「はあっ、はあっ……!!」
赤ん坊を抱えた『シスター服の女』が、荒い息を吐きながらよろめく。
細かい負傷は足を止めさせるために放った『ザン』が掠めたことでついたモノだろう。
彼女はメシア教のシスターだった。覚醒者であり、悪魔の討伐にも参加してきたエリートの一人。
温厚柔和、悪に対しては正義をもって立ち向かい、罪なき者には愛をもって接する『善き人』。
……だからこそ、だろう。過激派の実験体とはいえ、赤子を殺す事に反発したのは。
それが、天使の命に背き『赤子を連れ出して逃げる』という行為を選ばせたとしても。
メシア教穏健派の追跡を振り切るのには、彼女では到底力不足だったとしても。
『間違い』ではないはず。それだけが彼女の支えだった。
黒羽市の外れ、山林地帯手前にあった廃屋の一角に彼女は追い詰められた。
周囲の廃れた畑といい、おそらくずいぶん前に廃村にでもなった村だろう。
泣いている赤子を抱えたまま、もはや一歩も走れないほどに消耗していた。
「……シスター・ヘレン。どうかその赤子を、渡していただけませんか」
アークエンジェルが『頼むからイエスといってくれ』という願いを込めながら話しかける。
横にいる二人のエンジェルは『こんな背教者は赤子ごと殺すべきだ』と言って憚らない。
これが最後のチャンスだと、この場にいる全員が把握していた。
2つ、アークエンジェルに想定外があったとすれば。
「……NO、です。 『トラポート』!!」
1つ目は彼女が『自分一人転移させるのが精いっぱいのトラポートで赤子を転移させた』事。
以前からトラポートが使えるのは把握していたが、他者を飛ばそうとすると燃費が大幅に悪化し使い物にならなかった。
しかし、赤子という軽く小さいモノならギリギリ飛ばせたらしい。
「貴様ッ!!」「この背教者め!!」
「ッな、待……!?」
人間軽視が露骨だった部下二人が、自分が制止するまえにシスター・ヘレンを串刺しにしたことだ。
一言『待て』と言えれば、上下関係が絶対である天使は不服だろうと止まっただろう。
しかしそれは間に合わず、残されたのは息絶えたシスターのみ。
トラポートの性質を考えれば彼女が立ち寄った場所にしか送れず、あの疲労困憊状態では遠くへは飛ばせない。
それゆえ彼女の逃亡ルートを逆順で巡り……たどり着いたのが、黒羽市ゴーストタウン地区であった。
(神よ、どうか教えてください……なぜ、このような試練を人の子に課すのですか……?)
そしてある雨の日、ついに廃墟に匿われている『赤子』を見つけたのである。
「走れ走れ走れ!とにかく他の隠れ家まで走るのよ!!」
「ひい、ひい……あ、アネゴ、死んじゃう!ウチ死んじゃう!」
「まだ生きてるから肺が苦しいのよ!!」
雨の中を時折振り返りながら走り続ける、土地勘がある二人だからこそなんとか天使たちから逃げ隠れできていた。
彼女たちが住んでいたのはビルの3階、窓から飛び込んできたことを考えれば飛行能力があるのは明白(そもそも翼生えてるし)。
なので上から見えづらい建物の中を経由し、なるべく屋根のある道を使い、別の廃墟の地下に作っておいた予備の隠れ家に向かっていた。
その先まで考える余裕はない、とにかくやり過ごしてから今後の事を考えるしかないのだ。
「! アネゴ、マキからメッセ!天使っぽいのが3手に分かれたって!」
「オッケー、それなら……」
こういうときでも、少女同士のネットワークは有効に作用していた。
半覚醒レベルでも悪魔は見える少女たちがいるので、彼女たちが窓からこっそり外をみて、天使を見かけたらメッセージアプリで連絡をくれる。
とはいえ相手は3手に分かれた、このままいけばいずれは見つかる。
隠れ家まで到着するには、どこかで『バクチ』を打つ必要があった。
「……アカネ、作戦通りにいくよ」
「ほ、本当に大丈夫ッスかね?」
「大丈夫じゃなかったら全員まとめて死ぬだけよ、エラソーな天使はともかく、他の2匹は人間ぶっ殺すのに躊躇なさそうだし」
ならば、この場においての『バクチ』とは何か。
(手下らしき天使を何とか排除!まだ話の通じそうな天使だけを残す!
頭数が減れば、迷路みたいなゴーストタウン地区はアタシたちのホーム!逃げ切れる!
ほんのちょっぴりでも警戒してくれれば向こうが一時撤退する可能性もある!)
楽観的&希望的観測なのは彼女自身も自覚している。
だが、力も手札も足りない人間にとって、土壇場で脳細胞が積み上げた一手はクモの糸に等しい。
その糸を辿って這いあがるのか、あるいは重さで切れて地獄に落ちるのかは、手繰り寄せて登ってみなければわからないのだ。
この相談から数分後、別れて索敵を行っていたエンジェルは眼下に対象を発見する。
(見つけた……!あのコートの女!)
内側に対悪魔用の装備を着込むために着ているゴツいフードつきコート、それを目にした瞬間、エンジェルは全速力で下降した。
メシア教のテンプルナイトや天使に配給されている剣を構え、一息にくし刺しにしようと迫る。
アークエンジェルから『赤子以外はなるべく殺すな』という命令を受けてはいるが、
『なるべく』という解釈がいくらでもできる命令なのがマズかった。
『任務達成のためならやむをえない』、そんな思考1つで抜けられる程度の拘束力になってしまったのである。
これが『赤子以外の命は奪うな』ならば、エンジェルはそれに従っただろう。メシア教において上下関係は絶対だ。
結果としてエンジェルは『油断』『慢心』から最短ルートで標的に迫り……。
(っしゃあ、釣れたァ!)
「(!? この女、赤子を連れていた人間ではない、もう一人の……) ぶギュッ!?」
……その油断と慢心を突かれ、五体を潰され地面のシミとなった。
二人が取った手はシンプル、しかし『バクチ』にふさわしい内容。
まず、アカネに自分のコートとチビスケを渡し、フードも使って体格を隠して自分のフリをしてもらう。
その状態で少女たちの連絡網で回ってきたエンジェルの位置を把握、囮になる。
エンジェルが梨花に化けたアカネにつられて突撃した瞬間、『周囲のビルの最上階』に待機していた梨花も行動開始。
グリゴリを出し、その背につかまって窓から飛び降り、全重量をかけたフライングボディプレスをエンジェルに叩き込んだのである。
各個撃破をするのなら可能な限り早く敵の頭数を減らすのが必須、しかし彼女らにエンジェルを一撃で仕留められる破壊力はない。
それを補うための大バクチ、わずかでもタイミングが狂えば自分が地面に叩きつけられる諸刃の剣。
だが、ギリギリのギリでクモの糸をつかみ取った。
「あっだあぁあぁ……!ぜ、全身ぎしぎし言ってる……!」
「あ、アネゴ、大丈夫ッスか?」
「チ、チンピラに750cc(ナナハン)ブチかまされた時と一緒よ、まだまだイケるわ」
「アネゴが柴千春みてーなこと言ってるッス……!」
MAGになって消滅していくエンジェルをちらりと見てから、悲鳴を上げる全身にムチうって立ち上がる。
ボディプレスで壊れないようアカネに渡していたポーチを受け取り、中のスカウターを取り出して付け直した。
「三手に分かれたっていうなら、こっちにはしばらく来ないハズ。今のうちに……!」
「……いいえ、ここまでですよ。 不心得者共」
は?と梨花の口から声が漏れた瞬間、彼女の体を『ザン』が打ち据える。
アカネの悲鳴じみた声が聞こえるが、脳震盪と眩暈で細かいことがわからない。
蓄積ダメージのせいかグリゴリも消えてしまったようで、残っているのは少女二人とチビスケだけだ。
格下とはいえ悪魔退治の仕事をハイペースでこなし、休みなく雨の中を走り回り、格上の天使を特攻じみた方法で倒す。
ペルソナ使いとはいえ肉体の限界を迎えるのは当然だろう。
「アークエンジェル様は本当に賢いお方……。
3手に分かれた上で、私とアークエンジェル様は『高度』を上げたのですよ。
下を見渡せるのと同時に、自分より下に陣取った者が見えるように」
3手に分かれたら分断・各個撃破される危険性も十分に理解し、その上で『誰かが分断されても他の天使がすぐ気づける陣形』を組んでいたのだ。
ボディプレスで撃破した天使が一番下、それより少し上にこのエンジェル、一番上にアークエンジェル。
数秒ほど遅れてアークエンジェルも到着する、今しがた駆け付けたエンジェルを追ってきたのだろう。
「殺しては、いないようだな」
「ええ。『なるべく殺すな』という命令でしたから……ですが、これから殺す事には変わりありませんよ?」
「……理由を述べよ、エンジェル」
「理由と言われましても、当然ではないですか!
『シェムハザの因子』を継いだ赤子を庇う、堕天使の力を使う女!
殺さない理由がどこにあります!どちらも二度目の『大洪水』を誘引しうる!!」
「……大、洪水……?」
「答える義理は「エンジェル……少し待て」! ……はっ!」
一歩後ろに下がったエンジェルと、弱弱しいながらもグリゴリを出して自分を支えさせた梨花。
チビスケが濡れないよう建物の影まで下がったアカネもいるが、
これ以上離れようとすればエンジェルは確実にザンを撃ってくるだろう。
『詰み』……それでも、少しでも息を整える時間を得るために、梨花は会話を続ける。
「……その赤子は、シェムハザという堕天使の力を宿した『母体』から生まれた赤子だ。
実験記録によると、この方法で生まれた赤子は『堕天使』と『ネフィリム』の因子を持つ」
「堕天使なんとなくは分かるけど、ネフィリム……?」
「人と天使、あるいは人と堕天使の間に生まれた巨人だ。
現代では天使と人間の混血は『エンジェルチルドレン』と呼ばれる事もあるが……。
……君のペルソナであるグリゴリの堕天使は、人を愛するために天使の座を捨て堕天した、
あるいは禁忌を犯し、人と愛し合ったことで堕天した天使の総称。
そのグリゴリのリーダーとされていたのが、堕天使シェムハザだ」
梨花の体を支えている巨体を指さしながら、アークエンジェルは本題である『チビスケを殺さなければいけない理由』を語り始める。
「ネフィリムは体も大きく、力も強く、かのバベルの塔を建築するのにも役立ったという。
しかしその体に見合った大食漢であり、ありとあらゆるものを食欲のままに平らげた。
動物も植物も……人間も……ついには同族で共食いを始めた」
「ンなっ……!?」
その因子を継いでいるチビスケが『成長したらどうなるのか』、確かに、危険生物の赤子に他ならない。
それでも梨花もアカネもチビスケを手放す気は揺らがない。どちらも見捨てられた側だからだ。
人食いのバケモノに育たないようなんとかしてやる!という気概すらあった、しかし。
「そして神は、増えすぎた上にありとあらゆるモノを食い尽くそうとするネフィリムを、地上を一掃するほどの大洪水で押し流したのだ」
「……ちょっとまって、まさかアンタたちの言う大洪水って!?」
「そうだ、過激派の計画はシンプル。その赤子が子を成し、増やし。
いずれ因子に覚醒した子孫たちがネフィリムと化し、地上に混沌をばらまけば!
『穢れた地上を神がかつてのように浄化してくれる』!」
メチャクチャ極まる、はっきり言ってこの場にいる全員(エンジェル除く)が方向性は違えど「頭おかしい」と思うような計画だ。
一番救われないのは過激派はこんなことやっておいて自分は穢れていないと思ってるので、かつての『箱舟』のように救われる気マンマンという事。
「……だが、はっきりいってネフィリムに目覚める可能性は相当低い。
堕天使の因子が一番強いはずのその赤子ですら、アナライズでも『人間』と出る。
しかし……子孫がごく低確率で『先祖返り』を起こす可能性も、0ではない」
「じゃあ、つまり、なに?アンタ50年後100年後にこの子の子孫がやらかす可能性を消すために、この子を殺そうっていうわけ?」
「……そうだ」
「ふ、ふざ、ふざけんじゃないわよ!この子なんにも悪くないじゃない!生まれただけじゃない!
アンタたちのお仲間のクソみたいな実験に巻き込まれて、生まれただけじゃないのよ!
それが『悪い事』って言うのか、アンタたちは!?」
返答に詰まり、歯噛みしながらうつむくしかできないアークエンジェル。
が、もう一体のエンジェルはそうではない。今の梨花の発言であっさりと沸点を振り切った。
「ふざけているのは貴様だ、背教者め!堕天使の力を使う淫売が何をぬかす!!
せいぜい明日明後日の事しか考えられない短慮な人間と我々は違うのだ!
貴様も、その赤子も罪ありき!故に討つ!そして……」
構えていた剣が、チビスケでも梨花でもなく、アカネに向いた。
「そこな女には、この辺りに進出しようとしていた我らが盟友『ガイア連合』を妨害した疑いがある!」
「……は、え、あ、アタシ……?」
まさか自分が名指し(名前呼ばれてないけど)されるとは思わず、アカネが間の抜けた声を漏らす。
しかしエンジェルの殺意はしっかりと理由があり、同時にこの上なく理不尽なモノであった。
「とぼけるな嘘つきめ!貴様、ジュネス建設反対デモに参加していた人間のリストにあったぞ!ダークサマナーの手下共が!」
「……あ!先月受けたバイト! に、日給八千円出るからってデモのサクラやってただけで!?
そんなことで殺されなきゃならないんスか!?」
「当たり前だ、我らが最高の盟友にして今の世界を導くノアの箱舟、最後の希望!!
……ガイア連合の邪魔をする不心得者は何人たりとも生かしてはおけん」
あんまりにもあんまりな言い草に、アカネが思わず反論する。
しかし、この考えはエンジェルのみの価値観ではない。ジュネス建設を妨害する『ダークサマナー』を排除した組織は他にもある。
問題は、ここらのダークサマナーは自力ではやらず、貧困ビジネスを盛大に利用して肉盾にしたことと、
エンジェル含めたガイア連合の盟友()からすれば、そうやって使われた人間だろうと必要とあれば始末するだけということだ。
……そして、その理不尽さは感覚的にはほとんど一般人であるアカネにとって、必死にこらえてきた感情を爆発させる火種には十分だった、ということだ。
「……なら、ならウチらはそんなに悪いことをしたんスか!じゃあどうすりゃよかったんスか!?
パパは最初からいなかった!ママは毎日遊び歩いてた!いつもボロボロの服で、友達もできなくて!
親戚の人に制服代だって借りて、ようやく中学はいったら、無駄におっぱいばっかり大きくなって!
ママの連れてきた何人目かもわからない愛人に風呂覗かれるわ、揉まれるわで、家飛び出して!
……どぉすりゃ良かったんスか!!どうしたらウチらは幸せになれたんスか!?
カミサマはいつだって救ってくれなかったじゃないッスか!!そんなにウチが悪いんスか!!
それなのにカミサマの使いが!必死になんとかしようとしてるアタシらを殺すんスか!?
ふざけんなぁ!お前らが死ねよ!!!」
支離滅裂にアカネはキレた。もう自分でも何言ってるのかわかってないのだろう。
滂沱の涙を流し、それでもチビスケだけは抱きかかえ、その場にへたり込んで泣き続ける。
どうしようもない、と理解していても『お前が悪い』『お前が弱い』を叩きつけられて受け入れられる人間はそうはいない。
「───────── いいや、君は何も悪くない」
「あ、アークエンジェル様!?」
……同時に、『お前が悪い』を受け入れられる天使は、もっと貴重であった。
今の世では『お前たちは悪くない』と言ってくれる天使もまた、貴重であった。
「何も悪くない、あるいは我らの全能なる父……神ならば別の答えを出すやもしれん。
君を断罪するかもしれんし、神であれば何らかの救いを用意するやもしれない、が。
残念ながら我々は所詮、天の使いの一端でしかない。与えられる救いも限られている。
神の声を聞くこともできない木っ端であろうと、この世を救わねばならぬのが定め。
結果として私が悪と裁かれ、堕天使に堕とされるのか、あるいは地獄に落ちるのか。
もしくは……ありえないとは思うが、我らが父から一言でもお褒めの言葉を頂けるのか。
私には所詮分からない、が、しかし……」
迷いはある、後悔もある、目の前でシスター・ヘレンを死なせてしまったのもそうだが。
一応は同輩である過激派と殺しあい、ただ生まれてしまっただけの赤子を武器を手に追いかけ。
それを庇おうとする『善き人達』に、神の敵と戦う為に鍛えた力を向ける。
ありとあらゆるものが、アークエンジェルの心をへし折りに来ていた。
『それでも』とアークエンジェルは言葉を続ける。
自分に許されたのは、『それでも』と言いながら進む事しかないのだから、と。
「それでも、誰かが背負わねばならぬ。これが間違いであったとしても!
『いずれ間違いだった』と証明されて、私が地獄の業火に焼かれるとしても!
かつての神の子が、騙された後も『病気の子供はいなかった』と安堵したように!
愚かな選択であると言われたとしても!磔刑によって息絶えるとしても!
それでもっ!……それでもだっ!!」
迷いを振り切ることはしない、彼女(彼でもあるが)は永遠に迷い続けるのだろう、きっと。
「……背負うべき罪は、私が背負おう。無垢な赤子を『危険かもしれない』と討つ、罪を」
「……きれいごと、ならべんじゃ、ないわよっ!結局、殺すんでしょうが!」
そう、どれだけ互いが清廉であろうと、互いの持つ意思が尊くまっすぐであろうと。
所詮はその一点で受け入れられない者同士、闘う以外の選択肢はない。
状況は同時に動いた。
ふらふらの体を気力で立ち上がらせて、グリゴリを前衛に出す梨花。
一瞬迷ってから、せめてこの子だけでも!とアジトへ駆け出すアカネ。
未だに良心の叱責を抑えきれず、血を吐くような思いで剣を構えるアークエンジェル。
皮肉にも、この場において最も行動が早かったのはエンジェルであった。
このエンジェルの心にあるのは『神の敵になりうる赤子とそれを庇う不心得者を排除する』というただ1つ。
アークエンジェルより一瞬早く飛び出し、逃げようとするアカネに右手を向ける。
所詮LV1あるかどうか怪しい覚醒者だ、LV11のエンジェルが放ったザンを叩き込めば、重傷で済めば御の字。
抱えている赤子ごと吹き飛ばされまとめて即死、も十二分にありうる結末だった。
それに気づいた梨花が、グリゴリごと間に入って盾になろうとした。
アークエンジェルも、必要ない命を奪うなとエンジェルに叫ぼうとした。
それら全てよりも、当然躊躇なくザンを撃とうとしたエンジェルよりも早く。
『何者か』が飛び降りてきて、手に持った斧でエンジェルの突き出した腕を切り落とした。
「……は?」
自分の腕が切り落とされた、という光景と痛みが脳で処理し終えるまえに、飛び降りてきた『何者か』が斧を振るう。
エンジェルの肉体が『横に』分断される。上半身と下半身がちぎれ飛び、吹き飛んだ。
軽く斧を振るって血肉を振り落とすと、飛び降りてきた『少年』はあまりの急展開に固まっている面々を見回して。
「随分と派手にモメてるね、メシア教穏健派支部のアークエンジェルさん?」
「……貴方、は、一体……?!」
「ボク?ボクは、そうだな……」
斧を軽く地面に突き刺し、返答の前に腕を胸の前で交差させる。
目の前のアークエンジェルは『警戒するだけの強さがある』と判断したからこそ、出し惜しみはしない。
「ガイア連合霊山同盟支部長とか、ガイア連合ゴールドカードとか、対魔組織鷹村家当主とか……
まあ、いろんな肩書はあるんだけどさ。今はシンプルにいくよ。
……通りすがりの霊能力者だ、覚えておけ!」
「変身ッ!!」の掛け声と共に腕を腰だめに構える。緑と黒の異形が少年に重なる。
まるで蜃気楼かなにかのように2つの像が重なっていき、やがて異形だけがその場に残る。
梨花がそれを見てスカウターのボタンを押したのは、ほとんど習慣づいたクセであった。
「……50、60、70、80、90、100…『ボンッ』きゃっ……は、えっ!?」
スカウターが過負荷に耐えられず吹っ飛んだ……わけではない。
ガイア連合の技術部が『測定不能になったら壊れる』ように趣味で仕込んだ機能であった。
(ガイア連合の『金札』!?それも支部長クラス!?
……い、いや、それも重要だがそうじゃない!この異形から感じる力と気配は……!?)
驚愕の表情を浮かべるアークエンジェルと少女たちの間に立ち、盾になるように構えを取った。
「そこな赤子など問題にならないほどの……濃密な『ネフィリム』の因子だと……!?」
「ヴウヴォオオオオオオオオアアアアアアアァァァァァァッ!!!」
降りしきる雨の中、エノク書の『エンジェルチルドレン』である『ネフィリム』の力を継いだ異形の戦士。
ガイア連合の改造人間、ギルスの咆哮が木霊した。