【7月某日 城南中学校 通学路】
(ようやく一学期が終わった……濃い四か月だった……)
4月に学校周辺の異界を潰して回ってたらイチロウが巻き込まれてアギトに覚醒し。
5月に仮面ライダーらしき【未確認生命体】を追ってたら世界の破壊者と出会い。
6月に偽ギルスの正体を確かめに行ったら過去の因縁を清算するために邪神と戦うハメになり。
その後は【東海道霊道化計画】のために霊能組織や自衛隊との交渉の日々。
城南中学の終業式を終え、夏模様のじっとりとした外気に汗を流しながら通学路を歩く。
イチロウやアカネ・アオイといったいつもの面々や、先月からそこに加わったヒメとは先ほど別れた後だ。
とはいえ霊山同盟支部の幹部の面々も忙しいのは同じであり、寧ろこうして中学生らしいことができるだけハルカはマシまであった。
元霊山同盟の巫女たちは、ガイア連合の支援込みならそれなりに強力な結界を張ることもできるようになってきた。
それを活かし、東海道から伸びる道を中心に『支流』となる霊道を作ったり、災害時の避難所を結界で覆ってシェルターにしたりといった終末への備えを行っている。
リカは傘下のオカルトチームである【ラッキークローバー】を率いて、スライムやモウリョウ、ゴーストやガキ等の低位悪魔しか出ない異界をしらみつぶしに潰している。
リカが『自分はともかくほかのラッキークローバーじゃキツい』と判断すれば、ツツジが合流して異界へ殴りこんで主ごと根切だ。
利用できそうな立地条件・異界の状態が整っている場所を見つけたら、それを霊山同盟支部の技術部から派遣された面々が異界ごと『加工』。
金札向け修行用異界や、魔石・マッカの産出用異界、特定のアイテムを製造するのに向いた異界、これから祭る予定の神様向けの神社を建てた異界。
とにかくコントロールできる異界……霊山同盟支部では『管理異界』と呼ばれているソレを増やし、霊道・シェルター・管理異界の3つをもって終末に立ち向かうつもりなのである。
S県内の主要な地方都市はジュネスを建設し『都市ごと覆ったシェルター』としても確立。
商店街とかほとんどシャッター街になってるので大手スーパーマーケット同士の殴り合いになっていたのが功を奏した。
このあたりはヒメが家の権力をフルに使い、反対運動を最小限に収めることで西部・中部にもジュネスの誘致を進めている。
自衛隊にはG3MILDのレンタル・購入を進めており、新潟で成果を上げている【戦術甲冑 震電】についても試験的に導入を始めようか検討中の駐屯地もあるらしい。
……が、ここにきて技術部、というかシノがキレた。
「いい加減寝かせろバカヤローッ!!こちとらデルタギアの運用データ解析しつつ【カイザ】と【ファイズ】の試験も進めつつ【展開型デモニカ量産タイプ】の設計も進めつつG3用式神マザーマシンの追加生産までやってるんだぞーッ!!サクラちゃんが新潟からの出張終えて戻ってきたらサッカーロッド・ポンプの異界対応型までデータ飛んでくるしさーッ!ストライキするぞテメーッ!!!」
……というマジギレコールである。帰ってきた助手から「あ、コレを相良油田向けに調整する作業も追加です」と言われた時の発言である。
一応霊山同盟支部の技術部も、山梨支部の技術部から『俺にもベルト作らせろー!』とか『こっちが地元だから……』とかで黒札が移籍してきたり、
元霊山同盟の巫女やラッキークローバーの構成員から技術部志望の霊能力者も出てきたので、質はピンキリだが人員は確保できるようになりつつあった。
ハルカも前々からシノとサクラのオーバーワークは由々しき問題だと判断しており、山梨支部技術部でツテのある人間のスカウトや、技術者志望の現地人の育成を進めていたのである。
というわけで、出張から帰ってきたサクラとそれを出迎えたシノは、霊山同盟支部の近くにあるH根の温泉にてしばらく寛いでくるそうだ。
幸い温泉旅行に行く前の最後のひと踏ん張りで、数基の『式神マザーマシン』を作り上げ、【展開型デモニカ量産タイプ】の草案もまとめ上げてきた。
(展開型デモニカ……悪魔召喚プログラムや武装型式神、および初期型式神の設計を利用してつくられた、持ち運びの手間と装備の時間を非常に短縮したデモニカか……)
ガイア連合で運用されている式神は、初期の頃はMAGで肉体を形成するパターンが主流であった。
だがこれはMAGの燃費的に効率が悪く、そのうち元から式神ボディを用意し、そこにMAGでパーツを形成するタイプが主流となっていったのである。
とはいえ、そこは技術的な発展による燃費の改善やMAGバッテリーの大容量化によって、ある程度なら消費MAGも許容範囲に収まるようになってきた。
そこに着目したシノは、MAGを消費し各パーツを順序に従って【召喚・形成】することで、デモニカを瞬時に装備できるようになるのではないか?と考えたのである。
G4Xまで発展していった【G3シリーズ】の最大の欠点は、持ち運びと装着に手間がかかる事。
性能・コスト・生産体制を改良されつづけたG3シリーズは、コストパフォーマンス及び工業製品としての安定性の二点においてはデモニカの最高傑作と言っていい。
が、現場においては緊急出動が求められる場合も少なくないし、あんな大荷物を持ち運べるのは相応に数がそろった部隊だけ。
そこでシノは某花札屋お得意の『枯れた技術の水平思考』を発揮。
基礎設計はG3シリーズのモノを流用して可能な限りコストダウンし、G4Xまでで集まったハイエンドデモニカのデータやAIの蓄積も入念に解析。
初期型式神の『MAGによる物体形成』を応用し、ベルト型専用COMPから『武装型式神に近づけたデモニカスーツ』を召喚・形成する。
補助戦力としてジェットスライガー・サイドバッシャー・オートバジンという『マシン』種族の式神3種まで発明してしまうあたり、シノの入れ込みっぷりは相当だ。
各種テストやナナによる『デルタ』の実戦運用により、ジェットスライガーとサイドバッシャーは試作機一機で開発が保留されてしまったものの、オートバジンは開発計画が認可。
とはいえ、G4の余剰パーツを元に作った『デルタ』は明らかに量産型としてはコストオーバー。
他2種の試作機である【カイザ】と【ファイズ】がこれから実戦投入され、さらに簡易量産型の【トルーパー】という仮称がついたベルトも併せて検討される事になっている。
……という超絶重要なプロジェクトを、霊山同盟支部のオカルトアイテム生産工場の拡張に使う式神マザーマシンの追加生産と合わせてこなしていたので、そりゃキレる。
既に霊山同盟支部ではG3MILD生産のオートメーション化が進んでおり、ほとんどの交換用パーツぐらいなら式神マザーマシンさえあればなんと現地人の技術者でも作れる。
交換用ブラックボックスこそ黒札技術者しか作れないが、逆に言えば高度な式神技術が必須であるブラックボックス以外のG3MILD部分は黒札が必要ないのだ。
(G3MILDの供給不足は解消されつつある……とはいえ、売り先は無数だが工場は有限。
新潟にできる予定の工場にG3MILD用式神マザーマシンを1基貸し出してレンタル料を取るか?*1
ブラックボックス作れる技術者も呼ぶなら、完成したG3MILDは売っても使ってもアリだろうし。
……休暇中のサクラさんは送れないし、僕の分身Bを新潟に向かわせよう。
霊器改造コシヒカリの件も、こっちは稲作に向かない火山灰地も多いからアリだ。
ヒノエ米一極集中は、将来的にジャガイモ飢饉じみた事件につながりかねないし……。
霊酒の有無も聞いてみよう、あるなら大江山にもっていけば酒吞童子との取引に使える。
あ、そうだ。長野でG3R売られてるって情報がシノさんや流石兄弟から流れてきてたな。*2
いっそのことこっちから声かけるか……でも向こうにデモニカ作れる工場あったっけ?
無いんならマザーマシンのレンタルより、こっちで作ったG3MILDの販売窓口を任せるか。
シノさん経由ってことは技術部ともつながりある人だろうし、上手くいけば卸し先になる。
念には念を入れて、生産したマザーマシンの配備先を3割は白紙にしておいてよかった)
重ねて言うが、彼は終業式を終えたばかりの『中学一年生』である。
黒札のような転生者でもなく、組織運営など霊山同盟支部の支部長を阿部に押し付けられてから巫女長に学んだ程度。
名家生まれとはいえ、毒親によるネグレクト状態なので帝王学なんてモノとは無縁。
そんな彼がここまで『組織の長』をやれてるあたり、巫女長の『彼の天職は政治家か社長か教祖』という見立ては正しいのだろう。
(……くそぉ、こういうとき自分が黒札でも大人でもないのがもどかしいな……)
だが、支部長としての悩みは尽きない。
彼はプラチナカードまで出世した霊能力者ではあるが、黒札(ブラックカード)のような特権は一切持たない。
なんなら黒札がバラまいているゴールドカードですら、彼は申請や手続きをして少数に配布するのが精いっぱいである。*3
そして、どれだけ組織運営の才能があろうが、彼は13歳の中学生。
シノや阿部、あるいは巫女長といった後見人が無ければ交渉の1つすらできないのだ。
これからガイア連合の別の支部・派出所との交渉に臨む予定ができたが、それも『阿部の弟子だから』『シノの協力者だから』向こうは話を聞いてくれるのである。
もっと頼りがいのある立派な人間にならなければ、自分の力でほかの支部に『対等な交渉相手』と思わせる事すらできないのだ。
……と本人は思い込んでいるが、実際はガイア連合がすんっごい身内贔屓な組織であり、身内とはだいたい黒札の事を指すからである。
ハルカがナメられているというより、黒札という立場が特殊すぎてマトモな組織感覚でそこら辺を考えるとバグるのだ。
阿部の弟子・シノの協力者だからという考えも間違いではないのだが……正確には『黒札というバックがいなければ別に大人だろうと割と軽く見られる』。
他の黒札=【俺ら】の身内だから、というワンクッションがあるかないかは非常におおきいのだ。*4
とはいえ、己の未熟さが足を引っ張ってる!もっと精進しなきゃ!と考えられるのは良い事だろう。
「よし、分身に思考送信&操作完了。とりあえず家に荷物置いて……」
「どこへ行くんだァ?」
「うおわぁああ?!」
下校中の男子中学生に変質者が声をかける事案発生、という見出しで明日の地方新聞あたりに乗りそうな光景であった、と後にハルカは語る。
帰宅してからの事を考えていたハルカの背後に、突如現れた人影1つ。
何気にハルカと再会するのはディケイドとの一件以来しばらくぶりな、ハルカの師匠のイイ男・阿部 清明であった。
「なにするんですか、あやうく防犯ブザー鳴らすところでしたよ」
「おいおいつれないな、ハルカ。久々の師匠とのスキンシップってやつをまてまてまて防犯ブザーのヒモに手をかけるなかけるな鳴らそうとするな!」
鞄についていた防犯ブザーのヒモに手をかけるハルカに、あわてたようにストップをかける阿部。
ごまかす方法など10でも100でもあるのだが、それはそれとしてLV99の陰陽師でも防犯ブザー鳴らされるのは心臓に悪いらしい。
ともあれハルカがようやく防犯ブザーから手を放し、ふう、と一息ついた阿部が話し始める。
「夏休みで時間がとれるようになっただろう?今のお前にちょうどいい修行場所を用意してきたんだ」
「修行……ですか。その、今以上の力がいるような案件が来るんですか?」
「来る。 断言する、今のお前では力が足りないと感じられるほどの『何か』が来る」
うっ、とハルカがうめく。真剣な時の阿部の予言や占いは10割当たるのだ。
適当に言ってるときは占ってない戯言をくっちゃべってるだけだが、真剣に言う占いで誰かをだますような事はしない男だ。
自分が『先』を見通す目を持っているからこその感覚だろう、ハルカには理解できないが、予言者や占い師はある壁を超えるとそうなるらしい。
……実際はその占いを一度『外された』からこそハルカへの期待値が増えているのだが、そんなことは知る由もない。
「……わかりました、受けます。 それで、どこへ向かえばいいんですか?」
「安心しろ、移動手段は準備してきた。今からでもすぐに行ける」
「(トラポートかな?)……どのぐらいかかるんですか?夏休み全部とか?」
「時間の流れが外と違うタイプの異界だ、最短なら一週間もあれば終わる」
(なるほど、なら問題なさそうだな)
最短で一週間なら、上手くいけば7月中に修行を終えられる。
ハルカはなるべく早く宿題を済ませ、8月の予定もしっかり立てていた。
お盆には夏祭りや花火大会に行って、暑さがひどくなる頃には市民プールの準備もした。
当然、イチロウや葛葉姉妹、ヒメといった面々に、リカやモミジ*5も夏休みを利用して駆けつけるらしい。
モミジに至っては一生車椅子で過ごすつもりが、負担が少ないタイプの式神移植手術の実験台に無理やり担ぎ込まれて両足が治ってしまったそうだ。
……ハルカにとって、生まれて初めての『友達と過ごす夏休み』。その第一歩は……。
「よし、なら行ってこい」「えっ……?」
ドンッ、という音と共に、ハルカの体が宙に浮く。
阿部が手でハルカの胸を突き飛ばし、同時に『ザン』を放ったのだ。
が、手加減したザン程度なら今のハルカにとっては変身前でもロクなダメージにならない。
問題は……車道めがけて突き飛ばされたハルカの真下の道路に、【巨大な黒い扉】が現れたことだ。
「~~~~~~~~~~~~っ!!?」
阿部との修行によって磨かれた、【危険を感じ取る第六感】。
酒呑童子やニャルラトホテプとの戦いでも常に発動して危機を潜り抜けてきたソレが、全力で警報を鳴らす。
バタンッ!と音を立てて開いた扉の中へ、ハルカの体がとんでもない勢いで引きずり込まれていく。
まるでふわふわと浮いている綿毛に強力な掃除機のノズルを向けたような勢いだ。
引きずり込まれる前に変身してギルスフィーラーを使い脱出しようとするも、その前に阿部の『シバブー』によって自由が奪われてしまった。
「そういうわけだ、後は頼んだぜ?『女王様』。安心しろハルカ、分身の方は【札】で制御されてっから、お前がやる予定の仕事や交渉はなんとかなる」
『ああ、安心するといい……しっかりと儂の世界に招き入れよう』
「ちょっ、ちょっ、まっ……!?」
拘束された体をもがくように動かしながら、伸ばした手は到底元の世界に届かず……。
「ゾビゾビ、バヅボドブブン!*6の舞台、
【影の国(ダン・スカー)】の入り口。一名様、ご案内~♪」
「クソ師匠がああああああああぁぁぁぁ!!!」
バタムッ!!と扉が閉じ、鷹村ハルカはこの世から消え去った。