「まったく、タフな相手だねぇ、こりゃあ……!!」
飛んでくる岩塊の弾幕、それに混じる樹木や土塊を避けながらイッタンモメンを操る。
僅かな殺気を感じた瞬間にスクカジャを使い、イッタンモメンの速度をハネ上げて加速。
一瞬後に自分がいた空間を通り抜けていった巨大な腕を見ながら、即座に次の、そして次の次の手を練り上げる。
(打ってくる手は単純、だからこそ余計に面倒くさい)
山頂に作られた酒呑童子の異界は、シンプルかつ広大な山林のソレだった。
面倒なギミックもなし、ケンカの邪魔になりそうなモノを省いた結果だろう。
つまりこちらも小細工を仕込む余地があまりない、という事でもある。
普通ならこういう土地では木々の間に隠れて不意打ちなりこちらに有利な仕込みをするのだが。
『フハハハハハッ!!フンッ!!!』
「また来た!飛ばせイッタンモメン!!」
そこらの山を『殴って砕く』。比喩ではない、本当にパンチ一発で山がいくつもの塊に砕けるのだ。
そして砕いた山を適当に抱えて持ち上げ、大量の岩と土と木をブン投げてくる。
テトラカーンでの物理反射も考えたが、量が量だ。
テトラカーンの効果が切れた瞬間に次の土砂が降ってくる上、物理無効だろうと物量で埋まってしまう。
生き埋めになったら反射も無効も関係ない、そのまま窒息死で終わりだ。
(つまり避けつつ反撃するしかねーんだけどよぉ……!
コイツタフすぎるんだよ!こっちのMPが尽きるぞ!)
またも飛んできた『さっきまで山だったモノ』。
マハザンダインで弾幕に穴をあけて無理やり通り抜け、追撃で放たれた『マッスルパンチ』を急上昇で回避。
再度召喚されたセイリュウが『ウィンドブレス』で反撃。
封魔管から四神を出し入れすることで、この弾幕でまとめて薙ぎ払われることをさけているのだ。
高レベルとはいえ、後衛型である阿部では力押しではどうしようもない。
(幸い手札は多い、1つ1つ針の穴を通す作業で最善手を打ち続けるしかない!)
ちなみに、仮に阿部がLV100前衛型の超人だったとしたら既に詰んでる。
イバラキドウジの時にも話したが、『この世界では体格や逸話がステータスに影響する』。
今回のようにアリとゾウみたいな差があるとこれは顕著になる。
ごくごく単純に『空手5段のアリは子供のゾウに勝てない』というだけの話になるのだ。
「ハッハァ!反撃がヌルいなあ、陰陽師!!」
「いってろ大悪鬼!!そっちこそちょっとバテてきたんじゃないかァ!?」
(そうだ、勝ち筋はある!俺がするべきなのは持久戦ッ……!)
じわりじわりと、それこそ雨粒が岩を穿つような気の遠くなる作業だが、阿部は少しずつ酒呑童子を追い詰めつつあった。
戦闘開始した時の酒呑童子のレベルは、阿部の推測だと『125』。
阿部の最強の手札である『ペルソナ アベノセイメイ』が『108』であることを考えれば、1~2段は格上の相手だ。
それなのになぜ今まで凌いでこられたのか……それは酒呑童子が『だいぶ無理して出てきた』のが大きい。
半終末かつ酒呑童子に最適な霊地、かつ封印中に貯めこんだMAGがあったとはいえ、LV125の大悪魔なんぞを支え切れる場所ではないのだ。
某地母神がアメリカに叩き込んだ高位分霊のさらに上となれば、あっという間にMAGは枯渇していく。
……が、その割に消滅の気配はまだまだ見えない。そこにはとあるカラクリがあった。
(霊格(レベル)をじわじわ削って維持用のMAGに回してやがる!レベルダウンの代わりに戦闘継続時間を延ばしてるんだ!)
現在の酒呑童子は『LV104』にまで弱体化している。
無論元の強さが強さなので、レベル差が逆転したとしても強敵には違いない。
だが、ダメージを与えたり時間経過すればするほど弱体化する、というのは分かりやすい攻略法であった。
「普通なら5秒で死ぬがな!!」
「『アイテムもそろそろ三割を切る、どうする?』」
「……『発信機』を撃ちこむ。最悪は使うぞ」
「『なるほど、了解した』」
『発信機』……来るべき終末後に稼働予定の『ターミナルシステム』を着想に得た阿部の発明品だ。
トラポート等の原理も利用し、事前に用意しておいた『転移用コンテナ』の中の物体を『発信機』の周辺へランダム転移させる。
一方通行だし座標は最大数メートルはズレるしトラポート持ちにしか使えないしコンテナ内部のどれが転移するかわからないし……と、はっきりいって輸送手段としては欠陥だらけ。
しかし、阿部はこれを『攻撃手段』として運用するつもりで調整した。
(空間を拡張した転移用コンテナに詰めた『10万を超えるアギラオストーンの山』。
コンテナ内部のモノをまとめて転移するように起動すれば、異界ごとまとめて吹き飛ばせる。
……俺も巻き込まれるがな)
あまり離れすぎれば『発信機』に転移の信号を送ることができない。
できる限り酒呑童子に近づき、可能なら酒呑童子の体に『発信機』を撃ちこみ、起動。
(発信機は俺が作った、それに合った戦術もな…己の体でやるのは初めてだが)
どこか卑劣な気配を漂わせつつ、体に仕込んだ発信機……ダーツのような大きさの矢に少しだけ意識を向ける。
ギリギリのギリまで酒呑童子を削り、これを撃ちこみ爆破。酒呑童子の肉体を大きく破損させ、既にMAGの枯渇が深刻な酒呑童子をMAG不足で消滅させる。
可能ならトラフーリ等で退避するが……自分がソレをできるということは相手もソレが可能ということだ。
当然、奇跡でも起きなければ後出し転移で退避できないようにしてある。
元はネクロマで操ったそこらの悪魔の死体等に発信機を埋め込み発動させていた奥の手だ。
とはいえ、今回は最初から自爆用に持ってきたのだが。
(ザコ悪魔の死体をコイツに接近させられる気もしないからな、足踏みだけで発信機ごと潰されて終わりだ)
酒呑童子のファイアブレスをイッタンモメンの『火炎ブロック』で防ぎ、得意のマハジオダインで酒呑童子の全身を雷で貫く。
撃った直後に再度回避に専念、返礼のように飛んできた横なぎの拳の下を潜り抜ける。
既に四神の式神も残るは青龍だけ、先ほどから蘇生を挟んで戦線を立て直しながら戦っているが、段々と戦線維持が厳しくなってきた。
現在はセイリュウとスザクが残り、ゲンブとビャッコが蘇生待ちという状態。
酒呑童子のLVは100を切ったとはいえ、このペースだとLV80前後でアイテムとMPが完全に枯渇する。
いくらレベルが逆転しようと、古都の大結界を操作して四神を強化しているのは阿部とアベノセイメイだ。
その二人が力尽きれば古都の大結界によるバフは消え、四神はレベル差もあって酒呑童子には薙ぎ払われる。
そして、レベルが上だろうと阿部はあの巨体を殴り合いで倒せるような史上最強の生物ではない。
そんな風に考えながら戦っていると、管に戻すのが一瞬遅れたせいでセイリュウが岩塊の雨に飲まれた。
阿部は管に戻す前にセイリュウの姿を見失ってしまい、逆に目ざとく見つけた酒呑童子の拳が振るわれ、セイリュウがあっけなく砕け散る。
「くそっ、スザク!」
『リカームドラ』
自身の命をコストに仲間全員を蘇生・回復させる魔法をスザクが使い、戦線が一時的に押し返される。
紙一重、ギリギリのギリギリまでリカームドラを温存しつつ、スザクだけは最優先で管に戻せるようにして仕切りなおす。
早すぎれば酒呑童子を削れない、遅すぎればリカームドラを抱え落ち。まさしくシューティングゲームのソレだ。
封魔管の中のスザクを蘇生するタイミングを図りつつ、今のミスを除けば計算通りにコトが進んでいることに薄く笑みを浮かべた。
『……あん?山がねぇ!?』
「整地作業を頑張りすぎだ、土建業者かマイクラ廃人かテメェは。
トラップタワーでも作ってろ!!」
走り回りながら目についた山を砕いて投げる、という脳筋極まりない攻撃を繰り返した結果。
山林地帯だった異界だというのに近くの山をほとんど砕いてしまい、咄嗟に手の届く範囲の山が無くなってしまったのである。
そして当然これは阿部にとって計算通り、酒呑童子の打撃がギリギリ届かない位置に退避済み。
即座に『サマリカーム』を使用。スザクを蘇生し、召喚。
「畳みかけるぞ!一斉攻撃チャンスだッ!!」
アベノセイメイと四神が呼吸を合わせ、連携攻撃を放つ。同時に阿部も切り札を切った。
『ファイアブレス』
『アイスブレス』
『ウィンドブレス』
『ナルカミ』
『精霊召喚』
「『合体魔法・式神召喚!!』」
『竜の眼光』
『マカカジャ』
『マカカジャ』
『竜の眼光』
『マカカジャ』
『マカカジャ』
『竜の眼光』
『コンセントレイト』
「『マハジオバリオン』!!」
アベノセイメイと阿部が、同時に切り札として温存していた魔法を放つ。
他多種多様に変化する式神召喚の光と、それを切り裂く極限の雷光が視界を埋め尽くす。
異界の中に吹き荒れる衝撃と爆風に煽られながらも、なんとか体制を立て直して。
『どれだけ削った?』と戦果を確認しようとした瞬間。
『フッハハハハハハハッ!!!』
「ッイッタンモメン!!」
『ハハハハッ!遅いッ!!』
突然上がった大笑いに回避の指示を出すが、一瞬だけ遅かった。
直接攻撃が届かない距離は保てていたが、酒呑童子もちょっとだけ脳みそを使う。
両腕が足元……『砕いてぐちゃぐちゃになった山でできた大地』に突き刺さり、
海で子供が足元の水を両手ですくってかけるようなフォームで『担ぎ上げる』。
地面どころか岩盤ごと引き抜いたような音。
下から上へ、砕かれた大地そのものが『重力に逆らい空へ降ってくる』。
そのうち1つの巨大な土塊が、イッタンモメンごと阿部を撃ち抜いた。
「ぐおっ……!ぐ、ビャッコッ!!!」
イッタンモメンから叩き落され吹き飛ぶも、吹っ飛んだ方向にいた四神のビャッコに自分を回収させ、他3体で酒呑童子を足止め。
吹っ飛んできた阿部を空中でキャッチ、そのまま酒呑童子から距離を取りつつ疾走する。
(イッタンモメンは……くそ、吹っ飛んだあとに直接攻撃でやられてる!
空中戦をするならスザクかセイリュウを使う、あるいはイッタンモメンを蘇生するのが必須!
だがスザクはリカームドラの為にフリーにしないといけない、つまり実質セイリュウが脚!
悠長に隊列変更を向こうが待つわけがない、イッタンモメンを蘇生するまで凌ぐしかない!
それまでは、地上戦か……!)
残るHPとMP、そしてMAGでどこまでやれるか……と歯噛みする。
今の一撃は相当酒呑童子を削った、予定だったLV80前後まで削り切るほどに。
だが、手持ちの回復アイテムは今から使う分でほとんど終わる。
一応、金丹や反魂香等の蘇生アイテムは残っているが、これは自分に使うモノではない。
しかしレベルダウンと共にHPも相当削ったはず、現に酒呑童子の体はボロボロだ。
焼かれ、抉られ、通常の悪魔なら消滅してそうな傷を無理やりMAGで補って立っている。
(もう一撃、今のと同レベルの一撃を叩き込めばMAGで補う余裕すらはぎ取って勝てる!)
発信機抜きでの勝利条件がようやく見えてきた、その瞬間。
『ブオオオオォン』と、背後からエンジン音が鳴り響く。
今いる場所は異界の境界線ギリギリ……だからこそ『聞こえてきた』のだろう。
「……フッ、まったく待たせやがって」
アイツは来る、と最初から確信していた。来ないわけがない。
自分にそっくりなあの弟子が、一人戦う誰かの救援をしないはずがないのだから。
遅いぞバカ弟子、と一言言ってやろうとして……。
「っちょ!?まっ、どいてどいてどいてええええええぇぇぇえぇ!?」
「おぼっぶぅ!!??」
ウィリー走行かつ大ジャンプで飛び込んできたギルスレイダーの前輪が顔面を直撃。
阿部のHPを綺麗に0まで削り切った。
阿部 清明 ここに死す……!
なおその扱いは照井竜レベルとする。