霊能力者、鷹村ハルカは改造人間である。   作:ボンコッツ

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「だから見ててくださいッ!!僕の……」

 

 

……実の所、今回現場にいる人間で最も焦っていたのは鷹村ハルカであった。

 

 

『鬼子』の儀式の事は鬼灯から聞いた、だからこそ未だに迷いもある。

 

仮に紅葉が人柱なら何も言うことはない、助け出してそれで終わりだ。

 

どんな強敵が立ちはだかっても、どれだけ不利な状況でも、ハルカは揺らがないだろう。

 

だからこそ、最も恐れている事態が常に頭をちらついている。

 

 

(もしも紅葉が鬼子だったら……僕は、どうすればいい……?)

 

 

鬼子は儀式の過程で既に15人の少年少女を殺害している。

 

それは紛れもない『悪』であり、場合によってはハルカが討たねばならない事もあるだろう。

 

しかし、あの時ハルカと遊んだ紅葉からは、そんな行為を嬉々としてやるような狂気は感じられなかった。

 

ならば人柱なのかと思ったが、それにしては周りの人間に大事にされすぎている。

 

ぐるぐると思考が同じところをループする、一体自分はどう向き合えばいいのか。

 

 

被害者ならば何としてでも守るだろう、そして救おうとするだろう。

 

加害者ならば何としてでも倒すだろう、そして討とうとするだろう。

 

たとえそれが肉親であろうと、ハルカは決断した後に迷うことはなかった。

 

 

(だけど……『被害者であり加害者』であるのなら、どうすればいい?)

 

 

紅葉の全てを諦めたような色を塗りたくった眼を、ハルカは知っている。

 

かつて阿部に救われる前の自分を、鏡越しに見たときとそっくりだ。

 

あの時の自分を、ハルカは明確に『被害者』だと思っている。

 

ただただ自分の手に入れた力に酔いしれるような性根ならば、あんな目はしない。

 

何一つ答えの出ないまま、ギルスレイダーは立ちはだかる『妖鬼 オニ(LV8~10)』を粉砕しながら駆け抜けていき……。

 

 

「何者だ!?」

「鬼ではない、異形の怪物か?!」

「紅葉殿に近寄らせるな!者共かかれ!」

 

 

護衛達に守られながら巫女服を身にまとった紅葉と、目隠しをされ泣きじゃくる少年少女たちを見てしまった。

 

分かり切っていたことだった、ただ、受け入れる時間がもう少しだけ欲しかった。

 

鷹村ハルカにとって、生まれてから10年間で刻み込まれたこの世の真理。

 

 

(世界はいつだってクソッタレだ)

 

 

最初に襲ってきた護衛の男を、ギルスレイダーから飛び降りつつ殴り倒す。

 

鬼の力を発揮し変貌した護衛の剛腕を、木の枝のようにへし折る。

 

アギ系らしき魔法を放った女に突っ込み、火球を弾き女を蹴り飛ばす。

 

ギルスレイダーに指示を出し、人柱らしき少年少女を蕎麦の配達みたいに無理やり積み込んだ。

 

念力のような物資運搬補助機能があるらしい、こんなことに使うのが初使用とは思わなかったが。

 

ついでのように倒れている護衛もくくりつけ、引きずって持って帰ってもらう。

 

 

そして、ついに対峙するギルスと紅葉。

 

目隠しをしていても見えているのか、紅葉はうつむき表情が見えない。

 

なんとか握りしめようとする拳に力が入らない、普段なら燃え上がる闘志が燻る。

 

みるからに普通の子供だった、今日、ほんの少し遊んだ程度の間柄。

 

だが、まるで鏡映しのように紅葉の事が理解できてしまったのは、きっと気のせいではない。

 

彼もまた、これだけ強靭な意思と正義の心があっても『力』の一点でどうしようもなかった。

 

権力も武力も霊力も財力も、そして数という力すら奪われれば容易く抑え込まれてしまった。

 

力のない正義なんて、綺麗ごとを吐くだけの夢想家・思想家と変わらない。

 

ただの子供だった自分に、何ができたというのか。

 

そして、それは紅葉も同じだ。

 

少しばかり当時の自分より力はあるが、その程度では何も変わらない。

 

大人たちの身勝手な都合に振り回される子供に、選択肢など無いのだ。

 

 

「…………『鬼子』は、君か?」

 

 

必死に意思の力を絞り出しながら、問いかける。

 

 

「……はい。 ボクが、蔵土師家の今回の鬼子です」

 

 

どこか諦めたように、紅葉が言い切った。言い切ってしまった。

 

折れそうになる心と膝を無理やり奮い立たせ、自分の信念を保つ。

 

誰かの為に、人の為に、自由の為に、未来の為に。

 

しかし……。

 

 

「ボクからも1つ、質問いいですか?正義のヒーローさん」

 

「……なんだ」

 

「なんで、もっと早く来てくれなかったんですか?」

 

 

 

その一言が、鷹村ハルカの鋼の心にヒビを入れた。

 

 

 

「五歳の時や、七歳の時に来てくれれば……人柱の数は、もっと少なくて済みました。

 

 三歳の時に来てくれれば、ボクはそもそも、人を殺さずに済みました。

 

 いや、もっと早く、もっともっと早く来てくれれば……こんなことには、ならなかった」

 

 

 

脚が震える、吐き気がする、頭痛と悪寒が止まらない。

 

 

 

「ボクは、なんとか自分を正当化しようとしました。つらかったから、苦しかったから。

 

 生贄を殺す事も……そのために、ボクが鬼子として教育されるのも。

 

 生贄の子たちと違って、いつもいつも霊能力の修行と勉強ばかり……。

 

 サッカーだって、野球だってやってみたかった。ゲームもマンガもアニメも見たかった」

 

 

 

どうしようもないぐらい、紅葉の言い放つ言葉は被害者である子供のソレであり。

 

 

 

「だから、必死に恨もうとしたんだ。人柱の子たちは自由に遊んでる。

 

 ボクが必死に修行をしてる間、好きなように、なんだってできる!

 

 お父さんもお母さんも鬼に食われたボクと違って、親もいるんだ!

 

 ……それなら、ボクの恨みをぶつけるぐらい、いいんじゃないか、って」

 

 

 

恨みつらみがあったのは本当だろう、今の言葉には憎悪もこもっていた。しかし。

 

 

 

「それでも、それだけじゃ殺せなかった。3歳の時は訳が分からないまま殺してしまった。

 

 5歳の時はもう少しわかってたけど、それでも大人たちにやれと言われて殺してしまった。

 

 ボクが、被害者と言えたのはここまでなんです。七歳の時に、ボクは、ボクは……」

 

 

 

憎悪だけで殺せるほど、身勝手にはなれなかった。その結果。

 

 

 

「『これは人々を守るために仕方のない事なんだ』って、そう思いながら、殺したんだ……!

 

 なんで、どうして!ボクが『加害者』になるまえに、助けてくれなかったんですか!?

 

 何で今更……ボクが『裁かれる側』になったとたんに、現れるんですか!?

 

 不公平だ!人柱の子たちは今まで愛されて、自由に、好きかってに生きて……

 

 なんで、救いに来る正義の味方まで、奪われなきゃいけないんですかッ!!」

 

 

 

恐らく、これは紅葉にとって初めて『本気で人に憎悪を向ける』瞬間なのだ。

 

儀式の中断のせいか、あるいは『七五三』の生贄までは完了していたせいなのか。

 

じわじわと紅葉の憎悪に反応し、祠から血なまぐさいMAGがあふれ出してくる。

 

 

 

「こんな着物や巫女服なんて着たくなかった!ボクは……ボクは『男の子』なのに!

 

 もっとお外で遊びたかった!学校で変な目で見られる女の子の着物なんて大嫌いだ!!

 

 魔除けの風習とか!庶民の視線なんて気にするなとか……できるわけないじゃないか!!

 

 なんでこんなに苦しみ続けたのに、貴方は、ボクを救ってくれなかったんですかッ!?」

 

 

……着物の上から見える『骨格』で、ハルカは紅葉が『彼女』ではなく『彼』であると気づいていた。

 

だからこそ、ゴム鞠で遊ぼうと言ったときに手鞠歌等ではなくキャッチボールだったことをあっさり受け入れたのだ。

 

我慢の限界を迎えたのか、集まってきたMAGを身にまといながら涙を流す。

 

鬼に染め上げられる苦しみと共に、ようやく見つけた『自分の怒りをぶつけてもいい相手』に対して向き合ったのだ。

 

 

『自分を救ってくれなかった正義の味方の敵になる』

 

 

字面だけみれば身勝手極まりないが、この状況で紅葉を責められる人間は多くはない。

 

なんせ事情を知ってる人間からすれば、大人の食い物にされた虐待児童同士の共食いである。

 

 

「これはただの癇癪と八つ当たり、そんなことはわかってる、でも……。

 

 このまま人柱の子たちだけがあっさり救われる。そんなの絶対に耐えられない。

 

 ボクは……このまま鬼に……『茨木童子』に染まるぐらいなら!

 

 ボクの『癇癪』まで、奪われるぐらいならッ!!」

 

 

紅葉に集まっていたMAGが形を成していく。ギルスは知る由もないが、それはマヨナカテレビ等で起きる『シャドウ』という現象に似ていた。

 

紅葉の前世は『茨木童子』、酒呑童子の右腕である、大江山のナンバー2だ。

 

そう、紅葉が今回の鬼子に選ばれるほど高い霊能力を持っていたのは、茨木童子の転生者だったから。

 

既に『覚醒』と共に自分の前世について認識し、自分が儀式によってじわじわと『茨木童子』に近づいているのを一人抱え込んでいたのである。

 

オマケに茨木童子の『女装をして渡辺綱から切り落とされた腕を奪い返した』逸話から、余計に茨木童子とのシンクロ率が上昇。

 

 

心の中の影の代わりに前世の形を使い、それに儀式によって得たMAGで肉体を与える。

 

シャドウの亜種ともいえる過程を経て、ついに紅葉は新たな姿に変貌する。

 

周囲に浮かぶ鬼火の玉、意のままに動き、紅葉の周囲を飛び回る。

 

民間伝承の『八尺様』以上の女の巨体、推定身長は5mほど。

 

赤い肌に露出の多い着物を着ており、顔には鬼の面を被っている。

 

そして胴体に当たる部分に、巫女服姿の紅葉が磔のように埋まっていた。

 

 

【 邪鬼 イバラキドウジ LV49 】

 

 

『ボクの八つ当たりを受けて、力尽きろ、遅れてきた正義の味方ッ!!』

 

 

巨体から放たれた回し蹴りが、戦意喪失寸前のギルスを蹴鞠のように吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(僕は……なんのために……)

 

 

自分の体を掴み上げられ、木々を巻き込みながら投げ飛ばされる。

 

蹴られ、殴られ、空中で鬼火の力を使った『アギダイン』で追撃まで喰らう。

 

痛みも苦しみもあるのに、それでも闘志は燃え上がってくれなかった。

 

ヒーローはいつだって、誰かが傷つくような場面になってから動き出すものだ。

 

逆に言えば、『既に傷ついた人』はヒーローが救えるとは限らないし、『傷つかないよう守り切れる』とも限らない。

 

名探偵だって救世主だって英雄だって、何かコトが起きてから役にたつからこそ、そう呼ばれるのだ。

 

 

(こんな力が、あったって……救えやしないじゃないか……)

 

 

今の紅葉の心に響く言葉を、ハルカは持ち合わせていない。

 

同じように理不尽な世界に虐げられて、何もできなかった側だからだ。

 

贖罪のように紅葉からの暴力を受け止めながら、ふらつく体を立ち上がらせる。

 

 

力を手に入れて、変われたと思っていた。

 

生まれ育った家と決別して、変われたと思っていた。

 

霊山同盟のみんなの笑顔を見て、変われたと思っていた。

 

エンジェルチルドレンたちの再起を見て、変われたと思っていた。

 

 

(なんにも変われちゃいない……ちっぽけな、子供のままだ)

 

 

それでも、ギルスは立ち上がる。

 

みぞおちを蹴り上げられ、体が宙に浮いたところに回し蹴り。

 

地面と水平に吹っ飛んでいき、大木に叩きつけられてようやく止まる。

 

 

(なあ、鷹村ハルカ。お前はなにを自惚れていたんだ?能無しのくせに)

 

 

それでも、ギルスは立ち上がる。

 

頭を掴まれ、小さなクレーターができるまでなんども地面に叩きつけられる。

 

振り回され、投げられ、アギダインを撃ちこまれ、もはやどちらが上かもわからない。

 

 

(お前に出来ることなんて、今も昔も1つだけじゃないか)

 

 

それでも、ギルスは立ち上がる。

 

連発されたアギダインのせいで、周囲は火炎地獄のごとき山火事だ。

 

生体装甲にはヒビが入り、体中にどれだけ怪我と火傷を負っているのか考えるのもイヤになる。

 

それでも、ギルスは……いや。

 

 

『仮面ライダー』は立ち上がるのだ。

 

 

「……紅葉。僕も勘違いしていたことがあるんだ。

 君の心に響く言葉の1つでも探そうとしたけど……

 殴られながら考えても、何一つ浮かばない」

 

 

(……声は低いけど、『僕』?それにボクの名前を……?)

 

 

わずかに覚えた『違和感』から紅葉が答えに行き着く前に、ギルスが声を張り上げる。

 

 

「僕にできるのはいつだって、体を張ることだけだった。いつだって、どんな時だって!

 

 誰かを救うために、守るために!それしかできない能無しだった!

 

 過去の君は救えない、でも!それでも今、今の君に間に合ったなら!

 

 目の前の君を、他の誰でもなく……君を救いたいんだッ!!」

 

「ッ……まだそんな綺麗事を!」

 

 

偽善者の甘ったれた綺麗事なんて聞きたくもない。

 

そう言おうとした紅葉の殺意を、それ以上の気合で押し返す。

 

 

 

「綺麗事だっていいじゃないか!だからこそ現実にしたいんだ!

 

 本当は綺麗事がいいんだ、誰だって!最後が涙だけなんて悲しすぎるじゃないか!!

 

 バカみたいな綺麗事を言う『ヒーロー』がいたって、いいじゃないか!

 

 いないっていうなら……僕がそんなヒーローになる!」

 

 

 

あまりの気迫に「うっ」と紅葉……イバラキドウジがたじろぐ。

 

融合が進んだせいで、悪魔であるイバラキドウジの意識も幾分か混じりつつある。

 

それでも一歩、後ろに仰け反った。気迫だけで名高き鬼を怯ませたのだ。

 

 

 

「これ以上ッ!こんな悲劇のためにッ!誰かの涙は見たくない!!

 

 皆に笑顔で……いて欲しいんですッ!!

 

 だから見ててくださいッ!!僕の……」

 

 

 

ギルスのベルト『メタファクター』にはめられた宝石、通称『賢者の石』と呼ばれるMAG供給装置が色を変える。

 

ギルスの緑からエクシードの黄色へ……そして鮮血や業火を思わせる『赤』へ。

 

 

 

「 変 身 ッ ! ! ! 」

 

 

 

全身から爪(ギルスクロー)が飛び出す、エクシードギルスへの変形。

 

しかし、同時にそのギルスクローが『発火』する。

 

アギダインによって巻き起こる火炎に飲まれたのかと錯覚するほどの熱量。

 

しかし、逆にその火炎を侵略するほどの『業火』が巻き起こる。

 

 

基本的なフォルムはそのままに、胸の制御装置兼強化装置『ワイズマン・モノリス』まで真紅に染まり、

 

全身に巻き付いた触手型生体装甲『ギルスワーム』、それに繋がった拘束用触手型武器『ギルススティンガー』までもが高熱を帯びている。

 

その発生源は、メタファクターを囲むように追加された『ドラゴンズアイ』というパーツ。

 

これがフィルターのように賢者の石から伝達されたMAGを炎エネルギーに変換、ワイズマン・モノリスによって制御し。全身に循環させているのだ。

 

 

明らかにエクシードギルスとは違う『変身』。

 

余りにも大きすぎる力の本流に、本能のままギルスが咆哮を上げる。

 

 

 

 

「 ヴ ォ オ゛オ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ ァ ァ ッ ッ ! ! ! 」

 

 

 

 

 

『 エクシードギルス バーニングフォーム 』

 

本来は存在しない姿と力。

 

しかし『アギトの力』ならば、あるいはあり得たかもしれない異形が顕現した。

 

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