霊能力者、鷹村ハルカは改造人間である。   作:ボンコッツ

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「……そのセリフはもっと色気のあるシチュエーションで言われたかったとか思ってへん?ハルカ君」

 

実の所、この三名の話し合い自体は割とスムーズに進んでいた。

 

 

「鷹村ハルカ君だね、一年の。 実の所、私は前から君に注目していた」

 

「……僕に、ですか?それほど目立つ生徒じゃなかったと思うんですけど」

 

 

覚醒者としての超人的な身体能力を制御するための訓練はたっぷりと積んでおり、体育の授業では平均やや上を完全にキープ。

 

学業の方も式神ボディのとんでもない記憶力や演算能力を封印し、得意教科と苦手教科で平均前後をいったりきたりしていたはずだ。

 

校内で大きな問題を起こした経験もなく、アナライズされなければどう見ても普通の男子中学生として過ごしていた。

 

 

「以前、廊下ですれ違った時にな。君の呼吸と立ち振る舞いの異常さに気づいた」

 

「……呼吸と、立ち振る舞い?」

 

「うむ!静かだが一定のリズムで効率よく酸素を取り込む呼吸。

 武術界では『息吹』とも呼ばれる技術だ。現代スポーツでも古武術でも、呼吸はとても重要だ。

 さらに重心にほとんどブレがなかった。体幹を相当鍛え上げている証拠!

 

 なにより、自然体で歩いているのに不自然なほど隙が見当たらなかった。

 老齢の達人が子供の体で歩いているような違和感を覚えたのでな!」

 

「いやハルカ君もおかしいけどソレを見ただけで分かる会長もなんやねん」

 

 

思わず、といった風にアカネからツッコミが入った。

 

無論、彼女は会長の家であるニノウエ家の特性は知っているものの、元々家格違いすぎてあんまり交流も無かった相手である。

 

盆と正月の親族の集まりで、遠い親戚なので上座に座る彼女を下座から見た事がある程度だ。

 

学内でもだいたいスクールカーストのトップを通り越して天にいるので近寄りがたいのである。

 

 

「ニノウエ家は対悪魔においては武門の名家!

 この五体と武器をもって悪魔を討つのが家訓!

 私自身、去年の時点でヒグマを素手でひねり殺せる程度の腕力は有している!

 こう見えて空手初段、合気道二段、柔道は特例も使って四段の昇段試験を受けて合格した!

 

凛っ!という効果音と共に胸を張る。そのバストは豊満であった。

 

「無論、合否に家の力は使っていない。自分で言うのもなんだが相応に武術は修めている!

 君の立ち振る舞いで武術を嗜んでいることに気づけたのはそのためだろう」

 

(まあ、LV2~3の悪魔でも熊ぐらいの強さはあるからなぁ……この人、アナライズした感じLV5だし、そのぐらいはできるか)

 

(キョウジさんの使役しとるオキクムシも、LV2やけどクマ並みの身体能力に散弾じみたスキルに訓練した動物並みの知能と普通ならトンデモなモンスターやからなぁ)

 

 

空手初段、合気道二段、柔道四段に加えて学業も優秀。生徒会長を務め、実家は地方の名家で実は悪魔と戦う霊能力者。

 

スタイルは中学生離れしたボンキュッボンの美少女で、ちょっと、いやだいぶ上から目線なことが多いが悪党ではない。

 

ここまで書けば普通ならレギュラーキャラの設定そのものだ。この世界がメガテンじゃなければだが。

 

 

「まあ、代わりに結界や霊視は不家に劣るのだが、それはともかく……。

 どうやら、不家はこの差を埋めるために外部の霊能力者を引き込んだようでな」

 

「外部、ですか。その情報はどこから?」

 

「蛇の道は蛇というが、雇うときの金の流れを家の息がかかった金融機関が掴んでな。

 大金を引き出したのにローンを組むわけでも大きな買い物をするわけでもなし。

 探ってみたら不家についている霊能一族が漏らした情報を拾った、というわけだ」

 

(もう盛大に色んな法律に引っかかってる気がするけどそれはともかく……銃刀法とか僕も偉そうなこと言えないし)

 

「それで、雇い入れた霊能力者というのは?」

 

「うむ、まだつかめたのは名前だけだが……」

 

 

 

そして、前回のラストへと視点を引き戻す。

 

 

 

「ギルス……ギルスか……」

 

「いやいやいや、ありえへんやん!?ギルスってそれ……」

 

「アカネさん、ストップ」

 

 

むう、とお口チャックしたアカネを見つつ、ニノウエに視線を戻すハルカ。

 

ギルスの名前が自分のあずかり知らぬ所で出た時点で、ハルカの警戒心はMAXをブチ抜いた。

 

ハルカの中で、その『雇われたギルス』の正体はいくつか仮説が上がる。

 

 

1.師匠と同じく【仮面ライダー】の知識を有する何者かが名乗って偶然ダブった。

 

2.自分がギルスとして活躍したことに何者か(人間・悪魔問わず)が乗っかって騙ってる。

 

3.大江山の時やユウスケの時のように【ギルス】がこの世界に訪れている。

 

 

概ねこの3つの可能性が最有力として思い浮かんだ。

 

どのパターンだったとしても、ここで自分たちの情報をぺらぺら話すのが危険だという判断は間違ってない。

 

 

「ギルス、というのはガイア連合に所属している霊能力者です。一応は支部長の地位にいる僕が動向を把握できている彼が、僕に無断でこの問題に介入することはありえない。」

 

「むっ、なるほど。つまり不家が抱え込んだギルスが名を騙る偽物であると疑っているわけか……」

 

「無論、僕が気づかない内に(主にギルスのロールプレイしてるガイア連合の黒札が)協力してしまっている可能性はゼロではないですが……それについては急ぎ調査をします」

 

「よし、相分かった!……それで、本題であるニノウエ家との協力は?」

 

「支部長である僕個人としては、前向きに善処しようと思います。とはいえ、今できるのは僕ら個人レベルでの協力が限度ですね」

 

「支部レベルでの連携は支部での手続きがいるし、それ以上は組織の幹部に話を通さないとアカンからなぁ」

 

 

むう、と一瞬表情を曇らせたが、すぐに気を取り直し、凛とした笑顔でハルカとアカネに向かい合う。

 

元より閉鎖的だった両家の中では例外極まる改革派なのが彼女だ、この程度の足踏みで焦るようなメンタリティはしていない。

 

そんな焦りやすい性格ならば、ヒグマをひねり潰せる腕力で現当主をぶっ飛ばして家を乗っ取るぐらいはやってるはずだ。

 

 

「では、個人的な協力者であるキミタチに1つか2つ、情報をまわしておこう。

 ヒノシタ家はこの機会にこちらをけん制したいようでな、週末に会合の予定が入っている。

 あちらの屋敷での会食込みだが、恐らくソコに件の【ギルス】を連れてきて牽制するつもりなのだろう」

 

「! なるほど、そこに僕らがいれば!」

 

「うむ!その【ギルス】何某が何者なのか判断がつくはず。

 少なくとも君らの知るギルス氏なのか、その名を騙る偽物なのかは分かるだろう。

 

 手続きはこちらで進めておく、週末の予定は開けておいてほしい」

 

「……そのセリフはもっと色気のあるシチュエーションで言われたかったとか思ってへん?」

 

「え゛っ!? い、いや、そんな。こんな真面目な雰囲気で思うわけないでしょ!!」

 

「いやその『え゛っ』はなんやねんそれなら」

 

「む? ……ああ、なるほど!逢引の誘いにも聞こえるな!」

 

 

あ゛ーもう!とちょっと顔を赤くして二人の言うことを否定するハルカを、この後20分ほど散々女性二人が弄り倒して、ようやく解散の流れにもっていくことができた。

 

経過時間は合計で一時間弱かそこらだというのに、フルマラソンも余裕で完走できるはずのハルカがぐってぐてに疲れ切っている。

 

半面、弄りっぱなしだったアカネと生徒会長は妙にツヤツヤしていた。

 

 

「いやぁ、こういう会話もいいものだな!

 普段は生徒会の面々や同じ一族の同年代もどこか敬って接してくるので新鮮だ!

 それにハルカ君、君はどうも胸襟を開いて会話したくなる空気を出すのが上手い!無礼講を作る才能がある!」

 

「まー、どうやっても家柄違いまくりやし、オマケに覚醒してるせいではなっとるプレッシャーがシャレにならんからなぁ」

 

「そのせいで僕のメンタルがボッコボコなんですけど……」

 

 

ぐでぇーん、という効果音が背後に見えるほどに疲弊したハルカが、生徒会室の机に突っ伏している。

 

ガールズトーク+被害者一名という地獄のような時間は終わったが、ハルカからすれば酒呑童子との殴り合いのほうがよほどマシだったらしい。

 

まあ、思春期の少年には難易度高すぎるミッションだろう、少なくともオトシゴロにはきつい時間だ。

 

 

「それにええやん、ちょっと本音交じりにガールズトークしたおかげで、生徒会長の夢が『普通に恋人作ってラブラブチュッチュする』ってわかったんやし」

 

「それが分かったところで僕になんの得が……?」

 

「う、ううん、ちょっと恥ずかしいからあんまり言いふらさないでほしいが、うむ」

 

 

なんだこの甘酸っぱい空間、と半分グロッキーなハルカは考えたが、夢の内容そのものは理解もできる。

 

鷹村家で生まれ育ったハルカからすれば、名家の次期当主なんて恋愛結婚から最も遠い立場だ。

 

なるべく霊的才能が高く、それでいて自分達と同じ霊能一族から異性を引っ張ってきて嫁か入り婿にする以外の選択肢は基本的に無い。

 

ガイア連合の黒札へのお見合い攻勢とか種付け懇願とか自慰行為後のティッシュをこっそり回収して人工授精とかが絶えないレベルで他の土地では霊能力者が足りないのだから。

 

この辺りの地区はそこまで切羽詰まっていないが、それゆえに権力維持のためのしがらみは余計に多いのだろう。

 

 

「卒業後は間違いなく、遠めの親戚で霊能力を持ち、なおかつ市議か県議……。

 もしくは地主あたりの親族から誰かが選ばれて婿に来るはずだ。拒否権は無い。

 

 だからこそ、普通の女子のような恋愛に憧れはある。少女漫画でしか見たことがないからな」

 

「生徒会長、少女漫画とか読むんか……」

 

「うむ!家の者がうるさいのでな、り〇んとか毎号こっそり買って部屋で読んでいる!

 アニ〇ル横町は単行本もそろえて押し入れに隠しているぞ!」

 

「予想以上に俗!」「ア〇マル横町ってなに……?」

 

 

思ったよりも年相応な会話というか、生徒会長も一皮むけば中学三年生なのだと分かる会話であった。

 

なにより、こんな空気でも『運命の相手と真っ当な恋愛をしたい』という夢は純粋かつ真剣で。

 

地方の名家に生まれながらも、生徒会長として普通の学生たちを見て成長したからこそ抱いた夢であった。

 

 

「とはいえ、クマをひねり殺せる女に惚れてくれるような奇特な趣味の男性などそうはいまい。

 ……霊能力者相手でも、夜伽の最中にうっかり相手を絞め殺しかねないからな。

 だからこそ叶わぬ夢だと分かってはいるが……せめて小娘の間ぐらいは、な」

 

「ニノウエ生徒会長……」

 

「……すまない、少し暗くなってしまったか。話すことは話した、今日はここまでにしよう。

 招待状に関しては明日までに郵送する。週末の一件、頼んだぞ?」

 

 

話し込んで外が暗くなったのか、あるいは雰囲気が暗くなったのか。

 

その答えは3人とも触れないまま、ハルカとアカネは生徒会室を後にした。

 

ちょっとだけしんみりした空気で、生徒の気配が薄くなった廊下を歩く。

 

文化系の部活は部室棟で行われ、運動系の部活はグラウンドか体育館、はたまた近所にある市民陸上競技場等を借りて行っている。

 

そのため、生徒会室や職員室のある校舎は放課後になると一気に静かになるのだ。

 

 

「……ハルカ君は、なんか夢とかあるん?」

 

「え、夢ですか? ……ううん、あんまり思いつきませんね」

 

「あれ、意外やな。てっきり仮面ライダーとか正義のヒーローとか言うもんやと……」

 

 

ハルカの今までの戦いは、ガイア連合黒札ならばガイア連合の掲示板ログを漁ればすぐに見つかる程度には周知されている。

 

シノの手によって戦闘シーンの切り抜き動画だの児童書風の解説本だのプロマイドだのまで作られているので、アカネも出会う前からハルカ……ギルスの事は知っていた。

 

だからこそ、夢を叶えたかあるいは夢の途中だと思っていたのだろう。

 

 

「ギルスは……『仮面ライダー』であることは、僕にとっては水や酸素と同じなんです。

 それがあるから生きていける、それがあるから、僕が生きている価値がある。

 だから夢となると……将来の展望とかしたいことだからなぁ。パっとは浮かばないよ」

 

 

英雄(ヒーロー)であることが生きる意味であり、貰った力はそのためのモノ。

 

平和な世界や無力な人々のための盾となり、鍛えた心身をもって災厄を打ち破る。

 

先天的にも後天的にも、英雄としての道を歩む以外の選択肢がない精神性だからこそ、彼は阿部によって見出されたのだ。

 

……それが『占いによって検索したら最高のタイミングで偶然阿部が拾うことができた』という事情があろうとも。

 

あの出会いで阿部の興味を引けたのは、彼の振り切った精神性に他ならない。

 

内心では(歪んどるなぁ……)と思ってるアカネもそれを口に出すことはなかった。

 

結局の所、ハンパに善人な『俺達』メンタルであるアカネからすれば、こんな闇が深い問題をなんとかできるほど自信が無いのである。

 

 

「ウチは、まあ。実は趣味でトランペットやっとるんよ。ジャズが好きで、将来はジャズのトランぺッターが夢なんや」

 

「へぇ……渋くていい夢じゃないですか(ちょっと中学生にしては珍しいけど)」

 

「昔行った事がある喫茶店で、えらいキレッキレのジャズが流れとってな。

 なんでも海外から取り寄せたレコード音源だったらしいけど、それからもう、ジャズの虜や。

 ちゃんとトランペット教室にも通ってて、そこそこ上手いんよ?」

 

 

当然というかなんというか、アカネの『昔』とは前世のことだ。

 

ごくごくありふれた中流未満の家庭に生まれ、高校を出たら地元の中小企業で働いて。

 

そんな中で、偶然軽食ついでの息抜きに入ったジャズ喫茶でジャズにハマり、事故で死ぬまで数少ない趣味として浸り続けた。

 

 

(そう、前世じゃ日々の生活に必死で音楽の勉強どころじゃなかった。だから今世こそ……)

 

 

彼女が黒札として頑張り続けられるモチベーションは、ソレだ。

 

前世で叶わなかった夢も、今ならば霊能力者をやりつつ音楽の勉強をすれば十分に叶う。

 

黒札として稼げる金額に、将来入る予定の都市ごと結界で覆うシェルターを選ぶ時に音大がある場所を選べばいい。

 

ちょっとメシア穏健派が余計な手助けしてきそうなのを気を付ければ、前世で叶わなかった『夢』が現実になる所まで来ているのだ。

 

 

「……夢っちゅうんは、呪いにもなれば祝福にもなる。会長みたいな叶わん夢は呪いと同じや。

 せやけど、それでも……夢の事を考えてると、ぐわーって胸が熱くなんねん。

 だからきっと、一度夢を見てもうたら捨てられへん。かなわなかったとしてもな。

 胸の中にしまい込んで、引きずって生きてくしかあらへんのや」

 

「呪いに、胸が熱く、かぁ……」

 

 

二人そろって、中学生にしては達観しすぎている会話を交わしながら校舎を出る。

 

互いに途中までは方向が一緒なので帰路につきながら、夕焼けが二人の顔を赤く照らす。

 

 

「……アカネさん」

 

「ん、なんや?」

 

「夢じゃないですけど、1つだけ決めたことができました。まだ、上手く言葉にはできないけど。

 言葉にできるようになったら、アカネさんにも教えます、きっと」

 

「……ん、そか。楽しみにしとく」

 

互いの家に向かう分帰路まできたところで、アカネに背を向け歩き出す。

 

今しがた胸に抱いた思いを、1文字ずつ言葉にしながら、ハルカは次の『山場』になりそうな週末の会合へと意識を切り替える。

 

 

(流石兄弟さんに内偵頼んで、師匠にも声かけておこう。最低でも占いは出してもらう。

 シノさんには念のためアイテムを郵送してもらって……鬼灯さん呼べるかなぁ)

 

 

……自分のツテを遠慮も油断もせず可能な限り使い、ギルスを名乗る何者かに備えるのであった。

 

 

 

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