【S県某所 金札向けマンション ハルカの部屋 リビング】
「ほんっとうにすいませんでしたー!!!」
「いやいやいや、大丈夫だから!ほら、傷もさっぱり治ってるし!」
「この度は腹かっさばいて詫びますので何卒!!」
「いいから大丈夫だから!?というかいつの時代の謝罪の作法!?」
前回までのあらすじ 『必殺技(ガチ) ライダーブレイク』
しかもしょっぱなから中学生の土下座で始まってしまった。
そんな新章開幕初手を飾ったのは、出番が回ってきたと思ったらひき殺しアタック誤射(2回目)をカマした主人公、鷹村ハルカであった。
そして、中学生が土下座してる光景に罪悪感がマッハな青年……前回ラストで気絶していた『クウガ』こと、小野寺ユウスケもカオスすぎる状況に置いてけぼりである。
「そこまでにしておけ、ハルカ。人のいい相手に土下座は暴力にしかならん」
「でもぉ、ししょぉお……」
連絡を受けてかけつけた阿部が、とりあえずガチ泣きのハルカの襟をつまんで子猫みたいに起こす。
フローリングに全力土下座カマしてたのは、ハルカの方も本人なりに必死にやった結果が盛大に悪手引いてしまったからだろう。
良くも悪くも同格か格上、それも準備万端な悪魔ばかり相手してきたせいで、到着した時点で相手が死にかけ……みたいな都合がいい状況など初めてなのだ。
あと、メタ的に言うとハルカ本人の『運』が本気で終わってるせいで盛大に状況を悪い方向に向かわせている、というのもある。
「……ともあれ、小野寺さん。今回はウチの弟子が申し訳ない。治療は万全に行いましたが、後遺症等は?」
「あ、いえ。大丈夫です。傷一つ残ってないですし……」
流石に変身に必須の条件である『霊石アマダム』の疲弊はどうしようもないようだが、それも数時間程度で自然回復する。
寧ろ小柄な中学生がガチ土下座している、というシチュエーションの方がユウスケのメンタルにダメージを与えていた。
「それで、ええと。右も左も分からないから、出来れば説明が欲しいんですけど……」
「……そうですね。俺達も貴方について色々聞きたいことがあるので。ゆっくり時間も取れましたし」
「えーっと、師匠。イチロウはいいの?気絶してるから奥の部屋で寝かせたままだけど」
「あのまま寝かせておけ、念のためドルミナーかけたから、朝までは起きない」
「……アオイさんを先に帰らせたのも?」
「ああ。ゴールドカード以下には話せない情報が含まれる可能性が高いからだ……」
レムナントが淹れてくれたお茶が各自に配られ、土下座をやめてイスに座ったハルカも交え、世界をまたいだ『話し合い』が開始された。
口火を切ったのは阿部、ガイア連合についての『小野寺ユウスケに話してもいいレベルの情報』を明かす。
さきほど戦った『悪魔』という生物に対処する組織である事。*1
とある『秘術』*2によって『ここ以外の世界』を観測することが可能な事。
それによって『仮面ライダー』の情報をこの世界にいながら*3手に入れられた事。
……ざっくりとだが『嘘は言ってない』レベルの隠蔽も交えつつ、これらを語って見せた。
「ななるほど……ようは警察なんかの代わりにあの悪魔、って怪物と戦ってる組織ってことか。
それで、なんかすごい魔法か何かで俺たちの事を見た、と」
「ええ、そうなります。まあ、最近は警察や自衛隊にも秘密裏に協力を頼んでいますが……おおむねその認識で問題ありません」
今までさんざん常識はずれな目に会ってきたせいか、ユウスケはあっさりと阿部の説明を飲み込んだ。
怪人に対処する警察以外の組織というのは、仮面ライダー絡みならそこそこ見るのがあの世界である。
結果、「今回はこんな感じかー」ぐらいの認識で通った、通ってしまった。
「それで……貴方が『世界の破壊者』と共に歩んだ道のりについては概ね存じ上げております。
問題は、なぜ貴方がこの世界にいるのか。かの『ディケイド』と共に訪れたんですか?」
「それが、俺もさっぱりで……士とも暫く会ってないし、気づいたらこの辺りの廃墟に倒れてたんです」
ふむ、と阿部の表情が険しくなる。
もしかして疑われてるのか?!とユウスケが一筋の冷や汗を流すが、本当に彼の視点だとそうとしか言いようがないのだ。
世界の破壊者……またの名を『仮面ライダーディケイド』。
彼の親友でもある門矢 士(カドヤ ツカサ)の変身する仮面ライダーであり、いくつもの『仮面ライダーの世界』を共に旅して戦ってきた。
経緯は省くが、色々あって仮面ライダーの世界を滅ぼす『世界の破壊者』となったディケイドと戦うことになって、自分は相打ち狙いの特攻を仕掛けて敗北。
他の仮面ライダーたちも皆ディケイドに敗れて全滅した。
その後、これまた細かい経緯は省くが自分を含めた仮面ライダーたちは全員復活。
最後に士と会ったのは、復活した直後に大ショッカーを引き継いだスーパーショッカーと戦ったあの時だ。
「それで、俺は元の……俺のいた『クウガの世界』に戻って、今度は士に頼らなくても自分の世界を守れるようにならなくちゃって思って過ごしてたら、ここにいたんです」
ユウスケが語り終えると、阿部は「なるほど」と一言呟いた。彼がホントにシリアスな空気の時しかしないマジメな顔をしているので、ユウスケは気が気ではない。
内面こそド変態でバイでヤリチンな、到底ユウスケと同じよいこのニチアサ空間に出しちゃいけないキャラなのだ。全裸ベルトの尻彦さん?知らんな。
一方のハルカの方は、完全にヒーローショーを見に来たチビッコの顔になっていた。
中学生にしては幼い容姿も相まって、ユウスケを見る目が完全にニチアサヒーロータイムにテレビの前にかじりついてる子供のソレ。
【仮面ライダー】という概念を、ガイア連合の黒札が妙に好いていることが多い英雄の名前……ぐらいしか知らなかったハルカにとって、本物との出会いは強烈だった。
いくつもの世界を渡り、悪魔とは違う怪人たちと戦って人々や世界を守ってきた歴戦の勇士。
色々失敗もあったとはいえ、ハルカからすればユウスケは『偉大な先人』である。
アレキサンダー大王がアキレウスを見るような表情に、ユウスケの方がちょっと気まずさ感じてるぐらいであった。
「わかりました、ひとまず貴方の今後についてはガイア連合の方で面倒を見ます。
ハルカ、罪悪感を感じてるんなら、この家に小野寺さんを泊めてやれ」
「! えっと、いいんですか、師匠?」
「いいんだよ、まあ実際、今回の事も最後はゴタゴタしたが仕事はこなせてるしな。及第点だ。
俺は山梨支部に行って今回の件の報告をしてくる。しばらく頼んだぞ?
小野寺さん、奥の客間が空いておりますので……それと、生活費についてはこちらのカードを」
「? カード?」
ユウスケに手渡されたのは、阿部が普段から携帯している『ガイア連合ゴールドカード』の一枚であった。
ハルカのような才能がある現地人を見つけた時のスカウト用であり、既にアカウントが作られ、阿部が入れておいた手付金ならぬ手付ポイントが入っている。
「中に1ポイント1円相当で『50万ポイント』入っています、クレジットカードと同じような感覚で使えますので……現金の方は申し訳ない、今財布が空で」
「いやいやいやいや!?!?そもそもポンと50万円渡されても困りますって!?」
「大丈夫です、俺にとってははした金ですから……ああ、もしもこれも罪悪感がおありでしたら、
50万ポイントのかわりに1つ頼みが……その報酬が50万ポイント、でどうでしょうか?」
頼み?と聞き返すユウスケ。
普通なら頼み事1つで50万円なんて話は怪しすぎるし、のってくるはずもない。
が、小野寺ユウスケはなんというか、一度信じた相手への懐がガバガバなのだ。
正統派主人公タイプの熱血単純お人よしな性格、と言えばいいのだろうか。
具体的にはこの流れであっさりと「俺に出来る事ならなんでも!」とか言っちゃうのが彼の性格の証明である。
「ちょ、小野寺さん!?」
慌ててハルカが止めに入る、なんせ相手はヒーローとはいえ美形だ。
阿部なら「じゃあ俺とベッドで1発」とか最低な事を言い出しかねない怖さがある、と考えていた。
フフフ、といやーな笑みを浮かべて懐に手を入れた阿部に、アホなこと言ったらケリ入れてうやむやにしようと身構えていたのだが……。
「……この色紙にサイン貰えますかね。小野寺ユウスケ名義と、仮面ライダー名義で」
「「どっから出したんですかその色紙?!」」
懐からにゅっと出てきたサインペンとサイン用色紙(約24×27㎝)に、思わずツッコんでしまったハルカとユウスケなのであった。
【数時間後 ガイア連合山梨支部 技術部 兎山シノのラボ】
「……そっかー。やっぱりショタオジとも話した感じ『そういうこと』なんだね?」
「ああ、治療するフリをしながら『小野寺ユウスケ』の体を調べたが……アナライズの詳細データを合わせると、ほぼ間違いない」
ユウスケからサインをもらってほくほく顔で部屋を出ていった時とは真逆、またも先程見せたシリアス顔に引き締まっている阿部。
神主の許可を得てシノにも見せているのは、仮面ライダークウガ/小野寺ユウスケのアナライズデータだ。
「『英雄 オノデラ ユウスケ』……人間形態でもLV50、変身したらもっと上がるだろうね。
真・全門耐性に、攻撃手段は物理/万能。ちゃんと『超変身』もあるみたい。
LVにしてはステータスが大人しいのも、変身した時の強化に特化してるからだと思う」
「ああ。マイティやドラゴンなんかの基本フォームならまだハルカでも対処可能だろう。
まかり間違って強化形態である『金の力』に目覚めても、『運命愛され勢』ならなんとかなる。
……『凄まじき戦士』出されたらショタオジ呼ぶしかねぇけどな」
クウガ最強の形態である『凄まじき戦士』の強さを思い出し、互いに頷く。
とはいえ、小野寺ユウスケの性格は二人がテレビの前や映画館で見たままのお人よし。
よっぽどの事が起きなければあの力がガイア連合に向くことはないだろうし、そもそもこの強さなら使う必要がある相手もそうはいないだろう。
「幸い、黒札の特撮クラスタ組は俺やショタオジが回してるレベルの情報でコレにたどり着けるヤツは少ない。寧ろ『女神転生』に詳しいヤツのほうがたどり着くかもな」
「特撮好きだからこそ、ディケイドの存在のせいで引っかかるワナだよねぇ、これ。 いや、熱心なディケイドのファンなら寧ろ気づくかも」
「ああ……あの小野寺ユウスケには、特撮ファンから見てもメガテンファンから見ても、それぞれ別々の『違和感』が存在する。そして、その両方に通じてるヤツなら考えりゃたどり着ける場所に『答え』がある」
アナライズデータの詳細、小野寺ユウスケから聞き出した今までの来歴、仮面ライダーの歴史、女神転生の設定。
思考停止をせず『真実』を突き詰めていけば、どの『違和感』からでも道をたどり、答えの一端にたどり着ける『謎』。
「全ての不可能を消去してしまえば……か」
「『緋色の研究』?」
「ついでに言えば、大半の人間は目で見るだけで観察ということをしない。
見るのと観察するのとでは大違いだ」
「『ボヘミアの醜聞』……って、どっちもシャーロック・ホームズ?」
「ああ、こう見えてファンでな。『瀕死の探偵』が一番好きなんだが……話がそれたな。
少なくとも、小野寺ユウスケが小野寺ユウスケであることは間違いない。真実が少々酷だがな」
テンノスケが入れたコーヒーにスティックシュガーを5本注ぎ込み、一気に飲み干す。
過剰摂取した糖分が、使いすぎてエネルギー切れになった脳みそをもう一度回転させてくれた。
「しばらくは経過観察、あとは黒札の特撮ファンに引き続き聞き込みだな。俺たちもそれなりにファンだが、見落としてる作品があるかもしれん」
「だよねぇー、聞いた感じ、あの小野寺ユウスケの時間軸は『MOVIE大戦2010』のすぐあと。
『小野寺ユウスケの映像作品での最後の出番』の直後とか、出来過ぎだもんねー」
「今の所他の黒札にもそれとなく聞いて回ってるが、少なくともメジャーな映像作品だと
『あの映画の後に小野寺ユウスケは登場していない』」
「俺も小説版とかマンガ版なんかはチェックしきれてないけどな」と付け足してから……。
「黒札の特撮クラスタに聞いて、俺も毎週見てた『仮面ライダーエグゼイド』と始まったばかりの『仮面ライダービルド』が最新作だ」
「シノさんは研究忙しいから撮りためて一気見だけどねー。
転生前の時系列に多少ブレがあったとしても、『ビルド』を最後まで見た人すらいない。
なら転生者が前世で死んだ時期は一番新しくても『2017年9月』前後になるわけで……。
まあ、特撮とかカケラも興味ない人がもっと後から転生してきてる可能性もあるけどさ」
「だが、少なくともそれまで小野寺ユウスケにデカい出番はなかったハズだからなぁ。
そう考えるとこの『小野寺ユウスケの仮説』は大きく間違ってはいないはずだ。
大江山の一件で心配だったけど、仮面ライダーの世界からの過度の干渉は受けづらいと思う。
なんにせよ、過度な干渉は禁物。小野寺ユウスケがこの世界に現れた『原因』の究明に移ろう」
オッシャー!と気合を入れるシノと、次に寝れるのは何日後だろうなー、と肩を落とす阿部。
彼/彼女は知らない。皮肉にも観察の一歩先、未来予知に近いナニカを前世で持っていなければたどり着けない要素。
『2018年』の事件がまだ起きていない事を……彼らは知らない。