夜の山道を、一頭の馬と二台のマシンが疾走する。
時折金属同士がぶつかり合う音を立てながら、夜の闇よりなお深い『目の前の相手』を切り捨てるために。
炎が巻き上がり、呪詛が飛び交い、疫病が霧となって舞い、朱槍が流星のように駆ける。
戦闘開始からしばらくが経過したが、ペイルライダーはイチロウ/アギトの取った『対策』に手を焼いていた。
『まさか、疫病を浄化できる炎を持つとは……!』
「おかげで炎しか使えないけど、なっ!!」
振るう鎌に疫病の権能を乗せ、掠り傷ですら一気に感染・衰弱する『疫病の鎌』を放つが、イチロウの持つ炎の剣……『フレイムセイバー』に打ち払われる。
アギトの力は、並行世界の四文字に相当する『闇の力(テオス)』が生み出した7人の大天使(エルロード)が一人、『光の力(プロメス)』由来のモノ。
この力によって生み出された光と炎は、メタトロンやウリエルのもつ浄化の力に近い。
イチロウが現在使っている『超越感覚の赤(フレイムフォーム)』は、右腕に炎の力を集中させた形態だ。
五感が限界まで研ぎ澄まされ、浄化の炎を纏わせた剣『フレイムセイバー』を用いて敵を切り捨てる。
本来ならスピードが落ちるという弱点があるが、互いに騎乗した状態での戦闘ならばソレを補える。
オートバジンの自動運転AIは優秀だ、対悪魔戦闘にも対応したオカルト仕様だから当然だが。
(シノさんの推測通りだ、オートバジンとサイドバッシャーに影響がない!これならいけるぞ!!)
シノはハルカに感染した疫病を、この短時間である程度だが解析しつつあった。
感染する条件に『生物』があるようだが、じゃあ生物か否かのラインはどこにあるのか。
式神であるギルスレイダーに感染した理由や、ハルカの式神パーツ部分にも影響が出ているのは何故か。
いくつかのサンプルにわざと疫病を感染させて割り出した結果は、相手の『種族』によって生物か否かの判定を行っているという事実であった。
さらにイッタンモメンのような簡易式神にすら感染する……が、その『浸食速度』は明らかにハルカやギルスレイダーより遅かった。
つまり、『感染するか否か』は種族で決まり、『より生物的な方が疫病の進行速度が速まる』ことが判明したのである。
ハルカの肉体は式神ギルスとして生体に近いパーツが使われており、ギルスレイダーもそれと同調するために生物に近いパーツが組み込まれている。
反面、AIチップ内部の脳細胞以外はほとんど機械であり、種族も『マシン』となっているオートバジンやサイドバッシャーにはそもそも感染しないのだ。
さらにさらに、前衛を務めているイチロウがフレイムフォームの浄化の炎で疫病を切り払い、後衛についたレムナントとスカサハが支援攻撃でペイルライダーを削る……というフォーメーションを取ることで戦闘可能時間をより長く確保。
ワクチンによって得た抗体が持つのは30分……しかし、これは疫病がシノの想定通りの速度で浸食した場合である。
フレイムフォームの炎で疫病の感染経路そのものを焼き払えば、症状の進行は最低限に抑えられる。
「『ラスタキャンディ』!」「『ゲイボルグ』!」
前衛でフレイムセイバーを振るうイチロウに対し、あくまでレムナントとスカサハは支援に徹する。
補助・回復魔法をバラまきながらサイドバッシャーを操縦するレムナントと、ゲイボルグや各種魔法による援護射撃を重視するスカサハ。
三人とも、あくまで自分たちの役目は『可能な限り時間を稼ぎ、ペイルライダーを削る事』だとしっかり理解していた。
だからこそ自身への疫病による影響は常に注視しつつ、フレイムフォーム&ワクチン&バイクを使ったダイナミックソーシャルディスタンスの併用で戦闘可能時間を稼いでいるのである。
『ええい、チクチクとうっとおしい……『マハブフダイン』!』
「『アギダイン』!」「『セイバースラッシュ』*1!」
『ちいぃっ……!!』
魔法攻撃で薙ぎ払いにくれば、スカサハとイチロウ/アギトが相殺し、合間を縫ってレムナントから射撃が飛んでくる。
疫病で弱らせてから確実に殺すという戦術は、逆に言えば『疫病さえ防げれば』持久戦が成立するのだ。
ペイルライダーの使用するスキルや魔法は、ハルカの式神ボディに残されていたアナライズデータや戦闘データから解析できた。
当然、この3人は対策を取ってからここにいる。
(ハルカのやつがギリギリまで粘ってコイツの手札を暴いてくれたんだ、無駄にできるか!)
『なるほど、少なくとも余興で終わらせていい相手ではないようだ』
「へ、へへっ……そうだろ?こうして俺たちが耐えていれば、そのうち援軍が『だが!』っ……!?」
……だがしかし、付け焼刃の『対策』を取った程度で倒せるのならば、ペイルライダーは終末の騎士と呼ばれていない。
LV99とは過不足なく『世界の危機』ぶっちぎりの相手だ。結界でこの山道どころか周囲の山をまとめて隔離し異界化していなければ、ほんの十数分でS県全体が未曽有のパンデミックに陥る。
逆に言えば、ペイルライダーの持つ人類を終末に導く力は『疫病の権能』に特化しているわけだが……問題が1つ。
ペイルライダーは他の3騎士が落ちた影響で『強化』された後であり、その強化分のデータには未識別な箇所が残っていたことだ。
『……山道を駆け抜けるまでの余興と思っていたが、撤回する。
貴様らは敵だ、我が全身全霊を持って討ちとるべき敵だ。故に……』
『ここからは本気だ』
その言葉の意味をイチロウが咀嚼しきる前に、ペイルライダーが動いた。
初手は『疫病の権能』。名前だけ出ていたコレがどういうスキルかと言われれば、
『毎ターン開始時に敵味方全体に状態異常『疫病』*2を付与』というパッシブスキルだ。
疫病のやっかいな点は、ポズムディ等では治せないくせに『風邪』や『毒』がかかっている時限定のスキル*3は対象になることである。
そして、シノが作ったワクチンによる抗体の効果は『疫病によるデバフの大幅軽減』であって『疫病にかからない』ではない。
すなわち、イチロウ/アギトもレムナント/デルタもスカサハも、疫病という状態異常そのものにはかかっているのだ。
『そして、【悪化】!!』
ペイルライダーが振り上げた鎌から、黒い波動が壁のように三人へ迫る。
フォーメーション通りにイチロウが前に出て、右腕に纏った炎をフレイムセイバーまで伝番させ、黒い波動を切り払う。
「っな、なんで……?!」
……が、今までのように蜘蛛の子を散らすがごとき『浄化』が発生しない。
黒い波動はフレイムセイバーによってある程度は相殺されたものの、拡散し三人を飲み込んだ。
「っう、ぐ……!?体が、いきなり……?!」
「フレイムセイバーで切り払えないッ!?」
「……こ、れは!? イチロウ君、これは疫病の追加散布ではありません!
おそらく【既にかかっている疫病を悪化させる】効果のスキルです!!」
【悪化】……状態異常『風邪』の敵にのみ真価を発揮するスキル。
その効果は『風邪』状態の相手のHPを強制的に1にするスキルである。
いくら疫病によるデバフやスリップダメージが軽減されていようが、いきなり死亡寸前まで追い込まれてコンディションに影響が出ない者はいない。
ぐらり、と意識が遠のき、ハンドル操作どころかマシンにもたれかかって倒れそうになる……。
「『ザンダイン』ッ!!」『むうっ!?』
……が、頭ケルトを通り越して全身ケルトなスカサハだけは例外であった。
HPを消費する各種スキルが使えないと察した瞬間、ザンダインをペイルライダーが乗る馬の足元に放ち、山道を大きく削ることでほんの少しだけ足を鈍らせる。
オートバジンとサイドバッシャーの戦闘AIが瞬時に状況を分析、ペイルライダーから距離を取った。
「気張らんか未熟者共ッ!!ハルカは肉体が上下に分割されても意識を保っておったぞ!!」*4
「うっ、ぐ……!」
「わかって、いますよっ……!」
無理矢理意識を引き戻しつつ、距離を取った状態で回復に徹する。
少なくともレムナントの『ディアラハン』があれば立て直しは容易だ、各自のマシンには回復アイテムも積んできた。
マハブフダインで追撃してくるようなら相殺、その間にレムナントは回復に徹する……予定だった。
『甘いわァ!』
(ッ再行動が速い!?回復が間に合わない!)
三人の行動よりなお早く、ペイルライダーが追撃の構えを見せなければ、建て直すための行動は通ったかもしれない。
それでもスカサハとイチロウは相殺のために前に出たし、レムナントはディアラハンの構えを取った。
この三人は追い込まれても最適な行動をとれる程度には戦闘慣れしており、寧ろスカサハに至っては『戦闘経験』の一点でいえばペイルライダーすら上回っているかもしれない。
……そのスカサハですら、ペイルライダーが次に取ろうとしている行動を察知した瞬間、己の失策を悟った。
「全員避けろォ!!」
『【メギドラオン】ッ!!』
万能属性の破壊の光が、三人の視界を埋め尽くす。
当然のようにこの三人を巻き込む『程度』の範囲では終わらず、背後にあった山をごっそりと削り取って突き抜けていく。
結界にも甚大な被害が発生、阿部が組んだ結界再生術式も間に合わず、ペイルライダーを阻んでいた障害が一気に穴だらけになった。
……この結果になった理由を一言で言うのなら。
ごくごくシンプルな【戦力不足】。それに尽きる。
対策を取り、十分な警戒をしていても……圧倒的な暴力によるゴリ押しは、時にそれらを些事として踏みつぶしていくのだ。
【メギドラオン発動の少し前 霊山同盟支部 対オカルト診療所】
一方で、ハルカが隔離入院させられている対オカルト診療所では、急ピッチで『疫病』の解析が行われていた。
シノによればウィルスの変化があまりにも早く、しかもウィルスそのものが『悪魔化』しているという悪夢のようなデータまで上がってきた。
つまり科学的な薬品各種はほとんど効果が無い。体の防衛機能としての発熱ではなく『ウィルスが起こしている発熱』なため解熱鎮痛剤すら効果なし。
そもそも間違いなく医者にまで感染するから少量のサンプルを元に実験するしかない……という手探り極まりない状態であった。
それでも短時間で『30分程度はデバフを無効化できるワクチン』をひねり出せるあたり、シノは間違いなく天才なのだが……。
天才でも、限界はあった。
「ダメだ、どう考えても時間が足りない……!これじゃあワクチンの限界超えて戻って来た三人の疫病すら治せないッ!!」
「急ピッチで製造した『マシン 医療用オートバジン』で無理やり遠隔治療を考えたが……。
『感染』することを考えれば、量産できる回復アイテムの使用が精いっぱいだ。
永遠に続く下痢で抜けていく水分を点滴で補い続けるようなモノだぞ!」
隔離されているハルカ本人は、阿部による封印で疫病ごと封じられているため直ちに影響はない。
そこから採取したウィルスのサンプルに、現在様々なアプローチで消毒・滅菌できないかを試しているものの……。
数少ない有効な手段が、大天使クラスの浄化の炎による滅菌しかないという有り様。
一応ガイア連合なら使える者は少数だがいる*5。
だがそんな方法を感染した患者に使えば、疫病で死ぬ前に蘇生できないほどの灰まで燃え尽きて消えるだけだ。
防疫としては一行の余地があるかもしれないが、治療法という意味では下の下である。安楽死の方法を探したいわけじゃないのだから。
(どうするどうするどうするッ!?そもそも疫病抜きにしてもペイルライダーがヤバい!
たっちゃんをどうにか回復させて……LV50以上の面々で囲んで叩かないと終わる!
他の黒札も日本中で起きてる『異常』への対処で手いっぱいだし、こっちには呼べない!
特に『いざって時のショタオジ』ができないのが痛い!今【帝都】にかかりきりだし!)
ここで神主を動かせば『この後』がヤバい、しかしそもそもペイルライダーに対処するリソースが足りない。
県警のオカルト対策課も、自衛隊も、G3ユニットも、レベリングした現地霊能組織も、シキオウジも、
パワーダイザーも、オートバジンも、スマートブレインも、霊山同盟支部に所属している黒札も……。
投入できる戦力はほとんどすべて、S県各地で何らかの形で作戦行動中だ。
県外の支部・派出所も今は全力稼働中だという事を考えれば、応援も期待できない。
八方ふさがり……そんな現状に絶望しかけたとき、メールの着信音が鳴った。
「! ……シノ、阿部からのメールだ。本文は無し、画像添付のみ……」
「……画像添付だけのメール?このタイミングで?」
ウィルスの解析画面とにらめっこしていたシノが顔を上げて、サクラが見ている端末の方をのぞき込む。
当のサクラは「なんだ、文字化けか……?いや、そもそも画像データだろう?」とクエスチョンマークを浮かべている。
届いたメールに送付されていた画像には、何らかの『古代文字』らしきモノが映っていた。
象形文字に似ているが、それにしてはやけに1文字1文字がくっきり区切られている。
「……これ、クウガの『リント文字』じゃん」
『リント文字』……仮面ライダークウガに登場する『リント』と呼ばれる民族が用いていた文字である。
クウガのベルトである『アークル』を作った民族でもあり、グロンギの事やクウガの事等をこの文字を使って残していた。
作中では城南大学の院生である【沢渡 桜子】がこれを解読していき、それによって物語の謎が明らかになっていく……という重要アイテムである。
盗撮対策の暗号メールのつもり?と一瞬考えたが、そもそも明らかに暗号文には向かない文字だ。
なんせ番組内の伏線のために作られた言語なので、はっきりいって意味が限られすぎる。
「ええと、これが『戦士』で、こっちが……」
「……覚えてるのか?前世の特撮ドラマだろう?」
「シノさんは天才だからね、前世の事も3歳から先は全部覚えてるよ。何月何日にどこの自販機でどのジュース買った、までね」
「お前の脳細胞はどうなっているんだ」
サクラの常識的なつっこみをヨソに、カリカリと手元のメモ帳に和訳を書いていく。
だが、書いている最中でシノは『違和感』に気づいた。
(あれ、この文章『クウガ』で見たような……?)
文字の組み合わせで新しい文章を作ってきたのではなく、文章そのものが『クウガ』のどこかで見たことがある。
和訳が完了した『二行分の古代文字』の内容を記憶から引っ張り出し、そしてそれが『クウガ』のどこで使われたかも思い出し。
……直後、シノはリント文字の和訳から顔を上げ、部屋の一角にあった『ハルカのバイタルサインとリアルタイムアナライズデータ』に目を向ける。
「まさか、いやそんな……でもそうとしか。『あのスキルカード』の影響で?いやでもアレはリ・イマジであってオリジナルじゃないし、だけど作中で使われなかっただけで同じ機能があったとしたら……『胞子』に有効なソレが『ウィルス』にも有効だったとしか、いやカードをスキルカードに加工した時点でメガテンのルールに組み込まれた?バイタルデータの変化も記憶の通りなら……」
「お、おい、シノ?大丈夫か?寝不足でついにイカれたのか……?」
ぶつぶつぶつぶつ……とものすごい速度で何事かをつぶやくシノに、若干引きながらサクラが問いかける。
そんなサクラに今しがた和訳を書いたばかりのメモを押し付けて、シノは即決即断で動き出した。
「サクラちゃん!細かい説明は後でするから『トラポート』が使える人員を呼び出して!!」
「はあ!?一体何を……それに、トラポート?流石兄弟かシスター・ヘレン*6ぐらいしか……」
「どっちでもいいから早く! たっちゃんが目覚める前に!詳しいアレコレはそのメモとこの画面見て!シノさんは準備するモノがあるから!」
「……何?」
『ハルカが目覚める前に』、そんな世迷言じみた言葉に一瞬呆けてしまったサクラの横を駆け抜けて、シノが走り去っていく。
遺されたサクラはすぐさま正気を取り戻すが、やはり脳みそは混乱の極致にあった。
なにせ今もハルカの体は呪布でぐるぐる巻きの封印状態。蘇生魔法を使えば疫病キャリアにしかならないので蘇生もできない。
そんな状態で何が、と思ったが……。
(いや、シノならなにか考えがあるはずだ。 メモ帳と、ハルカのバイタルサイン、それにアナライズデータだったな)
長年の付き合いで、こういう突拍子もない行動をとり始めたシノは脳みそがフル回転してる時だ……という信頼があった。
まずは手元のメモ帳に目を移す。阿部から送られてきた『リント文字』を和訳したものだ。
内容はいたって簡単、そう長くない文章が二行だけ。
「『戦士の 瞼の 下 大いなる 瞳が 現れても 汝 涙する事 なかれ』。それに……
『戦士の 瞼の 下 大いなる 瞳に なりし 時 何人も その眠りを 妨げる事 なかれ』……か?」
その文面を読み終えると、バイタルサインの画面へ移動するまでの数秒で脳細胞がフル回転する。
シノのような天才ではなくとも、サクラも高レベルかつインテリ勢だ。数秒もあれば考察は整う。
(戦士……阿部が送って来たということは、ギルスの事のはずだ。
瞼の下 大いなる瞳……『瞳孔の散大』?)
人間の眼球……『瞳孔』は、心停止状態になると5㎜以上に散大する。
よくドラマ等で死亡確認のために眼球を見るのはこれを確認するためだ。
他にも薬物中毒等で散大することもあるが、一般的に有名なのは死亡確認だろう。
(『汝 涙する事なかれ』『その眠りを妨げる事なかれ』……。
死んでいても諦めるな、余計なことをするな、という意味か?まて、待て待て待て!!)
2秒足らずで考察を終えたサクラが、齧りつくようにバイタルデータとアナライズデータを確認する。
ハルカが運び込まれた時点で、間違いなく彼の肉体は『死亡』していた。
当然、死体である彼の体温はじわじわと低下し始めている。式神パーツによる多少のブレはあるだろうが、死体の体温低下は一時間に0.5~1度。
気温と同じになるのには24時間ほどかかるが、既に平均体温を下回った数字になっていてもおかしくはない。そのはずが……。
「体温が上昇している……!?」
一度下がったはずの体温が、じわじわと上昇し始めているのだ。
それどころか、機械の誤作動でなければ脳波らしきモノまで観測され始めている。
「ゾンビ化か?いや違う、それなら体温など上がらない!
……【最初から仮死状態だった】とでも!?あ、アナライズデータは……!?」
若干脳みそが現状についていけなくなってきたが、どうにか画面を切り替え、ハルカのアナライズデータを呼び出す。
幸いなことにゾンビ化はしていない、しっかりと『超人 ハルカ』の文字が画面に表示された。
……だが、サクラにとって更なる衝撃が遅いかかる。重要なのは種族部分ではない。
ハルカ/ギルスの現在のステータス画面、その『状態異常項目』である。
「……状態異常『無し』……!?」
ますます意味が分からない。さっきまでは『疫病』『死亡』だったはず。
より細かくアナライズデータを見ていくが、既にハルカの肉体には『疫病のウィルス』が存在していない。
少なくとも、ガイア連合の最新型アナライズですら割り出せないほどにウィルスが殲滅されている。
……いまだにサンプルの除菌も目途が立たない殺人ウィルスが、だ。
それどころか、推定仮死状態だった肉体が、何もしていないのに蘇生しつつある。
ガイア連合では蘇生技術は珍しくないとはいえ、自発的に死亡して蘇る……。
なんていうのはメシア教が大好きな『かの救世主』ぐらいしかサクラには覚えがない。*7
「まさか……蘇るというのか……!?」
隔離用のオカルト処理アクリルガラスの向こう側に眠るハルカを見ながら呟くサクラ。
不意打ち過ぎる驚愕と戦慄に立ち尽くすしかない彼女の、その視界の陰で……。
ぴくり、と、呪布に包まれた少年の指が動いた。