「はあ、はあ、ひぃ、ひっ……!?」
最初は、ちょっとした度胸試しだった。
ある日SNSでバズる動画を撮ろうと、出るとウワサの廃ゲームセンターに忍び込んだ。
クラスで浮いていたことへの焦りもあったのだろう、最近流行のオカルト動画でバズって、友達を作るきっかけにしようと思ったのだ。
それなのに不可思議なバケモノが突然現れて、ぎゃあぎゃあと喚きながら自分を喰らおうと追ってくる。
あれはよくないものだ、あれは自分を害するものだ、と本能で理解して逃げ出したものの……。
「っい、行きどまり!?」
土地勘もない廃墟で逃げ回れば、当然そのうちこうなるわけで。
しかも異界化によって変貌した建物は迷路のように変化しており、出口までの道筋もいつの間にか見失っていた。
すぐさま引き返して別の道を選ぼうとしたが、時すでに遅し。
例のバケモノが数匹、後ろの通路をふさいでじりじりとにじり寄ってきた。
(あ、これ死んだ)
床にへたり込んであとずさりして、背中に壁の感触を感じ、恐怖に怯えながらも妙に思考だけは冷めきって。
つまらない人生だったなぁ、なんて諦念が心を支配したところで、そのバケモノ……『幽鬼 ガキ』たちが自分目掛けて躍りかかり。
横合いから壁をブチ破って現れた、異形の二輪バイクにまとめて引き潰された。
「!? は、えっ……!?」
生き残ったガキが爪を使って攻撃を仕掛けるものの、その異形はたやすくそれをいなし、反撃の拳でガキを四散させる。
数多くの人修羅を葬ってきたガキも、レベル差が開けばこんなものだ。
さらに数匹のガキが湧いて出てきたが、その異形が神々しい光と共に炎を放てばチリ紙のように燃え尽きる。
どう考えても聖なるモノではない異形だが、しかし、放つ光はイチロウの心が穏やかになるほど神聖なモノだった。
「……無事か?ボ……いや。 私は、味方だ」
差し伸べられた手に、イチロウの両手が縋りつく。
……人生には運命の転換期というモノがあるという。
太宰イチロウにとっては、この『正義のヒーロー』との出会いこそがそれだった。
「アカネさん、生徒会長!皆を避難させてくれっ!」
「アンタはどうするんや!?」「そうだ、私も戦わねば……」
「巻き込まれて何人死ぬと思ってるんだ!早く行けッ!!」
突然の悪魔と異形の襲撃に、既にパーティ会場は大混乱だ。
我先にと逃げ出そうとする人々、覚醒をおえている霊能力者も格の違いを肌で感じ、一瞬で心が折れた
ギルス・アバターと無亜居士にかけられていた、アナライズジャマーと同じ効果の呪詛らしきモノは解けている。
それが解けた瞬間、アナライズ可能になるとともにとんでもないプレッシャーが放たれたのである。
【 魔人 ギルス・アバター LV55 】
【 邪神 ニャルラトホテプ LV53 】
対するハルカ……ギルスのLVは『55』。
片方だけなら互角に戦えるだろうが、両方同時に来られたら当然のように不利がつく。
しかし、この場にいる中で二番目に強いのはアカネ、その彼女ですら『LV34』。
半終末になって真面目にレベル上げしている黒札としては十分な強さであるが、あまりにも相手が悪い。
(アカネさんより強い黒札……戦力になりそうなのは最低でも『白夜叉』や『サスガブラザーズ』
可能なら『デビルハンター』や『蟲姫』、あるいは鬼灯さんが欲しい相手だ!
前衛が複数いるならアカネさんの援護が欲しいけど、僕一人じゃ前線を維持できない!)
「相談してる余裕があるのかァ!ッハハハ!!」
「ぐぁっ!?」
ギルス・アバターの腕の一部が一瞬触手になり、それが硬質化して『ギルスクロウ』そっくりに変化。
『虚空爪激』*1が放たれ、ギルスの胸部生体装甲をズタズタに引き裂く。
火花と共に吹き飛んだギルス、しかし追撃の手は緩めない。
「『ザンダイン』ッ!」「うああっ!?」
後衛についたニャルラトホテプの衝撃魔法がギルスをさらに吹き飛ばす。
うめき声を上げながらもなんとか立ちあがるが、その直後にニャルラトホテプが構えた魔法で『狙い』を悟ったギルス。
反撃ではなく移動に全力を尽くし、一気に目的地へと駆け付けて仁王立ちになった。
「さあ、正義の味方らしく助けてみなさいな、『マハザンマ』!」
「うっ!ぐああああああっ!!?」
ニャルラトホテプが狙ったのは、ギルスではなく我先に逃げようとしているパーティに参加していた人々だ。
生徒会長ですらLV5、当主の男でもLV3、参加者の大半はLV1にすら到達していない一般人。
マハザンマどころかザン一発ですら死にかねない。
広範囲魔法相手では、避難する面々の前に立ちふさがったとしても庇いきれないだろう。
だからこそ、ギルスは無茶に無理を重ねた。ギルス・アバターの爪に切り裂かれながらも前に出て、ニャルラトホテプの眼前で全ての衝撃を自分の体で受け切ったのである。
(そうだ、もっと苦しんで、足掻いて、絶望しなさい!)
追い付いてきたギルス・アバターに背後から切り裂かれたギルスにザンダインを打ち込みながら、ニャルラトホテプは暗い愉悦に頬を歪める。
ガイア連合やメシア教穏健派にバレないよう、日本各地で仕込み続けた玩具の種。
お気に入りのプレイヤーであるカヲル君にぶつけるために用意していたソレらを、遊ぶ前に先回りして叩き潰し続けたのがこの師弟だ。
ギルスの実家である鷹村家もそう、本当ならギルス・アバターの材料になった一族で長く遊べるはずが、ニャルラトホテプが収穫するまえに阿部が叩き潰した。
ならばと愛弟子であるギルスを殺して阿部を絶望させようと、【対ギルス】向けに調整した異界とその主を育てていたら、育成中にギルスの練習相手として刈り取られ。
大江山では愚かな一族による身内殺しをニッコニコで観戦していたのに、茨木童子と阿部のせいで『劇場版 仮面ライダーギルス 大江山の大悪鬼』って感じに乗っ取られた。
ニャルラトホテプは吟遊GMである。あるいはこまったちゃんである。
自分の作ったシナリオでPLを阿鼻叫喚させるのが一番好きで、次点でカヲル君のようにマンチプレイで乗り越えてくるのを見るのが好きなのだ。
書いてる最中のシナリオという名の玩具を、横から出てきてライターで燃やしていく師弟を好きになれるはずもない。
だからこそ、今回は自分の遊興の邪魔になる師弟の片割れを、高位の分霊まで出して始末しにきたのだ。
無論、ただ始末するだけでは這い寄る混沌としての沽券にかかわる。
(地味に苦労したんですよぉ?貴方の母親と弟を探し出し、オカルト関連の仕事中に声をかけて。
無亜居士の名前を出したらホイホイ乗ってきましたから、その体から精巧なレプリカを作って。
二人にかけられてる監視・追跡用の契約呪詛をレプリカに移し替えてから拉致!)
いつまでも誤魔化せるものではない、長くても『十日』が限度。
それ以上は地獄湯の閻魔とその相方は確実に違和感に気付き、偽装に使っているレプリカ……『外道 スワンプマン』からニャルラトホテプの暗躍に気付く。
だが、この二人は所詮ガイア連合にとってさして重要なコマでもないのが幸い/災いした。
元ダークサマナーであるクレマンティーヌですらあんな扱いなのだ、はっきりいってこの二人の扱いはガイア連合でも些事の中の些事。
だからこそ、ニャルラトホテプはギルス相手の嫌がらせ10割で【母子合体魔人】を用意したのである。
……戦力として使うのなら、別にこの二人をつかった母子合体魔人でなくていいのだから。
「うっ、ぐ……アカネさんッ!!早く!!」
「ッ……すぐ援軍呼んで戻ってくるさかい、それまで死ぬなや!?」
「葛葉くん、しかし!?」「いいから来いや!!」
アカネがヒメの首根っこを掴んで無理やり避難させ、彼女が呼び出した専用式神。
本人曰く【東北姉妹】と呼んでいるソレが殿となり、パーティ会場の人間の避難がようやくスムーズに進み始めた。
(まあ、素直に逃がすわけありませんけどね?)
「召喚、ムーンビースト」
パチンとニャルラトホテプが指をはじくと、彼女の周囲にMAGが集合。
巨大な青白いヒキガエルの頭部だけを触手に置き換えたような悪魔が2体、ずるり、という音と共に湧き出てきた。
『外道 ムーンビースト LV12』。普段ならばギルスにとって相手にもならない悪魔だが、この状況では最悪に近い。
なにせ、ギルスガン無視で非難する人間の方を追い始めたのだから。
「ッええい、『ガルダイン』ッ!!」「『マハジオ』!」「『きりたん砲』!」
即座にアカネたちが反応し、避難誘導と並行してなんとかムーンビーストを食い止める。
しかし、ギルス・アバターがギルスを相手している間に、ニャルラトホテプはMAGが続く限りいくらでもムーンビーストを呼びだすだろう。
なにせ数日前からヒノシタ家の当主を魅了してこの会場に入り込んでいたのだ、ムーンビースト召喚のための仕込みはいくらでもできた。
「私の娯楽を妨害し続けた罪は、ヒーローとしての全てを否定される事で払ってもらいましょう」
絶望的な戦力差を前に立ち向かってくるギルスに、ニャルラトホテプは愉悦と共に嘲笑を向けた。
「くそ、避難誘導のせいで時間かかった!」
「ムーンビーストの対処で手一杯ですよ……一体どれだけの召喚装置を仕込んだんだ、あの邪神は!?」
避難を開始した直後、会場に使われているヒノシタ家の屋敷の各所からムーンビーストが湧いてきたのだ。
客間に書斎に廊下にロビーに、挙句の果てにトイレまで。
一か所につき1~2匹程度とはいえ、おそらく時間差でムーンビーストが召喚されるようにニャルラトホテプが仕込んでいたのだろう。
事実、会場の周囲に待機していた面々は突入と同時にムーンビーストの対処に手を取られていた。
愚痴りながらもムーンビーストを駆逐しているG3ユニットの面々、このレベルの悪魔なら大江山の妖鬼軍団で経験済みだ。
「レムナント氏、ここは我々G3ユニットでなんとか抑え込みます!貴方達は奥へ!」
「タティアナさん!ソフィアさん! ……わかりました、イチロウ君、君も!」
「は、はい!ギルスレイダー、頼むぞ!」
レムナントがギルスレイダーにまたがり、その後ろにイチロウがしがみつく。
邪魔なムーンビーストをギルスレイダーの【ぶちかまし】を使用しつつフルスロットルで跳ね飛ばし、空いた空間を駆け抜ける。
庭をブチ抜き、廊下を突っ切り、階段をすっ飛ばし、時折邪魔なドアをけ破りながら、一気にパーティ会場への最短ルートへ突入。
一切ブレーキをかけるつもりもなく、このままムーンビーストも障害物も蹴散らしてパーティ会場に突入するつもりだった。
……その途中、『あるもの』が視界の端に映るまで。
「! レムナントさん、ブレーキ!!」
「ッはい!」
躊躇なくブレーキを踏んだのは、一瞬だけ遅れてレムナントもイチロウと同じモノを見たからだろう。
停止したギルスレイダーからイチロウが飛び降り、ブレーキをかける原因になった『彼女』に駆け寄る。
「何をしてるんですか会長、こんなところで!?避難したんじゃないんですか!?」
「ッ……君は、太宰君か。そうか、そうだな。鷹村君と共にいた君も、そりゃあこっち側か……」
パーティの時のワンピース・ドレスではなく、対悪魔用と思われる装備に身を包んだニノウエ ヒメがそこにいた。
装束と霊刀を手にここにいるということは、明らかにパーティ会場に戻って悪魔と戦うつもりだったのだろう。
恐らく、アカネにひっぱられて避難した後にこっそり持ち込んでいた装備に着替えて戻ってきたのだ。
イチロウの横を通り抜けて奥へ向かおうとする彼女の手を、イチロウは反射的に掴んでいた。
「今行けば死にますよ!?実力差ぐらいわかるでしょ!?」
「(っ振りほどけない!?やはり彼も……) だが、逃げるわけにはいかない!
私はニノウエ家の次期当主!そしてニノウエ・ヒノシタ両家で最高の霊能力者だ!
……君たちからすれば矮小な力だろう、だが……!」
言い切る前に、イチロウはヒメの手を放し、そのいく先に仁王立ちする。
「……俺もどかせないようじゃあ、奥に行ったって足手まといだ!
今掴んだ手、ガタガタに震えてるじゃないか!なんで無茶をしたがるんだ!」
「わ、私は……だって私は!このために生きてきたんだ!悪魔と戦うために!!」
食い止めようとするイチロウに対し、ついにヒメの感情が爆発した。
とっくに心など折れている、パーティ会場での戦いで、あの異次元の戦いを見てしまった時から。
手足の震えは止まらない、それでも、彼女にはそれ以外の選択肢がなかった。
「だって、皆私より弱かった!だぁれも私を助けてくれなかった!いっつも助ける側だった!」
「……だから?」
「だから私は助けにいかなきゃならない!助けてくれる人なんているわけがない!」
「……それで?」
「そんな都合のいい、夢物語のヒーローみたいな存在があるものか!だから、だから……」
イチロウとヒメの押し問答は続く。
いや、一方的にヒメが喚き散らし、イチロウがそれを受け止めている状態だった。
しばらく心の内を吐き出した後、ついに彼女はへたり込み、俯いて泣くだけになってしまった。
次期当主として、生徒会長として、周辺で最高の霊能力者として。
若くして抱え続けた重さすべてに、この土壇場で耐えきれなくなっただけの、ただの少女がそこにいた。
「……いるさ、ここに。半人前の『仮面ライダー』だけど」
「……え……?」
ぽす、と顔を上げたヒメに、イチロウのトレードマークだったつば付きの帽子が落とされる。
顔を覆ったそれを手に取ってもう一度見上げれば、腹をくくった男の顔があった。
「泣き顔のまま外に出るのもアレだろ、それ被って隠しときなよ……衣装との取り合わせ、最悪だけどさ」
「太宰、君……?」
「俺もさ、立派な人間じゃないんだ。よくてハルカの友達……悪く見れば腰巾着。だけど……。
なあ、会長。会長って、夢はあるか?」
「……あ、ある。小さな、夢だが……」
そっか、と答えたイチロウが立ちあがり、ヒメに背を向けた。
奥の廊下から出てきたのは、恐らくアカネたちが取り逃したムーンビースト。
パーティ会場は目と鼻の目前である、ここさえ突破すれば、鉄火場の最前線にたどり着く。
イチロウはイヌガミとアガシオンを召喚し、生徒会長を守って外に逃げろ、と命令を出した。
「夢ってやつは、叶わないと呪いだけど……持ってるとぐわーって胸が熱くなる、らしいぜ。
俺には人に誇れるほど立派な夢は無いし、ハルカの夢はもう叶わないって言ってた、でもな」
迫りくるムーンビーストに、イチロウは『構え』を取る。
光と共に腰にベルト……『オルタリング』が現れ、眩い光が闇を照らす。
その時ヒメが見た光景は、かつてイチロウがギルスに助けられた時に見たモノとよく似ていた。
「夢を守ることはできる。 …… 変 身 ッ !!!」
光に包まれたイチロウの体が、進化し続ける黄金の戦士……『アギト』へと変身する。
とびかかってきたムーンビーストを容易く蹴り飛ばし、レムナントと共にギルスレイダーに再度搭乗。
今度はイチロウ……アギトが運転を担当し、残ったムーンビーストを蹴散らしながらパーティへ踏み込んでいく。
「……仮面、ライダー……」
そんなアギトの背を、少しだけ頬に朱の差したヒメが見送ったのであった。
「いい加減諦めたらどうです?英雄気どりの愚か者さん?」
「ぐ、う……!?」
一方、ギルスはギルス・アバターとニャルラトホテプの波状攻撃に追い詰められつつあった。
ムーンビーストはアカネたちがなんとか対処してくれている、しかし、そもそも同格の相手二人と戦って無事で済むはずもない。
アカネたちが援護に回ろうとするが、範囲攻撃に巻き込まれて余計に回復の手間が増えかねない状態。
万が一ギルス・アバターと肉弾戦にでもなったら、前衛型の東北姉妹はともかく後衛型のアカネがきびしい。
蘇生のためにリソースを割けば一気に押し込まれる、そんなギリギリの戦況なのだ。
そんな状況で、ぎゃははは!と下品な笑い声を上げながらギルス・アバターが襲い掛かってくる。
「「今の俺/私と同じように、貰った力でイキり散らしてきたんだろォ!」」
「ぐっ……!?」
「「生まれついた力を磨かず、ズルして得た力で好き放題やった罰を受けろ!死ね!
私がこれからも続けるはずだった正義の味方としての日々を奪った罰を受けて死ね!
俺がこれから手に入れるはずだった鷹村家の全てを奪った罪を背負って死ね!
死ね、死ね、死ね!!愚兄/愚息ッ!!!」」
「ふざ、けるなぁ!!」
振り下ろされた爪をギルスクロウで受け止め、わき腹に回し蹴りを放って距離を取る。
ぐおっ、と鈍い悲鳴を上げたギルス・アバターに、ギルスは渾身の感情を込めて言い返す。
精神的にボロボロに追い詰められるような状況でも、彼の心は奮い立つ。
「お前たちと一緒にするな!僕は……僕はこの力を誰かの為に使うッ!!
たとえ僕一人だけになったとしても、それで何も得られなかったとしても!
僕は、この命に意味と価値を生み出して死ねるんならそれでいい!!」
そんな事を言い放つギルスの背後、パーティ会場の出入り口が轟音と共に粉砕され……。
「それはそれでいいわけあるかバァーカ!!!」「主殿避けてェ!?イチロウ君、前、前!!」
「げぶろんっ!?!?」
突っ込んできたギルスレイダーの前輪が、ギルスの後頭部に盛大に直撃した。
グロンギが体につけてそうな魔石みたいな悲鳴を上げて、もんどりうって倒れこんだギルス。
そこにギルスレイダーから飛び降りたイチロウ……アギトが駆け寄る。
当然抱き起すわけではなく、胸倉のかわりに肩を掴んで無理やり引き起こした。
「いっづづ……い、イチロウか?」
「そうだよ!それよりハルカお前、援軍に駆け付けてみたら……。
何が、僕一人になってもいい、だ!何も得られなくてもいい、だ!
そんな心持で死んで、それでいいなんて……納得できるか!!」
がくがくとギルスの頭を前後に振りながら、後ろでレムナントが腕を組んで「わかってるじゃないか」みたいな顔してるのに微妙にイラつきを覚えるギルス。
だが、何か言い返す前にイチロウが言葉を浴びせかけた。
「俺がいる!レムナントさんもいるし、アカネちゃんやアオイちゃんだって!
お前がいつも言う師匠もいるし、他にも沢山……沢山、いるだろうが!!
お前をひとりぼっちで戦わせて、ひとりぼっちで死なせてたまるか!!」
「イチロウ……そうだ、そうだ、よな」
ぐらつく視界が戻ってくれば、アギトの手を借りてギルスは立ち上がる。
もう一度腹の底に気合を入れて、ニャルラトホテプ陣営に向き合った。
どうやらムーンビーストの召喚を加速させたようで、その背後には10を超えるムーンビーストが見える。
だが……。
「それで、うすら寒い友情ごっこでなにが変わると?」
「変わるさ……僕達は、そこの力だけのまがい物とは違う」
ぴくり、と侮辱されたギルス・アバターが反応するが、無視してギルスとアギトが前に出た。
先程までの消えかけの線香花火のような熱ではない、心の底から燃え上がるような闘志がギルスに満ちていく。
孤独な闘いだとずっと思っていた、しかし自分の道をついてきて、背を追い、支えてくれる者がいる。
もはやカケラほどの絶望も無い、負ける気すらしなかった。
「邪神に、魔人に、月の獣の群れ……敵は多いな、イチロウ」
「そうだな……でも、大したことないな、きっと!」
「ああ……ああ! なにせ今日は……!」
ギルスとアギトが並び立ち、闘志をそのままに戦闘態勢を取った。
並び立った仮面ライダー、まさしくヒーローの姿というほかない。
そして、正義のヒーローはいつだって、闇を切り裂き、光をもたらすのだ。
「「僕/俺とお前で、ダブルライダーだからな!!!」」