突然だが、阿部と鷹守が地方に出向くのは、基本的にガイア連合山梨支部の指示に従って、である。
ガイア連合に救援を求めてきた退魔組織や霊能一族に対する『救援依頼』を受諾し、現地に赴くのだ。
そして現地でほとんど片手間に悪魔を消し飛ばし、異界を潰し、歓待を受け、
阿部が賢者タイムになり、ハルカが常備薬になった胃薬を飲みながら帰ってくるのがルーティーンだ。
それ以外の時は技術部に顔を出して実験に付き合ったり、修行用異界で鍛錬を積んだり……。
阿部が周囲の黒札から『ガチ勢』と呼ばれている側なのもあり、
ハルカが日々こなすスケジュールも相応に厳しい。
遠征で金を稼ぎ、技術部で最新鋭の装備を見繕い、修行用異界でギリギリの戦いを繰り返す。
手に入れたフォルマやスキルカードで戦力を整え、武術の鍛錬や知識の習得も欠かさない。
上には上がいる世界とはいえ、『LV30』の壁を越えている師が行う鍛錬の基準ともなればこうなる。
強敵との死戦も重要だが、日々の鍛錬に勝る蓄積は無いのだ。
鋒山家の管理する土地への遠征を終え、G3MILDの運用データを回収した二人が向かったのは、
ガイア連合山梨支部にある技術部の一室であった。
「おぅい、頼まれてたG3MILDの運用データ持ってきたぞ」
ドアを開けて中に入った二人を出迎えたのは、白衣を身にまとった垂れ眼の美女であった。
赤みの強い紫の髪、出るとこは出てるグンバツのスタイル、服装を整えればモデルでも通りそうだ。
とはいえよくわからない物品や素材が山と積まれたラボの中では、やぼったい服装と相まってマッドサイエンティスト風味もそれなりに出ている。
「やーやーあっくん、しばらくぶりー!今回はどうだったー?」
「そうだなぁ、夫婦共にテクの方はイマイチだが穴の締まりは中々……」
「そっちは聞いてないよあっくん」
「寧ろなんでそっちだと思ったんですか師匠」
「そりゃあ、俺はデビルバスターである前にイイ男だからな!
……それで、『シノ』。G3MILDのテスト結果はどうだ?」
シノ、と呼ばれた彼女の名前は『兎山(とやま) シノ』。ガイア連合技術部の技術者であり、廉価版デモニカスーツ『G3MILD』の開発者だ。
外見こそロングヘアのゆるふわおっぱい美女であるが、阿部ほどではないにしろそれなりにトんだ部分が目立つ、いわば平均的な頭ガイア連合である。
先日G3MILDを鋒山ツツジに譲渡する旨を電話で報告したところ
「譲渡はいいけど、それなら実戦運用したデータをコピーしてもってきてねー」
……とあっさり許可が出たので、運用データを入れた情報媒体をラボに持ってきたのだ。
「とりあえずこれを解析して、戦闘用のアシストシステムに反映しなきゃねー」
「オートでG3のAIが動きを補正して戦闘を補助してくれる機能、でしたっけ?」
「そーそー。当然だけどAIに情報をたくさん学習させた方がいろんな状況に対応できるからね!
五島部隊との演習の後に、自衛隊向けの機能をオミットされて開発された一般向けデモニカだけど、
いざ運用してみたらアレが欲しいコレはいらないって意見が当然出たからねー」
その辺りを整理し、デモニカのバージョンアップと共に再設計したのが『G3』
アレが欲しいを重視して性能を上げ、高級機体として完成した『G3X』
コレはいらないを重視してコストを下げ、廉価版として完成した『G3MILD』
とはいえアシストシステム等は共通、MILDを拡張・改造して上位機種にするのも可能なので、
ちょっとお高いけど手に入るMILDで数をそろえ、レベルアップに合わせて改造する者もいた。
「まあそもそもガイア連合の黒札クラスにコネがないと購入すらできないがな!」
「師匠みたいな黒札が特別扱いされるのってそういうところですよね……」
『黒札』、というのはガイア連合の幹部クラスを差す隠語であり、
世界が滅んでも使えます!をキャッチコピーにしたガイアポイントカードの格付けを現したモノだ。
ガイア連合が経営しているジュネス等で普通に作成できるポイントカードだが、
本当に『世界が滅んでも』使えるように取り計らわれている……というのは置いといて。
ガイア連合外でも手に入るブロンズやシルバーのカード。
その上にガイア連合内で出回るゴールドやプラチナのカード。
さらにその上に、ガイア連合の一部だけが持つブラックカードが存在する。
このブラックカードを持つ、様々な特権を持ったガイア連合の重鎮を『黒札』と呼ぶのである。
「なにはともあれ、これでまたMILDの改良が進むよ!ありがとねー、あっくん!たっちゃん!」
「お礼を言われたぞ、よかったなたっちゃん」
「いつも思うんですけどなんでボクだけちゃんづけでタッチの主人公みたいになってるんですか?
双子の兄だからですか?色々と複雑なプライベートをネタにしないでくれません!?」
思わずツッコんでしまったハルカ、この場で唯一の10代なのにすっかりボケ役は大人二人である。
まったくもう、と嘆息したハルカが話題を先に進めるように促す。
今回ラボを訪れた理由の1つはデータの提出だが、もう1つはハルカ用の新装備の開発である。
今のハルカは式神『ギルス』の肉体を移植した式神人間ともいうべき状態……『ではない』。
『式神の肉体を人間に移植した』のではなく、『人間の重要部分だけを式神に移植した』のだ。
脳を含めたハルカの人格を形成する部分+無事だった内臓等を摘出し、ギルスの肉体に結合させたのが今のハルカの状態である。
「実質ブラックジャックのピノコみたいなモンだからな、お前」
「……アッチョンブリケ」
「言動までピノコにならなくていいよ、たっちゃん?」
目の前の中性的な少年風貌は、ハルカの人間時代の肉体を『変化』スキルで再現している。
つまり正確に言うと彼は『常時人間に変身しっぱなし』で、ギルス形態になるのは『変身解除』に当たるのだ。
当然、ギルスに『戻る』際に肉体も膨らむので服は破れるしギルスの体格想定の武器は少年モードでは持ち運びづらいし、と問題が多発した。
幸い武器の方は戦闘スタイルが素手+クローで固定化されたので大きな問題は無いが、やはり防具に関してはなんとかしたいと思うのは当然だろう。
「特に状態異常への耐性がネックでして……スキルカードで追加するのも限界ありますから」
「ギルス状態から人間に戻る時は変化スキルで服作るから素っ裸になるのは避けられるが、逆はなぁ。
変化スキルで防具作っても外見だけだし、なんならギルスの生体装甲の方が下手な防具より頑丈だ」
なんとかならないか?と問いかけてきた二人に、シノが怪しい笑みを漏らしながら立ち上がる。」
「んふふふふひひひひ……これはきちゃったねぇ、シノさんの時代!新発明披露のお時間!!」
アレとかアレとかどこやったかなーと発明品の山をひっくり返し始めるシノ。
基本的に整理できない系というか、作った後は報告書だけ提出して次の発明品に取り掛かるタイプのため、彼女のラボには採用されなかった試作品が色々転がっているのだ。
「あったあった。デビルシフター用の伸縮自在プロテクター素材!ドラゴンボールでベジータが大猿になっても戦闘服が壊れなかったのを見て思いついたんだよ!」
「デビルシフター……たしか悪魔に変身する能力を持った異能者、でしたっけ」
「ああ。当然体格も大きくなったり小さくなったり千差万別……なるほど、ソレ用の素材で防具を作ればギルスに戻っても伸縮してフィットするな」
「コストとかの問題で正式採用は保留されちゃったから、サンプルの布が残ってるんだ!まっててねー、ちょっぱやで仕上げるから!30分ぐらいで!」
「どういう製作速度ですか」……とハルカが突っ込む前に奥の部屋で何やら作り始めるシノ。
ぎゅいーん、とか、ガガガガガ!とか、明らかに服の製作過程で出ていい音じゃないナニカが出ている。
が、夢中になった彼女はいつもこんな感じだ。出てくるモノの品質だけは保証されるのだが。
やれやれといった風にハルカと阿部は苦笑しながら、完成品の到着を待つのであった。
そして30分後…………。
「なんっ、で……黒いゴシック&ロリィタドレスなんですかぁ!!!」
黒いゴスロリ(それもノースリーブ&ミニスカ)を着せられたハルカがいた。
完成した直後にシノによって奥の部屋に引っ張り込まれ、シノの式神の手によって強制お着換え。
下手に暴れてラボのアレコレ壊すわけにはいかないのでされるがままにされた結果がコレだ。
小柄で顔立ちも整っている美少年ということもあり、中々に倒錯的な外見となってる。
……腕とか足とか、筋ショタ系のちょっとゴツめな細マッチョなのでマニア受けしそうなのも含めて。
「どうよ!シノさん特性のデビルシフター用バトルドレス!」
「あーだめだめエッチすぎますエチチチチチチチチ!」
「うるさいですよ師匠!なんで貴重な素材で、それも男性用装備なのにこんなデザインなのか聴いてるんです!!」
「シノさんの趣味だけど???」「知ってた(絶望)」「知ってた(欲望)」
前述の伸縮自在素材によって、ちょっとの手直しでロリ体系からジャイアント馬〇まで対応可能なフリーサイズ。
装着者が着たまま悪魔に変化しても、ある程度は体格・体系に合わせて変化し動きを阻害しない。
さらに防具相性は真女神転生1の『全対応』。無効化こそできないが、あらゆる属性・状態異常にある程度の耐性がある。
デザインもかなりコスプレ臭が強いが秀逸なスーパーゴスロリドレスだ。
「それにしてもなんだこのハルカの格好は。ハレンチすぎてけしからん!ハレンチ!ハレンチ!ハレンチ警察出動だ!ハルカを逮捕する!」
「うるさいって言ってるでしょ師匠!こっちくんな師匠!やめっ、おい師匠!やめろっつってんだろ阿部ぇ!!」
セクハラとかボディタッチとかスキンシップならセーフなんじゃないか?みたいなノリで迫ってくる阿部を捌きつつ、シノにリテイク要求を出したハルカなのであった。
阿部は最後まで残念そうにしていたが、ハルカの「このままだとゴスロリドレス身にまとったギルスが誕生するんですけど?」の一言でリテイクに同意。
最終的に同じ素材を『ベルト』等に加工し、ギルスの式神ボディの調整と合わせた『ギルスのベルト』等の全対応装備を受け取った。
神話の如意棒のように縮めて持ち運びできて、必要になったら取り出す&少量のMAGを注ぐことで肥大化し腰に巻いて変身解除すれば自動でぴったりフィットする便利装備である。
この全対応装備に加え、式神ボディにデフォで備わっている物理耐性、さらにスキルカードで追加した耐性を合わせることで対応する路線となった。
余談だが、せっかく作ったゴスロリドレスの方は後にシノが修行用異界での素材稼ぎのために自分で使用。
顔見知りの黒札たちから「うわキツ」の嵐を食らい半泣きでお蔵入りすることになった。美女とはいえアラサーには厳しかった模様。阿部ならソコがいいと言うのだろうが。
「ホントに最初からマジメにやってくださいよシノさん、このベルトとか文句なしなんですから」
「たっちゃん、徹頭徹尾マジメにやってくれる人間なんてガイア連合じゃ希少種だよ?」
「そこはせめてガイア連合技術部じゃ、にしてほしかった……!!」
だが、戦闘系黒札の中でも相当な上澄みなのが自分の師匠であるアレ、もとい阿部な時点でシノの言ってる事の方が正しい。
それを理解できているからこそ、ハルカはため息1つついて自分のカバンを開いた。
「とりあえずコレ、鋒山家への遠征の時に買ってきたお土産です」
「わーいお饅頭ー!あとでおやつに食べるね!あ、なんなら今お茶いれよっか?」
「いや、この後も修行が立て込んでますから遠慮します。他のラボにもお土産配らなきゃいけませんから」
式神ボディの調整や健康診断、アガシオンや簡易式神の調達等、彼が世話になっている技術者は多い。
元は彼の移植手術に協力してくれた古参技術者達なので、なんだかんだ長い付き合いがあるのだ。
遠征のたび、彼ら彼女らにお土産を買ってくるのもルーティーンに含まれていた。
「たっちゃんはマジメだねー、おけおけ、じゃあシノさんはあっくんの装備の調整してるからー」
「30分後に一階のロビーに集合な?」
分かりました、と返事して、お土産の詰まったカバンを担いでラボを出ていったハルカを見送る二人。
「ホント、マジメなよいこに育ってくれたよねー。たっちゃんは。 『私』たちみたいなヒトデナシと違って」
「師匠の教育が良いからだろうな」
「ヒトデナシ筆頭がそれを言うー?」
口調こそ大きく変わってはいないが、さっきまでのハイテンションな様子はどこへやら。ややダウナーな調子で阿部の座っていたソファの隣に腰掛けるシノ。
ハルカのいる場所では『昔』のテンションに近づけるように明るくふるまっているが、最近の彼女はこういう雰囲気がデフォルトだ。
「……君がさ、ほとんど死にかけの彼を連れてきて、自分の式神をバラして移植してくれって言ってきた時。私はもう手遅れだって思ったんだ」
「移植が無理でもショタオジに治療頼もうと思ってたが、別件に掛かり切りだったらしいからな。
蘇生に関してもショタオジの能力が未知すぎて、万が一死んで取り返しがつかないのが最悪だった。
いやまあ、後で確認とったら現時点では式神への移植が最適解だって返答来たんだが」
「技術者の皆のさ、『10歳の子供を改造するのか』とか『流石に論理的に』とか『頭メシアンかよ』とか、その方が正論だったよね」
「ああ。そしてお前もそっち側で、お前らの言う事の方が正しかった……あくまで『一般人の論理』としてはな」
阿部の肩にしなだれかかるシノ、どろりと濁った眼には、深い親愛と憎悪が入り混じった退廃的な色がみえる。
「実際、『俺が全部の責任を取るから!』で押し切ったもんねぇ……私は惚れた弱みで口説き落とされたけど」
「……悪かったと言うつもりはない。贖罪を求められたら腹を掻っ捌くつもりだったしな」
「あはは、なんなら協力したみんなに袋叩きにされてもなんにも言わなかっただろうね、あっくんは。今でも許してないの、私ぐらいだけど」
技術部へのケジメとして、彼はショタオジに頼み込み『覚醒修行がイージーモードに思えるほどの生き地獄』を味わい、しかもそれらを座禅を組んだまま微動だにせず受け切った。
あの生き地獄を知っているからこそ、技術部の協力者は『そこまでやるなら』とだいぶ引きつつも彼を許容し、治療完了したハルカが誠心誠意お礼を言いに来たことでわだかまりも解消している。
シノがまだ阿部を許せないのは、もっと個人的な情念の話だ。
「君が、ガイア連合に入った後も漁色家を続けてる理由は知ってるけどさ、それを踏まえても……悪い男だね、あっくんは」
「ああ、自覚はある。ひでぇ男さ、俺は」
「……それなら抱いてくれてもいいのに」
「お前を抱いたら俺は漁色家でいられなくなるからな、多分」
最低、と言いながらシノが阿部の唇を奪う。二人の関係は、恋人と言うには情念が拗れすぎているし、かといって増悪に染まり切ってもいない。
『自分の愛情を利用したのは許せないけど愛情が冷めない』女と『愛しているのは事実だが世界のために愛した女を利用できる』男。
少々退廃的な比翼連理、そんな男女であった。
唇が離れた後、見つめあいながら言葉を紡ぐ。
「終末を超えるまでは『君を独占する』のを待っててあげる。だから、それまで死んじゃだめだよ?」
「ああ……わかってるさ」
待ち合わせの時間ギリギリまで、二人はただ寄り添い、言葉を紡ぐだけの時間が過ぎるのであった。
登場人物資料 『兎山 詩乃(とやま しの)』
年齢 26歳
LV 21
※主な習得魔法のみ抜粋
ブフーラ
ジオンガ
メディア
ペンパトラ
テンタラフー
etc.
外見は無限の成層圏を作った某ウサミミマッドな声帯田〇ゆかり。
ただしファッションセンスはやや野暮ったいが普通なので、磨けば光る系の美女である。
ガイア連合技術部の古参の一人で、山梨支部の技術部に所属している。
某工科大学を飛び級で卒業した『表』でも優秀なエンジニアであり、専門外のアレコレも習得している技術キチ。
前世から高IQのギフティッドであり、オカルト云々には(転生という現象以外は)関わらずに2度目の人生も過ごしていた。
が、転生者故の高い霊的才能が住んでいた町の小規模な異界に近づいてしまったことで覚醒。
おまけに知的好奇心で異界に踏み込んでしまい、悪魔に追い回されて殺されかけた。
そこにガイア連合に入る前、あちこち旅してた頃の阿部が偶然かけつけて救い出したことで関係が始まる。
阿部に一時期弟子入りし、大学を出た後だったので各地の旅に同行しながら『悪魔』についての研究をしていた。
ガイア連合発足後は阿部と共に所属、旅の中で自分は戦闘向けじゃないと感じていたこともあり、ショタオジの持つ技術の習得を第一とする。
主な開発理念は『全体の底上げ』。一部の強者を更にとがらせるよりも、ある程度の数と質を揃えることを目指した発明品を作る。
『デモニカG3MILD』はある意味彼女にとって最大の成功作である。
ちなみに余談だが、前世も今世も男性経験はほとんど無い。阿部とのキスが唯一の男性経験となっている。