ライダーブレイク誤射事件(約二か月ぶり2回目。小野寺氏の「俺もライダーキックをモモタロスに誤爆したことあるから」で示談)から一晩明けた朝。
土曜日ということもあり、小野寺ユウスケは昨日の疲れが出たのかぐっすりと爆睡していた。
客間は和室であり、布団乾燥機でふわふわになっていた布団の誘惑には抗いがたく。
5月とはいえ朝方はちょっと肌寒い日もある季節の布団の重力は、ユウスケからすればン・ガミオ・ゼダよりも強敵にすら思えた。
とはいえ、そんな惰眠の楽園はいつまでも続かない。襖をあけて入ってきた人影が両手に持っていた『ソレ』を掲げ……。
「阿部殿直伝、死者の目覚めーッ!!!」
ガンガンガンガン!という金属音に、たまらずユウスケも「うわぁー!?」と声を上げて飛び起きる。
その正体は人影……この家の家事炊事担当であるレムナントが、手に持ったおたまとフライパンをシンバルのように叩きまくった音であった。
阿部が「ねぼすけ親子でも起きる秘奥義なんだから覚えとけ」ってネタで作ったスキルカードを差したら、なぜかペンパトラと同じ効果になった。睡眠を解除できるからかもしれない。
「おお、阿部殿はこれならどんなねぼすけでも起きると言っていましたが、本当ですね」
「な、何事かと思った……朝からグロンギでも出たのかと……」
「グロンギ?」
「あー、いや、こっちの話……うん、おはよう」
ふあぁ、とあくびを一つしてから布団を出る。
寝ぼけ眼をこすりながら洗面台に向かい、昨日サインの後にコンビニで買ってきたマグカップと歯磨きセットで歯を磨き、顔を洗う。
さっぱりしたあとに一度大きく伸びをして、そこでようやく風呂場に誰かいる事に気が付いた。
どうやらユウスケが洗面台に来る直前にシャワーを浴び始めていたらしい。
置いてある着替えは少年向けのモノ……おそらく中にいるのはハルカだろう。
鉢合わせにならないように手早く口を濯いでリビングに行けば、数分後にハルカが続いて出てきた。
「あ、おはようございます、ユウスケさん」
「おはよう、ハルカ君。寝汗でもかいたの?」
「いえ、毎朝ランニングと木刀の素振りが日課になってるので」
「…………剣道クラブとか通ってたりする?」
「い、一応悪魔退治の特訓です……あんまり役に立ってないけど」
剣術も(神主特製指導用式神のスパルタ特訓込みで)修めているが、どうしても斧やこん棒のような多少雑な武器の方が使いやすいのである。
それこそ超一流の剣士ならば霊刀を用いてずんばらり、でカタがつくのだろうが、どうにも彼の剣術の才能は高く見ても一流に今一つ届かない程度。
スキルカードによる習熟も併せてみたが、ガイア連合黒札級になれば同じことは皆試している。
となればLV50以上、つまり半終末後の黒札ガチ勢以上の強さの重要ポイントでもある『適正と習得スキルが合っているか』が重視されるわけで。
彼の才能は素手での格闘、そして斧や棍のような重量武器が優れている。
ランニングについても無駄ではないが、既に不眠不休で何日も走り続けられるハルカからすれば、フルマラソンですらちょっとした散歩気分だ
なので素振りやランニングはそこまで成果を上げていないのだが、こればかりは剣術を始めた3歳からの習慣なので日課になっていた。
「へぇー……すごいなぁ。その年でマジメでさ!」
「いえ、ほとんどクセみたいなモノですから……」
「いやいや、継続は力なり、って言うじゃないか。続けてるってことが大事なんだよ、きっと!」
「あ、ありがとうございます」
うぅー、と若干赤くなりながら朝食のハムエッグをもぐもぐしているハルカ。
褒められ慣れてないのもあるが、ユウスケのまっすぐすぎる言葉は意外と素直な子供であるハルカには特攻であった。
それはそれとしてレムナントが「我が主尊い……」って顔をしているが、二人は努めてスルーすることにした。
「え、ええと。ユウスケさんの事情を調べるために、今日はユウスケさんが倒れてたっていう異界に行こうと思うんです!」
「あー、そっか。俺、目覚めた後はわけもわかんないまま……悪魔、だっけ?アレと戦ってる内に脱出してたみたいだからなぁ」
「はい。場所はS県F市、富士山の麓にあるさびれた牧場ですね」
富士山をまたいだ反対側には山梨支部があり、同時に神主にとっての霊山でもある富士山。
そこにある廃牧場の1つが異界化したのはつい最近であり、富士山そのものが日本でも最高クラスの霊山だけあって異界の質も高い。
出現悪魔の平均LVが30を超えるとあってはそうそう凸れる黒札もおらず、人外ハンター協会も黒札ガチ勢以上がチームを組んで探索することを推奨していた。
念のため黒札ガチ勢が一度調査に入っており、異界の主こそ
「僕とユウスケさんとレムナントで先行して向かって、可能なら入り口付近の悪魔を間引き。
師匠の到着を待って深部へ突入します。あとは悪魔退治をしながら内部調査……って感じですね。
これといって面倒なギミックは無し、ただし広々としてるので乱戦になる可能性高し、と」
「うん、だいたいわかった! ……士ならこう言うはずだからな」
「士?……あ、昨日言ってた、ユウスケさんの親友の?」
「ああ! 頭はいいし、強いし、ちょっと口は悪いけどさ……頼りになるヤツなんだ」
スーパーショッカーとの戦いの後、元の世界に戻ったと思ったら気づいたらここにいたユウスケからすれば、親友の安否も気になるところなのだろう。
文字通り『世界』をまたにかけた戦いを乗り越えた戦友同士なのだから。
(いいなぁヒーロー、師匠もやってることはヒーローなんだけどなぁ)
(どうしよう、昨日話した時俺の活躍をちょっと盛っちゃったせいか罪悪感が……)
といっても、流石にディケイドそっちのけで過度に自分の活躍を盛ったわけではないあたり、ちょっと後輩ライダーに見栄を張りたくなった程度だろう。
と、ここでユウスケが「あ、そういえば!」と声を上げた。
「例の『アギト』……イチロウ君だっけ。気絶させてたけど、大丈夫そう?」
「あ、はい。一応師匠にも見てもらいましたけど、負傷よりもアギトの力を使った後の疲労で眠ってるだけみたいです。
いつも使った後は丸一日寝てますし、部屋で寝かせておけば今夜には目が覚めますよ」
「そ、そうなんだ……そっか、だから俺が見た時は戦闘中なのに使わなかったのか」
「オマケに本人に制御できてませんからね。変身すると勝手に戦ってるみたいで」
(なんでアギトはみんな自分の力を制御できてないんだ……俺の『究極の闇』がデフォなのか?
いや、でもハルカ君は『見た目はちょっと違う』けどギルスを制御できてるし、個人差かな?)
なにはともあれ朝食を食べ終えて、身支度を整えてから3人は富士山の異界に向かう事となった。
ギルスレイダーの変形機能を使いサイドカーを生成、ユウスケが乗り込み運転する。
(※ちなみに運転免許については『なぜか』この世界でも問題ないモノに変化していたが、ユウスケ曰く「今までもそんな感じだった」とのこと)
サイドカーにはハルカが乗り込み、レムナントはハルカの入学と同時に購入したバイクに跨る。
こっちはスキルカードにより運転スキルも免許証(ガイア連合の方で用意した)も万全なのであった。
……ちなみに、スキルカードの出どころは阿部のガチャのハズレアである。
【富士山某所 廃牧場異界入り口】
「ここですか、ユウスケさん?」
「ああ、ここのイカイ?の中で気づいたら倒れてたんだ……」
「よく悪魔に襲われませんでしたね……」
「何故か変身した状態で倒れてたから仲間と思われたんじゃないかな……」
廃牧場の異界、現在地は放牧等に使うスペースで、元は牧草が生えていたであろう大地は雑草が伸び放題。
入り口は一見すると古びた牧場の木の門であり、周囲は木の柵でぐるりと囲まれている。典型的な牧場の光景だ。
畜舎があったほうが異界の深部扱いのようで、回り込んでそちらから侵入してもこちらに飛ばされてしまう。
故にこちら側から精鋭のみで侵入し、悪魔がわらわら寄ってくる外側を一点突破。
異界の主がいると思われる畜舎に突入、これを撃破する。
当然、途中で厳しいと判断したらトラフーリやトラエスト等で撤退する準備も整えてきた。
「僕が『LV50』、ユウスケさんは変身すればそれ以上。レムナントとギルスレイダーLV40だからまあ……僕らだけでも入り口のザコ狩り程度は可能でしょうね」
「私も『天使 パワー』になったおかげでパワーアップしてますからね」
「ホントなんでいつの間にかランクアップしてるんだよお前……」
「寧ろ俺はレムナントさんが本物の天使様っていうのが衝撃の真実すぎるんだよなぁ」
「「ロクなもんじゃないですよ天使なんて」」
「ハルカ君はともかく天使のレムナントさんが言っていいのソレ!?」
まるで常識ですよと言わんばかりにハモる二人に、盛大にユウスケがツッコんだ。
なんとなーく気まずさが湧いてきたのか、咳ばらいを1つしてから話題を仕切りなおす。
「ご、ごほん。あ、あー……それがアナライズってやつかぁ。
すごいよなぁ、概ねの強さとか得意不得意まで見るだけで分かるなんて」
「精度とか限界はそれぞれ変わりますけどね。普通は機械でやりますし」
「へぇ…………あれ?さらっとギルスレイダーを戦力に数えてたけどそのバイク戦えるの!?」
「スピードとタフさと回復魔法が特技です!」
「実はファイナルフォームライドされた仮面ライダーだったりしないよな、このバイク……」
士ならやりかねない、という微妙にアレな信頼?のようなモノを頭に浮かべるユウスケを前に、ハルカがスマートフォンを立ち上げる。
どうやら阿部に連絡を取っているようで、しばらく会話した後に通話を切った。
「もうすぐ到着するから、入り口まわりの悪魔だけでも掃除しておいてくれ、だそうです」
「よぉっし、それじゃ……先輩ライダーとして恥ずかしいところは見せられないな!」
ハルカとユウスケが異界の入り口に立ち、同時にポーズを取る。
腕を胸の前で交差させてから、腰だめに両腕を構えるハルカ。
手を腰に翳してベルトを出現させ、左腕を腰、右腕は前に突き出すユウスケ。
「「変身!!」」
二人の体が『変身』し、ギルス&クウガとなって走り出す。
異界内部に突入し、後ろからギルスレイダーとレムナントが後に続く。
突入して真っ先に見えたのは、こちらに気づいて駆け寄ってくる牛頭と馬頭の巨体。
「闘鬼ゴズキと闘鬼メズキ!LVは34と35! 力が強いです、気を付けて!」
「わかった、任せろ!」
ギルスとクウガが前衛として前に出て、それぞれ目の前の悪魔を迎撃。
ゴズキの武器をギルスクロウで受け流し、反撃で腕を切り落として武器を取り落とさせるギルス。
メズキの大振りの一撃を潜り抜け、武器の間合いの内側に踏み込んでみぞおちに拳を振るうクウガ。
二人が敵を抑えているからこそ、レムナントとギルスレイダーは補助・回復に専念できる。
屈強な肉体を持つはずの闘鬼二体があっさりと物理攻撃だけで押し切られる。
「力が強いんなら、これだ! 超 変 身 ! ! 」
ゴズキが落とした剣を拾い上げ、超変身を使用。
奪い取った剣が両刃の大剣『タイタンソード』に変化し、全身を覆う屈強な鎧を身に纏う。
【邪悪なるものあらば鋼の鎧を身に付け、地割れの如く邪悪を切り裂く戦士あり】
シンプルに力と防御力に特化した紫の戦士、『タイタンフォーム』へと変身する。
メズキの降りおろした剣を鎧ではじき返し、逆にタイタンソードの一撃で切って捨てる。
ギルスの方も、ゴズキがヤケクソでくりだした片腕の薙ぎ払いを容易く掴む。
さらに背負い投げで勢いよく地面へ叩きつけ、ギルスクロウでしっかりトドメをさした。
MAGになって消えていく悪魔から目を離し、次なる悪魔はどこかと振り向く。
出てくる悪魔は大半が『獣人』や『魔獣』、稀に『凶鳥』や『邪龍』。
元牧場というだけあってゴズキやメズキ以外にも『獣人 ミノタウロス LV37』や『邪龍 コカトリス LV32』等が湧いてきた、が。
「ちょっと力が強いゴズキです、問題なし!」
「さっきの二体より頑丈だけど押し切れるッ!」
ミノタウロスはゴウキ&メズキと同じ巨体のパワータイプ。少しレベルが上がっても前衛二人のコンビネーションで殴り倒され……。
「状態異常はしっかり耐性つけてるんだよぉ!この程度……」
「ゴホッ!ゴホッ、ぐ、毒ガス!?」
「そっちは利くの!?ギルスレイダー!」
「『ポズムディ』」
「お、おお。楽になった。ホントにRPGみたいだな……待って!?今このバイク喋った!?」
コカトリスは毒や石化等の状態異常を駆使するものの、ギルスはその手の搦手への対策はゴリゴリに固めてあり。
クウガは『毒ガスブレス』や『毒ひっかき』に若干苦しんだがギルスレイダーの『ポズムディ』のおかげで立て直す。
ともあれ、状態異常さえ克服すれば俊敏性に優れた『青』に超変身したクウガが追い込み、レムナントの『タルカジャ』で強化されたギルスがトドメを刺す。
ちなみに『石化』には何故か耐性があった。多分オリジナルの先代が石化→ミイラ化しても生存してたからだろう。
「ふー、よし……ユウスケさん。次の悪魔が来る前に回復を!」
「と、分かった!この傷薬とチャクラドロップってのを飲めばいいんだよな?
……これ、元の世界にいくらか持って帰れないかなぁ」
士や夏美ちゃんにまた会えた時に見せてあげたいな、と呟いてから、チャクラドロップと傷薬をギルスレイダーについているコンテナスペースから探す。
ちなみにクウガの口部分は開かないので、一部の回復アイテムを使うにはわざわざ変身を解除する必要がある、という弱点が発覚した。
噛みつき攻撃もできるギルスの時には分からなかった欠点である。
便利だけど毎回変身しなおさなきゃならないのが面倒だなー、なんて考えながらアイテムをあさっていたが、それらを使う前に違和感に気づいた。
「……? あれ、悪魔が来ないな」
「変ですね、入り口でも暴れてるとそこそこの頻度で寄ってくる、って資料にはありましたけど」
「……『緑』で探ってみようか?」
「アレ使うと消耗するんでしょう?まだ温存しましょう……偵察用の簡易式神を出します。ギルスレイダー、アレを出せ!」
ガシャン、とギルスレイダーのボディの一部が変形。
射出口のようなモノが展開し、異界の奥に狙いを定め始める。
「『ギル3(スリー)ホッパー』、展開シマス」
「やっぱ喋ってるよコレ!?」
ユウスケのツッコミはスルーされ、ぼしゅっという音と共に『航空ドローン型に作られた偵察用簡易式神』が射出。
式神AIに従って情報を収集し、リアルタイムでギルスレイダーにデータを送信する。
ギルスがギルスレイダーと同調し、情報を共有。異界内の解析が高速で進んでいく。
「悪魔の数が妙に減ってる……誰かが討伐してるのか?」
「俺たちや後から来る阿部さん以外で、ここに来てる人は?」
「いないはずです、先日サスガブラザーズのお二人と鬼灯さんが調査に来たぐらいで……」
遠隔アナライズやエネミーサーチでの索敵を駆使しつつ、入り口から離れすぎないように進んでいく。
敵影が溢れてきたりしたときの為にいつでもトラエストが使えるよう準備しつつ、ここでギルスが何かに気づく。
「っ! ……エネミーサーチの表示が『赤』から『オレンジ』になった。悪魔が出ないんじゃなくて、減ってます!」
「え、ってことは誰かが悪魔と戦ってるってコト?」
「はい、ギル3ホッパーから送信されてるデータもそれを示しています……!
でも異界の奥の方はまだレッド反応、ってことは『元凶』は近くにいます!警戒を!」
山の中の異界だからだろうか、闘っている内に少しずつ霧が出てきたようで、まったく見えないというほどではないが遠くを見渡すのが難しくなってくる。
ざっ、と3人+1台が警戒していた異界の奥の方から、歩み寄ってくる人影が1つ。
マゼンダと黒を基調とした、バーコードのような仮面を被っ戦士。
手には可変式武装『ライドブッカー』をソードモードにして携え、いかにも戦闘後、という雰囲気。
ユウスケにとって慣れ親しんだ姿の『仮面ライダー』、その名は……。
「……あれは、まさか。ユウスケさんが言ってた……!?」
「つ、士? ……士ぁ!!」
ギルスの隣を走り抜け、クウガが喜色満面といった声色で門矢 士(かどや つかさ)……『仮面ライダーディケイド』に駆け寄っていく。
彼からすれば二か月近くこの世界をさまよってからの再開だ。しかも最後に見たのは最終決戦、心配にもなるだろう。
それ以上に、やはり自分の知り合いが一人もいない世界に自分一人……というのが久々だったのもある。
なんだかんだ仲間と共に旅をしたからこそ乗り越えられてきたのだ。
「いるなら早く声かけてくれればよかったのにさ!悪魔と戦ってたのか?なんだよ、水臭いな!言ってくれれば手伝ったのに……」
「ユウスケ」
「? どうしたんだ? あ、まさか一人で戦ってる内にケガとか……!?」
心配しながら駆け寄ってくるユウスケの前で、スッ、とディケイドが一枚の『カード』を引き抜く。
ギルス……ハルカは昨夜、ユウスケからディケイドについてある程度聞いていた。
ユウスケの戦友である仮面ライダーディケイドは、様々な『カード』の力を引き出して使うのだ、と。
遠近攻撃、補助、挙句の果てに他の仮面ライダーの『姿形とその力』まで使いこなせるのだ、と。
「ユウスケさん離れてッ!!?」
「えっ……?」
「もう遅い」
可変武器『ライドブッカー』のカードブックから引き抜いたカードを、変身ベルト『ディケイドライバー』でスキャン。
『アタックライド ソード』という機械音声が流れ、ディケイドの持っている剣『ブッカーソード』にエネルギーが集まり、破壊力を強化。
タルカジャに近い効果を発揮しつつの攻撃技『ディケイドスラッシュ』が放たれ、クウガの生体装甲を切り裂いた。
「ぐあっ!?」と悲鳴を上げながらクウガの体が地面を転がり、ギルスが「ユウスケさん!?」と彼の名前を呼びながらそれに駆け寄った。
レムナントとギルスレイダーも一拍遅れて駆け出し、ダメージを受けたクウガを庇うように陣形を組む。
「つ、士……なんで、こんな……」
「ユウスケさん、喋らないで!ギルスレイダー、ユウスケさんの治療を!レムナントは俺と一緒にあのバーコード仮面を……」
「……先に言っておく。 何も見ず、言わず、聞かず……離れてた方がいいぞ」
『アタックライド イリュージョン』
またも鳴り響いた機械音声の後、ディケイドの体が複数に分身する。
ただの幻影ではない、1体1体が実体をもった分身体だ。
この手の能力を持つ悪魔は高位の神格にいなくもないが*1、当然ハルカもレムナントも初体験。
増えた!?と驚くヒマもなく、ユウスケとギルスレイダーを庇うように前に出た二人が押され始める。
1体を相手してる間にもう一体が、それを相手しようと思ったらまた別のが背中を……という最悪のパターンにハマってしまったのだ。
囲まれて連撃を食らい、最後にクウガとギルスレイダーの前に転がされる二人。
「ぐあっ!?く、くそ……!(こうなったらエクシードで……!)」
数の差を純粋なスペックアップで埋めて一気に押し切るべく、エクシードギルスへと変身しようとしたところで、飛ばしっぱなしだったギル3ホッパーから新たな情報が届く。
入口側から異界へと新たに侵入者一名。
アナライズ結果……『超人 アベ ハルアキ』。
「師匠!ナイスタイミング!!」
相手は格上だが、自分が前衛をやって阿部が後衛をやれば勝ち目はある!と一縷の望みを託して振り向く。
しかし、振り向いた先にいた阿部の雰囲気に違和感を覚えた。
シリアスな時はシリアスにできる男というのはよーく知っている。が、今回はそれを踏まえても様子がおかしい。
どこか険しい表情でこちらに歩み寄ってくる阿部に、ハルカ一行だけでなくディケイドまで警戒を露にする。
「思えば……君と初めて会った日から違和感はあったな。
君が『アマダム』によって改造された人間であろうと、それによって人間を超えようと。
ガイア連合のデータを基準にすれば、君は『超人』か『魔人』になるはずだ」
「……し、師匠?」
「『英雄』は、源義経やジークフリード等、歴史上の英雄をカテゴライズする種族。生きた人間に使われる種族じゃない」
ひりひりと張り詰めるような緊張感と、じっとりと背筋を濡らす嫌な汗。
思わず「あれは本当に師匠なのか?」と思ってしまったハルカが声をかけるが無視された。
なにより、何か『聞いてはいけない事』を聞かされているような錯覚すら覚える……そんな雰囲気。
世界各国の神話に残る『見るなのタブー』を犯そうとしているような……『不安』を掻き立てる空気。
阿部が一歩、また一歩と歩みを進めながら、彼とシノ、そしてガイア連合技術班や神主が探り当てた『真実』を暴露していく。
「次に、霊視。どれだけとんでもない存在でも、この世界にきてMAGやオカルトに触れ、霊的なチャンネルを開かない限り悪魔は見えない……。
だが、彼は来た当初から悪魔が見えた。それどころかペガサスフォームをつかった霊視の拡張までしてみせた。まるで『霊視が最初から自分の機能の1つだった』かのように」
「なにが、言いたいんですか?阿部さん……」
「お前、まさか『あの事』に……?!」
いまだに疑問だらけなのか、あるいはたどり着きかけている真実を認めたくないのか、ユウスケは尋ねるように阿部に言葉を投げる。
半面、士は『その真実』に阿部がたどり着いている事に驚愕していた。
「それだけじゃない。君たちは基本的に『オーロラカーテン』という現象で次元を移動する」
「! なぜそれを!?お前はこの世界の住人なんじゃ……」
「情報の入手先は重要じゃない、今は目の前の疑問から解いていこう。
ユウスケ君、君は先日聞いた話だと『気が付いたらこの世界に倒れていた』そうだね。
……つまり、オーロラカーテンを通過した覚えはないんだろう?」
「あ……!?」
そういえば、とユウスケは思い出す。
本当に気が付いたらクウガの姿でこの世界で気絶していたが、今までは必ずあの『オーロラのような現象』を通過した時に別の世界に移動していた。
人為的に起こされて怪人を呼び出された事まであるのだ、アレが自分達にとって数少ない次元を渡る手段なのは間違いない。
しかし、ユウスケはどれだけ頭をひねっても、この世界に来るときにあのオーロラに包まれた記憶が無いのだ。
クライマックスタイム、阿部が一段階(で済むのか疑問だが)テンションを上げて、この謎の核心へと話を進めていく。
「小野寺ユウスケェ!
何故君が修行も無しに霊視を習得できたのか!
何故オーロラカーテン無しにこの世界にやってきたのか!
何故アナライズすると『超人』ではなく『英雄』なのかァ!」
「それ以上言うなァーッ!」
「その答えはただ1つッ!!」
「やめろーッ!」
ディケイドは『真実』を知っているからこそ阿部を阻止しようと走り出し。
ギルスは自分の第六感が盛大に警報を鳴らしたからこそソレに続いた。
しかし、二人の阻止よりも阿部の暴露の方が一手早かった。
「小野寺ユウスケェッ!
君はこの世界の住人じゃない……だが、『クウガの世界』の住人でもなぃッ!
そもそも、そこのディケイドと共に旅をした小野寺ユウスケでもないッ!
君の正体は本物の『仮面ライダークウガ』が生み出した『分霊』だァッ!
この異界に呼ばれてしまった『英雄 クウガ』という悪魔、それが君なんだ!」
「俺が……悪魔……? 本物の小野寺ユウスケじゃ、ない……!?」
「悪魔は最初から他の悪魔をみる事ができる!故に霊視は最初から身についていた!
オーロラカーテンを通過した記憶がないのも当然だ、最初からそんなもの使っていない。
君はそれ以外の手段でこの世界に呼ばれた、本体から零れ落ちた分身のようなモノ!
人間ではなく、歴史に謳われる英雄をモデルにした悪魔にだけ使われる種族……。
『英雄』としてアナライズされるのがその証拠だッ!!」
今明かされる衝撃の真実……当然、ハルカもユウスケもレムナントも受け止めきれない。
「ウソだ……俺を騙そうとしている……」
「ウソかどうかは君の親友……ディケイドがご存じなんじゃないか?」
「そ、そうだ、士!ウソだよな、俺が……士?」
「……ぐっ……!」
ディケイドに縋りつくような視線を向けるクウガだが、そのディケイドが目をそらしたことで『本当』だという現実を直視することになった。
確かに、理屈は通っている。というか阿部はユウスケの体を治療するついでに調べていたので、悪魔であるという事自体は昨夜のうちに調べがついていたのだ。
重要なのは、そこから先。
「そして、ディケイドがクウガを襲っている図を見て確信した……ディケイド、君はこのクウガを殺すつもりだな?」
「ッ!? え……!?」
「……そうだ、俺は……このユウスケを、倒さなきゃならない」
今日何度目かの『信じられない』、あるいは『信じたくない』という声を漏らすクウガ。
血を吐くようにそれを肯定するディケイド。
この場は間違いなく、異界も魔界も超えた地獄に片足を突っ込んでいる。
「師匠、いったいどうして……そんな、ユウスケさんを殺さなきゃいけない理由なんて!?」
「分霊は本体のリソースを消費して作る分身、あるいは分御霊のようなものだ、と教えたよな?」
「え、あ、はい。高位の神仏なんかが、自分の魂なんかを分けた弱い悪魔を派遣して、MAGやマッカなんかを稼いで持って帰らせる、っていう」
「ああ。そしてお前は知ってるはずだ。大江山で戦った酒呑童子のように、本体MAG&マッカの消費度外視でいいなら、遠距離に高レベルの分霊も作り出せる事を」
「は、はい。たしかアメリカに地母神セドナの超高位分霊が*2……まさか!?」
「ああそうだ、人間が分霊作るなんていうイレギュラー……まあ実質生霊みたいなモンだな。それもほとんど本体と変わらない強さの分霊だぞ?
『本物の小野寺ユウスケ』は今頃衰弱で生死の境をさまよってるはずだ。この『クウガ』を維持するためのエネルギーを搾り取られてるんだからな。
なんせ世界をまたいだ分霊派遣だ、エネルギー効率も最悪だろうさ」
ギリッ、と歯噛みしたような音がディケイドから聞こえたのは、聞き間違いではなさそうだ。
「……二か月間、俺は他の世界とクウガの世界を行き来しながらユウスケを治す方法を探した。
幸いユウスケの体……いいや、命を維持するための方法はいくつか見つかった。
それでも病院のベッドから起きるどころか、意識すら戻らない。
根本的な解決には程遠い。だが、この世界で手に入れた『分霊』の知識からすると……」
「分霊は消滅した後に本体に還元される……なるほど、『英雄 クウガ』を倒せば確かに小野寺ユウスケは治るな」
「他のヤツに気取られるわけにはいかない、夏みかん*3や海東*4、ワタル*5には、特にな」
「……だから、一人で来て、ユウスケさんを……」
全てが飲み込めたハルカが膝をつく。
あまりにも、あまりにも重く苦すぎる『真実』であった。
まだ中学生だからとか、そんなことは関係無い。並の人間が背負える現実ではない。
「…………うわあァあああぁあああぁあアアアああぁぁアあァッ!!!」
そして、全てが真実だと理解して『しまった』ユウスケ……。
いや、『英雄 クウガ』の慟哭が響き渡った。