クソ傭兵が戦場で目玉焼きを作るっぽい話──うすしお味 作:ヘンなの好き
そんなこんなで初投稿です。
前回の前書きで次は原作入りって宣言した手前アレだけど、普通に無理じゃん! 半年後が精々じゃん!?
──客が来ている。
最初、出社して受付のエサソンがそう告げてきた時から、もう既に嫌な予感がしたんだ、俺は。
セキュリティはどうした、だとか。来客の予定なんてないぞ、だとか。そんな些細な事でピリつくような安っぽい人生はもちろん送っちゃいないが。
二月
まあ、わかるだろ。今までの行動に思い当たる節がないなんて宣うほどバカでもないなら。
ともかくそんな日に予定外の来客なんてあってみろ。
誰だって虫の知らせビンビンでゲンナリするし、思わずゲェ…とも言いたくなる。
ウワーオキャクサンカー、イッタイダレナンダロナー。モテナサナキャー。
ちなみに今朝は一夏を駅前まで送り届けてからいつもの店に向かい、お気に入りのモーニングセットを頼んでそこから仕事もしつつ五時間。たっぷりオヤジのウザ絡みとサイフォン珈琲、厚切りトースト+αを(昼飯にスペシャルも)楽しんでからの出社となっている。
で、冒頭の報告、露骨に嫌そうな顔を得意の商談用フェイスで隠し、今回の訪問者……つまり社長室をやたら満喫してる美女、篠ノ之束博士と対面することになった訳だ。
気になる当人の反応は──
「やあやあ、お邪魔してるよ」
ラジコンみにせらふくんを我が物顔でカチャカチャ飛ばしながら、こだわりにこだわって購入した社長椅子に座ってクルクル、クルクル……。
俺が来るまでに相当遊び散らかしたらしく、彼女の足元にはぷちあみだ*1・昇天エクシア*2・天に咲くフレンチクルーラー*3・浮く!光る!あんなモノ!*4・俺専用ファンタズマ*5・火星人御用達ポッド*6、などが転がり落ちている。
……まあ、このくらいで取り乱してたら商売なんざやってられんが……寛ぎすぎだろこの人。自分ん家じゃないんだからな。
「いらっしゃい。ココアでもご馳走しようか」
と、一旦部屋の惨状はスルーして対応を続ける。
言っても無駄だろうってのもあるが、散らかされてギャーギャー言うほど俺の器量も小さくない。
ならスルー安定で、用件をさくっと聞き出せる状況作りに徹した方がいい。これは商売に限らず、全てに言える処世術ってやつだ。
「そこは珈琲じゃないのかな、社長サン?」
どこで知ったのだか、いつも飲んでるでしょ、と彼女は事もなげに言う。
「ああ、実は苦手なんだ」
特に隠し立てしてる話でもないので、ここはさらっと流す。
もちろん昔は好んで飲むほどだった。が、今は苦い思い出もあって一人で飲めなくなってしまった。苦いのは珈琲だけにってね。
そう考えてみると、自分で珈琲を淹れる事もなくなって久しい。あの頃はバカみたいな金を出してでも豆を取り寄せたりしたっけ。
ただ件の出来事を経てからは、そういうのもさっぱりだ。強制やり直しに入ってからもそれは変わらず、当然、会社に豆はもちろん抽出器具だって置いてない。
来客も滅多にないんで、いま出せるのは本当にココアくらいしかないのよな。いやホント、マジで。
「そんな訳で、生憎ここには豆がない」
「ふーん……。ま、いいや、それなら飲んであげてもいいよ」
「悪いね。エサソン、ココアを俺とこちらの方に、頼むよ」
するとどこからともなく、
『かしこまりました、マイボス。二分後にお持ちします。』
……と。
とても柔らかい女性の声が、部屋のスピーカー越しに響いた。
「今の秘書さん? それともメイドさん?」
「エサソンの事か? 彼女──いや、彼女たちは人工知能だ、AIだよ」
「彼女たち?」
「まあ、うちの社員なんでね」
昇天エクシアとコントローラーを拾い上げ、博士のせらふくんを追従するように飛ばす。
俺が傭兵してた頃の相棒をこの世界で再現・作り直した大元となるAIから、細かく派生・枝分かれして増殖していった結果がエサソン、我が宇品重工を支える社員たちだ。
本社は五階建て(地下を除く)ビルで、最上階の社長室を除くほぼ全ての部屋が大型コンピューターが衝立のようにずらり並ぶ、お手製スパコン部屋になっている。
つまるところ、全て彼女たちの社宅だな。そしてオフィスでもあると。
福利厚生は充実させてるつもりだ。うん。クソ社長でもいいが、ブラック社長呼びだけはやめてくれ。
で、そんな電力何処から賄ってるのかって? ──まあそれは別にどこからだっていいだろう、今は。
『お待たせ致しました、マイボス。ココアです。お客様も、どうぞ。』
「ありがとー、あちち……」
人の形を模した全高約二メートルのロボットがお盆を手に入室、スタスタと歩いて中身入りのマグカップを博士に、そして俺に手渡す。
「ん、ありがとう。通常の業務に戻ってくれ」
『はい、失礼致します。』
ロボットはぺこり、と器用にお辞儀をして退室した。
ちなみに今のはエサソンの作業用ユニットだ。本社に数十機、世界中にレンタルしている『ぷちこあ』や『MT』の整備用に数百機、帯同させている。
「今のは売りに出さないの?」
「あいつはAIがなきゃ意味がないんだ。うちの大切なエサソンを切り売りする予定もないし、ぷちこあ同様に販売はしない」
「ふーん……
ちらり。
マグカップを傾けながら、博士がこちらを見る。
なんだなんだ。
こっちの驚く顔を期待したんなら、悪いがその視線には応えられんぞ。
「つまんないの。機密だぞーガオー! くらい言ったらどうなのさー?」
ぶーぶーと不満そうな博士だが、俺は肩を竦めるしかない。
この程度の腹芸ならごまんと、もっとイカれたヤツ相手にしてきてるんだ。
「もー、つまんないったらつまんないっ!」
あっ。こいつ……。
自分のせらふくんをわざと昇天エクシアにぶつけてきやがった!
「……っとと、そこは我社の方針なんでね。見たいやつには見せてやれ、セキュリティのエサソンにはそう伝えてある──っ」
「へえ……っ、道理で。すんなり通してくれたし、どこを覗き見しても様子見するだけで、全く止めようとしなかったんだっ?」
「っ……見るだけなら、な。バカな真似をするようなら叩き出すし、悪質なら縛り上げて警察に突き出す。もちろん、監視カメラの映像付きで──なっ?」
妙にクオリティの高い空中戦を繰り広げるラジコン両機だが、最後は揉みくちゃになって壁に激突、そのまま床に落ちた。
俺たちは互いに顔を見合せ、コントローラーを置いてマグカップの中身に集中する。
「…………」
「…………」
あー……。
なんだろうな、この空気。
「ちーちゃんが話してた君の事、なんとなくわかった気がするよ」
ぼそり、と博士が聞き捨てならない事を呟く。
「千冬さんが? ははあそれはまた、うちの弟が良くない輩とつるんでる、シメなければ……なんて話じゃない事を願うばかりだな」
実際、たまに会う度にエグいくらいガン飛ばされてる気がするんだわ。
うちの可愛い弟に良くない影響を与えてみろ、二度と笑えないようにしてやるぞ……みたいな。
まあ事実あいつ可愛いけどさ。一夏自身は人から可愛いって言われるのぶっちゃけ嫌がってるし、あんまり過保護にするのも悪影響ってもんだぜ。
この間もお前うちの一夏に勉強教えるとか言って変な事してねぇだろうな、なんて──
「私に似てる、だってさ」
は?
今なんつった、このコスプレうさぎ。
「貴女に? はは、これまた冗談を。……いや、マジで笑えねぇ冗談だなおい」
「それどういう意味?」
「え、逆にわからないとでも?」
睨んできたので素面で返すと、博士はソファーに寝そべって、ふん、と鼻を小さく鳴らした。
「まあいいや。ちーちゃんは似てないとも言ってたよ」
「なんだ、それ。あの人らしくもないな」
似てる、けど、似てない?
俺としては似てないで結構なんですがね。
「あのさ、どうしてキミは地下のアレもそうだけど……ぷちこあ、だっけ、もっと売り出そうとか考えなかったの?」
博士が、ごろごろ、とソファーの上を転がる。
どうやらフカフカ具合が気に入ったらしい。
「私の時はあんなのだったけど……。今はどいつもこいつも、それこそどんな技術でも必死な顔で、みっともなくヨダレを垂らしてまで飛びついてきたでしょ?」
そこまで聞いて、ようやく話の意図が掴めた、ような気がする。
これで外れてたら赤面ものだな。とりあえず話してみるか。
「ははあ……。つまり、どうして連中にもっと施してやろう、与えてやろうって考えなかったのか、ですか?」
「うん、まあ、そんなとこかな」
お、合ってた。
ほっと安心する俺をよそに、博士が次に掴んだのは床に打ち捨てられている『ぷちあみだ』だった。
「キミってさ、今の退屈な世界を変えよう、とか思わなかったの? キミならもっと大きくてもっと高性能なぷちこあ、作れるんでしょう? だって、地下の黒いアレを作れるくらいなんだからさ?」
ここの電力もそれで賄ってる、と博士。
うげぇ、そこもバレるのか……。これだからホンモノの天才ってやつは嫌ンなるわ。
これで情報が流出してみろ、訴えてやる。
……どこに?
「そりゃあ博士、あの程度で世界が変わるだなんて思うのは、些か人類への期待が過ぎるってもんだ」
「……あの程度ってのも棘があって気になるけど、私が、人に期待してるって?」
博士の両目が、こちらを向く。
おおなんて圧だ、視線だけで俺の顔に穴があいてしまいそうだ。
「ああ誤解なきよう。“過ぎたるは、猶、及ばざるが如し”、ですぜ?」
首を傾ける博士を眺め、俺は言葉を続ける。
「どれだけ大きな知恵を与えようとも、人の頭では受け止めきれずに麻痺してしまう。麻痺した人の前では賢者の書もただの鈍器だ。人々は賢者の書という名の鈍器を使い、殺し、殺され、それが続くだけ。どこまで行っても平行線だ」
一呼吸置く。
ひとつ、ふたつ、博士の瞬きする音が聞こえてきそうなほどの静寂が、ここにはあった。
「ISという名の祝福を与えられたかつての人類は、どうなった。ACという名の祝福を与えられた時、人類はどうなる?」
「……AC?」
「
「…………」
博士は答えない。それもそうだ、彼女は身をもってその答えを知っているのだから。
「まあ、そうなっても別に俺は構いやしないんだがね」
「え、そう、なの?」
……いかん。
博士のキョトン顔が面白くて、つい商談用フェイスを崩してしまった。
「人は、人によって滅びる。……知人の言葉を借りたもんだが、ぶっちゃけまあその通りだろうな。実に的を射ている。どうなろうが結局は人類の自己責任って話だ」
あいつの考え自体はなにも間違っちゃいなかった、そこは今でも変わらない。
「好きなように生きて、好きなように死ぬ。誰の為でもなく」
「好きなように……」
あいつはあいつなりに好きなようにやって好きなように消えていったクソ野郎ってだけ。
その好き放題の内容が悪質で俺の比にならないレベルのクソっぷりで、生涯忘れない恨みがあるってだけで、主張そのものは賛同できなくもない内容だった。
「博士、あんたも好きにすればいいさ。なあ。これまで通りに、ね」
とりあえず俺は、もうしばらくこの世界の比較的平和な時間を楽しんでいこう。
滅びるなら勝手に滅んでってくれ。俺が生きてる間は困るがその後の事は知らん。
技術が欲しけりゃ俺が死んでからどうぞってな具合だな。
事実、管理部のエサソンのひとりには俺が死んだら世界に情報開示してやってもいいと残してある。
そしたら、どうだ。あの世界と同じになるだけだ。
俺が残したもので誰かが勝って、誰かが負ける、そんなあの頃に。
「……そろそろか。失礼、テレビつけても?」
「あ、うん。勝手にどうぞ」
「では遠慮なく」
いきなり天井からモニターが降りてきても、誰も驚かない。驚くような人間はここにはいない。
正直このモニターは失敗だった。あの時の俺はなんでこんなものを設置したんだか、といまはそう思う。
次にテレビを用意する時はテーブルに置けるポータブルタイプのやつにしよう、そうしよう。
とりあえずリモコンでモニターの電源を入れる。別にエサソンにつけさせてもよかったが、これくらいは自分でしたらいいだろう。
チャンネルは……まあどうせアレがああなるならどの局でも同じか。
なんて、俺の思惑も知った事かとテレビでは取るに足らないコマーシャルが流れ続け、
《番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします。速報です。本日未明──》
臨時の報道番組が、ちょっぴり興奮気味なキャスターの顔と共に始まる。
一夏がIS を動かし、その事実が一部関係者からの発表で明らかになったと。
あーあ。やっちまったな、一夏。まあ仕方ないか。
俺もなんとなく、こうなるだろうとは思っていた。
「……うーん。やっぱこうなったかぁ」
「あちゃー……、いっくん大変なんだ」
「よく言うぜ。職員にイタ電なんかして、わざわざ現場が無人になるタイミングなんて作ったりしといてよ」
「あれ、知ってたんだ?」
「先輩ナメんなよ」
「キミ年下じゃん」
まあそれもそうだ。
テレビの電源を切り、モニターを天井に戻す。
……さて。
行くか、現場?
一夏がああなっちまったからには、ちょっくら迎えに行ってやるしかないだろう。
知らない大人に囲まれて、心細い思いをしてる後輩を捨て置くほど、俺は薄情な先輩じゃないぜ。
「じゃ、俺はこれからちょっと出かけるんで」
「あ、行くんだ。ならいっくんによろしくねー」
どの口が言ってるんだか。
後ろ手に軽く手を振り、俺は部屋の出入口に向かう。
しかし篠ノ之束が来るとはなぁ……。片付けてから帰ってくれるかな、あの人。
うん、無理だな。明日出社してから片付けよう。
なんにしても、帰りに一夏と話すいい土産ができたと思えば、まあいいか。
やはりこれからもどうぞよろしくお願いしたい
そしてモチベーション維持にお気に入り、評価、感想もお願いしたい
カモンッ交流ッ
感想はゆっくり読みながら返信していくんで、ちょっと遅れても待っててちょうだい
感想返しのモチベpたけーぞ
主人公のヒミツ:イチ
実はそこまで人に期待してない