霊能力者、鷹村ハルカは改造人間である。   作:ボンコッツ

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『だからこそ余は気づいた。戦いこそが、英雄(きさま)が最も美しく輝く瞬間なのかもしれない』

 

 

鷹村ハルカは、阿部に拾われる前……すなわち10歳までの人生において、何人かの大人に同じ問いかけをしたことがある。

 

最も身近な大人である家の人間には、家族から使用人まで完全に無視されて。

 

学校の教師もまた、彼の家が名家であることを理由に回答を濁し続けた問いかけが1つ。

 

 

『ぼくが苦しいのは、ぼくが悪い子だからなんですか?』

 

『それなら、ぼくは一体どんな悪い事をしたんですか?』

 

 

たったそれだけの質問に、彼の周りの大人は誰一人応えてくれなかった。

 

一人の『性格・性癖が盛大に破綻している霊能力者』に出会うまでは……。

 

 

 

 

 

【某月某日 S県沿岸部】

 

 

(予想以上に、弾幕が濃い!)

 

 

二人と二騎の決戦は、ホア・オブ・バビロンによるブレスと魔法の弾幕から始まった。

 

騎乗されているザ・ビーストが攻撃範囲を重視した魔法で退路を塞ぎ、そこをマザーハーロットが高威力の魔法で『砲撃』してくるコンビネーション。

 

状態異常を誘発する『女帝のリビドー』*1や『バビロンの杯』*2といった万能属性の魔法攻撃が、メギドラオンと混ぜられて飛んでくる。

 

これがターン制のRPGならともかく、同じ『万能属性の魔法』でも、弾幕の指向性も速度も攻撃範囲もバラバラなこれらに対し、同じ対処法は通用しない。

 

そして状態異常に関しては、『無効』ではなく『耐性と根性でレジスト』している以上、レジストのためのほんのわずかにだが集中力を乱される。

 

それでもなお、修行で身に着けた【危険を感じとる感覚】をもって弾幕を回避しつづけているのは驚異的と言うほかないが。

 

 

「気張れよ、ギルスレイダーッ!次が来るぞ!!」

 

『マハジオダイン』『トリスアギオン』

 

ザ・ビーストが口から吐き出した電撃と火炎が、つい一瞬前までギルスとギルスレイダーがいた場所を焼き払う。

 

運転スキルを常時フルに使用し、危機察知の直感も最大限まで精度を上げる。

 

このレベルの悪魔と戦うと、この手の直感は中途半端な精度では利用されて罠にかけられる。

 

運命操作だの殺気のフェイントだの時間操作による連続行動だの、インチキじみた行動が山盛りになるからだ。

 

だからこそストロングスタイル……能力の精度を上げるだげ上げて、相手の妨害をこちらの直感の『固定値』でブチ抜く。

 

強敵ばかりと戦わされて『全力で足掻いた末の死』を経験してきたのはこのためだ。

 

レベル上げをミスって死んだのとはわけが違う。ムドで『うっかり死』とボスラッシュで『すりつぶ死』ぐらい違う。

 

もっとも違うのは、目に見えるレベルに映らない『経験値』だ。

 

 

純粋な総合スペックでは自分を圧倒している【ホア・オブ・バビロン】の連携攻撃を、ギリギリのギリで回避しながらじわじわ間合いを詰めていく。

 

直線距離で無理に向かっていけば、今避けている魔法が全部直撃して足を止められ、そのまま拳の一発も当てる前に削り殺される。

 

ギルスが最も苦手なのは、こういう弾幕で圧殺してくる相手……だが、苦手と言うなら対策するための努力ぐらいは積んでくる。

 

 

(師匠から学んだ【生きるための技術】、先生から学んだ【戦うための技術】! どちらも、今の僕を支えてる!)

 

 

最初こそ、四肢を吹き飛ばしてからじっくりと『堪能』してやろうと思っていたホア・オブ・バビロンも、段々と困惑と焦りが混じり始める。

 

今のギルスは防戦一方、おそらく中~長距離の手札がそれほど豊富ではないのだろう。

 

仮に手札があったとしても、万能属性の高位攻撃を連発しているマザーハーロットどころか、多種多様な属性の呪文で弾幕を張っているザ・ビーストにすら届かない。

 

ゴリゴリの肉弾戦タイプ、その見立ては間違っていないが、しかし。

 

 

(……なぜ、仕留めきれない?)

 

 

決してノーダメージではない、時折魔法がギルスの肉をそぎ、骨を砕くのをマザーハーロットは確認している。

 

だがしかし、どれもこれも受けるダメージを計算して『当たりに行っている』ようにしか見えなくなってきたのだ。

 

無理にノーダメージで避けようとすれば、どうしてもギルスの回避運動は大きくなる。

 

そうなればいずれかの魔法が直撃し、一瞬でギルスの体は魔力の渦の中に飲まれて消え去るだろう。

 

 

今もまた、マハジオダインの雷光の隙間をギルスレイダーが駆け抜け、両側への回避を封じるために放たれたトリスアギオンとマハザンダインの間を突っ切ってくる。

 

そうして必中の状況を整えてからメギドラオンを叩き込んでいるのに、マハザンダインの方にスレスレでハンドルを切って、左肩をごりっと抉られながらも弾幕を抜ける。

 

これ以上範囲を狭めることはできない、無理に狭めれば魔法同士が干渉し、余計に回避できるスキマが増えてしまう。

 

 

『くっ……【アンティクトン】*3!!』

 

『アイスエイジ*4』『八色雷公*5

 

 

距離が近づいてきたことで、うかつに範囲攻撃が使えなくなる。巨体故に下手に撃つと自分までまきこまれるからだ。

 

その分威力や追加効果は上がっているが、密度の下がった弾幕相手に今更怯むギルスではない。

 

急加速と急減速を繰り返すことで目測をそらし、砲撃の射線を少しずつズラすことで回避できるスキマを無理矢理作り出す。

 

ドリフトターンで急旋回、フルスロットルで生まれたスキマに突っ込み、ついにホア・オブ・バビロンの足元までたどり着いた。

 

 

『ザ・ビースト!押しとどめよ!!』

 

「ッちい……?!」

 

 

しかしホア・オブ・バビロン……いや、司令塔であるマザーハーロットも愚かではない。

 

即座にザ・ビーストに【暴れまくり】を使わせて、複数の首による突撃と薙ぎ払いでギルスの行く手を阻む。

 

以前に酒呑童子との戦いで解説した通り、この世界においては一部パラメータは体格差の影響を受ける。

 

同じ力100でも、ピクシーとデイダラボッチではその効果は大幅に異なる。

 

クジラの上に巨人が乗っているような体格のマザーハーロットと、人間+バイクのギルスでは、サイズ差が大きなハンデとなってしまうのだ。

 

つまり、どちらかと言えば近接寄りのステータスをしているザ・ビーストによる【暴れまくり】は、ギルスからしても十二分に脅威。

 

1本、2本、3本……降りかかる首の殴打を切り抜け、5本目の頭による噛みつきも潜り抜け、マザーハーロット目掛けて跳躍の構えを取る。

 

 

『バカめ、あと二本あるわっ!!』

 

「【実体分身】!!」

 

『ッ何!?』

 

 

チャンスを待たずに攻撃の構えを取ったギルスに対し、よもや焦ったか!と嘲笑しながらもしっかり迎撃の指示を出したマザーハーロット。

 

だがしかし、その瞬間にギルスが3人に分身、分身である2体が先に跳躍し、先手を取って二本の首に蹴りを叩き込み、動きを止めた。

 

【実体分身】……普段は支部の運営のために使っているスキルだが、本来の使い方はこうして手数を増やす手段である。

 

あるいは本体の身代わりとして使うのも有効だが、どちらにせよ『切り札』として切るには非常に最高のタイミングであった。

 

何より、この分身は『自動操縦』ではなく『思考操縦』で動かしている。

 

すなわち、本体がガンギマリで精神干渉オートレジスト状態なら、下手すると本体よりスムーズに動く。

 

 

「隙ありィ!!」

 

『ッ……!(しまった、間合いを詰められた!?)』

 

 

ザ・ビーストによる阻止が失敗し、穴の開いた防衛網をギルスがまっすぐ突っ切ってくる。

 

メギドラオン等の魔法による撃墜は間に合わないと判断したマザーハーロットは、己の五体で迎え撃つ選択肢を取った。

 

いくら相手が近接型といっても、レベルは10以上ホア・オブ・バビロンの方が上。

 

しかも今のギルスは分身にMAGを割いている、分の悪い賭けではない……そう判断したマザーハーロットの判断は非常にマトモだ。

 

巨大な拳を握りこみ、振りかぶったそれに全身全霊の力を込めて突き出す。

 

 

……そう、マトモだからこそ、人間というモノは時折意味不明な領域に到達することを計算に入れ忘れた。

 

 

「テレフォンパンチすぎて、読みやすいっ!!」

 

『ンなっ……』

 

 

跳躍中に『バーニングフォーム』を使用。本邦初公開、吹き出す炎による飛行能力を披露する。

 

だが、それで飛び回って回避するのではなく、先ほどまでと同じようなギリギリの回避で拳をすり抜けた

 

ホア・オブ・バビロン……そしてマザーハーロットは、決して武術の達人でもなければ歴戦の戦士でもない。

 

ただただ人間を堕落させ、篭絡し、蹂躙する。絶対強者としての在り方こそが本質だ。

 

故に、人間の『体術』なんてものになじみがあるはずもなく……。

 

見る者が見ればあっさりと、突き出した腕をギルスに『背負うように』担ぎあげられる。

 

 

「セイヤーッ!!!」

 

『ぬああああぁぁぁっ!?』

 

 

【一本背負い】……空中で足場もなく、炎の噴出を使って再現したゲテモノな完成度だが、それでも効果は十分。

 

6mを超えるマザーハーロットの巨体が宙を舞い、一回転。

 

しかし地面にたたきつけるのではなく、自分ごと空中高くに放り投げるように腕を離した。

 

そして、最初から『互いに空中へ放り出される』事がわかっているのなら、準備していた者の方が『再行動』は早い。

 

 

両足から炎を吹き出し、バーニングギルスが再度、空中のマザーハーロット目掛けて飛翔する。

 

頭が地面を向いた上下さかさまの状態で放り投げられたマザーハーロットは、どうしても次の行動が1テンポ遅れた。

 

そして、この距離での肉弾戦の差し合いにおいて、その1テンポは致命的である。

 

 

「【バーニングライダーパンチ】ッ!!!」

 

『ぐっふぉぐっ!!??』

 

 

めきょっ……とかなり生々しい音を立てて、その巨体の鳩尾へ、綺麗に燃える拳がねじ込まれた。

 

【シナイの神火】をたっぷりと纏った拳が肉体にめり込み、体内を直接焼き焦がしながら衝撃が突き抜ける。

 

【ボギョバキャッ!】と固いものが砕ける音と生々しい潰れるような水音が同時に鳴り響く。

 

マザーハーロットの口からワインよりなお赤い鮮血が吐き出され、体内で骨と内臓が骨付きミンチとなり、そのまま神火でウェルダンに焼かれる。

 

それでもなお追撃の手は休めず、右拳をねじ込んだまま、左拳にも同様の炎が宿ったのをみて、マザーハーロットの血の気は完全に引いた。

 

 

 

「もう一発ッ……!」

 

『げぼっ、させるかァ!』

 

 

【バーニングライダーダブルパンチ】を放つ直前に、軋む全身を無理矢理動かし、両腕でギルスを抑え込んだ。

 

カウンターで放たれた一撃でマザーハーロットの右腕がマッチ棒のように折れたが、それを気にする余裕は持てない。

 

そのまま卵を温める鶏か、あるいは抱き枕に抱き着く少女のように、自分の目の前にいるギルスを抱え込んだ。

 

 

『この距離ならば、回避はできないな! 【メギドラオン】ッッ!!』

 

「なっ、がああああぁぁぁっ!!?」

 

 

自分の巨体でギルスを抱え込むと、その内側目掛けてメギドラオンを放つ、という荒業を決行。

 

女体に包まれた幸福感などと言っている場合ではない、いくらバーニングギルスといえど、ここまでの大悪魔からメギドラオンを放たれては無事ではいられない。

 

万能属性の白い閃光があふれ出し、マザーハーロットの手の中でギルスを巻き込んで爆発。

 

その爆発の中から、2つの塊が砂浜に落下してきた。

 

 

「ぐっ、は……クソ、無茶をする、あの女!!」

 

一方はバーニングギルス、咄嗟に自分の体をバーニングフォームの『神火』で覆い、メギドラオンをいくらか相殺したのだ。

 

とはいえダメージは大きく、全身を覆う赤い生体装甲はバキバキにひび割れ、ツノにまで亀裂が走っている。

 

 

 

『ハァ、ハァ……あ、あのまま、負けるよりはよい、負けるよりは……!』

 

一方のマザーハーロットだが、こちらも軽傷とは到底言えない重傷であった。

 

両腕は肘から先が消しとび、火傷のような傷が首から下を覆っている。

 

【バーニングライダーパンチ】による負傷も大きいのだろう、僅かに足元もふらついている。

 

 

互いに痛み分けのような状態、だが、ここで引くようならどちらもこのレベルまで上がってきてはいない。

 

ハルカ/ギルスは残るMAGを戦闘力の維持に回し、燃え尽きる寸前まで殴り続けてホア・オブ・バビロンを粉砕する構えだ。

 

ギルスレイダーによる回復も相まって、2秒とかからず肉体を再生し、再度必殺技でトドメを刺すつもりだろう。

 

だが、ギルスが再度距離を詰める前に、今度はマザーハーロットが先手を取って動いた。

 

 

『来い!終末の獣よ!!』

 

 

7本の首がとぐろを巻き、マザーハーロットに絡みつくように第一の獣がすっ飛んできた。

 

さらに各地に分散していたマスターテリオンから、生き残っているモノも呼び戻し、『合体』に巻き込む。

 

捻じり巻き付いたザ・ビーストは、そのまま体積を明らかに減らしながら濃縮されてゆく。

 

果実を潰して絞るような印象を受けるとともに、起きている『変化』は露骨だった。

 

巨体が放っていた威圧感やMAGの気配が一点に収束されていき、ザ・ビーストどころかマザーハーロットよりも小さいサイズに収まっていく。

 

 

『素晴らしい一撃だったぞ、小童……いや、違うな。 【仮面ライダー】よ』

 

そして、おおよそ大柄な人間と言えるだけのサイズまで濃縮されれば、ギルスの目の前でその形状がぐじゅぐじゅと変形・成形されていった。

 

『だからこそ余は気づいた。戦いこそが、英雄(きさま)が最も美しく輝く瞬間なのかもしれない』

 

太い手足と胴を持つ人型。両腕と頭部に、悪魔の象徴である『巨大な角』が生えてくる。

 

『この場にいるのは余と貴様、そして互いの乗騎だけだ。他には敵も味方もいない』

 

ワインレッドの生体装甲が形成され、10人中10人が【怪物】と表現する肉体は、しかし、暴力的なまでの『獣のごとき魅力』にあふれていた。

 

『そう、いないのだ。敵も、味方も……余か、貴様が、屈するその時まで、貴様という英雄を独り占めできる』

 

邪悪なる三位一体の最後の1つは、サタンの化身である『赤き竜』。神霊サタンがはるかな宇宙(ソラ)にいることを利用。

 

マザーハーロット/マスターテリオン/ザ・ビーストの三身合体による特殊合体を経て、『化身』としてそれを無理矢理出力する。

 

 

 

 

『……愛してるんだァ英雄(きみだけ)をオオオォォォォォ!!アハハハハハハハハハハハァッ!!』

 

 

【邪龍 レッドドラゴン LV108】*6

 

自分を腰砕けにまで追い込んだ『雄』を相手に、マザーハーロットという『雌』が用意した極上の器であった

 

*1
敵全体に大威力の万能属性攻撃。確率で魅了を付加

*2
敵全体に特大威力の万能属性攻撃。確率で混乱を付加

*3
敵全体に万能属性の特大威力攻撃。確率で攻撃力・防御力・命中・回避率ダウンの追加効果。ニヤリ時ではなくなっている。

*4
敵単体に氷結属性で特大威力攻撃。ニヤリ時ではなく、確率で貫通効果

*5
敵単体に雷撃属性の特大ダメージ。これもニヤリ時ではなく確率で貫通効果

*6
外見は『真っ赤なドラゴンオルフェノク龍人態』。『角』に該当するモノが両腕に2本ずつ、頭に2本という『合計6本』になっている。

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