異界 大江山百鬼夜行 Eフィールド総合作戦本部。
こたびの酒呑童子復活という事件に対し急遽作られた作戦司令部である。
「……状況を整理しよう。
『レベル測定不能』クラスの悪魔である酒呑童子が復活してから約二時間が経過。
現在大江山を囲うように防衛ラインを設置、各フィールドで戦闘中」
移動基地であるG3トレーラー数台が分散、大江山の四方を囲むように配置される。
異界でも使える広域映像通信装置は技術部の新発明だが、サイズの小型化はまだまだ進まない。
幸いG3トレーラーに積んで移動できるサイズにはできたので、通信・補給のための移動前線基地としてのG3トレーラーの価値はかなり高い。
ちなみに自衛隊からも既に数台の注文が来ている。シノの研究費はうっはうはだ。
ともかく、そんなG3トレーラーの中でソフィアが各所から集まってきた情報を整理。
各地に配備されているG3トレーラーに通達され、待機している面々にも説明が届く。
「東西南北を4つのフィールドに区切り、それぞれに部隊を配置。
中核になるのはガイア連合から派遣されてきた『黒札』の高位霊能力者チーム。
彼ら彼女らは大江山中腹を目指して進出、比較的高レベルの悪魔を討ってもらう。
理想は遠隔アナライズによって確認された『大江山四天王』の討伐だ」
E(東)W(西)S(南)N(北)と区分けされた地図を映像に表示。
『BC(ブラックカードの略)』と書かれたマークが麓から大江山中枢に移動していく。
目標は『大江山四天王(推定LV40前後)』。黒札の中でも中の上以上のメンバーが狙う相手だ。
「そして我々G3ユニットや、各地から集められた黒札の協力者である霊能力者チーム。
これらは黒札チームの援護だ。周囲の『妖鬼 オニ』を中心にした悪魔の掃討だな。
推定LVは10~25。ガイア連合アプリからの依頼も『DLV30以下には受注不可』になっている。
まあ、それ以下は足手まといになる相手なのでな」
緊急クエストだが報酬は高いので、交通費さっぴいても黒字になる(比較的)レベルの高い霊能力者が集結しつつある。
トラポート持ちの黒札にも依頼が回され、有料で大江山までの片道ワープ依頼を受ける者が多発。
といっても大半は現地人かつLV10前後、麓に陣取り、複数人で『妖鬼 オニ』を囲んで殴るのが仕事だ。
阿部の修復した古都の結界により、悪魔は大江山の中心から離れて古都に近づくほどに弱体化する。
なので低レベル組はギリギリまで引き付けて囲んで棒で殴り、高レベル組は異界に突っ込んで首狩り戦術という役割分担を行っている。
ガチ勢ではないが戦闘経験はある黒札や現地人SSR(半終末でLV20~30)も麓組であり、
万が一にも防衛ラインを抜ける悪魔を出さないための主力となる。
説明を引き継ぐため、タティアナが一歩前に出る。
「はっきりいって集まった戦力に連携らしい連携は期待していません。
もとより彼ら彼女らの技能など詳細に把握できていないし、各自連携の訓練もしていない。
なにより我々には明確な指揮権も無い……ガイア連合幹部である阿部殿からの委任程度。
黒札組からすればつっぱねられる権限でしょう。
我々の仕事は降りてくる悪魔を殲滅し、破界僧が酒呑童子を討つまで耐える事。
現在、この異界は酒呑童子の復活によって妖鬼・邪鬼が発生しやすい状態になっています。
さらに酒呑童子のMAGにアテられた鬼系悪魔はさらに力を増す傾向にある。
それらを加速させている大江山四天王を叩く」
つまり大江山四天王を落とせば落とすほど、麓での時間稼ぎの難易度は下がる。
そして四天王を落とした者にはガイア連合から『特別報酬』が出るという通達があった。
……それだけで黒札ガチ勢と呼ばれている強者達の目の色が変わったのを二人は見ていた。
「各自、どのエリアから突入するかはガイア連合経由で通達済み。
従う従わないは自由ですが……基本的に戦力は均等になるよう割り振っています。
従わず別の所にいってもライバルが増えるだけ、これといった得にはなりません」
無理に『命令に従え』と言ったところで従う者は少ない。実質民兵の集団なのだから当然だ。
(おまけに一部の黒札は霊能力の高低『だけ』で人を見るフシがある。
確かに重要な査定基準ではあるが、それだけを見て作戦など立てられん。
それこそ黒札の更に上澄み……『ガチ勢』とか呼ばれてる面々まで行ければ別だが)
ガイア連合がそれで回っているのは、ガバガバな組織がオーバーキルな技術力とマンパワーでゴリ押せてしまっているからだ。
例えるなら会社の社長から平社員まで全員渋〇栄〇とジョ〇ス、開発部をノーベル賞取った技術者だけでそろえた巨大コングロマリット、それがガイア連合である。
そりゃ多少組織がガバガバでもなんとでもなる、効率的な運用なんぞクソ喰らえでもどうとでもなる。
他の会社が100のリソースのうち9割を効率的に運用してるとして、ガイア連合は1割程度しか効率的な運用できてなくても分母が1億とかそういう域だ。
なので、良くも悪くもクソ真面目であるタティアナからすれば『ガバガバすぎるのは気に入らないけど自分がサラリーマンやるのにはちょうどいい』組織なのだ。
(……そんな組織で、私以上の霊能力者をたっぷり抱えてるのに前線行きだがな!!)
その点に関してはガイア連合もマンパワー(質じゃなくて数)が足りていないのと、彼女のモデルのせいである。
「防衛ラインに投入されている中核戦力的にはどうだ?」
「あくまで比較的著名な面々の抜粋ですが……。
Eフィールドには『鬼灯 焔』を中心に我々が。兎山司令も先ほど合流。
Wフィールドには多数戦に強い『虫使いの千代』を招集しました。
Sフィールドには『デビルハンター・マキマ』とその私兵が展開済み。
Nフィールドは『白夜叉』に加えて『サスガブラザーズ』も参戦しています。
それと……戦力の逐次投入は悪手ですが、サスガブラザーズ以外のトラポート持ちの黒札が各地から戦力を追加招集中です」
「錚々たる面々だな、一部の黒札は1人でも我々Gユニット全員以上の戦力かもしれん。
ところで……」
いい加減目をそらすのも難しくなってきたのか、Gトレーラーの後方に設置されたいくつかのテントに目を向ける。
医療班や物資集積所等が置いてあるのだが……。
その一角からカレーの良い匂いとともに、ぎゃあぎゃあと騒ぐ声が聞こえる。
「魔石だ魔石!あと宝玉!尻からもねじ込め!!」
「尻はやめて!やめろ!!お願い!!」
「主殿チャクラドロップです!口を開けて!!」
「あががががが溶けない溶けない量多い!!」
「がんばってたっちゃん!もう少しでガイアカレー用のご飯も炊きあがるから!」
「いやなんで白米まで炊いてるんですか?!」
「ヒノエ米だからちょっとだけMAGの補充になるよ!!」
「ならばよし!!」
「……タティアナ、あれはなんだ?」
「治療行為です、多分、おそらく」
シノ、レムナント、テンノスケに囲まれて、多種多様な回復アイテムを無理やり押し込まれるハルカがいた。
口はガイアカレーとチャクラドロップでパンパン、テントにはチャクラポットが焚かれ、傷薬や魔石がガンガン使われる。
肉体的なダメージだけではなく、MAGの過剰使用によって体内に収納している武器型式神までHP・MP・MAGが全てすっからかんになっていた。
医療班に治療を受けている紅葉の隣で、だいぶシュールな回復……いや、『修復』作業が行われていた。
アナライズすれば、激戦を終えて帰ってきたのだろう。彼のレベルは『40』まで上がっている。
しかしHPもMPもMAGも悲惨な数字であった、あれぐらいの荒療治は必要だ。
そこから目線を反らし、映像で送られてくる各防衛ラインの光景に目を向けて見れば……。
『すいませええええええん!!休憩所の糖分が切れてるんですけどおおおおお!?』
『うおおおおおおお!!あかりちゃんに誤魔化すのがそろそろキツくなってきたから経験値のために死ねぇー!!!』
『トゥーンとは完全無敵の生命体を意味するのデース』
『鬼の【ピーッ】って体格相応に立派なんでしょうか?』
『変態が喋っている』
「……隊長、頭痛薬ください」「ガイアカレーでも食ってろ」
黒札連中が十人十色ということは知っていた、知っていたが。
一応は古都を守る最終防衛ラインだというのに緊張感とかそういうモノが盛大に死んでいた。
これでそこそこの頻度で超人クラスの霊能力者が混じっているからこまる。
幸い指揮に関してはソフィアが行っているので、タティアナは頭痛解消込みで悪魔をいくらか撃ち殺してくることに決めた。
……そろそろ前線に出たがりそうなシノのお目付け役、という意味もある。
と、そこで「そういえば」とタティアナが声を上げた。
「なんでわざわざ戦域を日本語ではなく英語で区切ったんです?」
「一部黒札の猛烈なプッシュの結果だ」
主にガノタ俺たちのせいであった。
【異界 大江山百鬼夜 Eフィールド防衛ライン】
「ええい、妖鬼ってタフだから嫌いなのよ!」
「そこのお嬢さん!無理せず援護を受けながら戦って!」
「了解、元々無理する気なんてないけどね!ようやく面会時間とれたんだから!!」
異界 大江山百鬼夜 Eフィールド防衛ラインのやや後方。
山の麓より下にオニが下りないように、結界に近づいて比較的弱体化したオニだけを狩っている後方支援組だ。
『黒い鎧の堕天使』を引き連れた少女と、それを援護する『巫女服の集団』。
巫女服の集団は『霊山同盟派遣部隊』。霊山『岩永山』を管理する一族から派遣されてきた面々である。
鷹村ハルカが支部長を務める『ガイア連合霊山同盟支部』が置かれている霊地の1つだ。
女神イワナガヒメを祭神とした集団であり、ここにいるのはその中でも選りすぐりの精鋭部隊。
巫女長直々に先陣に立ち『今こそご恩を返す時!!』と士気MAXで駆け付けた面々である。
……現地人基準の精鋭なので『一人を除いて』LV5~10の集団だが。
「成仏拳!かーらーのー、ハマ!!」
『一二三 睦月』、かつて霊山同盟の決死隊を率いていた少女である。
あのあとガイア連合のアナライズを受け、力・魔の二刀流型であることが発覚。
(某ゆかりさんの完全劣化とも言う)
護符で作ったお手製バンテージを手に巻き付け、悪魔をブン殴って0距離で魔法をブッパするスタイルを身に着けた。
レベルはガイア連合基準で『14』。ロバ脱却組である。
「フン、殴り合いと魔法がバラバラな時点でまだまだね!見せてあげるわ、お手本を!」
一方の堕天使を操る少女、堕天使は本物ではない。心の仮面が具現化した存在『ペルソナ』だ。
『七海 梨花』。黒羽市にてデビルバスターをやっていた少女である。
エンジェルチルドレン事件から数か月、ガイア連合の依頼を受けながら時折ハルカと共に修行のために異界に潜り、相応の経験を積み上げてきた。
元来現地人としてはレベル限界を超えやすいペルソナ使い、なおかつ精神力は強靭。
今では『LV18』に到達している現地人SSR組である。
『堕天使 グリゴリ LV18』と共に前衛を務め、同じように『妖鬼 オニ LV15』と殴り合っていた。
(『飛び蹴り』+『アギラオ』+『一斉攻撃』!)
お手本を見せると言って動き出しただけはあり、スキルの組み合わせは慣れたものだ。
チャージ+物理系スキルの応用みたいなモノで、複数のスキルを同時発動させるのだ。
跳躍と共に体を大きくひねり、ペルソナであるグリゴリと己の動きをまったくの同一にする。
両足にアギラオの炎を纏い、グリゴリと共にオニへとオーバーヘッドキック。
「『バーニングディバイド』ぉっ!!」
「ぐぎゃあああああぁぁっ!?」
同時に燃える飛び蹴りを叩き込む『バーニングディバイド』。今の七海の切り札であった。
喰らったオニが吹き飛ばされ、炎に飲まれて燃え尽きる。
しかし1体を倒してもまた1体、たまに追加で1~2体、そんな戦闘が続いている。
「援軍まだ来ないわけ!?ジリ貧よこれ!」
「アイテムはまだまだありますけどキッツいです精神的に!」
「弱音吐かない!ディア!はいもう一戦!」
とはいえ巫女長もじわじわと押されてきているのは自覚があった。
HP・MPはアイテム等である程度補える、オニも今の所は安定して処理できている。
しかし、聞いた話では四天王を倒さないかぎりこのオニはじわじわ数と力を増していくらしい。
自分達では到底大江山四天王の討伐など望めないので、終わりの見えない持久戦をするしかない。
そうなれば当然精神的な疲労は溜まり、ミスが増え、ミスから繋がる不慮の事故もありうる。
当然、実戦での事故=死だ。
(黒札級とは言わないまでも、せめて七海ちゃんや睦月ぐらいの前衛が欲しい……!)
「─────── 助けが必要か?」
「! 何者!」
不意に頭上からかけられた声に視線を上に向ける巫女長。
木々の合間、太い木の枝の上に立つ少女がいた。
妙にぴっちりとしたスーツ(対魔忍スーツ)の上から、あまりボディラインを隠せてない黒いジャケットを羽織り。
なぜかガイアカンパニーのマークが刻まれた鉢金を斜めに巻いて片目を隠している。
霊刀らしきモノを腰に差しているが、それ以外は完全に変質者だ。
普通にスタイルがいい美少女なのにファッションセンスが独特すぎる何者かが参上した。
「鋒山ツツジ、見参! ……それとこの格好は性能重視で選んだ結果なので私の趣味ではないことを留意されたし!!」
「あ、あぁー……イルカの帽子(ドルフィンヘルム)被ってる人の同類か……」
(痴女かと思ったら……『DLV73』!?アタシ(DLV59)より強い!?これが!?)
DLV73=LV22 現地人としては相当な上澄みの戦闘力である。
かつて阿部たちに助けられた際に渡された、初期ロットのデモニカ(G3MILD)。
それで地道に鍛錬を積んでいたが、ある異界への遠征で片目を負傷し……。
「それに、最近ようやく『コレ』の使い方に慣れてきたんだ……悪いが一瞬で決めさせてもらうぞ」
またも新たなオニがこちらに近寄ってくるのを察知し、木の上から飛び降りて七海や睦月の近くに着地。
ぐい、と鉢金を上げて通常のつけ方に戻す。
……その下から現れた『真っ赤な巴模様の眼』。
式神パーツである『眼球』の一種であり、『技術部俺たち』がロマン重視で作ったパーツ。
「ガイア連合の手によって作られた人工魔眼『写輪眼』の力、とくと味わえ、悪鬼共!」
現れたオニを『写輪眼』の視線が見据えると、オニがうめき声をあげて動きを止める。
拘束の魔法?と七海が推測した瞬間、オニの体が足元から石になり始めた。
驚愕する一同が見ている前でオニが完全に石になる。その体にツツジがケリを入れ、木っ端みじんに砕いた。
「これぞ写輪眼の瞳術『天岩戸(アマノイワト)』!見たものを石に変える力!!」
「えっげつなぁ……でも欲しいわソレ……」
「抵抗できなかったらほとんど死んだようなモノですもんね……」
(あれ、でもたしかガイア連合の販売アイテムに石化の治療薬なんかもあったような……)
霊山同盟のトップである巫女長は、ガイア連合なら『石化』も毒や睡眠と同じような状態異常ぐらいの扱いなんじゃないか?という事実に気づいた。
……が、なんだかきゃぴきゃぴしてる若い子たちの心を折らないよう言わないで置いた。彼女は空気が読める大人の女性なのである。
ちなみに、アマノイワトの正式名称は『ペトラアイ』。
ゴルゴーン等のフォルマで作った、アナライズ・エネミーサーチ・動体視力向上等の効果も付いた無駄に高性能な式神用パーツなのであった。
「うっぷ……よし、もう大丈夫」
「といっても相当体に負荷かかってるから、例のバーニングフォームは使えないよ?
使っても数秒で解除されそうだし、エクシードギルスですら長持ちしそうにない。
それでもいくの?」
「ええ、いきます。なんとかそれで持たせて見せますよ」
出撃前にシノによるメディカルチェックを受け、『ベストコンディションには程遠いが戦闘可能』というお墨付きを得たハルカ。
鬼灯は大江山四天王討伐に向けて出発しており、テンノスケもシノたちと共に防衛ラインに残るという。
自分の目的についてきてくれるのは、レムナントだけだ。
「……本気なんだね、あっくんの所にいく、って」
「僕は師匠の弟子ですからね、一応。せめて弾除け程度には役に立たないと」
「弾除けにもならず死んじゃうかもよ?」
「それでも行きます。『行かない』って選択肢だけは、取れません」
ギルスレイダーも補給を終えており、いつでも大江山を駆け上がれる。
操縦にも慣れてきた、レムナントと二人乗りでもなんとかなるだろう。
「……わかった、もう止めない。こっちは任せて。
だから……あっくんと一緒に、帰ってきてね。『仮面ライダー』」
「さっきもそれ言ってましたけど、なんなんですか仮面ライダーって」
「あ、あー、そっか。知らないよね、君は。
仮面ライダーはね、ヒーローの名前なんだ。シノさんやあっくんや、他にも沢山の人にとっての。
あっくんが君を『仮面ライダーのように』したのは、きっと……」
『ヒーローになってくれることを期待してたんだと思う』。そう兎山 シノは締めくくった。
ただ緊急的にギルスボディに移植した、までは分かる。
だがそのあと、ベルトやバイクまで用意したのは『期待』以外の何物でもない。
阿部 清明は、間違いなくハルカの中に『仮面ライダー』を見たのだ。
そして、ギルスレイダーにまたがったハルカに声をかける人間がもう一人。
「ハルカ、本気で……行く気なの?」
「! 紅葉、意識が戻ったのか」
「うん、ついさっき……その、あんなとんでもない鬼に、また……挑むの?」
見ただけで紅葉は心が折れ、意識すら一瞬で手放した。
それほど強大で、凶悪で、恐ろしい強さと気配の鬼だったのである。
そんな鬼にもう一度挑もうとする『友人』を、止めに入るのは当然だった。
「やめようよ、きっと、今度こそしんじゃう……!」
「……それでもいい。いや、よくはないが、このままよりは。
僕は戦う、誰かの為に。もうこれ以上、誰かの涙は見たくないから」
うっ、と紅葉の言葉が詰まる。間違いなく、紅葉はその言葉に救われた側だからだ。
そして、今酒呑童子に挑めるほどの力を持った人間はほとんどいない。
ハルカですら全力を出して弾除けになれるか否か、それでも、弾除け上等で突っ込んでいけるだけハルカはマシなほうだ。
レムナントやシノですらいてもいなくても大差ない、ソフィアやタティアナや紅葉など空気にもなれない。
干渉できるだけの力も理由も、そこにはなかった。
「……僕は決めたんだ、例えこれが間違った道でも。罪深い道でも。
どこかの誰かの……真っ当に幸せに生きられる誰かの、明日の為に。
『自分にできる事』をやる。それで少しでも世の中がよくなるんなら、それでいい。
この体は僕のモノじゃない、師匠がガイア連合の『戦力』として作ったのが、ギルスだ」
だから、と言葉を区切り、まっすぐに紅葉を見据える。
「ギルスの、いや。仮面ライダーの力は、人の夢の為に生まれた。
この拳……この命はその為のものだ」
正面から言い切る。自分が死地に向かう理由を包み隠さずに。
正義をエゴだと笑いたくば笑え、偽善者だと蔑みたいならするがいい。
『仮面ライダー』はそんな嘲笑すら背負って戦うヒーローなのだ。
人々の自由と、未来の為に。
「……ハルカは、だから、いくんだね」
「ああ」
「……それ、じゃあ……」
いかないで、と言いたい。
そばにいて、と言いたい。
死なないで、と言いたい。
初めてできた友達を失いたくない、そのための言葉が浮かんでは消えて。
それでも、紅葉は上を向いた。
「……がんばれ、『仮面ライダー』……っ!」
「───────── 応ッ! 変身ッ!!」
疲れ切ったはずのハルカの全身に活力が漲る。
それに呼応するように、ギルスレイダーが唸りを上げた。
ギルスが夜の闇を切り裂き駆け抜ける、狙うは酒呑童子の首1つ。
Eフィールドの防衛ラインに突入、周囲の霊能力者を轢かないように。
襲ってくるオニを処理しつつ駆け抜けようとしたところで……周囲で爆発が起きた。
「いってきなよ、仮面ライダー!!あっくんは任せたからねーっ!!」
「! シノさん!?それに……」
ビートチェイサーを駆るシノらしきデモニカ。
最初は『黒くカラーリングされたG3X』かと思ったが、細部が違う上にミサイルランチャーらしき武器まで担いでいる。
「高レベル用デモニカ『G4』システム!試作品の一号機、試させてもらおうかー!!」
「タティアナ、シノ司令を援護しろ! ……酒呑童子は任せました、仮面ライダー」
「了解! 後方は任せてくれ、仮面ライダー!虫一匹、いや鬼一匹通さない!」
「巫女長、仮面ライダーです!ハルカ君ですよ!」
「ええ……ええ!頑張って、仮面ライダー!!」
「戻ってきたのですね、鷹村殿……仮面ライダー!」
「もしかして今のハルカ?!ああもう話す時間が無い!
生きて帰ってきなさいよ、仮面ライダー!」
「うおおー!俺のところてんボディが無くなる前にもどってきてくれよ、仮面ライダー!」
「……行きましょう主殿、いや、仮面ライダー!!」
「「「「「頑張れ、仮面ライダーッ!!!!!」」」」」
……後ろを振り向くことなく、右手でサムズアップだけ返し、駆け抜けてく。
『仮面ライダー』 鷹村ハルカは改造人間である!!
彼を改造したガイア連合は 世界平和を願う善の秘密結社である!!
鷹村ハルカは人間の未来と自由のために、闘うのだ!!