「そりゃ親としては心配するだろう!!」


酔っ払いジンバに絡まれるゲドの話。

2003.7.13初出(個人サイト)

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親心

 久しぶりに見た娘は。

 ひどく、美しくなっていた。

 ……ので。

「そりゃ親としては心配するだろう!!」

「……そうか」

 やけに力強く断言したジンバに、ゲドは逆らうでもなくぽつりと呟いた。反対意見を出すだけ無駄なのだと、つくづく思い知らされている。

 結局は、いいように解釈して自分の意見をずるずると言う奴なのだ。

 ……いや。『意見』であれば、まだマシなほうだ。大概は愚痴とも嘆きともつかない、記憶にとどめるだけ無駄な話なのだから。

 ゼクセンの女性に惚れ込んでいたころは、それに惚気も加えられていたが。

 どうも、今夜もそんな雲行きだった。人はそれを『親バカ』という。

 ビュッデヒュッケ城の酒場は、普段ならさまざまな人が溢れ返っているのだが、深夜ともなればほとんど姿は消える。夜明け前ともなれば、ゼロに近い。

 酒場の女主人アンヌも、ゲドとジンバの前に酒の瓶を幾つか置いて、さっさと寝に行った。ある意味賢明な判断だ。

「娘は父親に似た相手を選ぶというじゃないか!」

「……そうだな」

「けど、俺みたいに顔良し性格良しな男は、そうは居ないだろう!?」

「……そうだな」

 自分で『性格が良い』などと言っている時点で、何か違うような気もするが、深く考えてはいけないだろう。

 何本もの酒を空けたせいだろう、浅黒いため分かりにくいが、よく見ればジンバの顔もだいぶ赤くなっているようだった。ちなみに瞳のほうは良く見なくても、酒精でかなり淀んでいる。

 転がっている酒瓶の数は、結構なものがある。会計係のエースが見れば悲鳴を上げそうだが、これの支払いはジンバがすると決まってあるので問題はない。

 エースにはいつも迷惑をかけてばかりだな、とふと思う。今頃はゆっくりと夢の中を揺蕩っているころだろうか。自分もそろそろ眠りにつきたいのだが。

 だがしかし。

「ヘンな虫がついたらどうしてくれよう……」

「……そうだな」

「そうだ、今からくっつく男どもを抹殺して回るというのはどうだ!?」

「……そうだな」

「クリスはああ見えても、優しくて繊細な子だからなぁ。悪賢い男にころりと騙されてしまいそうだ。やっぱ俺が護るしかないよな!?」

「……そうだな」

 いつもいつも飄々と生きてきた男だから。

 ハルモニアの刺客も、原因の一つかもしれない。けれど、きっと、本当は重く思ったのだろう。自分以外の人間の人生を、背負うということに。

 大事に想っていたはずの妻も、かわいがっていた娘も、地位も、名誉も、全てを投げ出して流されるままに自由に生きてきて。

 一度、手放したからこそ。

 ……そして、二度と元には戻らないからこそ。

 切なく、愛しく、狂おしく、想うのだろう。

「やっぱアレだろう。俺以上の男が現れるまで、クリスは俺が護らなきゃな!」

「……そうだな」

「あの黒髪流れた騎士も、ダメだ。あいつは腹黒そうだしな」

「……そうだな」

「金髪の騎士は……まぁ、一生手を出せなさそうだから大目に見てやるとしても。畑の奴も、ダメだな、せめて俺よりも強くないと」

「……そうだな」

「うちの若長も、イイ線行ってるんだが、まだまだだな」

「……そうだな」

「あのハルモニアの諜報員なんて問題外だぞ!!」

「……そうだな」

「もちろん、お前にもやらんからな!!」

「……解っている」

 ふと、思う。案外、離れていて良かったかもしれない。

 クリスはあの通り、堅苦しく生真面目な性格だ。記憶に残っていない父の姿に自責の念を抱いているようだが、真実の姿は知らないほうが幸せなように思える。

 ジンバ……ワイアットがライトフェロー家にもし留まっていたら。

 真面目な彼女とは早晩衝突していただろうし、反抗期に入りでもすれば、ジンバは周囲の迷惑顧みず泣きついてきていただろう。

 そうはならなかった過去に、安堵のためいきをひとつ。

 そして。

「……うぅ~、クリスぅ~~……好きな奴が出来ればちゃんとパパに言うんだぞ、半殺しにしてやるからな~……」

 まだ終わりそうに無いジンバの話に、溜息をもうひとつ。

 

 

 親というやつは、なかなかに複雑らしい。


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