「ぐ、お、ぉお……!?」「何故このような……」「我らの鬼の力が……」
「楽勝だったな、うん」
「LV20にも満たないザコ何人そろえても無駄や、無駄」
蔵土師家の屋敷に若干強引にアポをとり入った直後、なんやかんやあってこうなった。
もうちょっと詳しく説明すると、大江山の異界調伏を担当することになった霊能力者である、という名目を話したおかげかアポはとれた。
そして屋敷に招かれ中に入ったはいいが、来客を出迎える雰囲気じゃないな、と思った瞬間に周囲を囲まれ襲い掛かられた。
が、所詮はLV10前後の術者たち。中には体の一部を異形に変えるほど鬼に近づいている者までいたが、
それらもLV15前後で『他よりちょっとタフ』程度で全員まとめて片付けられていた。
目の前で突っ伏している組織の長ですらLV20に届かない以上、阿部と鬼灯からすれば片手間で終わる集団である。
倒した面々を山積みにしてその上に腰掛けるマンガの強者ムーヴをやりつつ……。
「で、どうする?無駄な足掻きしてみる?」
「……痴れ者共めッ……我らが古都の霊的防護を担う一族と知っての狼藉か……!?」
「その一族が異界の調伏よりも外来の術者の排除を優先してるんじゃねーよ。
何より、俺たちとしてもお前たちを放っておいて異界調伏に向かえない理由ができた。
明らかに異界『大江山百鬼夜行』と同じ匂いの穢れが溜まってる、どういうことだ?」
「ッ……ぐ、ぬぅ……!」
なにより『上から下までLV10を超えている』という現状がまず異常だ。
LV1~2程度の術者がほとんど、LV5もあれば一流、LV10なら組織のトップが務まるようなのが今の日本の霊能組織の現状だ。
半終末になって多少レベルの上限が上昇したとはいえ、終末前の霊山同盟巫女長クラスの霊能力者がポンポン生まれるとも思えない。
あるとするなら、四国の霊能組織『大赦』のように、外部から加護等で力を取り入れている可能性が最も高い。
「そういうわけだ、キリキリと1から10まで吐いてもらう」
「フン、貴様らのような力ばかりの若造に話すことなど……」
「あっそう」
次の瞬間には、阿部が組織の長の首根っこを掴んで片手で持ちあげていた。
長には自分が持ちあげられる瞬間どころか、いつの間に近寄ってきたのかすらさっぱりわからない速度。
そのままミシミシと首の骨がきしみを上げ……。
「悪いがこの屋敷に来てから『凶兆』の予感がしてるんだ……死体になって吐いてもらう」
そのまま、割りばしでも折るかのように首をへし折った。
「どうするん?ブチのめした他のやつらに吐かせるん?」
「いいや、生きてる人間より死体のほうが吐かせやすい。
『ネクロマ』で蘇生して、操り人形になった長に1から10まで喋らせる」
「……卑劣様みたいなことしおすなぁ」
「流石に五乗起爆札までやらせたことがあるのは式神だけだ」
「やらせとるんかい」
長がやられたことで心が折れたのか、まだ意識のあった術者たちもだいぶ『素直』になった。
そんな面々の前でネクロマを使用、この地に起きていた異変の情報を絞り出す阿部なのであった。
「紅葉様、御迎えにあがりました」
「あ……」
しばらく公園でキャッチボールをしていたが、その最中に数名の大人が近づいてくる。
福本マンガに出て着そうな黒服たちだ。サングラスはかけてないが、カタギじゃない匂いがする。
即座に警戒をMAXにしたレムナントがベンチから立ち上がり駆け寄ろうとするのをハルカが手で制し。
「家の人?」
「……わかるの?」
「着物が高そうな布だったし、いいとこの出ってことぐらいは」
「……そっか。 うん、うちの人たち」
「悪いが、紅葉様は多忙なお方だ。遊ぶのはこれまでにしてもらう」
しょんぼりとした顔になった紅葉が、大人たちに連れられて帰っていく。
よくよく見れば公園の外に高そうな車が止まっていた、あれで送迎するのだろう。
(ワケアリくさいけど家の人に送り迎えしてもらえるのはうらやましいなぁ)
なんて微妙にズレたことを考えつつ。
「何日かはこっちにいるから、明日また遊びにくるよ」
「……明日?」
「ああ。また明日」
紅葉はすこしだけ考えこんだ後、足元のゴム鞠を拾って振り向いた。
ぽい、と放物線に投げれたそれを「おっと!?」と言いながら咄嗟に受け取る。
「あげる」
「へ?」
ほんのりと微笑を浮かべ、紅葉は今日初めて柔らかな笑顔を見せた。
「あげる、それ。 ……また遊ぼうね」
「……あ、ああ!また明日な!」
家人だという黒服達に連れられて帰っていく紅葉へ手を振る。
どこか手を振る動作もぎこちなかったが、車に乗った紅葉は小さく手を振り返してきた。
たまらず公園の入り口まで追っていき、走り去っていく車を見えなくなるまで見送った。
「主殿。そろそろ我々も宿に顔を出しませんと……」
「え、あ、うん……そうだよね」
しばらくぼうっとそこに立っていたが、レムナントに声をかけられて我に返る。
普段のハルカらしくないというか、妙に幼く、そしてぎこちない仕草で返事をした。
……その変化にレムナントが戸惑うのも当然だろう。
レムナントの知るハルカは、年不相応の精神力と決断力を持った現代の英雄だ。カリスマ性も相応にある。
もう少しだけ器を育てる時間さえあれば、ガイア連合でも出世コースに乗れる……それだけの素養はあるはずなのだ。
その少年が、普通の少年らしい一面を不意に見せてきたことに困惑しているのである。
「主殿、その、なにかありましたか?」
「……約束をしたのってさ、初めてなんだ」
「はい?」
「また明日、って。契約なら色々してきたよ、悪魔とも人とも……でも……」
ぎゅ、とゴム鞠を握る手に、少しだけ力が入る。
「守らなきゃいけない皆みたいにさ……また明日ね、って……初めて、だったんだ」
余りにもアレな家族のせいで子供らしい子供じゃいられなかった10年間。
その後の2年間もひたすら修行と、勉強と、悪魔との戦いに費やした。
そうしなきゃならないとわかっていた、そうでなければ生き返った意味が無いのだから。
自分に不相応な力を得たのだから、それにふさわしい生き方をしなければ、と。しかし。
「……でもさ、でも……嬉しかったんだ。ちょっとだけ。
今だけは、今日だけは、って思うぐらいは許されるんじゃないかって、思ったんだ」
「あるじ、どの……」
『自分はとても残酷なことをしているんじゃないか?』
『自分はまた何か間違えたんじゃないか?』
『自分と主殿はこのままでいいのか?』
そんな思いがレムナントの中に芽生えるが、それを言語化することはできなかった。
「もしもし、シノ。聞こえてるか?俺だ、阿部だ。
ああ、そうだ。想定してた中ではかなり悪いパターンで始まってやがる」
『古都』某所、蔵土師家の屋敷の人間を全員拘束した後、既に阿部は行動を開始していた。
どうやら思ったよりも状況は悪いようで、シノたちに連絡を取りながら自分も動き出している。
「どうも『本邸』にいた人間とは別に実行班がいるみたいでな……。
全員ブチのめして吐かせたが、どっちにしても下手に止めたら変な暴発しかねん。
こっちで調節して可能な限り『外に被害が出ない形で』地雷を爆発させるしかないな。
『古都』各所への仕込みはなんとか作戦開始までに間に合わせる。
G3ユニットを大江山の異界へ誘導してくれ。流石兄弟が集めてきた黒札を連れてくる。
蔵土師家の連中が『儀式』を始めるはずだから、そこにこっちで介入をかける。
ああ、ハルカたちは鬼灯が回収する。あとで落ち合おう」
(クソッタレめ、中途半端な知識で余計に状況を悪化させやがる!)
携帯電話(阿部はいまだにガラケー)の電源を切り、ポケットに入れて走り出す。
認識阻害の結界を自分に張って、通行人の目をごまかしながら超人の身体能力で飛び回る。
古都の各所に『仕込み』を行い、作戦決行時刻……急遽決定した『今夜』のために備えるのだ。
蔵土師の当主に吐かせた、胸糞悪くなるような『儀式』の内容を思い出し、つい舌打ちをした。
『三歳の時に、3人。五歳の時に、5人。七歳の時に、7人。
子の手で同い年の人柱を捧げさせるのじゃ……』
もうしょっぱなからガイア連合の大半がキレそうなワードが飛んできた。
性癖以外は意外とマトモな大人である鬼灯も青筋を浮かべ、阿部も普段とは違う真剣な顔だ。
『三歳、五歳、七歳……七五三(しちごさん)……?』
『七五三を行うのは二十八宿の鬼宿……鬼の出歩かぬ日と言われてる。
つまり逆に言えば「鬼がいるべき場所にいる」日だ。貴様まさか……!』
『……その日だけは、首塚大明神様の祠から感じる鬼の力が増す……。
そこで……鬼の力を宿したい「鬼子」と、人柱を並べ……。
天鈿女命(アメノウズメ)の舞を模した儀式で……首塚大明神様の『力』を引き出し……』
『引き出した力で、3歳のガキに人柱を殺させるんか!?』
『そうじゃ……そして儀式が終わればさらなる力をえる。
年々、鬼子に宿る鬼の力は強くなっていく……。
それだけではない……周囲にいた術者にも……おこぼれ程度だか力が宿る……』
LV10~19の集団が襲ってきたのはそれが理由だろう。
LV10~14なのが『おこぼれ』、LV15以上なのが『鬼子』。
『鬼子』の数が少ないのは、1年に一度しか儀式を行えない上、
毎回1人のために7年かけて合計15人も幼子を殺さねば儀式を完遂できないためである。
その代わり、LV15以上の『鬼子』を安定して生み出せる。
あまりにも吐き気のする『効率化』を果たした儀式がそこにあった。
『お前らの強さはそれが理由か……大江山の様相も理解できた。
コイツらが生贄捧げまくったせいで、生前の酒呑童子としての側面が強くなっている!
首塚大明神として『鬼神』に近いはずの属性が、『妖鬼』や『邪鬼』になってやがる!!』
『我らの霊力と……首塚大明神様の加護さえあれば……
にっくきメシアを追い払い、日ノ本を取り返し……』
『それでこの国滅ぼしかけとったら世話ないわぁ……!!』
鬼灯もマジギレする寸前だ、なんなら喋る死体と化している長をミンチにしかねない。
それを阿部がギリギリで抑え、続きを喋らせる。
阿部にはまだいくつかの『懸念事項』があった……それを解決するまで、この老人には価値がある。
『……おい、それで完了じゃないだろ。
もしそうなら『3月』なのに本邸にこんだけ霊能力者が詰めてるのはおかしい。
おまけに儀式の準備らしき気配もある。七五三をやる『11月』なら分かるが……
お前ら、何する気だ』
『……『十三詣り』のために、13人の生贄を……』
『ッ……空海が聞いたらブチ切れるぞ!!』
『……なあ、阿部はん。『十三詣り』って確か、京都とか奈良で有名な……』
鬼灯は京言葉ロールプレイしているだけであって、別に京都出身ではない。
とはいえロールプレイのために色々学んでいる内に、ある程度の知識はつけており……。
『ああ。七五三と同じように一定の年齢になった子供がやるお祝いだ。
空海が行った『虚空蔵求聞持法』っていう知恵を授かる修行に肖ってるんだが……。
七五三と十三詣り、どちらも今じゃ子供の健やかな健康を祈って行われるモノだ。
……そこに血なまぐさい生贄と殺人を絡めて『鬼子』に育てる儀式として最適化してやがる!』
この日は『3月13日』、十三詣りを行うには最も適した日。
だが、見たところこの屋敷には人柱と鬼子候補がいなかった。
『おい!鬼子と人柱はどこにいる!!』
『人柱は……異界に運んだ……鬼子は……一族のものが、迎えに。
先ほど、お前たちで……儀式を、行うようにと、連絡を……』
『……俺たちが暴れ始めた時か。電話か何かで連絡しやがったな。
車とかの移動手段を使ってる可能性も高い、途中で確保は厳しい。
大江山で張っててもいいが……儀式を中断させるリスクもヤバい』
しかし、完遂すれば余計に首塚大明神/酒呑童子の状態は悪化する。
地脈の状態を見る限り、明らかに封印に負担がかかっている。
この儀式で水漏れのように首塚大明神の加護を借りている上、
鬼としての側面が強くなった首塚大明神/酒呑童子が暴れているのだろう。
パソコンで例えるなら毎回電源のオンオフを電源ボタンだけでやっているようなものだ。
『直ちに影響はない』だけで、長く続ければ不具合も出てくるのである。
そして、恐らくこれは半終末に突入してから初めての儀式だ。
完遂してしまえば明らかに妖怪化している首塚大明神/酒呑童子の封印が解けてしまう危険性も高い。
では儀式をやめたらいいのかといえばそうでもない。
こういった儀式は途中でやめたほうがデカいしっぺ返しがくるのが基本。
こっくりさんを無理やり中断して低級霊に憑かれた、なんてレベルじゃなくなる。
『……鬼灯。ショタオジへのホットラインは確保してあるんだよな?』
『? せ、せやな。万が一のための式神通信でのショタオジ召喚が……』
『なら儀式の妨害は行う、だがそれが成功しても失敗してもいいように動く!
最悪酒呑童子がフルパワーで復活しても、俺なら準備さえあればなんとかなる』
ショタオジなら一方的な鎮圧も可能だろうさ、と苦笑交じりにそう言って……。
『俺はギリギリまで準備をする、お前はハルカ達を回収してシノと合流。
一足早く大江山へ向かって、儀式の妨害に入ってくれ』
鬼灯の承諾を得て、各自動き出したのがついさっきであった。
タイムリミットは不明、既に『鬼子』を確保しているであろう別動隊は大江山に向かっている。
ハルカとレムナントを鬼灯が回収、シノと合流しつつ大江山に向かって追い付けるかどうかは微妙だ。
なんせ屋敷にはその鬼子の写真すらなかった。異界化している大江山で人探しとか冗談じゃない。
LV10前後の悪魔が出る環境なのだ。鬼灯たちはともかく、G3チームはタイマンだとキツいのである。
当然固まって動くことになるので効率は落ちる……事態が動くのが急すぎた。
(先んじて諜報やってくれてたサスガブラザーズの『なんかおかしい』って意見がなけりゃ、そもそもココにこれなかったけどな)
そして儀式は完遂され、ガイア連合は完全に後手に回っていただろう。
各所の仕込みを急ピッチで進める、この仕込みが終われば、阿部はフルパワー酒呑童子相手でもなんとかやりあえるはずだ。
真女神転生ではLV49? ……はっきりいってアテにならない。
大江山という最適な環境、長年かけて積みあがった生贄、分霊としても低位か高位か不明。
少なくとも阿部は『黒札運命愛され勢』が来るべき案件だったかもしれない、と後悔し始めていた。
それこそ、ガイア連合最大のアドバンテージの1つである『ショタオジの詳細な実力は外に出してない』という手札を切ってでも。
その不確定要素こそが……。
(……まさか、俺に『死相』が見えるなんてな)
己にまとわりつく、あまりにも近く濃密な『死の予感』であった。