(どうしたらいい?)
鷹村ハルカにとって、救うとした人を救えなかった経験は別に初めてではない。
支援に向かった地方霊能者組織が悪魔やダークサマナーの手で滅んでいたことも、
異界へ救出にいったら救出対象がとっくに悪魔に食われていたこともあった。
阿部はそういった【教育】に一切の手心を加えなかったのだ。
世の中には悲劇がありふれていて、その悲劇はいつだって容赦なく襲ってくる。
だからこそ、自分は戦う力のない人々の為に、そんな悲劇と向き合い戦い続けなければならない。
そう思っていた。
そう思っていたのに。
(なんとかする方法が、思いつかない)
ここではない世界で『小野寺ユウスケ』が死のうとしていて。
目の前の『小野寺ユウスケ』は本物じゃなくて。
でも自分の知る『小野寺ユウスケ』は目の前の彼だけで。
そんな思考がぐるぐると脳の中をループし続けている。
だから、目の前で慟哭するクウガに対し振り上げられたディケイドの剣を……。
「……どういうつもりだ?」
「分からないや、自分でも」
両腕から生やしたギルスクロウで受け止める。
そんな自分に、疑問以外の感情を抱けなかった。
続いて振るわれたブッカーソードを、今度は右のギルスクロウで横に反らすようにいなす。
ディケイドの体がその勢いで流され、体制が崩れた所を左のギルスクロウで反撃した。
「ぐっ……!?」
「はああっ!!」
そのまま腕力任せにディケイドの体を押し返し、【狂乱の剛爪】*1による連撃で流れを掴む。
(ディケイドの能力は【カード】が起点だ!カードさえ使わせなければ勝てる!)
一息すらつかせず連打をねじ込み、攻撃の開店を一切緩めない。
ブッカーソードをギルスクロウで抑え込み、蹴りやもう片腕のギルスクロウによる攻撃をねじ込む
後先なんて考えていない、とにかくクウガを庇いながら戦う、以外の思考が吹っ飛んでいた。
「主殿!今援護を……」
「待て」
タルカジャを構えつつ援護に入ろうとしたレムナントの肩を、阿部が掴んで押しとどめる。
同時に『シバブー』をかけられたようで、レムナントの体の自由が一瞬で奪われた。
指の一本すら動かせない、当然のように魔法も使えないのに口だけは回せるという妙に細かい制御で束縛された。
「ッ!なぜ止めるのです、阿部殿!?」
「俺たちの任務は異界攻略、つまりアレはハルカの『私闘』だ。『私闘』に余計な茶々を入れる権利はお前には無い」
「バカな!?私は主殿の式神です!これが決闘だというのならまだ納得いたしましょう!
ですが私闘だというのなら、それこそあのディケイドという男を排除し任務を遂行するべきです!
一体どういうつもりなんですか!?」
「そうだな、ガイア連合の構成員としても、主に仕える式神としてもお前が正しい」
ならば!と言葉を続けようとするレムナントの体から、ガクリと力が抜けた。
束縛だけでなく、麻痺などの他の状態異常まで重ねがけされたらしい。
うつぶせに倒れたレムナントは、意識こそハッキリしているものの体は全く動かせなくなった。
「だがな、正しいだけで全部の選択肢を選ぶのは無粋なんだよ。具体的には……」
主の指示無しには勝手な参戦をしないギルスレイダーと共に戦いを見守る阿部。
どかっとレムナントの隣に腰を下ろして、観戦する体制まで整えてしまっている。
そして、レムナントの『どういうつもりなのか』という質問への返答が来た。
「リアルライダーバトルを見逃す手とかなくね?」
(阿部えええええぇぇぇぇぇぇッ!!!)
こいつはいつも通りの人生エンジョイ勢なのでした。
「いい加減、に、しろっ!!」
「うぐっ……?!」
無理な攻撃のスキをついてディケイドがギルスの懐に潜り込み、クロスカウンターで殴り返す。
一瞬ギルスの手が止まったスキをつき、前蹴りで無理やり互いの距離を引きはがした。
そして、ギルスが体勢を立て直す前の一瞬でカードを引き抜き、ドライバーに叩き込む。
『アタックライド イリュージョン』
「ッしまった!だが……」
先程も使用した『イリュージョン』を使用。
ディケイドの実体付き分身が2体出現、本体と合わせて同時に迫ってくる。
レムナントと組んで3対2でも苦戦したこの攻撃、それでも一度見ている以上は対応できる。
「二度も同じ手が通じると思うなッ!」
最初に殴りかかってきた分身1の攻撃をいなし、次に仕掛けてきた分身2をギルスフィーラーで拘束。
最後に仕掛けてきた本体の攻撃を分身2を盾にして防ぐ。
さらにギルスと分身2を引きはがしにきた分身1に、分身2の背に蹴りを入れて蹴飛ばし、分身1に叩きつけて相殺。
ディケイドが次のカードを引き抜いたのを確認し、それが先程も使われた『スラッシュ』なのが見えた瞬間に飛びのいた。
「二度も三度も同じ手を……!」
『アタックライド スラッシュ』
『アタックライド ブラスト』
『アタックライド ブラスト』
「……はぁ!?」
思わず電子音がした方向に振り向くと、体制を立て直した分身の手にもディケイドの武器である『ライドブッカー』が握られていた
それも、本体が使っている『ソードモード』ではなく、射撃用の形態である『ガンモード』で。
まずい、と思ったがもう遅い。分身から追尾式の光弾『ディケイドブラスト』が連射され、ギルスに直撃。
そのスキをついて、本体が放った『ディケイドスラッシュ』が追撃となった。
「がはっ!?あぐ、う……!?」
「ハルカ君!?士、お前!!」
「手加減はした!命に別状はない。しばらく立てなくなるだけ……何?」
ディケイドの言う事は事実だ。これが本気だったのなら、ギルスは致命傷に近いダメージを受けているはずである。
生体装甲は貫かれ、四肢はもげ、体は見るも無残な状態になっていることだろう。
だからこそ、ダメージの跡こそあるが体そのものは全くの無事であるギルスの様子からして、手加減したというのは事実なのだろう。
……しばらく起き上がれない程度に痛めつけたはずのギルスが、立ち上がってくるのを見るまでは。
(手加減しすぎた?いや、それ以上にこれは……)
「僕、が……ワガママ言ってるのは、分かってるんです」
「……何の話だ?」
「死なせておいて……見捨てておいて……取りこぼしておいて……今更なにを、って。
偽善者のヒーロー気取りって言われても仕方ないのは、分かってるんです、でも……」
母の首を跳ね、弟を追放し、本家に加担する一族を見捨て……もう3年ほど前になるあの日から、ハルカは己を『人でなしのろくでなし』と思い続けている。
自分の命が自分のモノであるのなら、とうの昔に腹をかっさばいて地獄に落ち、ヤマの裁きに身を任せていただろう。
しかしそれでも、大江山での激戦から、ハルカは変わり始めた。
「それが正しい、っていうのはわかります。理屈の通らないワガママを言ってるのは僕だ。
それでも……目の前で『死ななきゃいけない』って言われた人を見捨てられない!
正しさのために何かを捨てる事は、二度としないし、出来ない。
それだけなんです……それだけなんですよ、僕が貴方と戦う理由なんて!」
「……なるほど、確かに子供のわがままだな」
「くっ……!わかってます!」
でも!と続けようとしたハルカの発言を、ディケイドが手で遮る。
「だが……それは確かに『仮面ライダー』の言う理屈だ。
困ってる誰かを見捨てられない、自分にとって大切なナニカを守りたい。
ちっぽけな理屈だ……ちっぽけだから守らなくちゃいけないんだけどな」
そして、ついにディケイドが『そのカード』を引き抜く。
先程まで使っていた『アタックライド』が強ボタン攻撃なら、これはゲージを使う必殺技。
ゆっくりとそれをドライバーに挿入しながら、ディケイドもついに腹を括った
同時に、そのカードから感じる力を読み取ったギルスもまた、迎え撃つ構えを取る。
「だからこそ……『戦う罪』は俺が背負う。ユウスケのヤツを救うためにも!」
『ファイナルアタック ライド ディディディディケイド』
「殺させはしない、ユウスケさんを守るためにも!貴方に『友達の命を奪った』重りをつけさせないためにも!」
ディケイドの体がふわりと宙に浮き、ギルスとの間に半透明のカードのようなエフェクトが発生する。
飛び蹴りの姿勢を取ったディケイドがそのエフェクトを取り抜けるたびに加速し、エネルギーを高めていく。
『ディメンションキック』……追尾機能までついた厄介な必殺技だ。
それに対し、ギルスはMAGを右足に一点集中。
各部の武器式神に回す分もカットして、左足を軸にして体を捻り、右足を遠心力で振りかぶる。
自分に迫るディメンションキックを、全力の『回し蹴りライダーキック』で迎え撃つ。
お互いに目の前の相手をなぎ倒す覚悟で放った必殺技、少なくともぶつかり合えばタダじゃすまない。
そして、ディメンションキックとライダーキックが交差する瞬間……。
「もう……やめてくれえええぇぇぇぇっ!!!」
「ッユウスケ!?」「ユウスケさん!?」
飛び込んできたクウガ……小野寺ユウスケが、二人のキックの間に割って入る。
咄嗟に二人ともブレーキをかけたが当然のように間に合わず、前後から必殺技がクウガに直撃。
ギルスとディケイドも目測が盛大に狂ったこともあり、発生したエネルギーの余波が3人を纏めて吹き飛ばした。
「ぐうっ……!?ユウスケさん!大丈夫ですか!?」
「くっ……ユウスケ!?」
ギルスだけでなく、さっきまでクウガを仕留める気マンマンだったディケイドまでつい声をかけてしまう。
覚悟を決めてやってきたとはいえ、ディケイドにとっても彼は友人の分御霊。
簡単に1から10まで割り切って戦えるほど、軽い関係ではなかったのだ。
「げほ、ごほっ……へ、へへ、効いたぜ、今のは……」
「ぶ、無事……じゃ、ないですね。明らかにボロボロですし」
「ユウスケ、お前何をした?」
「……あ、『食いしばり』!」
食いしばり?と首をかしげるクウガとディケイドだが、ギルスにだけはピンときた。
クウガが悪魔になった際に、おそらくこちらの世界の規格に合わせていくつかのスキルを習得している。
その1つが『食いしばり』。致命傷を受けた時にギリギリで耐え凌ぐスキルだ。
「……そ、それだと俺、本当なら死んでたって事じゃ……」
「まあ、そうなりますね」
「受けて無事で済むような技じゃなかったからな、どっちも」
「そんなのを味方同士で使うなよぉ!あいででで……!?」
HP1の状態は流石に答えたようで、起き上がろうとしたクウガが痛みに呻く。
ディケイドは一足先に立ち上がるが、ギルスはふらついて尻もちをついた。
やはり、消耗を考えてもディケイドの方が一枚上手だったらしい。
すっかり戦う空気じゃなくなったその場で、真っ先に口を開いたのはギルスだった。
「……門矢さん。一度、ガイア連合の技術部にこの件を預けてくれませんか?」
「何?」
「もしかしたら、ですけど。もっと平和で丸く収まる解決方法があるかもしれません。
希望的観測って言われたらその通りですし、結局は人任せって言われても何も言えません。
でも……もしかしたらがあるのなら。僕は諦めたくない。
大切なものを取り戻すために。確かに1人では無理かもしれないけど…」
「ああ。だからこそ助け合い、一緒に支えあう相手が必要なんだ。
世間ではそれを……『仲間』と言うらしい」
ふっ、とディケイドが小さく笑い、倒れたままだったギルスとクウガに手を差し伸べる。
ギルスも同じく、仮面の下で小さな苦笑を浮かべながら手を取った。
クウガもまた、少しだけ照れ臭そうにディケイドの手を取ろうとして……。
ギルスとディケイドの体を、クウガが渾身の力で突き飛ばした。
一体何を、と言おうとした二人の前で、さっきまで三人がいた場所が爆炎に包まれる。
ただ一人、それに気が付いて咄嗟に二人を逃がしたクウガを飲み込んで、火柱が突きあがった。
「ッマハラギオンか!?」
「ユウスケ!?」
ギルスは火力と範囲から攻撃方法を素早く予測し、ディケイドは爆炎に飲まれたクウガに呼びかける。
炎が収まった先には、ついに限界を迎えて体が崩壊していくクウガの姿があった。
何者だ!と叫ぶギルスとクウガの前に、牛頭の巨大な悪魔がのっしのっしと近づいてくる。
古代中華風の鎧を身にまとい、混鉄根を肩に担いだ高位悪魔……。
【鬼神 ギュウマオウ LV57】、この異界の主であった。
「邪魔な戦士を纏めて片付けるつもりが……邪魔が入ったわ」
「【牛魔王】……!この異界の主か。クソっ、どうやって不意打ちを……!」
ギル3ホッパーといい、阿部とレムナントによる警戒といい、そう簡単に魔法を叩き込めるような状況ではなかった……が。
「フン……あのうっとおしい監視のハエが消えたスキをついたのよ。丁度仲間割れで疲弊しているようだったしなぁ?」
「MAG補充のためにギル3ホッパー収納しちまってたからな、すまん。
俺もライダーバトルに浮かれて周辺警戒を怠ってた。レムナントは麻痺してるし」
「このクソ師匠!!」
後で一発ぶん殴る!もはや何度目になるかもわからないハルカの腹が決まる。
なにはともあれ、牛魔王を警戒しながらボロボロのクウガに駆け寄るギルスとディケイド。
「とにかくディアラハン、いやサマリカームを……!」
「……は、ハルカ、君。つか、さ……」
「! ユウスケさん、喋らないで!今治療をしますから!」
「いいんだ……治療は、しないでくれ」
回復用の宝玉を押し当てようとしたギルスの手を、クウガが掴んで止める。
もはや虫の息、体がMAGに変換されて消えていく最中に治療を拒んだ。
「ッ、何故!?」
「俺にトドメを刺したのは……異界の主だ。
これで俺が消えれば……手にかけたのは、君でも、士でも、ない。
もし、万が一、ガイア連合の技術でもどうしようもなかったら……。
その時、もう一度士が覚悟を決めなくちゃいけなくなる。それは、嫌なんだ」
既に両足はMAGの粒子へと変わり、変身解除よりも先にクウガの姿が消えつつある。
それでも……ギルスはその手の宝玉を使うことはできなかった。
正しさや間違いではなく、クウガのその言葉が『思いやり』からきているとわかってしまったからだ。
「士……俺は、お前と旅した【ユウスケ】じゃないけど……後の事、頼んだ」
「……ああ、任せろ!」
「そう、か……あり、がとう。安心、した……」
二人の目の前で、『英雄 クウガ』は風になった。
MAGの粒子となってその肉体は消え、魂は分霊のルールに従いクウガに還元される。
そして、残るは……。
「フン、ようやく死んだか……そして貴様らも相当疲弊しているな?
1体1体片付けて食ろうてやろう!!」
「……師匠、コイツなんで実力差分かってないんです?特に師匠との差」
「俺はアナライズへの妨害かけてるからな……で、どうする?手伝おうか」
「いりません、レムナントの治療だけしておいてください」
「そういうことだ……俺も少々ムカついててな」
ギルスとディケイドが前に出て、拳を鳴らしながらギュウマオウをにらみつける。
敵意と闘志がカンストぶっちぎってるせいか、処刑用BGMが聞こえてきそうなほどの威圧感だ。
ギュウマオウが「むぐっ…!?」とわずかにたじろぐほどの気迫を見せつつ、二人が臨戦態勢を取る。
「面倒な問題を片付けてくれたことだけは礼を言うぜ……代金は本気の攻撃で払ってやる」
「なら、こっちは切るに切れなかった切り札を使わせてもらいます」
バキボキと拳を鳴らして今にもとびかかりそうなディケイドの横で、ギルスが体の奥底の『熱』を引き出す。
大江山での決戦の跡、山梨支部で受けた検査で『あの力』が自傷につながったメカニズムは解明できた。
シノ曰く
『エクシード形態は全身のリミッターを外した出力120%状態なんだよねー。
だから、どんな力を使っても……それこそ自分の限界超えちゃう力でも最高出力しか出せない。
要は到底制御できない出力まで無理やり挙げられてるから、自傷ダメージ発生するわけ。
つまり、その力はエクシードとの相性が悪いって事。だったら……』
とのこと。
つまり解決方法はシンプル、【エクシードギルス形態じゃなくてギルス形態で使えばいい】。
腹の奥からせりあがってくる熱が、体の表面に噴き出し、形となる。
エクシードギルスで使ったときと違い、その火力も形状も自由に操れた。
自分で制御できる範疇の火力に抑え、形状も操作しやすく固定する。
「……赤い、マフラー?」
「……なるほど、そう来たかハルカ……!!」
見覚えのある形状に疑問符を浮かべたディケイドと、納得と歓喜に手を叩く阿部。
赤い炎がマフラーのようにギルスの首に巻き付き、しかし皮膚は一切焦がさない。
風にたなびくように揺れるマフラーから感じる力は、あまりにも神聖で純粋だ。
揺らめく陽炎の中を、一歩一歩ギルスが踏みしめていく。
そして「…………しゃあっ!!」と気合を入れなおし、一気に地面を駆け抜けた。
ギルス・バーニングフォーム……否。
エクシードギルスになぞらえた……『バーニングギルス』の誕生であった。