右手に握った『GM-01 スコーピオン』にあらたなマガジンを装填する。
突撃銃というカテゴリーらしいが、対悪魔用に弄った結果サブマシンガンに近い仕様に変わった変態銃だ。
彼女が初めてこの銃の詳細なスペックを見た時の感想を一言でいうなら
『間違いなく製作者は『MC51』や『ShAK-12』に頭をやられている』であった。
前者は小銃を無理やりサブマシンガンまでダウンサイズさせた珍兵器。
後者は対物ライフル用の弾丸でアサルトライフル並みの弾幕を張れるように作られた珍兵器。
どちらも『銃とは人間が扱う兵器』という事が開発者の脳みそから零れている事を除けば優秀な兵器だ。
『GM-01 スコーピオン』は前述通り実質サブマシンガン。
装弾数72、並列弾倉式。装甲車両等に対して使用する小銃・機関銃用ライフル弾(徹甲弾)を標準使用。
そう、サブマシンガン並みのサイズと連射速度でありながら『装甲車』をブチ抜ける破壊力を持つのだ。
半面反動抑制等はほとんど考えられておらず、生身でこんなものを撃てば腕やらなにやら大変なことになる。
専用のパワードスーツを装備して撃つか、ゴリラもびっくりの超人に握らせ撃たせるか。
彼女は『両方』であった。
「こちら『クーガ1』、指定ポイントに到着。エネミーソナーの反応はイエロー。オーバー」
彼女が身にまとっている『デモニカスーツTYPEG3』、通称『G3』に装備された通信機のスイッチを入れ、他のメンバーに通信。
反応イエローということは、すでに悪魔が出てもおかしくない危険地帯。
後ろに控えていた『G3MILD』装備の分隊員が警戒しながらも後に続く。
『G3ユニット』
5名で1班、2班で1分隊、3分隊で1小隊。『彼女』が率いる一個小隊30名が総戦力の私設部隊だ。
ガイア連合技術部のとある技術者が私費を投じて編成した部隊であり、すでにいくつかの異界を消滅させてきた武闘派だ。
厳しい身体検査、対悪魔適正試験(一般的には覚醒修行と言うらしい)、覚醒した『超人』向けの訓練を乗り越えた精鋭部隊である。
ガイア連合技術部の試作兵器の実地試験という名目も作られているため、有用性はバラッバラだが最新鋭の装備にも恵まれている。
統一規格のデモニカスーツを用いた対悪魔部隊の噂は地方霊能組織にも広まりつつあり、最近ではガイア連合の即応部隊として多少は名が売れてきた。
同じような私設部隊を持つ黒札としては『マキマ』が有名だが、彼女が地方都市を拠点として自衛隊のノウハウを合同訓練で吸収している即戦力部隊なら
こちらは新たなノウハウを生み出し試すため、自衛隊とは別のアプローチでデモニカスーツ運用の試験を行う『モルモット部隊』である。
それを率いる女性……『ソフィア・ミハイロヴナ・パヴリチェンコ』は、女傑と呼ぶに相応しい兵士だ。
顔や体に火傷に切り傷、銃創その他が刻まれた前身は、元が豊満ボディな美女だったと察せられるだけに怯える者も多い。
元はロシアの陸軍大尉であり、悪魔による被害が悪化の一途を辿るロシアで上層部から捨て駒にされかけた『対悪魔部隊』の生き残りだ。
『G3チーム』は彼女のようなワケアリの覚醒者ばかりで構成されており、スネにキズのある人間も少なくない。
「こちら『ドラコ1』、同じくエネミーソナーの反応はイエロー。想定ポイントを確保。オーバー」
裏口から一個分隊を率いて回り込んでいた副隊長である『タティアナ・アラーベルガー』が通信を返す。
豊満ボディなソフィアとちがって平坦なのが残念だが、童顔のブロンド美女というラノベにしかいなさそうな属性の女兵士である。
こちらはドイツ陸軍の元中尉、メシアによる工作で上官が洗脳されつつあることに気づいてしまい、消されそうな気配を察知して一足早く日本に亡命した。
編成中だった対オカルト対策班の候補生だったため、一応は『霊視』が可能だったのがこの部隊に誘われた理由である。
母国からの亡命に罪悪感は?次に裏切らない保証は?と聞かれたこともあるらしいが
「上官がカルトに洗脳された異常な軍隊かカルト企業が作ったマトモな傭兵かの究極の二択だぞ!?
週7で教会に通って讃美歌歌ってる上司じゃなければ裏切る気はない!!」
というガイア連合関係者なら納得しかない二択を選んで脱走&亡命してきたそうな。
今回の任務は、異界化している廃校のクリアリング。MAGの濃度などを計測し、どの程度の難易度なのか調べる偵察任務である。
そのため正面玄関から一個分隊、裏口から一個分隊が潜入し、残る一個分隊は緊急時に応援要請を送るために外部で待機しつつ退路の確保に徹している。
所属は違えど『元軍人』も何人かいるだけあって、統率と連携は本職レベルにまで鍛えられていた。
ガイア連合技術部が開発した『破魔弾』が火を噴く。元居た対悪魔部隊には無かった『悪魔殺しに特化した弾丸』は、確実に成果を上げていた。
道中に出てきた『悪霊』や『屍鬼』や『幽鬼』には火炎弾や破魔弾が非常に有効、分隊員の一斉射撃による弾幕で大抵の場合は押し切れる。
仮に危険な悪魔が出現しても『煙玉』という歩兵用のスモークを使えば悪魔ですら一時的にこちらを見失う。
私設部隊、あるいは傭兵らしく確実に、己の力量に見合った成果を上げるプロフェッショナル達なのである。
「こちらドラコ1、予定していたルートの巡回終了、オーバー」
「こちらクーガ1、同じく予定ルートの巡回終了。指定ポイントに移動する、オーバー」
この異界はやろうと思えば今の戦力でも攻略できそうだったが、それは今回の仕事ではない。
クリアリングを徹底しながらマップを作製、廃校舎から脱出すれば、デモニカに蓄積されているアナライズデータを元にこの異界の詳細をテンプレ化。
ガイア連合の事務方に回し、この異界にちょうどいい実力の霊能力者を派遣……見つからなければG3チームのボーナスになるだけだ。
『サスガブラザーズ』のように自前でも超人的な実力を持ってるエリート調査員ではないが、堅実かつ確実な任務遂行能力を持った実験部隊という。
603試験隊なのかコンスコン隊なのかはっきりしろといいたくなるメンツなのであった。
(さしたる消耗はなし、G3のメンテナンスと弾薬の補充、あとはメディカルチェックか……)
小隊員のメディカルチェックが異界の外に備え付けられたテントで行われ、そこで科学・オカルト両方から異常が無いかチェックされる。
といっても、オカルトについてはデモニカに搭載されたモノより高性能なアナライズ機器を使った解析に頼り切りなのだが。
……それでもそこらの霊能力者組織の霊視よりよっぽど細かく分析できてしまうあたり、ガイア連合の技術力は群を抜いている。
一通りの事後処理が終わり撤収作業が始まったころに、ソフィアに声をかけてくる女性がいた。
「やーやー、そーちゃん!たーちゃん!お仕事おつかれさまー!」
「! ……お疲れ様です、シノ司令官。珍しいですね、現場までくるなんて」
「前に会ったのは……破魔弾の実戦配備の時でしたか」
「うん、ちょっと野暮用でねー」
現れたのはガイア連合山梨支部技術部所属の黒札『兎山 詩乃(とやま しの』。ご存じG3MILDの開発者である。
普段はソフィアたちが収集したデータ等を後方で分析、あるいは山梨支部以外の支部で待ち合わせて会議をするのが主な顔合わせの機会であり、現場で出会う事は少なかった。
当然、ソフィアはそんな『頭でっかち』に対してはうすっぺらい表面上の敬意しか払わないタイプだが、ガイア連合の『黒札』、それも彼女のような実力者は例外である。
(当時率いていた部下数名と共に挑んで、鎧袖一触にされたからな)
ナイフや警棒で武装していた屈強な男を容易く投げ飛ばし、自分の放った『アギ』をあっさりと『ブフ』で打ち消した彼女は、ソフィアから見ても十分『合格点』である。
あの時の組手も拳銃等の銃火器があればもう少し戦えたんじゃないか、と最初は思っていたが、最近『銃耐性』なんていう軍隊イジメにしか見えない装甲の存在を知り、諦めた。
そんな彼女ですらガイア連合では中堅程度の戦闘力と知った後は、もう理解の範疇を超えたのでしっぽを振る以外の選択肢が残されていなかったのである。
なんにせよ、今では『G3ユニット』の小隊長を任されているソフィアなのだが……。
「そーちゃん、ちょーと新しいお仕事が入ったんだ! 偵察じゃなくて、実戦想定」
「実戦想定、ですか?異界攻略か……はたまたダークサマナーの殲滅で?」
「前者かな。ただし主な任務は異界の主討伐に向かうガチ勢黒札の援護!」
「……なるほど、かなりの重大任務と判断します」
普通なら、『ガチ勢』と呼ばれている黒札に援護等必要ない。目の前のシノすら超えた超人、いや怪物の集団なのだから。
それでも援護が必要と判断されたのなら、それはつまり『敵の数か規模、あるいは状況が面倒』という証拠。
「ちょっとダークサマナーとやりあう可能性もあってね、対人戦の経験も豊富な戦力が欲しかったんだ」
「なるほど、それなら我々がうってつけかと」
「だよねー!あ、今回はシノさんも同行するから、護衛もお願いね!」
『またクライアントのワガママか』と若干頭痛を覚えるソフィア。
最近は多少慣れてきたが、シノとその周りにはクセモノと変人とキジルシしかいない。
このシノですら比較的マシな常識人という魔境である。
『ジャパニーズって一皮剥けばみんなこうなのかしら』と考えてしまったせいで未だに日本になじみ切れないソフィアであった。
「……それで、異界の対処に向かう黒札とは?サスガブラザーズですか?鬼灯氏ですか?」
「あっくんだけど?」
「……………… 破界僧、が…………?」
破界僧の噂はソフィアも知っている、当然タティアナもだ。
というよりシノ繋がりで会ったこともあり、その実力は黒札ガチ勢の中でも上の方なんじゃないか、と認識している。
他の黒札ガチ勢がバケモノなら、あれから上は天災。それがGチームの面々の共通認識である。
「まあ、シノさんも新しい発明品試したいからね。今回は戦力で言えば豪華だよ!」
(戦力以外の懸念事項が多すぎる……!?)
護衛対象の追加、破界僧が必要なレベルの異界、明らかに新兵器使う気マンマンの上官。
母国の軍隊にいた時よりも胃薬の量が増えている二人なのであった……。
と、ここでタティアナが何かに気づいたように声を上げる。
「あ、しょ、少々お待ちいくださいっ!破界僧が必要な異界とは、一体……!?」
「……そうだね、先にそれも説明しておこっか」
笑顔のまま振り向いたシノ、しかし、その笑顔に何やら不吉なモノを感じる二人。
厄ネタというのは分かっている、しかしこれは……『シャレにならない』。
間違いなくろくでもない事になる、と二人の直感が告げていた。
「ガイア連合はね、少し前から各地に封印された日本の神々の開放作戦をやってるんだ」
それは二人も知っている。メシア教の影響を受けたGHQ等によってめちゃくちゃにされた日本中の霊地。
そこに封印された日本の神々を復活させ、ガイア連合の協力者に組み込んでいるのだ。
「でもね、その中の1つに……どうも、封印が緩んでた神がいたみたいでね。
ダークサマナーらしき集団が、その神……しかも荒魂に近いソレを悪用してる」
「アラミタマ、というと……」
「この国の神々の荒ぶる側面、ですね」
邪神というには邪悪さが足りないが、少なくとも神の形をもった災害。
台風や地震、津波等の抽象化ともいわれるのが荒魂だ。
「それで、肝心の異界と、神の名前は?」
「……異界名を『大江山百鬼夜行』。 荒魂の名は『首塚大明神』」
場所と名前で、外国人である二人すら一発でピンときた。
日本のオカルト関連の名前で真っ先に聞いた1つであるビッグネーム。
『ソレ』はまずい。たしかにマズい。ダークサマナーらしき集団が利用しているとしたら。
(異界のある周辺一帯が全滅する可能性すら十分にありうる……!)
「推定、異界の主は『酒吞童子』……大仕事だよ、これは?」
犬も猿も雉も、日本一の桃太郎もいない。
頼光四天王も、源頼光もいない。
現代日本の鬼退治が、ここに開幕した。
登場人物資料
ソフィア・ミハイロヴナ・パヴリチェンコ
年齢 38
LV 14
外見はブラックラグーンの『バラライカ』。
火傷顔(フライフェイス)は健在であり、本人曰く『ロシアで顔面に悪魔のアギを叩き込まれた』。
かつてはロシア陸軍対オカルト特殊部隊『ジェド・マロース』を率いていた元大尉。
しかし迫るメシア過激派の脅威そっちのけでの上層部の権力争いの結果、半ば捨て駒のような形で対メシア戦線の最前線に投入。
命からがら生還するも、死んだ部下の扱いが囚人兵以下だったことで祖国を見限る。
「後から考えれば、あの上官もタティアナの所みたいに『羽』が頭に埋まってたかもしれないけどね」と語るが、どちらにせよロシアに戻る気はないらしい。
現在はガイア連合の手引きで日本への帰化申請をしつつ、ガイア連合私設部隊『G3ユニット』の小隊長を務めている。
性格は冷酷かつ残忍、ただし『必要とあれば』やれるというタイプであり、残酷な行為を好んでやるタイプではない。
北海道に漂着したはいいが、物資が尽き凍死寸前だった自分たちを拾ってくれたガイア連合には深く感謝しており、
とくに彼女を『拾った』当人たちへの忠誠は異常なレベル。
とはいえ、元は『霊視ができる』という理由だけで集められた部隊だけあってレベルはイマイチであり、
G3系列の初期ロットが配備されてから本格的に動き出した。
元々使っていたマシンピストルの感覚に近い『GM-01 スコーピオン』を愛用。肉弾戦も当然嗜む。
任務外では意外と柔和な面も多く、最近できた趣味は編み物。
アーチェリーも嗜んでいたので、平和になったらもう一度やってみようか、と考えている。
タティアナ・アラーベルガー
年齢 24
LV 12
外見は幼女戦記の『ターニャ・デグレチャフ』、ただし年齢+10相応に成長。
(そのバストは平坦であった)
ドイツ陸軍のある派閥が編成中だった『対オカルト対策班』の戦術顧問に選ばれた英才。
士官学校を飛び級で主席卒業し、対メシア過激派も視野に入れた部隊運用プランの雛形を独自に開発する等、オカルトにも通じる才女。
が……メシア教過激派の脅威を上層部が認識し、色々と動くのがあまりにも遅かった。
過激派によって直属の上司が『洗脳』されていることに気づいたものの、所詮は一介の中尉でしかない彼女には限界があり、
高レベルの過激派天使が思いっきり待ち構えてる拠点への無謀な攻撃指令が発令された際に前線行きを志願。
まとめて始末するのに好都合、とそれを許可した上官の目を盗み、MIAのフリをしてドイツから亡命した。
こちらは率いる部下もおらず、旅行者等に紛れて離脱できたため、日本への渡航自体は無理なく成功。
とはいえ非正規亡命者に食や生活の当てが簡単に見つかるはずもなく、顔を隠しながら半ばホームレスじみた生活を送る。
その後、廃墟をねぐらにしていたら廃墟が異界化、悪魔が出現。
偶然『怪物が出る』と噂のある廃墟の調査に来ていた阿部&ハルカに保護され、霊視ができることからG3ユニットに推薦される。
性格は効率主義で論理主義、リアリストとも言う。
以外と根っこはマトモであり、本人が冷淡に物事を言うので必要以上に冷たい人間だと勘違いされがち。
が、本人の性格は意外と普通の人間の域を出ておらず、阿部やハルカの周囲ではかなりの常識人寄り。
『GS-03 デストロイヤー』による白兵戦に優れるが、射撃技能も十全にこなす。
本人は前線勤務より、元の後方勤務に戻りたがっているものの、覚醒者は貴重なのでその願いが叶うことはまず無い。