霊能力者、鷹村ハルカは改造人間である。   作:ボンコッツ

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「……先生が十分に準備しろって言ったときはたいていロクでもないのがくるんだよなぁ……」

 

 

(ここにきて、もうすぐ一年。ようやく僕も……少しだけ、『術理』ってモノがわかってきた気がする)

 

 

襲い掛かってくる毒矢の雨を、最小限の動きで避けて回り込む。

 

そして、裸足のまますり足でぬかるんだ地面を駆ける。スケートのように淀みないスライドだ。

 

常人を遥かに超えた身体能力に頼るのではなく、筋線維の一本一本まで意識を広げ、流れる血液の動きすら四肢の駆動にフィードバックさせる。

 

考えてから動くのではなく、思考と運動、反射と直感、脱力と緊張をリンクさせ、五臓六腑の隅々までをコントロール。

 

ほんの僅かな殺気、直感、五感の感知。それらすべての『予兆』に対して対応する手を詰めていく。

 

一切の無駄な力なく、一切の意識の緩みなく、一切の技の揺らぎなく。

 

武人を構成する要素である【心・技・体】の完全なる合一。

 

これすなわち、今のハルカは己の細胞1つ・無意識下の情動・あらゆる妙技まで制御下に置いた行動が可能という事だ。

 

 

(……ついに土壇場で儂の『予想』を超えてきたか……)

 

 

毒の霧の翌日に、魔術を用いて影の国の天気を『ハリネズミの雨』に変えた。

 

毒霧はスカサハの魔術によって雲となって天に座し、その毒雲の水分をたっぷり吸って雫となったハリネズミの雨は、神代の毒を凍らせた毒矢に等しい。

 

その絶死の雨の中で、初日に与えた朱槍を持ったハルカが演武を舞う。

 

影の国の槍術の型を1つ1つ、投げ槍の妙技、水切り失神突きの秘法、槍登りの妙技、槍の天辺棒立ちの妙技といった槍に関する妙技も余すところなく演じてゆく。

 

肌をかすめるだけでも毒は一気に体に回るはず。すなわち、毒雨の中で傷一つ負わずにこの演武を終えねばならない。

 

さらに言えば、落ちた雨は当然のように皮膚から体に浸透する。これを避けるには、鮭跳びの妙技の応用で地面から常に浮き続けなければならない。

 

ただ大きく跳ねるよりも、なんなら空中で二段ジャンプするよりもずっと難しい歩法となる。

 

さらに、落ちた雨は少しずつ霧に戻り、今もハルカの周囲に元の毒霧として漂いつつある。

 

これを吸い込まぬように『呼吸の妙技』をもって息を吸わずに、あるいは最小限の呼吸で演武を舞わねばならない。

 

 

 

影の国からの卒業に向けてハルカに課されたのは、スカサハから学んだ全てを出し切らねば突破できない『三つの試練』であった。

 

その2つ目、『心技体の技』こそが、この演武を24時間雨天の中で舞い続ける事。

 

今まで学んだ妙技をいくつも並行して使い、しかもよどみなく使いこなせなければ毒で死ぬ。

 

それこそ『クー・フーリンやフェルディアより少し劣る』程度の勇士でも、こなせる者がほとんどいないほどの試練であった。

 

 

……1つ目の試練に関しては、こんな描写すら必要ないほどあっさり終わってしまっている。

 

『魔獣クリードと魔獣コインヘンの縄張り争いに突っ込んで両方殺してこい』である。

 

モロに『心技体の体』の試練であった。あっさりと魔獣の生首2つ担いで戻ってきたが。

 

 

「……終わりましたよ、先生?」

 

「うむ……ああ、ああ。見届けたとも」

 

(ハルカよ、気づいているか?もはや誰が何と言おうと貴様は木っ端ではない。

 これを超えた時点で貴様は、ケルト神話に名高い英雄の域に手をかけたのだぞ?)

 

 

一年間も共に過ごしていれば、スカサハ/スカアハもハルカの精神性に気が付く。

 

自己評価は常に底辺、誰かのためにとか何かのためにとか、二言目にはそんな言葉がついて出る。

 

こればかりは幼少期からの環境が悪すぎた。己のアイデンティティを育成するべき時期の周囲がアレだ。

 

食事の最中に少しずつ聞き出したり、阿部に連絡を取って聞いた程度の情報だが、スカサハもハルカの生い立ちは理解している。

 

 

(……というか、追い詰めれば伸びる特性に関してはこれ、恐らく式神ボディ関係ないぞ。

 コイツを無能と断じて放置していた一族は阿呆なんじゃないか……?)

 

 

忘れがちだが、改造する前のハルカの才能はロバ・オブ・ロバ。☆1、コモン、モブキャラである。

 

その上一族から放置状態、どころか小学生の時点で離れに住まされ、家事もほとんど一人でやっていた。

 

当然覚醒修行を含めて独学でやるしかなく、そんな状態では一生かけても覚醒など『普通は』不可能。

 

……が、追い詰められた時だけ妙に成長率が上がるという特性が仕事をした、してしまった。

 

親も兄弟も一族もハルカを精神的に追いつめ続けたせいで、常に成長ブーストかかっていたのである。

 

だからこそハルカは阿部と出会った時点で『LV1』に到達し、ゾンビドッグを返り討ちにできた。

 

 

結論・だいたい鷹村家の環境が多方面にクソすぎた。

 

 

まあいい、過ぎた事だ。とスカサハは一度思考を打ち切り、演武を終えたハルカの前で『雨を晴らす』。

 

といっても影の国は昼間でも厚い雲に覆われた曇天なので、本当に毒雨と毒霧を消しただけなのだが。

 

 

「相変わらずあっさりすごい事を……」

 

「いいぞ、もっと褒めろ。 では、最後の試練……『心の試練』だが。

 とりあえず湯あみをして、従前の準備を整えてから来い。準備不足を言い訳にできないように」

 

 

蒸し風呂ではなく湯舟があるので、服や髪に染み付いた毒霧はこれで落とすことができる。

 

ちなみに薪を割り、風呂を沸かし、乾燥させた薬草の束を沈めて薬湯にするのはハルカの仕事である。

 

影の国でしか取れない薬草だが、山梨支部の温泉のように沈めておくだけで解毒・解呪・回復促進の効果があるのだ。

 

 

「……先生が十分に準備しろって言ったときはたいていロクでもないのがくるんだよなぁ……」

 

「今すぐ始めてもいいんだぞ?」

 

「お風呂いってきまーす!!」

 

 

一年過ごしてスカサハがキレるタイミングも察知し始めたのか、全速力で城の中に飛び込んで浴室へと駆けて行った。

 

遠ざかる背中に「準備が整ったら城の広間に来るように」と声をかけてから、やれやれ、と小さくつぶやく。

 

少女のような顔立ちに、アンバランスなほど鍛えられていた肉体。その心は鋼よりも固く、柳よりもしなやか。

 

人を引き付けてやまない太陽のような魅力(カリスマ)と、己が罪罰を背負うのを前提に発揮される氷のような冷徹さの二面性。

 

 

(あやつは確かに英雄だが、人を率いる類の英雄であった方が大成したぞ、阿部……。

 いや、それを見越して支部を放り投げたのか?……そうだろうなぁ、あやつのことだし)

 

阿部が初めて影の国に来たのは、今から一年半ほど前になる。

 

ちょうどハルカを拾って修行している最中の頃、過去編から第一話の間の時期だ。

 

レベリングに使わせてくれ、と酒や菓子を手土産にやってきて、本当にレベリングだけして帰っていった。

 

当時はあまりにもヒマだったので半分無理やり弟子にしようとしたスカサハだったが、その際の阿部の言葉にまたも『待つ』ことを選んだのである。

 

 

『お前が待ちわびている男がきっと現れる。そう遠くない未来の予言だ』

 

 

スカサハ/スカアハも予言・予知・占いに通じているからこそわかる、阿部は稀代の予言者だ。

 

そして阿部の紹介で現れたハルカを鍛えるうちに、阿部の占いで出た『男』とはコイツだという確信が強まっていった。

 

自分の運命を変える者、それがどのような形であれ、影の国の停滞から解き放ってくれる者。

 

分霊を外に派遣した経験が無いわけではない、葛葉ライドウと共に帝都をかけた分霊もいる。

 

 

だが、そうではない。そうではないのだ。

 

女神スカサハは、彼女を知る者からすればびっくりするほどに根っこが『女』だった。

 

寄り添える相手が欲しかった、寄りかかれる相手が欲しかった、託せる相手が欲しかった。

 

が、クー・フーリンという特大の光に目を焼かれてしまったせいで、彼女にとっての『求める男』の最低ラインがクー・フーリンになってしまったのが運の尽き。

 

ケルト神話最大の英雄に追いつけというのは、ギリシャ神話で言えば『ヘラクレスになれ』、日本神話で言えば『日本武尊になれ』、北欧神話で言えば『シグルドになれ』というようなモノである。

 

神話の時代が終わり、あのような英雄が生まれる土壌が時代の変換で失われ、弟子候補である勇士すらも訪れなくなった影の国。

 

 

そんな影の国で、数百年~数千年も魔獣と悪霊だけを眺めながらただ生きていたスカサハ/スカアハ。

 

彼女にとってハルカという太陽は、目を焼かれるどころか魂を焦がされるレベルで鮮烈すぎた。

 

それこそ、己の手で殺して魂を影の国に永遠に留め置いて伴侶とする……なんて選択肢が浮かぶほどに。

 

ちなみに、アイルランドの光の御子はそんな女神スカサハの一面にこのようなコメントを残している。

 

『女王としてはともかく女としてはメイヴ*1の方がマシまである』

 

そして、そんな盛大に拗らせてる女王に、ついに向き合う時が来た。

 

 

「準備おわりましたよ、先生」

 

「……ああ、よし。それでは第三の試練……『心』の試練を始めるとしよう」

 

 

衣服を着替え、霊的防具である『ケルト式戦闘装束』*2を着込み、その上からガイア連合製の普段着に見える防具を羽織った姿で現れる。

 

ハルカが一年間使用していた部屋には、何故か初日から大量にハルカ用の衣服がしっかり用意してあった。

 

スカサハに聞いたところ「阿部が一年分置いてった」らしい。性能別に色々分けてあったので、ほとんど裸で挑む修行以外にはしっかり防具を選んでいる。

 

一見すれば夏用パーカーに七分丈ズボンというラフなスタイルだが、性能的にはそこらの悪魔の攻撃をたやすくはじき返す上質な防具だ。

 

……影の国には『そこらの悪魔』なんて一匹もいないので、鬼殺隊の隊服ぐらいにしか役に立っていないのだが。

 

 

「心の試練は単純にして明解、今まで学び続けた『技』と,鍛え続けた『体』をいついかなる時も活かせるか否かを見る」

 

「なるほど、常にベストコンディションを保つのならメンタルの維持も必須ですもんね」

 

「そうだ。だからこそこの試練は最後に持ってきた……内容は単純」

 

 

瞬間、何かが盛大に爆発したような音が響く。

 

鮭跳びの妙技を槍の刺突に合わせた、影の国流の前突き……『地獄突き』を放つ。

 

マッハいくつと考えるのもバカらしくなる速度は、物理法則が完全に崩壊している異界……あるいは崩壊しつつある『半終末』の世界だからこそ可能な『最速の刺突』だ。

 

多少レベルが高かろうと関係がない、反応できない速度で貫通攻撃を急所に叩き込めば死ぬ。とてもシンプルな理屈である。

 

だがしかし、ハルカの喉を狙って放たれた槍の切っ先が、ハルカの手にした朱槍で逸らされる。

 

カウンターのように放たれた回し蹴りを、どこからともなく取り出した『もう一本の朱槍』の柄で受け止められた。

 

互いに素早く後方へ跳び、構えを取って仕切り直す。

 

 

「最後はケルトらしく一騎打ち、と?」

 

「無論だ、師を殺してでも勇者にならんとする、その程度の覚悟無くばいずれ死ぬだけよ」

 

「こんの……」

 

頭ケルトめっ!と言いながらこちらも鮭跳びの妙技を用いて跳ねる。

 

変身は悪手だ、なにかしらのスキを作ってからでなければスカサハの槍は一瞬でハルカを穴だらけにするだろう。

 

変身途中には攻撃されない、なんて甘い考えはない。現に某始まりの男は変身中に攻撃されてピンチになっている。

 

故にスカサハとの槍術比べという、常人からすればどう考えても無理ゲーにしか思えない試練に挑むしかないのだ。

 

 

(でも、なんとか、ついていけるぞッ!!)

 

 

……そう、『常人』ならば、だ。

 

仮面ライダーという英雄は、変身前でも相応に強い者がざらにいる。

 

そして、仮面ライダー(特に昭和ライダー)は特訓すれば一気に強くなるのがお約束。

 

オマケにハルカは一年間、この影の国で神主のガチ修行とどっちが人でなしか黒札でも意見が分かれるレベルの地獄を生き抜いてきた。

 

寧ろ『生きてさえいれば何してもいい』神主の修行に対し、『まあ死んでも土に還るだけよ』なスカサハの方が命の危険という点ではマシマシだ。

 

だからこそ、元々阿部の修行によって手に入れた『危険察知能力』はさらに磨かれていた。

 

 

瞬きの間に30を超える刺突が飛んでくる、最短距離をまっすぐ駆け抜ける、影の国の槍術最速にして最強の技。

 

ゲイボルグの『突けば30の棘となって破裂する』という伝承の正体がコレだ……これは槍の機能ではない。

 

ゲイボルグの使い手であるクー・フーリンとスカサハの突きは、常人には1突きが30以上に破裂したようにしか見えないのだ。

 

この国での修行で、ハルカも多種多様な槍技は身に着けた。投げ槍の妙技や水切り失神突きの秘法等はその代表例だ。

 

それを踏まえても、なんなら必中にして必殺の投擲術『ゲイボルグ』と比べても、この突きこそが最強だとハルカは考えていた。

 

相手の思考を上回る速さで間合いに捕らえ、防御や回避が間に合わない最速をもって急所を抉り、殺す。

 

そこに呪詛や貫通を混ぜることにより、耐性等で『食らっても平気』なタイプの相手すらも一瞬で殺す。

 

ひたすらに効率よく、かつ的確に『命を奪う』事に特化した技、それこそがスカサハの『刺突』だ。

 

 

……ゲーム的に言えば、ターンが回ってきた時点で『龍の眼光』*3をひたすら連打しながら貫通物理クリティカルで殴り続けてくる。それがスカサハである。

 

ここは女神転生の世界ではあってもゲームではない、確実に勝てるのならそりゃそういう方法を取ってくる。

 

 

だからこそ、その刺突に合わせるようにハルカの刺突が重ねられ、ハルカの体から逸れるようにいなされる。

 

10、100、1000、10000……ほんの数秒で機関銃も真っ青の数だけ刺突が交差し、そのたびに死が駆け抜ける。

 

迫りくる『死の気配』は重なりすぎてもはや壁のようだが、その気配を1つ1つ紐解いていけば、ほんのわずかな『隙間』が見えてくる。

 

その『隙間』に槍を滑り込ませ、迫る死の気配……すなわちスカサハの刺突を横に逸らし、広がった隙間に体を収めることで命を長らえる。

 

そんな中、1つの突きがスカサハの目前に迫り、スカサハは咄嗟に首をひねってソレを避けた。

 

 

(惜しい、あと少し!)

 

(ッ……儂/私が『後手』に回された!?)

 

 

少しずつ、少しずつ、スカサハの突きを押し返しながら突きを返していく。

 

ハルカが一方的に受けに回るだけでなく、逸らすための槍さばきの中に『反撃』が混じり始めたのだ。

 

スカサハが二槍のうち片方を投げ捨てる、ここにきて『手数』に頼っていては押し切られると判断したのだ。

 

今競っているのは『どちらが早く切っ先を相手に叩き込めるか』の一点、不純物が混じるほどに敗色は濃くなる。

 

無論、スカサハほどの達人ならば二槍だろうと一槍と同等に扱える…………『極上の戦士を相手にしていない限り』。

 

二槍に割くリソースですら惜しい、一槍に全霊を込めて突きに集中せねば押し切られる。

 

 

……一槍を捨てる、というワンアクションのスキを突いたハルカの刺突。

 

そのひと突きがスカサハの髪を僅かに切り落としたことで、その判断が間違っていなかったことを確信した。

 

 

「……儂/私に先んじて当てるか、槍を……それもよりにもよって、突きを……!!」

 

「髪は女の命といいますし、これで決着……じゃダメですかね?」

 

「無いな、寧ろ滾ってきた。興奮しすぎて下っ腹が疼く!!

 だが認めよう、今貴様はこのスカサハを……『ひと突き分』上回った!」

 

 

スカサハ/スカアハの全細胞が歓喜に嘶く。どちらかといえば涼やかだった表情が笑みに歪む。

 

女神として、師範として、戦士として、魔女として、女王として、英雄として……『女』として。

 

これほどまでに滾った経験は、恐らくクー・フーリンが英雄として完成した瞬間以外に無かっただろう。

 

 

(だからこそ手放す気はない、クー・フーリンのように『他』に渡す気もない。

 

 だが安心しろ儂/私は全身全霊でお主を愛してやるぞ、ハルカ。その魂魄を大事に、大事に……。

 

 甘い夢を見せる揺り籠のなかで、世界が魔界へと堕ちて滅んだ後も、永遠に)

 

 

『刺突』でハルカが上回った事を認め、後ろに飛びのき投げ捨てた槍を拾って距離を取る。

 

そのまま全力で後退し、初日にハルカがやった正門破りを内から外へ決行。

 

城の庭にまで後退したのは逃げるためではない……『助走』と『跳躍』のためのスペースが欲しかったのだ。

 

ハルカもそれは察しており、しかしまっすぐ追っていくのは危険と判断。

 

わずかに迂回して窓を突き破り、同じように城の外へと飛び出してきた。

 

 

「良い判断だ、直進するようならば『投槍』を直接叩き込んでいた」

 

「でしょうね!全力で追ってる最中に正面から『アレ』食らったら死にます!」

 

 

ハルカが思い出すのは、最初のスカサハとの戦いで叩き込まれた『奥義』。

 

自信の全力のガードすら突き抜けて、五体を砕きバラバラにした槍術。

 

どのような理由があろうとも、あの一撃を超えないまま『卒業』は無いと確信していたのだ。

 

 

「【龍の眼光】【ラスタキャンディ】*4【ラスタキャンディ】【ラスタキャンディ】

 【龍の眼光】【ラスタキャンディ】【会心の覇気】*5さらに【禍時:蛮攻】*6……」

 

 

ありったけのバフを積んだスカサハが、距離を保ったまま姿勢を低く変更する。

 

スカサハの大腿四頭筋が二回りほど膨れ上がり、『加速』と『跳躍』のために全ての力を集約する。

 

同時にMAGのオーバーロードを開始、無理なく強化……などというリミッターをぶっちきぎ、一瞬だけ『LV140』まで到達する。

 

クラウチングスタートをさらに低姿勢にしたような構えを取り、そのまま地を這うように疾走。

 

最高速度に乗った瞬間、右手の槍が複数に弾けてハルカに襲い掛かった。

 

30以上に分裂したように見える刺突に、ゲイボルグ本来の分裂機能を重ねた必中の奥義。

 

 

「絶技、発動……刺し穿ち……」

 

 

その『刺突』をハルカが捌いている間に、地面に『一切の跡すら残さず』跳躍。

 

加減したのではない、あまりに跳躍が速すぎて『地面にヒビが入るのが間に合わない』のだ。

 

さらに途中で己を追い抜くように『真上』へと朱槍を投擲。呪いを纏って落ちてきたソレにタイミングを合わせた。

 

空中で加速度を保ったまま体ごと反転、ほぼ真下にいるハルカ目掛け、オーバーヘッドキックの要領で『足を使って槍を放つ』

 

 

「突き穿つ!これこそ我が必殺の絶技……『ゲイボルグ・オルタナティブ』*7ッ!!!」

 

 

足は腕の三倍の力があるというが、この投槍術は三倍どころの威力では済まない。

 

ゲイボルグ本来の『投げ槍』としての使い方、なおかつ力を集約させた足を使った投擲。

 

しかもゲイボルグの機能により、威力そのままに30以上に分裂。

 

対象をどこまでも追いかけ、殺す。1本ですら必殺のゲイボルグに、あまりにも凶悪な改造を施した【必中必殺の奥義】だ、

 

 

「貴様が死んだ暁には、貴様の魂は永遠に影の国へと留め置く!儂/私が永久に寄り添ってやろう、ハルカ!!」

 

「……そぉーですか!でもそれじゃ、対等じゃ、ありませんねッ!!」

 

 

刺突と共に放たれたゲイボルグをギリギリで凌ぎながら、投擲されたゲイボルグが重なるタイミングを見計らう。

 

『必中の刺突』と『必殺の投擲』、この二つを重ねることでどのような相手でも確実に葬るのがゲイボルグ・オルタナティブのキモだ。

 

だからこそハルカは『刺突のゲイボルグ』を捌きながら後方へ跳ねる。鮭跳びの妙技をもってしても、このゲイボルグには数秒しか稼げない。

 

 

(その『数秒』が欲しかった!このゲイボルグの……『死の気配』をじっくり見るためのッ!!)

 

 

この一年間、ハルカはゲイボルグへの対策を練りに練り続けた。

 

そもそも鍛練中も朱槍を使わないゲイボルグをさらっと投げられたりしていたのだ、対処できなきゃ死んでいる。

 

物理への耐性系で防ぐのは無理筋、回避も不可能、防御は可能だがここまでの数と威力では防ぎきれない。

 

 

(なら、答えは一つ……『相殺』!)

 

 

2つのゲイボルグが重なって己に襲い掛かる瞬間、隙間など見えないほどみっちりと詰まりに詰まった死の気配を真正面から見据える、

 

強靭な精神力の持ち主でも心がたやすく折れるソレを、強靭を通り越して狂人に踏み込みつつあるハルカの精神は耐えきった。

 

濃密すぎる死の気配、しかし、30+30の死が重なり積み重なったソコには、必ず小さな隙間が生まれる。

 

だが、その隙間が開くのは2つの絶技を重ねるためにわずかに『合わせる』その瞬間のみ。

 

当然、並大抵の技では隙間に突っ込んだところではじき返されるだけ。

 

ハルカもまた、全身全霊を込めた一撃を構えた。

 

 

「僕が勝ったら……」

 

(! 投げ槍の妙技、いや、あれはまさか!?)

 

 

ハルカからも立ち上る『死の気配』、今まさに放たれようとしているソレは、スカサハが何度もハルカに『見せすぎた』技。

 

追い込まれるほど覚えが良くなるという特性を分かっていながらも、追い込み続けるのに『使いすぎた』技。

 

この一年の間に、何度も何度も自分を殺しかけたその技を、ハルカが体得しようと努力しないわけがないのだ。

 

 

「アンタを(仲魔・部下として)貰っていくぞ、スカサハッ!!」

 

「な、儂/私を(妻・嫁として)貰っていくだとッ!!??」

 

「『ゲイ・ボルグ』ッ!!」

 

 

盛大なアンジャッシュを発生させながら、スカサハのゲイボルグが重なるその瞬間にゲイボルグを叩き込む。

 

必殺の呪いと必中の刺突の合間に飛び込んだゲイボルグは、2つの絶死を突き抜けるように空中のスカサハへと飛んでいく。

 

突き抜けた後のゲイボルグ・オルタナティブは、まるで花火のように四方八方へ飛び散った。

 

 

 

(あれ、ワンチャン相打ち狙いだったのに予想以上の効果!?)

 

(しまっ、驚きのあまり対応が遅れ……!?)

 

 

元々、コレで狙っていたのは威力の減退とスカサハへの反撃。

 

相殺によって威力の減ったスカサハのゲイボルグを何とか生き延びつつ、突き抜けたハルカのゲイボルグでスカサハを狙うはずだった。

 

……が、スカサハ/スカアハの両側面が盛大に動揺して制御を誤った所に『異物』を叩き込まれたせいで、技が失敗してしまったのだ。

 

ハルカが放った呪いの朱槍がスカサハに迫る。自分の技だ、下手な魔術や受け身ではしのぎ切れないのは分かっている。

 

それでもハルカへの執着から、鮭跳びの妙技で無理やり回避に挑戦しようとして……ふと気づく。

 

 

(…………あれ、負けても儂/私がアヤツのモノになるなら別にいいんじゃないか?)

 

 

さっきの『お前が欲しい』*8発言により、戦士モードのメンタルが乙女モードに切り替わりかけているスカサハ。

 

なんなら脳内にウェディングドレスを着た自分の姿まで浮かんでしまっている。

 

執念が途切れてしまったせいか、ポスンッ、と鮭跳びの妙技が盛大に不発。

 

スカサハが「あ、やべっ」と思ったときには既に遅く、ハルカの放った朱槍が胴体に直撃。

 

初日にハルカが食らった時を思わせる呪詛の炸裂が起き、スカサハの肉体を盛大に空中へブチ撒けていった。

 

黒札の面々や阿部が決着の場面を見ていたら、1つの感想を抱いただろう。

 

 

 

『きたねぇ花火だ』と。

 

 

 

*1
女王メイヴ。ケルト神話に登場するコナハトの女王。通称スーパーケルトビッチ。

*2
スカサハとか槍兄貴も使っているぴっちりスーツ。ハルカのはスカサハの予備を男子用に仕立て直したモノ。

*3
行動回数(プレスターン)を4回増やす。

*4
全能力1段階上昇

*5
必中&確定クリティカル

*6
消費MP二倍の代わりに威力二倍

*7
敵全体ランダムに30~60回の物理属性貫通大ダメージ。なおFGOでは『ゲイボルク』だが、女神転生では『ゲイボルグ』なのでこれで合っている。

*8
スカサハの主観である





Q 神話級のヤンデレメンヘラかまってちゃん女神への対処法は?

A 天然ボケ入ってる器のデカい漢を真正面からぶつける。


クー・フーリン「おう、そのまま俺の方に来ないよう被害担当艦やっててくれ」
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