霊能力者、鷹村ハルカは改造人間である。   作:ボンコッツ

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「ありがとう、仮面ライダー」

「……あの、どこからきたどなたのなにさまのどちらさまですか?」

 

開口一番このセリフを発してしまったハルカにそれほど責任はあるまい。盛大に言語能力はバグっているが。

 

目の前の異形……『ギルス』そっくりの何者かに尋ねるが、仮称『ギルス』も少し悩んだ末に。

 

 

「どちら様、と言われてもな……見ての通りなんだが」

 

「見ての通りだとビジュアル怪物がいるんですけど」

 

「……お前も本来は似たような姿だろ」

 

 

なにから話したもんかな、と言いよどむギルス。あまり饒舌なタイプではないらしい。

 

 

「本霊通信……だったか?アレで呼び出された『本霊』に当たる存在が俺だ」

 

「え、いや、待ってください!それはおかしい!

 アレは式神のAIであるスライムの元になった悪魔の力を借りる、って方法のはず!

 ギルスはスライムを搭載する前に肉体だけを移植に使ったはずです!」

 

「ああ。だからその肉体の方に呼ばれたんだ」

 

 

肉体の方?と首をかしげるハルカ。

 

エンジェルチルドレン事件の後、ハルカはエクシードギルス等について阿部に説明を求めた。

 

結果として判明した『ネフィリムのフォルマを使用した対メシア教用の式神』というルーツ。

 

そこから推測される目の前のギルスの正体は……。

 

 

「『ネフィリム』……?」

 

「正確には『それに該当する存在』だがな。

 お前の中の『ネフィリム』の呼びかけが届いた結果呼び出されたんだ。俺には別に名前がある」

 

「……なんだかよくわからなくなってきました」

 

「だろうな、俺もだ。 とりあえず、今は力を貸してくれる存在……と覚えればいい。

 こっちも『アイツら』に受けた説明程度しか知らないからな」

 

 

アイツら、については『こっちの話だ』と会話を打ち切り、本題にはいる。

 

 

「お前の新しい力……『バーニングフォーム』のことだが。

 正直、これを制御できるようになるのは当分先だ、今すぐどうこうはできない」

 

「まあ、そうですよね……」

 

「だから一時的に俺が力を貸す。これで消し炭になることだけは避けられるはずだ。

 貸した力がなじむかどうかまでは保証できないけどな」

 

「とりあえずギルスボディも馴染むかどうか賭けだったので気合でなんとかします」

 

「勇ましいな……まあいい。手を握れ、あとは俺がやる」

 

 

若干引いたような反応をしつつ、右手を差し出すギルス。

 

それに応えるようにハルカも手を出し、握手するように握りこんだ。

 

そして、ハルカの中に何か不可思議な感覚が流れ込んでくる。

 

例えるのなら水の中にたっぷりの油を垂らしたような、醤油に中農ソースを流したような。

 

『似ているが違うモノ』が入ってくる感覚、若干の異物感と言えばいいのだろうか。

 

 

「俺の『アギト』を少しだけ譲渡した。これで『バーニングフォーム』にも最低限適応できる。

 

 俺にとっても貰い物だから、使いこなせるかどうかは別としてな」

 

「……『アギト』?」

 

「そこからか……人間の進化を促す力、と覚えておけばいい。俺も詳しいわけじゃないしな」

 

「オカルトじゃなくてファンタジーみたいだ……」

 

 

と、ここまで説明を受けた所でギルスが疑問の声を上げた。

 

 

「……なあ、また貸しだから詳細もわからない力を押し付けてくる初対面の異形だぞ?

 なんでそこまで素直に信じられるんだ。寧ろ信じるな」

 

「信じますよ。 貴方の眼は真摯にこちらと向き合ってるのがわかりますから」

 

「眼、と言ってもお前、この外見じゃ……」

 

「物理的なモノだけじゃなく、もっと抽象的な……カンと言われても否定できないんですけど。

 だけど、そうじゃなかったとしても僕はあなたを信じていたと思います。

 そんな言葉を言う人が嘘をつくとは思えないし、なにより……」

 

 

偉そうなことを言えるほど、人生経験を積んできたわけではない。

 

12年程度生きただけの自分より、ずっとつらく苦しい人生を送ってる人間はいるのだろう。

 

それをわかっていてもなお、ハルカは真っすぐにあり続ける。

 

 

「どうせなら騙すよりは騙される方がいい……そうでしょう?

 もし騙された時はひとしきり泣いて、悩んで、それから殴りに行くかどうか決めます。

 でも、もし騙す側になったら……だました後、ずっと悩まなきゃいけないから」

 

「……お前は、その青さと心中するつもりでもあるのか?」

 

「どちらにせよ、曲げたら折れます。捨てれば砕けます。

 諦めが悪くて、前に進み続ける事を諦めない心だけが僕の武器ですから」

 

 

『分岐路だ!今、ボクは分岐路にいるッ!!』

 

『こんな痛みも苦しみも、知る人間は少ない方がいいはずだ』

 

『立派な目標じゃないですか。胸を張れる答えだ』

 

『いないっていうなら……僕がそんなヒーローになる!』

 

 

「悩んで迷って、それでもはいつくばって進みます。決めたんです。

 この両の手が届く限り、誰かに手を伸ばして涙を拭い続けると。

 声なき叫びに駆け付けて、この力をそのために使うと。

 

 きっとそれが……『仮面ライダー』だから」

 

「『仮面ライダー』……俺をここに導いた奴も、そんなことを言っていたな。

 なるほど、仮面ライダー……仮面ライダーギルスか」

 

 

表情も分からない異形(ギルス)が、どこか微笑んだような気配をハルカは感じる。

 

しかしすぐに雰囲気を引き締めると、ギルスが自分の後ろを親指で指さした。

 

 

「出口はあっちだ。走り抜ければ元の場所に戻る。時間軸なんかは心配するな。

 ……『そっちの世界』は任せたぞ」

 

「……はい!ありがとうございました、色々と!」

 

 

ギルスの隣を駆け抜けて、出口だ、と指さされた方向に駆け出すハルカ。

 

白い光に包まれ、その先へ……彼の闘う世界へと戻っていく。

 

そして不可思議な空間に残されたギルスも、元居た世界へと駆け出していく。

 

二人の姿が、突如現れた『銀色のオーロラ』に包まれて消えていく。

 

 

(あの『赤と黒のバーコード模様』のヤツに送り込まれたが……悪くない体験だった。

 

 それに、この世界の『ギルス』は……俺や津上よりも、氷川に似ていた。

 

 ならきっと、『人間』として戦い抜けるはずだ)

 

 

「『俺達』は、不死身だ。そうだろ?」

 

 

仮面ライダーギルス……『葦原 涼』は、共に戦った二人の事を思い出しながら、『終わりが来るまで生きていく』と誓った世界へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんだっ……突然、コイツの力が増した……!?)

 

赤い流星と化したギルスの圧力が跳ねあがり、酒呑童子の巨体がじわじわと押され始める。

 

両の足を全力で踏ん張っているのに、60m級の巨体が流星によって後ろにずれていく。

 

バツの字に組んだ腕も悲鳴を上げ、ありったけのMAGを肉体の維持に回しているのに体が持たない。

 

 

『グオオオオオォォォッ!?なんだ、貴様……この力はッ?!だ、だがまだだ、まだ、負けられんっ、まだッ……!!』

 

 

両腕にありったけの力を籠め、エクシードギルスを押し返しにかかる。

 

 

 

 

 

「これが……仮面ライダーの力だァー!!!」

 

 

両腕にヒビが入り、まるで陶器を叩きつけた音を何百倍にもしたような轟音と共に腕が砕け散る。

 

ガードを突き抜けたドラゴンライダーキックはそのまま胸元に着弾、酒呑童子の上半身をそのまま押し倒す。

 

それでも勢いは衰えず、酒呑童子の胸に大穴を開けながら背後へ貫通。

 

体の内外から炎が吹き上がり、仰向けに倒れようとしていた酒呑童子を火柱が包み込んだ。

 

 

『お、オオオオォ、オオオッ……!?』

(負けたッ!言い訳の1つもできん、完璧な負けだッ!!天晴、見事ォ……!!)

 

 

酒呑童子の肉体が内から外から焼き尽くされる。

 

こうなってしまえば超高位分霊であろうと消滅は免れない。

 

かつて毒殺された無念すら消し飛ばす、まさに英雄の一撃。

 

最後に一言でも仮面ライダーに賛辞を贈ろうかと考えたが……。

 

 

(いや、こやつは死に際の敵に賛辞されて喜ぶ類ではあるまい!寧ろ罪悪感を覚える者だ。それならば……)

 

 

『おのれぇっ、仮面ライダーッ!

 

 ぐわあああああああああああああああぁぁぁ!!』

 

 

「アイツ仮面ライダーの敵として完璧な死に方しやがった!?」という阿部の感想の直後、酒呑童子が木っ端微塵に大爆発。

 

それをバックにエクシードギルスが空中で受け身を取り、荒れ放題になった地面にヒーロー着地。

 

巻きあがる業火が収まり、MAG不足で変身を解除したハルカが振り向く。

 

 

「……ハルカ!」

 

「あ、師匠……うぉ、っと……」

 

「主殿!?」

 

流石に肉体の限界が来たようで、ふらついたハルカの体を駆け寄ってきた阿部が受け止める。

 

レムナントも大慌てで駆けつけてディアをかけており、火傷と疲労で体中ボロボロになっていた。

 

 

「生きてるか?バカ弟子」

 

「生きてますよ、クソ師匠」

 

「そうかい……ならいい。助かったぜ、今回は」

 

「……ええ、どういたしまして……」

 

「二人とも無茶をしただけなのにやり切った風な顔をしないでください……」

 

 

どこか満足げな笑みと共に、レムナントにツッコまれた師弟がフっと微笑んで視線を合わせた。

 

馬鹿なことをやった、という自覚はある。だが、やり抜いたことに妙な満足感があった。

 

阿部に肩を貸してもらいながら、イッタンモメンに乗って消えゆく異界から脱出。

 

レムナントのお説教と愚痴が混じったありがたいお話を聞きながら下山し……。

 

 

……途中でMAG不足によりイッタンモメンが盛大に墜落。

 

「なんでMAGの残量を確認してないんですか!?」

「しょうがねーだろ疲労困憊でそれどころじゃなかったんだよ!」

「羽が!天使の羽が枝に引っかかって!?MAG不足で飛べないんです!主殿助けてー?!」

 

 

三人そろってぎゃいぎゃいと喧嘩しながら歩いて下山することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもうまったく、師匠のせいでとんだ災難だ……」

 

「轢き殺した件と相殺でいいぞ」

 

「自由に天使の羽を消せる機能がなかったらモズの早贄でしたよ……」

 

 

怪我こそ直したが疲労困憊の体を引きずり、なんとか大江山から降りてきた一行。

 

四天王討伐に加えて『オニ』も相当削られていたようで、異界化が解除されたあとはまったく遭遇しなかった。

 

藪をかき分け、木々を踏みしめ、なんとかどうにか山道を下っていく。

 

 

「しかし、まさかお前が『仮面ライダー』を自分から名乗るとはなぁ」

 

「そう呼ばれましたから、いろんな人に。そうあろうと思ったんです……なれた気はしませんが」

 

「そんなことはありません!主殿は間違いなく英雄でした!ロウヒーローと呼ばせてください!」

 

「その呼び方はやめろレムナント……ま、お前が仮面ライダーにふさわしいかどうか、聞いてみろよ」

 

 

誰に?とハルカが聞き返す前に森を抜ける。

 

直後、ハルカの全身を『衝撃』が打ち据えた。

 

すわ「ザンでもくらったか!?」と少し焦るが、すぐに衝撃の正体に気づく。

 

 

これは『音』だ。

 

空気を震わせる『音』。

 

コンサートが終わった後の演奏者が、拍手の振動を全身で感じるように。

 

余りにも大きな『歓声』が、ハルカに向かって降り注ぐ。

 

 

 

「戻ってきたぞ、仮面ライダーだ!」

「くそみそニキもいるぞー!」

「よーくもまぁあんな怪物に突っ込めるもんだ」

「うーん……もうちょっと破天荒なら好みなんですが……」

「あら、私はああいうウブそうな子大好きですよ、マキマさん?」

「あーもー!二人とも今だけはそういう面出さずに拍手しません!?」

「元凶である我らはここにいてもいいのだろうか……?」

「兄者と銀さんだっているんだしいいんじゃないかな」

「弟者、俺も頑張ったから。割と今回はマジで頑張ったから」

「お疲れ様です、阿部殿……そして、仮面ライダー」

 

 

山道の出口に、今回の一件のために集まっていた面々が集合している。

 

口々に戻ってきた3名をほめたたえる声に、ハルカが茫然とした顔で周囲を見回す。

 

無傷の者から手当をしたばかりの者まで、老若男女様々な顔ぶれがいて。

 

少なくとも鷹村ハルカの記憶において、こんな沢山の人から称賛されたことはなかった。

 

まあ、そもそも褒められる事自体が少ない人生だったのだが……。

 

 

「……こ、れは……」

 

「みーんな俺達を待ってたんだぜ?」

 

「主殿は、身内びいきを除いても英雄(ヒーロー)なのです……私は、そう信じます」

 

 

どんな過酷な現実よりも、この優しい世界が受け止めきれない。

 

そんなハルカの脳内で、『僕はこんな称賛を受ける人間じゃない』という思考が過る。

 

だから、そんな周囲の皆をなんとか宥めようとして……人混みのなかから出てきた、車椅子の少年に動きを止める。

 

無くなったはずの四肢の内、両腕は『再生』されていた。

 

「紅葉……!?」

 

「ガイア連合の人に、腕を直してもらったんだ。それで、せめて一言お礼をいいたくて」

 

「っ……だけど僕は、何も間に合わなくて、最後にやってきてなんとかしただけで!」

 

 

「……違うよ。 君は間に合ってくれたんだ。ボクにとっては。

 ボクが生贄にした人たちのことは、ボクが背負わなきゃいけないモノなんだ。

 きっと皆、許さないから。ボクは許されないまま、裁かれて当然だった。

 

 ……だけど君は、そんなボクが完全に鬼になり果てる前に……助けてくれた」

 

 

車いすを前に移動させ、身を乗り出しハルカの体を抱きしめる。

 

高さの差で紅葉の顔がハルカの胸あたりにくる状態になるが、それでもしっかりと腕をまわし。

 

ハルカも咄嗟に紅葉を抱き留め、同じように背中へと腕を回す。

 

 

「君のおかげで、ボクは生きてる。

 

 君が自分を好きに慣れないなら、君の分までボクが好きになる。

 

 ありがとう、仮面ライダー」

 

「……ぅ、ぁ……」

 

 

もう、限界だった。

 

膝から崩れ落ち、それでも紅葉はおとさないように抱きかかえ。

 

紅葉の体を抱きしめたまま、ハルカの両目からじわりと涙の粒が浮く。

 

そのうちそれは滂沱の涙となり、幼子が泣きじゃくるような声が漏れ始める。

 

どちらが助けた側のかも曖昧になりそうな、そんな光景。

 

ただ、1つだけ確かな事がそこにある。

 

 

嗚咽を漏らし、抱きしめた相手に縋るように泣いてる少年。

 

彼は今日、仮面ライダーとなり。

 

彼は今、自分を肯定してくれる友人(モノ)を見つけたのだ。

 

 

 

 

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