霊能力者、鷹村ハルカは改造人間である。   作:ボンコッツ

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「大丈夫だ、問題ない」

 

【ヒノシタ家での一件の翌日 日本某所 喫茶店『アセンション』】

 

 

「つまるところ、予知も予言も占いも、その本質は未来の【観測】と【確定】だ」

 

 

少し古風でオシャレな隠れ家的カフェの一角、壁際の奥の席に座った男が口火を切る。

 

名を【阿部 清明(アベ ハルアキ)】。言わずと知れた【破界僧】であり、鷹村ハルカの師匠でもある陰陽師だ。

 

元々ガタイが良い上に、ぴしっとしたビジネススーツのせいもあってか若干カタギじゃない雰囲気まででているが、それは割愛。

 

今回は待ち合わせの相手がいたようで、向かい側に二人の男が座っている。

 

ブロンドの髪に白いシャツの若い男性と、黒い髪に黒いジャケットの男性。

 

どちらもなぜか地肌にワイシャツ&ジャケットを羽織っており、示し合わせたようにE〇WINのジーンズ(約10万円)を履いている。

 

カフェオレで喉を潤しながら、阿部は【共犯者】でもある二人との会合を続けた。

 

 

「まだ見ぬ未来を【観測】し、それをピンどめするように【確定】させる。

 予言でも予知でも占星術でも因果操作でも、結局のところ未来を操る術はそこに行きつく。

 

 変えられない?観測だけで終わる?

 そもそも観測した時点で【変えられない未来を観測した】世界にシフトしてるのさ」

 

「それはわかる。 だからこそ我々は聞きたいんだよ、アベ ハルアキ。

 我々も予知や予言の手札はいくつかあるが、君は明らかに何らかの方法で【未来を変えた】。

 ……予言や予知は確定した運命を知る、あるいは運命を確定させる力に等しい。

 これを変えられるのは、一部の【運命力】ともいうべき何かを持った英雄だけだ」

 

 

黒いシャツの男が、一見すると軽薄そうな口調で話しかけてくる。

 

しかし、その視線は阿部の一挙一動すら見逃さない、超越者としての観察眼に満ちていた。

 

 

「当然、私も隣の彼もそんなことは不可能だ。君の所で厄介になっている『別側面』でもな。

 君の弟子……鷹村ハルカは、本来あのような形で這いよる混沌を討つはずではなかった」

 

 

こちらはブラックを一口飲んでから、香りをしっかり楽しんで話を続ける。

 

 

「親族を殺害した罪悪感でその精神は拗れに拗れ、

 正義への絶望に己の信念と道程すらも疑い、迷い。

 しかし強すぎる心が悪に染まることを許さず……

 

 全ての悪徳を討ち滅ぼす『秩序の英雄(ロウ・ヒーロー)』として覚醒するはずだった」

 

「そうだな、俺が占った未来でも、だいたいそんな結末になる可能性が高かった。

 ……勘違いしないでほしいのは、俺ができることは少しばかり手札が多いだけだ。

 手札の強さ自体は、俺より上の人間はガイア連合でも複数いる」

 

 

びっくりどっきりなユニークスキルで無理やり未来を変えたわけではない、と彼は言う。

 

というより、ユニークスキルだと思われてるスキルの大半もスキル・魔法の組み合わせなのがほとんど。

 

つまりは彼の行った【何か】に関しても、やってる事自体は基礎の延長線上にあると言っているのだ。

 

この喫茶店での密会がわかりやすい例だ、と言って店内を軽く見まわして。

 

 

「一応結界なんかで対策はしてあるし、尾行(つ)けられてないかも念入りにチェックしてある。 だが、この密会が絶対にバレない理由は他にある……【この密会がバレない未来】を俺が占星術で観測したからだ」

 

「前にも聞いたが、その時点で我々にとっては少しばかり驚く事実なんだがね」

 

 

そう難しいことじゃないさ、と言いながら、阿部はもう一口カフェオレを口に含む。

 

密会予定の場所をいくつかに絞り、そのいくつかを『占う』ことで吉兆を探り出す。

 

そして、阿部が観測できる範囲では【この喫茶店での密会がバレる】という凶兆が見えなかった。

 

つまり『偶然顔見知りが喫茶店に来た』とか『広域探知に偶然引っかかった』とか、なんなら『後日訪れたサイコメトラーがこの喫茶店の過去を読み取った』……なんて荒唐無稽なモノまで一切あり得ない。

 

仮に何かしらの運命の抜け穴を使って密会の証拠をつかんだとして、【凶兆】は観測されていない以上、阿部にとって大きな損となる結果にはならない。

 

戦闘力で言えば運命愛され勢やショタオジには劣るものの、盤外戦術がとんでもなくえげつない男である。

 

なお、うっかり自分に【死相】出しちゃったせいで一度死んだ模様。

 

高性能で高精度、ガイア連合のトップである神主すら上回る占星術による運命の定着は、自分に出した『死相』すら何らかの形で発揮させねばならないほどの域にあるのだ。

 

 

「まあつまり、俺ができるのは現状確認されている予知や予言の高精度版でしかない。

 運命を変えるんじゃなく、ありうる別の可能性に誘導するぐらいが関の山だ。

 99.9%と0.1%って状態じゃ、俺が必至こいても焼け石に水だろう?」

 

「なるほど、つまりタカムラ ハルカがロウ・ヒーローにならなかった可能性に誘導したと」

 

「いや、逆。むしろ俺ができる範疇でロウ・ヒーローになる可能性に全力投球した」

 

「何?」

 

 

今度こそ黒スーツの男が困惑を口にする、白ワイシャツの男は注文したいちごムースを食べて我関せずだが。

 

黒スーツの男の知る限りでは、彼ら【ガイア連合】はロウ陣営……それもメシア教勢力の拡大に嫌悪感を示す者が多い。

 

好き嫌いとか憎悪好感とか、そこまで強い感情ではなく『単純にウザい』『胡散臭い』ぐらいの感覚とはいえ。

 

わざわざロウ陣営にモロに染まった力の化身である、秩序の英雄 ロウ・ヒーローの誕生を後押しする理由が思い浮かばないのだ。

 

 

「(それも、自分の弟子を犠牲にしてまで……だ。ふむ)理由を聞いてもいいかな?」

 

「簡単さ、アイツが『俺ごとき』が星の巡りを弄って強化した程度の運命を覆せないんなら……『仮面ライダー』の資格はない」

 

「またそれか……君は仮面ライダーとやらへの信頼が重すぎないか?」

 

「俺にとっては永遠のヒーローだからな! ……ま、その永遠のヒーローを顕現させるために頑張る羽目になってるんだが。レベル上げも、暗躍も」

 

 

元々、阿部の占星術はここまでとんでもない性能ではなかった。

 

ハルカと出会ったときは吉凶の精査を行い、己にとっての吉兆となる選択肢を選ぶ……というオカルト界隈でもよくあるレベルの占星術であった。

 

しかし、ハルカと出会った後に『ある未来』を予知してしまったのが運の尽き。

 

その日から二年以上、山梨支部にある異界の深層まで潜り続け、大江山百鬼夜行事件の時点でLV99に到達。

 

さらに精度を増し、レベルアップと共に増していった予知・予言の手札をフル活用して暗躍し続けている。

 

……その『とんでもない占星術』による運命の固定を、鷹村ハルカ=仮面ライダーギルスは打ち破った。

 

因果操作だの未来予知だの運命変転だの、概念レベルでわからん殺しができる存在じゃなくなってしまった証拠だ。

 

 

「それに、ハルカは大江山で死ぬ可能性も十分にあった……アンタらが手を貸さなかったらな。

 まさか『シナイの神火』までネフィリムを経由でハルカに流すとは、予想以上の厚遇っぷりだ」

 

「それは私ではなく隣の彼さ、私は彼の介入がバレないように動いたにすぎない。

 第一、シナイの火も……『バーニングフォーム』だったかな?彼の新たな力として定着した。

 もはや取り上げることもできない、彼が振るう彼の力だ」

 

「制御のための助っ人まで来る羽目になったがな……本霊通信で『あの人』が来るとは思わなかったけど」

 

 

追加注文したフルーツゼリーに舌鼓を打つ白ワイシャツの男を指さす黒ジャケットの男。

 

ハルカがバーニングフォームとして振るっている炎は、仮面ライダーギルス……『葦原 涼』がディケイドの助けを借りて本霊通信で介入する前から目覚めていた力である。

 

あのバーニングフォームは『神炎を生み出す謎の力』と『それを制御するアギトの力』の二重構造だ。

 

このうち『アギトの力』は、かつて葦原 涼が『風谷真魚』や『真島浩二』から貰ったものを少し分け与えたのが出所だ。

 

並行世界の『四文字』であるアギトのラスボス、オーヴァーロード・テオスからも黙認された『脱法アギト』、あるいは『輸入品アギト』である。

 

そして『神炎を生み出す力』……これは、白ワイシャツの男が持っていた力を、ギルスの素材となっているネフィリムを経由して本霊通信で授けた結果だ。

 

エクシードギルスとの相性が最悪すぎたせいであんなことになってしまったが、本来は新たな力の覚醒で終わるはずだった。

 

 

「俺とアンタらは、俺が予知しアンタらが確信した『あの災厄』を退けるための同盟関係だ。

 だからこそある程度の干渉は事後報告でも納得するが……ハルカに何を見た?」

 

「それも、私より彼に聞くべきだな。因みに私は『要観察』以上でも以下でもない。

 メシア教大嫌いなロウ・ヒーローという面白いナニカになりそこねた相手、程度だ」

 

「地味に趣味悪いなお前。まあ、それじゃあ改めて……」

 

 

フルーツゼリーを食べ終えたブロンドの男に向き直る。

 

顔立ちは整っているが、若者なのに長い時間を生きた老爺のような雰囲気を感じさせる男だ。

 

敵意や悪意だけでなく、明確な意思すらつかみきれない雲のような気配をまとう長身の男性。

 

彼には72通りの名前があるから、何て呼べばいいのか……そう、たしか今名乗っている名前は……。

 

 

 

【大天使メタトロン】……アンタの目から、ハルカはどう見える?」

 

「……『義人』だな。神の価値観においても、現代の広義的な意味でも」

 

白ワイシャツの男……『天の書記』大天使メタトロンはこう語った。

 

義人とは、一神教において聖人が持つ称号の1つ。

 

『義なる人』『正しい人』。すなわち神の眼から見ても正しい事を行う人間という意味だ。

 

広義的な解釈では『堅く正義を守る人。わが身の利害をかえりみずに他人のために尽くす人』という解釈が広辞苑に記されている。

 

 

「彼は悪に堕ちることが『できない』人間だ、悪に屈することや折れることのない人間だ。

 

 苦難に膝をつくときも、己の内なる神や友の声で立ち上がる不屈の心の持ち主だ。

 

 常に茨の道を選び続け、弱き人々の代わりに茨の棘を四肢に突き刺し続ける人間だ。

 

 英雄性が強すぎて忘れがちだが、彼の本質は『誰かのために』と生きることにある。

 

 自分のために生きる事にむいてない……誰かのためにこそ魂を輝かせる善き人間。

 

 それが、私の眼から見た【鷹村 ハルカ】という少年だよ、阿部」

 

 

「……つまり、神的にも個人的にも善き人間だから手を貸した、ってことか?」

 

「彼(メタトロン)は昔からそうだよ、アベ。君が思っている以上に人の話を聞かない。

 英知も善性も確かだが、思い込んだら即決即断で行動してしまうところがある。

 まあ、そこまで間違った見立てじゃない事がほとんどなのが幸いだが」

 

 

訳知り顔にふふっと笑っている黒ジャケットの男に、阿部は「お前が言えた義理か」という顔をして。

 

 

「反抗期拗らせて聖書の神にケンカ売ったドラ息子よりは、天然ボケのノッポのほうがいいだろ。

 

 …………【堕天使ルシフェル】

 

「おっとぉ、これは藪蛇だったか」

 

 

神主と共に行動している『魔王 ルシファー』の別側面……魔王と化す前の姿である『光を掲げる者 ルシフェル』はおどけたように笑う。

 

大天使と堕天使、それも最高位に近い二体と対面しているというのに、阿部の方はごくごく冷静にカフェオレのおかわりを注文していた。

 

そして追加のカフェオレにスティックシュガーを3本ブチこみ、頭を使った分の糖分を補給しながら会話を纏めに入る。

 

 

「俺達の目的、それは【帝都】で起きる一件のせいで引き起こされる【もう一つの災厄】への対処」

 

「予言通りに行くとしたら、まわりまわって我らが父のやらかしの総まとめだ。協力は惜しまない」

 

「私は【ルイ・サイファー】ほど天の父への悪意はないが……ま、面白いんじゃないかな。

 ところでメタトロン、協力は惜しまない……なんて言ってしまって大丈夫か?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 

それ以外にも、今後の3人の動き方についても討論を重ね、すっかり冷めてしまったカフェオレを飲み干したところでお開きとなった。

 

誰一人、それこそ千里眼を持つ神ですら【うっかりみのがす】ように手配されたこの会合。

 

当然、阿部は身内であるガイア連合にすら明かしていない密会だが、それを言ったら神主も含めて仲間に話していない事情など山とある。

 

そのうえで、彼にとっての暗躍とは『ショタオジがガチで裏どりしても今回の密会の事が漏れない』レベルの対策の事を言う。

 

すなわち、彼の『隠し事』の全貌を知っている人間は、実質的にこの世に阿部 晴明ただ一人なのだ。

 

 

(さぁて……ハルカの奴はどんなふうにニノウエ家とヒノシタ家をまとめたのやら。ま、霊山同盟の巫女長も色々動いてる、悪いようにはならんだろう。

 

 ……運命は変わった。俺の占いが、ようやく外れる)

 

 

今しがた、世界の命運にロケットランチャー叩き込むような会合を終えてきたばかりだというのに。

 

阿部 晴明はまるで散歩の帰り道のように、コンクリートで固められた帰り道を歩いて行った。

 

 

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