放課後呼び出し宣言から数時間後、本日最後の授業を終えた城南中学1年B組。
名前のあいうえお順で決まった席なので、鷹村ハルカと太宰イチロウが隣になったは偶然である。
たか~たさ(だざ)の間に入る名前の生徒がこのクラスにいなかっただけだ。
そして盛大にボッチやってたハルカと空回りしまくってクラスでも浮いてたイチロウ。
彼らが友人になるまでには、アオイの知らない一か月で色々あったのだが……それは別の機会に語るとしよう。
今重要なのは。
「なあ、太宰。女の子との待ち合わせって何かマナーとかあるのかな。僕初めてなんだけど」
「お、俺だって経験ねえよ!相談されても困るって!」
「よし、こういう時は師匠が役に……だめだ絶対ロクな事にならない」
「鷹村、お前の師匠たまーに話題に出るけどヤバいって事しかわからないんだけど……」
「それだけ覚えてればいいよ。だいたい1師匠が0.3シノさんで0.5鬼灯さんで0.8ミナミさんだから」
「なんだその謎単位!?あとシノさんと鬼灯さんとミナミさんって誰!?」
この後来る大舞台に向けて相談を続ける二人。
しかし、彼女なんていたこともなく、告白なんてする方もされる方も未経験な二人では有効な対策など思いつくわけもなく。
結局「あんまり待たせた方がマズいよなぁ、多分?」というイチロウの言葉にそれもそうだとなったのか、うんうん悩みながらもハルカは待ち合わせ場所に向かった。
背後のイチロウから最後にエールを貰い、緊張した面持ちで歩くハルカ。
酒呑童子の元へとギルスレイダーで突っ込んだ時と同レベルの緊張である。
それどころか緊張のあまり
『同じぐらい緊張するんだしもう一回酒呑童子に凸ってぶっ殺して丸く収まるなら何回でもぶっ殺すわ、それでいいじゃん同じぐらいの緊張なんだし』
とかいう第一部のラスボスに対してあんまりな扱いを脳内でする始末。
師匠である阿部は「いいよ別に酒呑童子だし」というコメントを残している。
さて、そんなわけで。
無駄に気合を込めて歩く学校の廊下の先、下駄箱で入学時に買ったスニーカーに履き替えて、待ち合わせ場所である体育館裏に向かう。
高まる鼓動をなんとか抑え、途中で自分の顔が真っ赤なのに気づいて外の水道で顔を洗い、水を勢いよく出しすぎて首から上をびっしょびしょにしてからまた歩き出す。
カバンの中に入れておいたタオルで顔を拭いて「うん、さっぱりしたと思おうそうしよう」と頭を切り替え、今度こそ体育館裏にやってきた。
視線の先には、壁に寄りかかって待っていたらしいアオイの姿。
(やばいどうしよう、一昨日始めて見かけた時は普通だったのにすごい美少女に見える!おかしいなぁ魅了とかかけられてないはずなんだけど!?)
流石に芸能人並みとかアイドル級とかそういうわけではないが、クラスで「あ、可愛い」ってなるぐらいの彼女がとても魅力的に見える。
成長期・思春期の男子なんてひと皮剥けばだいたいこんなもん。あの子俺のこと好きなんじゃね?!とか思った瞬間妙に相手が可愛く見えるアレだ。
そして、ついに……。
「こんなこったろうとおもったよちきしょおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「な、なんだかごめんなさい……」
「太陽のばっきゃろおおおおおおおおおお~~~~~~~~~~~~~~~!!」
(あ、さてはこれ意外と余裕あるな?)
開幕一発目から「実は私の姉がガイア連合所属で~」とか「教室内をアナライズしたら~」とか
「名家()の面々ともめ事を起こす前に~」といった説明をわくわく顔で聞いていたハルカは、
そのあたりで「あれ?これ甘酸っぱい青春イベントじゃなくない?」という事に気づいて……これである。
寧ろもっとはやく気づけと言いたいが、彼も彼で浮かれていたのだろう。
もっというと生まれて初めての甘酸っぱい男女のイベントに期待するあまり若干オカルト絡みのアレコレだというのを認めたくなかった、ある種の現実逃避も含む。
この時、ハルカは「僕は死ぬまで現実から逃げないぞ……」と決断したらしいが、まあ、いつかその覚悟が役に立つ日も来るだろう。
「で、そのー……一応何者か聞いてもいいかなぁ、って。私の事情はそういうわけなんだけど」
「あー、ああ、うん。まあ、そうだよね。普通なら気になるよね」
アナライズでLV含めたステータスを見られているのなら当然だ、と呟いてから、さてどう説明した者かと頭をひねる。
流石に『式神ボディに脳とかその他を移植された改造人間です』はアウトだろう、ガイア連合が悪の組織認定まっしぐらだ。
※なお最近正義かどうか微妙に怪しいと思っている。
と、ここでなにかを思いついたのか、懐に手を入れてごそごそとまさぐりながら何かを取り出す。
「ガイア連合霊山同盟支部長、対魔組織鷹村家当主……そして」
取り出したのはガイアポイントカード。ガイア連合の関係者の中ではこのカードがそのまま身分証になる。
特にゴールド以上のカードはガイア連合において一種の特権階級だ。
ブラックカード……通称黒札と、その関係者と言われている『ゴールド』だ。
アオイも姉からゴールドカードを貰っており、ハルカの持っている『銀色っぽい』カードのデザインも色以外は同じモノ。
一瞬アオイは『シルバー?』と首をひねったが、シルバーカードにしては妙に白い。
「それ……ガイア連合の『プラチナカード』!?それに霊山同盟支部の支部長って……!?」
「プラチナに認定されたのは先月末だけどね。霊山同盟支部長も運営よりは協力関係に近いし。
それに半分ぐらいお飾りだし……とはいえ、身分証としては十分だろう?」
ハルカ個人の英雄性と、妙に多くの人間に慕われるカリスマ性。
黒札ガチ勢に匹敵する武力、苦難に挑む精神力、大衆に理解できる方向・性質の善性。
これらに目を付けた阿部の根回しにより、霊山同盟支部の支部長だけでなく近隣で友好的な霊能一族の取りまとめまで任されてしまった中学生である。
※鋒山家や鷹村家、半終末から増えだしたデビルバスター(七海等)も含む。蔵土師家はちょっと遠いので出向扱い。
とはいえ、阿部も今のハルカにそんなことしてる余裕が無いことは重々承知。
その上で『将来性』と『見せ札』を理由にプラチナカードの申請を他の幹部に提案した。
将来性は前述通り、とはいえこれだけでは通らなかったが……即効性がある『見せ札』としては効果を期待されていた。
具体的には『金札持ちへの対応』『本人の実力と合わせて金札や霊能組織への威嚇』あたりである。
金札同士のトラブルは十分起こりうるし、そういう場合どっちの金札のバックにも黒札がいるのでガイア連合は動きづらい。
そもそもトラブルの原因が黒札だったりする最悪のパターン(例・仮面ライダーあかりのライダーバトル)まで考えると。
『デモニカ持ち金札より強くて金札より権限・権威があって黒札じゃないので最悪切り捨てても良い存在』
プラチナカードの認定必須とはいえ、こういう存在はひっじょーに有難かったのだ。
霊山同盟支部の巫女長等に地域の取りまとめを任せつつ、いざと言うときの武力行使と権威・権限だけはプラチナカードという形で付与。
霊山同盟の組織力と彼の武力があれば、ガイア連合が直接何かしなくてもある程度自活できるエリアが作れるかもしれない。
将来的には霊山同盟支部長としてそのエリアのトップを丸投げする……というのが阿部の計画であった。
主に自分がそんなことしたくない&そういうの取り仕切ってるのが国内外共にメシア穏健派だからこのままだとヤヴァイというのが理由である。
「十分というか十二分というか……それはそれで新しい火種になるというか……」
「プラチナカードはマズかった?」
「いや、マズいのは霊山同盟の方。聞いた感じ、霊山同盟でも結構な地位にいるんだよね?」
「巫女長の家にアポ無しで行っても笑顔で出迎えてくれて高いお茶とお菓子が出てくるぐらいには」
「ですよねー……」
あちゃー、とアオイが額を抑える。
霊山同盟が問題なのか?と疑問を覚えるハルカに、アオイが1つ1つ説明し始めた。
「……この辺りの名家には、出身が戦前の霊山同盟だった一族が多くって。
GHQやメシアンからのオカルト狩りに徹底抗戦しなかった一族というか、そのー……」
「ああ、逃げたのね」
「ハイ……ただ、その辺りの経緯が残ってるのウチみたいな零細だけ。
名家()の家では『臥薪嘗胆のために潜伏した霊能力者の生き残り』
みたいな改変されてまして……そうしないと名家()の権威維持できないから」
「ろくでなしのロイヤルストレートフラッシュかな???」
「おまけに名家()の面々からすると、霊山同盟は自分たちと分かち合うべき霊山を占有してる上に新興組織であるガイア連合に霊山ごと身売りした組織で……」
(読心使った感じこりゃマジかぁ……)
ギルスの肉体に覚えさせた『読心』スキルで思考を覗きつつ、こりゃ面倒なことになるぞぉと空を仰いだ。
実力という意味でははっきりいって全員まとめてかかってきてもハルカ一人で鎮圧できる。
なんなら一人たりとも殺さないどころか骨の一本すら折らないまま全滅させられる。
が、下手に大暴れするとどこまで敵に回すのか予測できないし、向こうがヤケになって民間人を巻き込む危険性だってある。
どこぞの霊能組織である大赦は「え、民間人の犠牲とか大事の前の小事では?」というスタンスだし、蔵土師家の一件でハルカは十分に学んでいた。
人間はその気になればいくらでも残酷になるし、ろくでもないことでもやる、と。
「……分かった、派手に動くのはやめておく。とりあえずさっき聞いてた君の姉が帰ってきてから、師匠も交えて相談しよう」
「アリガトウゴザイマス……あ、これガイアチャット*1のアドレス、何かあったらココにメッセくれたら返信するから」
「オーケー……なんで中学生の僕らがこんな事悩んでるんだろうなぁ」
「わかんない……あ、ちなみに私、この辺りで異界に潜って悪魔退治とかもやってるんですが……」
「あ、僕は僕で回されてる仕事があるから多分手伝いとかは無理。 逆に手伝ってとか」
「すいませんLV50超えのお仕事とか死んじゃいますごめんなさい」
(うう、これはいつも通りガイア連合アプリで集まったフリーの面々と行くしかないなぁ……)
二人してため息を吐き世の中はままならないなぁ、とぼやくのだった。
そして、葛葉葵にとってのままならない日はまだ終わらない。
その日の夜、市内某所の異界化した元工業地帯の調査クエストのため、葵はフル装備で廃工場に到着。
異界か否かの判定は既に初期調査が終わっており、レギュ3.3でDLV15以上かつハンターランクを相応に上げている者だけが受けられるクエストだ。
葵以外にも3名の霊能力者がおり、皆この手のクエストで同行したこともある面々である。
既に終わっている初期調査では出現悪魔のDLVは10前後、異界の主は詳細不明。
今回の主な仕事は異界化によって内部がどのように変異しているのか、どんな罠や危険地帯があるのか、可能なら悪魔のアナライズデータの収集だ。
異界の主の討伐も一応ボーナスに含まれてはいるが、安全マージンをとって戦うタイプであるこの4名は無理せず異界の調査だけで終える計画を立てる。
曲りなりにもガイア連合事務局から『可』以上の評価を得ている面々。
『まだいけるはもう危ない』をモットーに、今回も予定通りに仕事を追えるはずだった。
だったのだが……
「走れ走れ走れッ!追い付かれるぞ!?」
「なんなのよあの悪魔、主じゃないの!?」
「知るかよ、言ってる間に走れ!足やられたら終わりだ!」
(どうしてあんな悪魔がこんなところに……!?)
4名は脱兎のごとく異界の外を目指して走っている。
その後ろからは2つの足音が追ってきており、このままでは脱出できるかどうか微妙な差。
問題なく調査を進めていた4人の前に、屋根の上から飛び降りてきた二匹の悪魔。
ここまで遭遇した悪魔とは段違いの強さに、即座に4人は撤退を決断したのである
(出現悪魔のDLVは10前後のはずだったのに、なんであんな……!?)
『獣人 オセロメー DLV43』。アオイたちを追っている二匹の悪魔の正体だ。
アステカ神話の神、テスカトリポカの従える戦士であり、別名はジャガーマン。
黒曜石の武器か木製のこん棒を持ち、ジャガーの皮をかぶって武装した戦士。
恐らくその伝承が『獣人』という形で悪魔になったのだろう。
どちらにせよ、一番強いのがDLV31のアオイであるこの4人では無理がある。
1匹なら数の差を生かして一気に畳みかければ勝てるが、二匹では間違いなく後衛の誰かがやられる。
なにより複数いるということは、この悪魔は異界の主ではない。これ以上増えたら一人たりとも生き残れない。
それでもなんとか、廃工業地帯の出口近く。最後の建物まで来たところで……。
「!? なんだこれ、廃材で出口がふさがってやがる!?クソ、別の出口を探すんだ!」
「ダメだ、他の出口を探してる余裕はない!ぐっ……何とか廃材は動かせる!廃材をどかすんだ!」
「どうするのよ、もうアイツらがすぐそこに……!」
「……私が足止めするから、3人は出口をこじ開けて!」
アガシオンと簡易式神を呼び出し、オセロメーが追ってくる方向へ向き直った。
右手に対悪魔拳銃、左手にガードアクセラーを構えて迎え撃つ。
最初に出てきた一匹をアガシオンに任せ、自分はもう一匹に接近。
ディアを覚えさせた簡易式神を回復役にして遅延戦闘に挑んだのだが……。
「あぐっ!?」
オセロメーの『蹴り』がアオイの体を浮かせる。
追撃に振るわれたこん棒を咄嗟にガードアクセラーで防ぐものの、崩れた体制では受け切れず、工場の機械の上を転がされながら吹っ飛んだ。
「づっぁ……」
出血はデモニカが止めてくれる、骨折程度なら動けるようにもしてくれるし、HPが0になるまでは死にはしない。
とはいえ、痛みを完全に消してくれるわけでもない。
うめき声を漏らしながらなんとか立ち上がり、こちらに迫ってくるオセロメーに『アギ』を放つ。
オセロメーが『火炎弱点』だったことは唯一の幸運だった。一瞬ひるんだオセロメーに対し、切り札のガイア連合製『対悪魔弾』を素早く装填。
「そこぉ!!」
『グオオッ!!』
アオイの放った弾丸がオセロメーの脳天を捉えるのと、オセロメーの投げたこん棒がアオイの胸を打ち据えるのはほぼ同時であった。
額に空いた穴から血が噴き出し、オセロメーの体がゆっくりとMAGに分解されて消えていく。
しかしアオイにも相応にダメージが入ったようで、G3の胸部装甲にはヒビが入り、本人も「げほっ……!?」とせき込みながらふらふらと立ち上がる。
(肺や心臓は……無事みたい。よし、あとはなんとか、アガシオンやシキガミと合流してもう一匹を……)
そこまで考えた所で、アオイの背中に何か重いモノが投げつけられた。
「がはぁ!?」と肺の中の空気を無理やり絞りだされ、再度コンクリの地面へと叩きつけられる。
不意打ちのせいでガードアクセラーと対悪魔銃がアオイの手を離れて地面を滑っていくが、拾う余裕もない。
ぐらぐらと揺らぐ視界でも無理やり目を開けて、ダメージの表面化が隠せなくなってきたG3が立ち上がるが……。
(!しまった、戦闘に夢中でCOMPの表示を見てなかった!?アガシオンがやられてる!?)
簡易式神は無事だったのでこちらに戻ってきたが、どうやらアガシオンを倒してフリーになったオセロメーその2が、そこらにあったスクラップを投げつけてきたらしい。
オセロメーその1との戦いで相応に魔石等も使ってしまった、残るは簡易式神のディア頼りの泥仕合だけ。
ちらりと出口の方を見れば、既に廃材の向こうにうっすらと空間が見えつつある。
自分の足止めが間に合うかどうかは……だいぶ厳しいだろう。
(ごめん、お姉ちゃん。私ここまでかも……!!)
じわり、と目じりに涙が浮かぶ。痛みだけではない、あの明るい姉を泣かせてしまうかもしれない、という罪悪感からだ。
恐怖もあるが、それ以上に『自分が死んで泣く家族や友達の顔を想像するのがつらい』、葛葉 葵はそんな少女である。
それでも一縷の望みをかけ、残り少ない魔石を使おうとしたところで……気づいた。
オセロメーの視線が、自分に向いていない。
そして、オセロメーの視線の先に『光』が見える。
『ナニモノ、ダ……!?』
「ッ……?(なに、人影?それに……『光るベルト』?)」
オセロメーですら困惑してしまうほど、常識はずれな出来事が目の前にある。
近づいてくる人影は、暗がりと『まばゆい光を放つベルトのような装飾具』の輝きに遮られてシルエットしか見えない。
しかし、その光は目も眩むほどの光量でありながら、アオイには不思議と違和感も不快感も感じなかった。
清らかで、清廉で……『光というモノのルーツがそのままここに現れたのなら、きっとこんな光景なんだろうな』なんてことを考えてしまうような。
オカルトとのかかわりで常識外のアレコレに触れてきたアオイですら、神秘的だと思ってしまう光だった。
そのシルエットが一歩一歩近づいてきて、顔の輪郭がアオイに見える前に『ベルトの両脇』を手で思いっきり叩くように押し込む。
反射的に目をそらしてしまうほどの光が放たれ、その後に現れたのは……。
「金色の戦士……『アギト』……?」
アナライズデータを読もうとするが、何故か文字がガサつく。
まるで『映像を撮る』行為に対する妨害が働いているかのように。
それでも読み取った名前……『AGITO(アギト)』を、ついぽつりとつぶやいた。
『超越肉体の金(グランドフォーム)』
こことは別の世界で、そう呼ばれる姿の戦士が顕現した。