霊能力者、鷹村ハルカは改造人間である。   作:ボンコッツ

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「今世紀最大の侮辱と屈辱だぞテメーッ!!」

 

「仕込みは上々、と言ったところだな」

 

 

S県某市の高台にて、眼下の街並みを見下ろす男女一組。

 

背格好からすると、姉弟か母息子と言ったところだろう。

 

だが、その二人の放つ気配だけで、周囲の森林から野鳥が逃げ出す程の邪悪な圧を放っていた。

 

 

「もうすぐだ、もうすぐ俺の奪われたモノが取り返せる……そのための贄だ、この土地は」

 

「ええ、ええ……せいぜい踊ってもらいましょう。『私』の愉悦の為に、ね」

 

ほくそ笑む少年と、銀色の髪をなびかせる女性。

 

この二人が運んできたのは、新たな風という名の厄介ごとの気配であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【アギト】の放った上段突きを、清らかな流水、あるいは舞う花吹雪のような動きでハルカがいなす。

 

アウトボクサーのような軽快なフットワークと、拳法のような流麗な動作を一体化させた格闘術。

 

変身前、しかも高LV故のステータスを制限した状態でもアギトの打撃をさばき切れるだけの技量は備わっている。

 

アギトの方もその特性故、最適化された綺麗な格闘術をもって躍りかかるが……完成度の差は歴然だ。

 

オーソドックスなファイティングポーズであるアギトと、独特な構えを取るハルカはそこも対照的だ。

 

突きを払い、蹴りをいなし、組みつきを解き、僅かにできた隙にカウンターのボディブローが入る。

 

ぐお、と呻いたアギトの懐に飛び込み、腕を掴んで抱えこみ、反転。

 

腹を殴られたことで前かがみになったことで、重心が前に傾いたアギトが空中で一回転。

 

世間一般で【一本背負い】と呼ばれている技がするりと決まり、見事に背中から地面にたたきつけられた。

 

 

「かはっ?!けほっ……!!?」

 

「落ち着け、息を吸えないだけだ。ゆっくり息を吐けば勝手に酸素は入ってくるよ」

 

 

受け身が下手だからそうなるんだ、と嘆息しているが、コンビネーションをいなしてからカウンター打撃→投げに流れるように繋がれて受け身を取れる方が少ない。

 

比較対象が神主の使役している指導用式神、あるいは格闘技にも精通している阿部のレベルを想定しているのだ。

 

寧ろ「異界の中なら時間の進みが違うから修行し放題だな!」と師弟揃って精神と時の部屋扱いして鍛錬積みまくってるコイツらの基準がおかしいのである。

 

 

「それでも、オートがセミオートになる程度には制御できるようになってきただけマシかな。変身中も意識はあるんだろう?」

 

「あ、ああ……なんていうか、ビデオ通話かなんかで景色見てる感覚だけど……」

 

「進歩があるだけでも十分さ。一歩一歩進んでいくのが大事なんだ。

 ……というか、僕だってまだまだ強くなりつづけてる最中なわけだし。未熟だからね」

 

「どこまで強くなるつもりなんだよ……もうそこらの神様より強いんだろ?」

 

 

そう言っているアギト……イチロウの方も、クウガの一件から一か月弱の間、連日の修行とレベリングでようやく『LV30』に手が届いた。

 

オカルトに触れてから二か月と少しでこの域に達している時点で、ガイア連合黒札からの評価が「さすが原作キャラ……」となっていることを知らないのは本人ばかりである。

 

無論、ハルカから流れた『アギト』の力の後押しもあるのだろう。が、イチロウが【神や天使に属する力】であるアギトと妙に相性が良かったのも大きい。

 

変身後は自動で周囲の悪魔を倒すだけになってしまっていた件についても、感覚的には自分の体をラジコンのように動かすレベルとはいえ意識を保てるようになった。

 

まあ、逆に言えばオート戦闘状態でも『クウガが悪魔である』と見抜ける観察眼はあったのだが。

 

 

「『そこらの』神様よりは強いけど、世の中上には上がいるからね。人生常に修行と鍛錬!」

 

「マンガに出てくるバトルジャンキーがいいそうなセリフをリアルで聞くことになるとは思わなかったよ……」

 

「そうかなぁ、ガイア連合にはたまにいるけど」

 

「俺より強い葛葉姉が中堅って言われる集団は参考にならねぇ!」

 

 

最初に関わったオカルト関係者がハルカだったせいで盛大に感覚が狂っていたイチロウであったが、休日に遠出して他の霊能力者とも会う内にだんだん常識がつかめてきた。

 

自分ですら今の日本ではぶっちぎりの超人の範疇に入り、LV20が見えてきた葵の時点で超がつく一流。その姉は自分すら超えた『人間の形をした神様』レベルの超越者。

 

そんな3人を纏めて相手にしても勝てそうな目の前の友人は、実際に大妖怪や封印された神を相手にしてきた現代の英雄なのだ。

 

 

「……そういえば、今日は葛葉姉妹は来ないんだっけ」

 

「ん?あー、家の方の都合で今日の鍛錬は休む、って連絡来てたよ。僕は色々『裏技』があるから家の事や支部の事も並行してなんとかしてるけど、あの二人はどうしてもね」

 

 

 

クウガの一件が解決した後、同じクラスで共に同じ事件に関わった縁もあり仲良くなった三人。

 

その数日後に帰ってきた葛葉の姉……【葛葉 茜(かずらば あかね)】も加えた四人でつるむようになってから一か月。

 

この辺り一帯に根を張っている『名家』への対策を相談しつつ、こうして早朝から組手をしたり、ハルカのツテでガイア連合から紹介された異界で修行したり。

 

イチロウやアオイに合わせた異界となるとLV40近いアカネにとっては準備運動、LV50超えのハルカに至っては散歩気分のソレだが、後進の育成はとても重要である。

 

とはいえ、それで納得しきれないのが『年頃の男の子』というものだ。正義の心が芽吹いているならば、なおさら。

 

 

「はあ……あの二人は名家のお嬢様で、葛葉姉にいたっては超人で……

 お前はそれに加えてヒーローで……なんか、俺だけ……これでヒーローなんてなれんのかな」

 

「……イチロウ。 そもそも二か月頑張った程度でなれるほど甘くないと思う」

 

「そこは励ませよ!?」

 

「ツッコミ入れられる程度の元気が残ってるならいけるいける。まだ時間あるし、組手もう1本いくぞ!」

 

「ちくしょぉ!最近毎朝特訓の後にシャワー浴びてるから水道代もったいねぇって母親がうるさいんだぞぉ!」

 

「いいじゃないか、取れない加齢臭漂ってるアンタと違って汗臭さは洗えば落ちる分だけマシって言ってやりなよ」

 

「言えるかぁ!お前最近性格悪いって自分で言ってた師匠に似てきてないか!?」

 

 

言い切った瞬間、開始の合図も待たずにハルカの上段回し蹴りが飛んできた。

 

 

「ころちゅ♪」

 

「なんで!?」

 

「今世紀最大の侮辱と屈辱だぞテメーッ!!」

 

「自分の師匠に似てるって言われるのが?!」

 

 

人避けの結界を張った郊外にて、本日何度目かの組手が始まり、イチロウの悲鳴が爽やかな朝の空に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「生徒会長から呼び出しぃ?」」

 

「そうなんだよねぇ……」

 

「急な話で堪忍なー。ただ、今後の事を考えると会ぉておいた方がええと思うて」

 

 

その日の昼休み、覚醒してからはこの程度の鍛錬なら回復魔法をかけただけで日常に復帰できる二人にとっては退屈な授業を無難に終え、中庭の隅で集まる。

 

家の都合とやらでここ2~3日鍛錬に参加していなかった、葛葉姉妹から『名家の現状』を聞くためだ。

 

ハルカが簡単な防音の結界を張り、その中で昼食を取りつつ報告を受け取る。

 

今後この辺りの異界を霊山同盟支部管轄で管理したいハルカにとって、現地における協力者である二人からの情報は値千金の価値があった。

 

 

「前にも話したけど、この辺りの霊能力者一族は戦後に霊山同盟の前身から分かれた家なんだよね」

 

「ぶっちゃけメシア教との決戦から逃げ出したり媚び売って生き残った恥さらしの子孫やけどな」

 

「そ、そこまで自分の先祖を下げなくても……」

 

 

逆にガンギマリで闘い続けて玉砕し、闘えない女子供だけは逃がし切って血を繋いだのが霊山同盟の先祖である。

 

それもあってか、この辺りの一族の先祖は露骨に霊山同盟を敵視しているのだ。

 

 

「……理由が『自分たちがメシアンの眼を逃れて生き残ることの邪魔にしかならなかった狂人ども』って思ってたかららしいけどね」

 

「媚び売って生き残る時に元同門がメシアンと戦っとるからな、まぁ臆病者の理屈やけど。

 ともあれそんなわけで、霊山同盟を取り込んだガイア連合にとっても面倒な相手なんよ」

 

 

「最初から向こうがインネンつけてきてる組織って事だしな……というか、その歴史については他の家は知ってるの?」

 

「ノータイムで抹消してるに決まってるじゃん……私達は木っ端の家だし先祖もただの臆病者だったから後悔MAXな手記残ってたたけど、今の名家()が霊山同盟を敵視してるのは『自分たちが管理すべき霊山を勝手に占拠し続けた挙句他の組織に霊山ごと下った』からだよ!?」

 

「逃げてきた先祖は媚び売るのに邪魔だから憎んどって

 その子孫はメシアンに媚び売ってた事実を隠しとって

 現在はジェネリック聖地奪還問題とかおファックですわよって言いたくもなるわい!」

 

 

うわぁ、という声がハルカとイチロウでハモった。

 

しかもここに出現悪魔が(今は)低レベルだからガイア連合の協力無しでもギリ現状維持できるというオマケつき。

 

ガイア連合が「ここらの悪魔は低レベルな上に現地に協力者いないし後回しにしよう」ってなる土台がそろっているのだ。

 

現地出身の黒札である茜、実はS県出身なので他人事じゃないハルカ、それにつづいた葵とイチロウという未成年メンバーが頑張ってる時点でアレなのである。

 

 

「霊山同盟支部としても動く準備は整えてるけど、組織として動いて反発が出たら最悪オカルト戦争待ったなしだからね」

 

「ダークサマナー扱いでアホな名家だけは消し飛ばしたいぐらいやけどなウチは!」

 

「いやいやいや!?流石に俺、この流れで殴り込みとか行きたくないぜ!?なんとかしないと悪魔の凶悪化が始まったら被害がすごいことになる、ってのはわかってるけどさ!」

 

 

半終末によるGPの上昇はS県にも表れており、霊山同盟支部で管理している異界はともかく、把握しているだけの異界はじわじわと悪魔のレベルが上がりつつある。

 

そしてガイア連合の予測では、少なくとも今年の『8月』には名家()が管理している異界にも影響が波及。

 

悪魔の間引きすらできなくなった異界が一気に膨張し、周辺の人里にまで被害を出すという予測を立てていた。

 

 

「というわけで、今月いっぱいで何とか出来なかったら主に僕が名家()の皆さん全員殴り倒して全取りします」

 

「あと3週間でなんとかしろってことか……」

 

「まー、荒っぽい手段取らんでええんやったらその方がええからなぁ。実際、異界潰し自体はヌルゲーやから」

 

「……で、そのために重要なのが今回の生徒会長の呼び出しなんだよね……うちの生徒会長、名家の顔役になってる2つの家の次期当主だから」

 

 

霊山同盟のように多数の家の寄り合い所帯でもあるこのあたりの霊能一族では、霊力に優れた2つの家を実質的なトップにした縦割り構造だ。

 

さらにオカルト以外に関しても『名家』らしい権益を確保しており、不動産や土地、あるいは地元企業の上役や市議・県議等にもこれら名家の人間が入り込んでいる。

 

その顔役となる家の片割れ、しかも次期当主ともなれば、数年後にはこの地方では一目置かれる権力者となるのがほぼ内定しているようなものだ。

 

 

「……今更だけどなんでもっとエリートが通うような私立に通ってないんだ?俺達の通ってる城南中学、人数以外はよくある中学校だろ」

 

「私達みたいに、そういう学校通えない木っ端の家の人間も取り込まないといけないから……」

 

「顔役2つ言うたやん?そりゃ一人でも多く霊能力者の家の人間取り込んで組織力増やしたいんよ。

 相手の家より上に行くために。ほなら、少しでも人数が多いマンモス校に通って格下の家を取り込みつつ、

 さらに稀に見つかる覚醒したノラの霊能力者候補も取り込めればなおよし、と……」

 

「あー、人数の分母最優先でこの学校選んだのね……」

 

 

納得がいった、という顔をするハルカとイチロウだが、だからこそ今日の放課後の『呼び出し』が大きな意味を持つと理解できた。

 

呼ばれているのは茜とハルカの二人、葛葉家の長女である茜と、ガイア連合支部長であるハルカ。

 

葵とイチロウが呼ばれていないのは、恐らくなるべくトップに近い人間同士で話がしたいという事なのだろう。

 

 

「そういえば、アオイやアカネから俺達の事を話してくれたのか?」

 

「まー、一応木っ端とはいえここらの霊能力者の一員やし、それとなーく、な。ハルカ君から許可された事しか話してへんけど」

 

「元々どっちの顔役にもついてなかったから、向こうもうちの家を取り込もうとしてたみたいだから……誘いにきた時に話してみたの」

 

「せいぜい『最近霊山同盟を掌握したガイア連合の人間がウチのクラスにおる』程度の事を3日前に話した程度やから、向こうも今回の会談で見極めたいっちゅうことやろ」

 

 

良くも悪くも地元密着しすぎてる、悪く言い切れば『井の中の蛙』なのがこの辺りの霊能一族なので、ガイア連合の事もおそらく噂程度にしか理解していないのだろう。

 

危険な情報に敏くなければやっていけないフリーのダークサマナーであるクレマンティーヌですら、ガイア連合については名前すらうろ覚えだったのだ。

 

S県内の一部でお山の大将だった一族の面々にとって、ガイア連合は本当に『霊山同盟を取り込んだ新参者』ぐらいしか情報が無いのである。

 

 

「なるほどね……ま、となるとまずは僕らで情報交換からか。イチロウ、今日の鍛錬は休みだ。疲労を抜いて明日以降に備えるように」

 

「お、おう……その、大丈夫なのか?」

 

「それを決めるのは僕じゃなくて生徒会長かなぁ……だいじょばないことになるのも生徒会長だけど」

 

 

はあーやれやれと嘆息するが、これも支部長の仕事だと気を取り直すハルカ。

 

だがしかし、ハルカはこの会談は青天の霹靂だが、同時に蜘蛛の糸でもあったと後に語る。

 

それほどまでに、生徒会長……『名 緋目(ニノウエ ヒメ)』の語った内容は衝撃的であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ニノウエ生徒会長、今なんと?」

 

 

若干だが、ニノウエの語る言葉に驚愕と疑念を隠せないハルカ。

 

隣に座ってるアカネもまた、どういうこっちゃ、という顔をしている。

 

向かい側で生徒会長用の机でゲンドウポーズを取っているニノウエは「うん?」と首を傾げた。

 

中学生離れしたグラマラス・スタイルとロングヘア、顔だちも名家の淑女らしく気品が見える。

 

なんだか『凛っ!』って感じの効果音まで見える。目安箱とか作らなきゃいけない気がしてくる。

 

 

「うむ、顔役の片割れである『不(ヒノシタ)』家が外から高名な霊能力者を雇ったと聞いて、

 こちらも他の霊能組織に頼るという選択肢を持って対抗を……」

 

「その前!不家が雇ったっていう霊能力者の名前は!?」

 

「む?私も確かにそれほど県外の霊能力者に詳しいわけではないが、クズノハほどではないが有名な者なのか?」

 

 

ふむ、と少し考えてから、ニノウエは不家に雇われたという『霊能力者の名前』をもう一度口に出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ギルス』と呼ばれている霊能力者らしい」

 

 

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