなかった。

 その結果、見事に沼にハマったのである。

 

「正直、舐めてたよね。『仮面ライダー』って、子供が見るものだとばっかし思ってたから。まさか、大人が見ても考えさせられる事があるなんて」

 

「そう……映司もただのお人好しかと思ったら、結構闇が深くて、ぼっちもダメージ受けずに見れたって言ってた」

 

「そうそう!真木博士も面白おじさんじゃなかったもんね!」

 

「しかし、仮面ライダーのフォームが、あそこまで多いとは……私のイメージだともっと少なかった気がする」

 

 うんうん唸るリョウに対して、虹夏は喜々として同意を求めた。

 

「兎に角、数あるコンボの中でも一番カッコ良かったのはあのコンボだよね!」

「うん―――」

 

「『タジャドルコンボ』!」

「『プトティラコンボ』!」

 

「「…え?」」

 

 瞬間、一迅の風が吹く。

 ロックを嗜むミュージシャンと一般人の間には、埋めがたい差がある。

 段位が少し違えば、生物種としてももはや違う存在なのだ。

 それは趣味にも当てはまった。同志だと思っていた幼馴染が、その瞬間言葉の通じぬ異星人に見えてくる。

 虹夏とリョウの間の空気が、信じられないことに数度下がったような雰囲気に陥った。

 

「…リョウ、今日のお昼は奢ってあげるよ。きっと、頭に栄養が届いてない。あの最終回を見たら『タジャドルコンボ』が最強なのは普通に分かると思うんだ。一年間通して培った『アンク』との友情のコンボじゃない!なんで分かんないの!」

 

「栄養なら大丈夫。今朝は鴻上さんのケーキ食べてきたから。むしろ、普段食べてる虹夏が栄養足りてない事を言うのは違うでしょ。『仮面ライダー』ってのは、敵組織の力を用いて戦う戦士のことでしょ? だったらグリード化する『プトティラ』が一番()()()じゃん。設定上のスペックからも明らかだし、演出的にも重要だし、暴走の危険性を抱えて戦うのがカッコいいんじゃない。どうしてそれがわからない!」

 

 わーわー、ぎゃーぎゃー。

 くだらない事で口喧嘩が始まり、取っ組み合いになる。

 

「お…おいおいじーちゃん、止めに行くぞ!

 何だか知らないけど、喧嘩始めちゃった…!」

 

「良い。『仮面ライダーオーズ』を知ったなら、誰もが通る道だ」

 

「何ワケの分かんない事言ってんの! いいから止めるよ!」

 

「な、ちょ、引っ張らないでくれたまえ!?」

 

 光生としては、「復活のコアメダル」上映前までずっと繰り広げられていた「オーズ最強形態論争」が懐かしく、もう少し見ていたかった気分だが、星歌に手を引っ張られ、半ば強制的に仲裁に参加することになる。

 

 孫娘にかつての歌詞を見せた事で欲望が生まれ、そしてそれがきっかけで長い間待たせた「仮面ライダーオーズ」を蘇らせた。

 それを行った張本人である鴻上光生だったが、いまリョウと虹夏相手に「ガタキリバコンボになって分身してから、全コンボ同時変身が一番ではないか」と説得するその姿は。

 世界一のファウンデーションの名誉会長などではなく。

 ただの、伊地知さんちのおじいちゃんなのであった。

 




鴻上光生…『仮面ライダーオーズ』の劇中歌&OPの歌詞を虹夏に見られたことで、復活した劇中歌を超・久しぶりに聞き、『オーズ』の復活を決意した欲望全肯定おじいちゃん。今回は鴻上光生そのもの、というよりも前世の一般人でしかなかった男の面をやや色濃く出した。『オーズ』復活の裏には、様々な苦労があったが、ここでは割愛する。

伊地知虹夏…祖父から「生まれることが出来なかった歌詞」を貰いながらも、バンドのために葛藤していた孫娘。本心を語ったその後で、「手を伸ばせるのに伸ばさなかったら後悔する」と思う程自分が欲張りだった事を自覚する。だからと言って、欲望の器にされたり、世界中を巡って寄付やボランティアしたり、10周年の映画で災難に遭うことは決してない。

後藤ひとり…虹夏の本心を聞いていくにつれ、「手を伸ばさなかったら後悔する」というワードで何気なく過去を思い出したぼっち。彼女のひと押しで、結束バンドは作曲を決意する。ちなみに1曲目に「Regret nothing~Tighten up~」を選んだのは、彼女が比較的陽属性アレルギー反応が出なかったから。

山田リョウ…虹夏にしては珍しく、結束バンドらしからぬ歌詞を持ってきた意図を尋ねたベーシスト。祖父の曲だからとはいえ、生まれることの出来なかった曲に対して手を伸ばした虹夏が、実は強欲だったんだと気づく。彼女が売れ線を意識しだしたのではと危惧していたが、そうではなかったことに安心している。

喜多郁代…ニチアサに出てきそうな歌詞が大好きな陽キャ(?)。実は割と乗り気ではあったが、リョウやひとりが嫌がったら止めるつもりだった。ひとりのひと押しで、便乗するように作曲の手伝いを申し出る。



仮面ライダーオーズの楽曲…本来の世界と比べて、作詞・作曲者がぜんぜん違う。歌手は小黒摩貴及び火野映司役&アンク役の俳優、そして串日アキラ。



まんぞく
かんけつ

ぼっち・ざ・ろっくで好きなキャラは?

  • 後藤ひとり
  • 伊地知虹夏
  • 山田リョウ
  • 喜多郁代
  • 伊地知星歌
  • 廣井きくり
  • 清水イライザ
  • 岩下志麻
  • 後藤ふたり
  • 大槻ヨヨコ
  • ジミヘン
  • 鴻上光生
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