手の中のちいさな命をしっかりと抱きしめたまま、雨に打たれる廃墟の街を駆け抜ける。
路地を通り抜け、時には侵入できる廃墟を通って後続を攪乱しながら走り続ける。
肺が痛い、それでも手放すという選択肢だけはない。
『私は『正しい』と思えることをやっている。
大勢から糾弾されるかもしれない道をたどってきたが、
それでも、今やっていることは正しいはずだ』
たったそれだけの小さな誇りが、今の自分を支えている。
服の裾が地面に擦れる、それでも脚は止めない、止められない。
歩きなれていない場所のせいで、適切な逃げ道もわからないが、それでも走る。
自分たちを救ってくれると思っていたモノが追ってくる。自分の命と、手の中の温もりを奪うために。
(……それでも、これは間違ったことじゃ、ないはずだ)
20XX年、某月某日、15:32。
アメリカ合衆国よりICBMが発射。ガイア連合は全力で対処に動き、最新鋭兵器及び高位神の分霊により迎撃に成功。
しかし地球そのもののGPが急上昇、国外は裏路地を歩くだけで悪魔に遭遇するような危険地帯と化した。
他にもアフリカと欧州は終末の四騎士が大暴れしてるわ、中東はトランペッターによりアバドンへ堕ちるわ。
アジアでは666の獣にまたがる大淫婦と神の戦車メルカバーによる現地人を巻き込んだ大決戦。
アメリカではクトゥルフ系邪神とプルートと名付けられた装置と謎の機械生命体によって大乱世。
それ以外は正体不明かつ強力な悪魔である【魔人】の発生により、完全に地上は悪魔の跋扈する地獄と化した。
とはいえ日本はICBMそのものは迎撃でき、仕込まれていた悪魔召喚プログラム系の機能による高位悪魔・天使の降臨も討伐に成功。
……が、世界規模の懸念事項であるGPの上昇はどうしようもなく、異界の発生率は全国的に上昇。
レベル1未満の悪魔なら異界以外でも発生するような状態になってしまった。
(※ただしMAG不足によって自然消滅することも多い)
とはいえ、GPの上昇は人間にもプラスの作用を及ぼす。
覚醒者の増加に加え、レベルアップ速度の上昇やレベルキャップの開放。
物理法則の緩和……まあ、これはプラスマイナス両方なのでここに含んでいいのか微妙だ。
勿論個人の才能や霊格によってこれらのプラス要素がどれだけ作用するかも変わるので、
才能がない人間視点だとLV5がLV10になったと思ったら悪魔の平均はLV10がLV20になってた、
って状態になるだけなのだが。
なんにせよ、GPの上昇によって日本でも覚醒者及び悪魔の被害者の数は上昇の一途を辿っている。
……故に、覚醒者が己の異能を用いて『よろしくない』形で我欲を満たすのもまた、必然であった。
ガイア連合結成当初、根願寺が把握しているだけでも20を超える霊能一族が断絶し、50を超える霊能力者が死亡した時。
当然だが日本各地の霊地や異界を含めて『完全に管理』するマンパワーはガイア連合には無く、
メシア穏健派も各地の霊能組織との相性は最悪未満にぶっちぎっているため把握もできず、
根願寺も帝都の結界維持が最優先、寧ろそれ以外にほとんど役に立つことは無く(キョウジさん除く)
結果的に『オカルト関係者の手が及ばない空白地帯』がいくつか発生した。
この周辺に著名な霊地が無いためそもそも悪魔関連の事件が起きず、同時に何らかの邪悪な儀式等を行うには不向きだった、という事もある。
しかし、そのせいで比較的近い場所の霊能組織はこの空白地帯への人材派遣や調査を後回しにし続けた。
ガイア連合も現在の日本の状態……『半終末』ともいうべき世界で秩序を保つためにフル活動中。
上記の『空白地帯』へ対応できる人材などいるはずもなく、
GPの上昇から繋がる一連の流れで発生した覚醒者や異能者、それもややdark-chaos寄りの人材が終結。
元々バブル期の無茶な拡張によってゴーストタウンじみた区画が発生していた衰退期の地方都市なのもあり、ヤッパやチャカの代わりに低位の異能を使うヤクザまで発生。
媚薬や麻薬の代わりに劣化版のハピルマやマリンカリンを使う合法・非合法の風俗嬢。
霊能組織によるダークサマナー狩りを運よく生き残ったダークサマナー。
現代日本だというのに、ジェネリックロアナプラじみた犯罪都市へと急速に発展しつつあった。
この状況に、通りすがりの這い寄る混沌は「うーん乱世乱世」というコメントを残している。
そんなジェネリックロアナプラ……もとい、地方都市『黒羽市』の一角。
ゴーストタウン区画に不法滞在する『少女』がいた。
金髪に染め上げた髪、年齢は中学生ぐらい。スレンダーな体だが顔は中堅アイドルぐらいには整っている。
だいぶ『スレた』雰囲気が漂っており、散らかった部屋の中でノートパソコンを開いていた。
「『予約』は表が2件、裏が1件、全部カモだねぇ」
名を『七海 梨花(ナナミ リカ)』。半終末に入ってから覚醒し、そのままダークサマナー側に染まった少女だ。
覚醒後は覚醒者だけがアクセスできるインターネット掲示板に入り浸って情報収集、非合法の児童売春に潜り込んで生計を立てている。
今流行り(流行っていないほうが健全だけど)のパパ活等が主な収入源の家出少女である。
……といっても、体を誰にでも許しているわけではない。素人相手なら食事やデートしながら『ハピルマ』をかけるだけで簡単に金を巻き上げられるのだ。
小柄な少女だろうと非覚醒者からすれば熊やイノシシレベルの身体能力があるのには変わりなく、
同じくゴーストタウン区画に住んでる一般人の不良から金を巻き上げたりもする。
といっても自分が所詮覚醒者一人という自覚もあるので、オカルト持ちのヤクザや本職のダークサマナーには目を付けられない程度に『小悪党』をやっていた。
新米覚醒者の中では頭一つ抜けた強さを持ち、最近この町にも増えてきた『悪魔召喚プログラム』や、それに類するアナライズ機能持ちのアイテムによる強さの基準『DLV』。
先日ついに『DLV10』を記録し、今もじわじわとDLVが伸びていることを考えると、彼女は『才能がある側』らしい。
結果としてこの町の『元素人』の中では頭一つ抜けた強さへとスタートダッシュでき、より上を目指せる有望株の霊能力者……。
「───── 相も変わらず、世の中クソだわ」
……それが幸せなはずもあるまい。
オカルトの力を得ようが下卑た視線を向けてくる男に媚びて金を絞り、グレた野郎共を脅して金を巻き上げ、
保護者も身元保証人もいないから家も借りられず、ネットカフェと廃墟の拠点を入れ替えながら寝泊まりして、
自分がこの力に目覚めた後は、通っていた中学校だって登校どころか近寄りもしていない。
そんな生活で鬱憤が溜まらないはずもない、はっきり言って不良からのカツアゲは半分ストレス発散だ。
万が一バックに組織がついてる不良に手を出したりしたら自分は終わる、それは理解できている。
が、肥溜めの中でじわじわと腐っていく自分からの現実逃避の結果が、非行未成年同士の『共食い』であった。
(表の予約は……ま、適当に相手してご飯食べて帰ればいっか。見た感じどっちも童貞臭いし。
裏の方は……掲示板で調べた感じDLV4か5って感じかな。念のため『スカウター』もっていこ。
天気予報だと……しばらくは曇り空が続く、降水確率は低め、か。デートコースはどうしよっかな)
『スカウター』……最初見た時は某少年漫画のパロディ・ジョークグッズかと思ったが、霊視してみればじんわりと霊力を纏っているのが見えたので購入した。
どこぞの組織が作り上げた『デモニカスタンダード』対応の測定器であり、目に装備してスイッチを押すと自他のDLVを測定することができる。
ある程度なら能力の詳細まで見ることができるため、彼女の『裏の予約』では重宝するアイテムであった。
※なお、出どころはガイア連合技術部が余った材料で作って外に売ったモノが流れ着いた模様。
こういったオカルトアイテムが、ジャンクショップやシルバーアクセの露店に並んでいるのが今の黒羽市である。
食事を『デート相手』に驕らせることで食費を浮かせ、2件のデートをサクサク片付け、弱く放ったハピルマでうまいこと言動を誘導し、デート代をもらってとっとと離脱。
あの幸福感は数時間ほど続くので、帰ってからSNSやマッチングサイト等で彼女の評判を書く時までは持続できる。そうなるように特訓を繰り返した。
スカウターで自分をアナライズする、HP/MP共に残量は問題なし。
裏の予約で指示された住所に到着、入居者のいなくなった雑居ビルの前に立ち、スカウターのエネミーサーチを起動しながら中に踏み込んだ。
「来い、『グリゴリ』」
彼女の背後から大柄なヒトガタが出現する。肥満体の人間が黒い全身甲冑を装備しているようにもみえるが、少なくとも出現方法からして人間ではあるまい。
一部の黒札が見たら「黒いマン・ロディ?」と言いそうだが、それは置いといて。
『ペルソナ』と呼ばれる異能の一種だ。己の別人格の具現化だの集合無意識がどうのだの、掲示板で調べたところ梨花には頭が痛くなるような単語の羅列だったので理解はあきらめた。
最終的に『ジョジョのスタンドみたいなモノ』と勝手に納得し、こうして便利に使い続けている。
……『堕天使 グリゴリ』。堕天使シェムハザと共に堕天した天使の一体、らしい。
本来はこの堕天した天使全部をひっくるめてグリゴリと呼ぶらしく、つまりこのペルソナはその中で『名前が後世に残らなかった堕天使がグリゴリという皮を借りて出てきている』のだ。
だいたい『天使 エンジェル』みたいなモンである。
ペルソナを出したまま雑居ビルをサーチ、反応は多くない。
霊視に引っかかるモノが出たら即座にアナライズしつつ、1体1体叩いていく。
(倒した悪霊のDLVは1、3、2、1……この分ならボスはDLV5ってトコロかな。うん)
悪霊系の悪魔がちらほら出る程度のビル、そこそこの霊能力者なら対処できるが、この街では少々どころじゃなくガラの悪いのばかり。
だからこそ彼女のような『アマチュアあがり』の霊能力者に仕事を斡旋するツテが出てくるのは当然だった。
ガイア連合も『支部』や『出張所』や『ガイア連合産アプリ』で似たようなことをやってはいるが、まだまだ広がり切っていないのが実情であった。
閑話休題、ボスであるDLV5の『モウリョウ』をグリゴリのアギで焼き払い、指示された場所に盛り塩をしてから依頼達成の連絡を入れる。
一時間もすれば待ち合わせ場所に斡旋先の人間が現れ、現金の入った封筒を手渡し依頼完了というわけだ。
口座振り込みを使わないのは『お互いに』身元を明かしたくない立場だからだろう。
封筒を受けとり、温かくなった懐に少しだけ上機嫌になりながら帰路に就く。
(どうしよっかなぁ、今日は奮発してビジネスホテルでも泊まっちゃおっか。うーん、でも久々にケーキバイキングにも行きたいし……)
ともあれ使い道は明日ゆっくり考えよう、と思考を切り替え、ゴーストタウン区画にある隠れ家へ向かう。
警察の見回りをうまくやり過ごし、水たまりを避けながら路地を進んでいく。
暗くなる前に戻らなきゃと思っていると……。
『おぎゃあ、おぎゃあ』と泣き声が聞こえてきた。
(……は、赤ん坊? いやいやいや、悪魔でしょ多分……アジトの近くか。
こっちは一仕事終えて疲れてるのに、イヤなタイミングで出るんじゃないわよ!)
安眠妨害になる前に討伐しようと、スカウターを取り出し、いつでもグリゴリを出せるようにしながら発生源へ向かう。
アジトに向かう途中の廃墟に入る、泣き声が反響する空間でエネミーサーチとアナライズを起動。
スマホのライトを頼りに、薄暗い中を進んでいった先で見たものは……。
「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ……!」
「……は、え?ちょ、ウソでしょ……!?」
『人間 アカンボウ LV0』
正真正銘、ただの人間の赤ん坊が、おくるみに包まれて放置されている光景であった……。
登場人物資料 『七海 梨花(ナナミ リカ)』
年齢 13(中学一年生)
LV 3
アギ
ハピルマ
セクシーダンス
子守歌
体当たり
※ペルソナ『堕天使 グリゴリ』のスキルも含む
黒羽市(くろは~)に住む中学生、中学校は登校放棄中。
外見はデレマスの『城ヶ崎莉嘉』。ただし表情や雰囲気はだいぶスレている。
両親が悪魔関連の事件に巻き込まれて死亡し、この街の親戚の家に引き取られるも親族との関係が悪化。
中学に上がってから更に素行が荒みはじめ、髪は染めるわ中学サボるわと盛大にグレる。
同時期に半終末に突入、偶然ごく低レベル(1未満)の悪魔に遭遇し、そこでペルソナに覚醒、撃退。
その後はずぶずぶとオカルト業界にのめりこみ、地理的な利点もあって順調にDLVを上げながら生活している。
霊能組織やメシア系のおさがり装備も一応購入しているが、その中で一番の大当たりが『スカウター』なので、特筆すべき武装はない。
性格は年相応以上にスレているリアリスト、現在も非行少女なのもあって異能を軽犯罪に使う事に躊躇いがない。
とはいえ面倒見そのものは良いようで、同じくゴーストタウン区画に勝手に住み着いている同年代の家出少女たちにとっては頼りになる同輩。
彼女たちがここでレイプ被害に合わないのは、梨花と同じ『覚醒者の非行少女』たちが多少の抑止力になっているのも大きい。
彼女たちの情報網はちょっと便利な噂収集機程度だが、ソレがあるとないとでは大違いなのがこの街である。
……根っこでは家族愛を求めており、なおかつ愛情がやや依存系。
自分の愛が重いことも承知しているので、非行少女たちを『時々手助けする』程度の関係にとどめているのはのめりこみすぎて共倒れしないためである。
ペルソナは『堕天使 グリゴリ』。
シェムハザを筆頭として堕天した200の『グリゴリの天使』の名もなき一体である。
外見は鉄血のオルフェンズの『マン・ロディ』。ただし黒と灰色メイン。