【結界が突破される数十分前。 ガイア連合霊山同盟支部 一等研究室】
「……ぅ、あ……?」
全身のけだるさを感じながら、鷹村ハルカはベッドの上で目を覚ます。
これが黒札転生者なら『知らない天上だ……』とか言いそうなシチュエーションだが、残念ながら彼はヱヴァンゲリヲンを見たことが無い。
霊山同盟支部の技術部が制作した、継続治療用包帯*1を巻かれた全身をどうにか持ち上げる。
眠っている間にMAGも供給されていたようで、万全とはいかないもののほとんど健康体に近い。
(周囲の景色からすると。一等研究室にある隔離病棟か……?)
霊山同盟支部にある施設は、支部長として当然全てチェックしている。
特に技術部は、放っておくとシノがヘンテコな発明品を作りかねないので重要チェック対象だ。
何度か監査に来たことがあり、なおかつ終末の四騎士との戦いで一度入院したこともある隔離病棟は、ハルカにとって(あまり慣れ親しみたくないが)見慣れた場所である。
そんな時、がちゃり、と隔離病棟の扉が開き……。
「たっちゃーん!!!」
「おっぶぇ!?」
体に走る衝撃、顔面に押し付けられるやわらかい感触。
LV40オーバーの身体能力をフルに活かし、入って来たのと同時に『兎山 シノ』がハルカに抱き着いた。
LV20以下の人間や悪魔ではいつ飛び込んだのかもわからないほどの速度である。
ついでにLV10以下だと今のハグの前段階であるタックルだけで死ぬ。黒札は無駄にデタラメだ。
「もー!ホントに心配したんだよ!?式神ボディは回復魔法で治らないレベルで壊れてるし!
それどころか呪詛やら汚染やらで肉体も魂もMAGもベッタベタ!治せるのはショタオジぐらい!
なのにショタオジいないしさー!時間かければ治せるあっくんもすごいけど!!」
「あ、そんな状態だったんですか……そりゃそうか……」
自傷ダメージで全身をボロボロにしながら『大淫婦』や『神の敵対者』と戦ったのだ。
大淫婦バビロンが周囲にバラまいていた魅了の権能による汚染に加え、サタンの自爆に巻き込まれたことでサタンのMAGによる汚染まで侵攻。
ハルカの肉体が、ノアの箱舟に乗る事を許された『穢れ無きネフィリム』である『オグ』のフォルマやデビルリソースで構成されていたからこそ、ギリギリ回復可能な域で収まっていたのだ。
そうでなければ回復魔法すら拒絶され、そのまま死ぬか傷ましい変質を遂げて悪魔として復活していたことだろう。
「肉体的にはほとんど完治してるけど、流石に絶対安静だからね!
MAG欠乏症に広範囲のⅢ度熱傷、亀裂から複雑まで数えきれない骨折!
内蔵までガッツリ損傷してる上に出血多量でショック状態まで発生!
混ざりすぎてわけわかんなくなってる呪詛による生命力の喪失!
そこから約一ヵ月意識不明!生死曖昧な状態で脳波も観測できず!
……いやホントなんで生きてるのか不思議だよ!?」
「か、仮面ライダーですから……っていうか一ヵ月寝てたのか僕……」
「すごいね仮面ライダー!っていうと思ったかぁ!流石の仮面ライダーも生身でこれだけやられて生きてるのは照井*2ぐらいだよ!!」
「誰ですか照井さんって」
起きて早々にいつものやり取りを繰り広げていたが、そこでふと、シノの後ろにもう1つ人影があるのに気づいた。
はあやれやれ、とでも言いたげな顔で腕を組んでいるのは、もはやお馴染みガチホモ(バイ)のイイ男、ハルカの師匠の阿部清明である。
どうやらどこぞでオカルト関連の仕事をこなしてきた後のようで、私服ではなく対悪魔用の防具を身にまとい、錫杖を手にしていた。
「そんなところで何やってるんですか師匠」
「この一か月治療してた俺に対して開口一番ソレぇ!?」
「あ、すいません。そこはちゃんと感謝してるんですが……師匠ですし雑でもいいかなって」
「もうちょっと敬意を持て!泣くぞ!?それはもうみっともなく!!」
「やめてください、身長180超えのガチムチマッチョメンが泣くのは全体的にいたたまれないので」
ふぇーん、と半泣きで抱き着いたままのシノを引きはがしつつ、こちらもまたいつも通りの師匠と弟子の弾丸トークが飛びかう。
ハルカは基本的に丁寧な態度で人に接するが、心を許した相手ほど、その『丁寧』のハードルが雑になる。
紳士的な態度で接している相手ほど、ハルカにとっては警戒対象なのだ。
つまり、師匠と弟子というデフォで丁寧に接する関係でありながらこの態度な阿部への信頼度は……推して知るべし、というやつだ。
「ま、なんにせよ今のお前は健康体だ。一応の検査を終えたら退院してもいいだろ。
秘密裏にココへ運び込んで治療したからな、霊山同盟支部に顔も出してやれ。
運んでくれたKSJ研究所とロボ部の艦隊には、あとで礼言っとけよ?」
「あ、はい……え、秘密裏に?なんでわざわざ?」
「メシア教がちぃっとやっかいな事になっててな……意識のないお前を表に出すのがリスクしかなかった」
「今度はなにやったんですかあの連中……」
「まあ……それは後でな?」
「いやでも」「後でな???」
(マジで何をやったんだよメシア教の連中……!?)
自分が寝ている間に何があったのか心配になって来たハルカに対し、何故かシノも阿部も多くを語らない。
が、その反応だけで間違いなくロクでもない事になってるんだな、と察せられるだけのカンの良さがハルカにはあった。
空気が読める子と言い換えてもいい。
空気を読む力を小~中学生に求める環境が既に何かおかしい気もするが、それはともかく。
丁度その時、ハルカの肉体にMAGが流れ出る感覚が走った。
「? ……レムナント、かな?MAGの供給ラインが復活したのか。*3でもこの感覚だと……戦闘中?」
「何かトラブルでもあったのか?ちょっと待ってろ」
阿部が各結界に飛ばしている連絡用の式神に意識を向ければ、S県各地の状況が一瞬で阿部に流れ込む。
式神と主のラインを利用してソレをハルカにも共有し、一瞬で相互理解が完了する。
戦闘の時はコンビネーションにも使える技術ではあるが。説明の手間が省けるという理由で普段からそれなりに出番はあった。
そして、前々回の『多神連合から抜けようとしたアホ神による連鎖結界崩壊』を把握し……。
「……この意味が分かる者は、ここに残れ」
((いや残るも何も俺/シノさんの二人しかいないよね?))
「言ったよな!?僕言ったよな!?僕が吹き飛んだ後は多神連合から少しずつ距離を取って、イワナガヒメ経由でマトモな日本神話の神を結界及び管理異界の担当にしていけ、って!?」
「た、たっちゃん、もとい支部長閣下。多神連合とメシア穏健派と日本神話で三枚舌外交やれる人間なんてそうそういなくてですね……」
「やらかしそうな多神連合の神もリストアップしてただろうが!損切りのできない後任人事なんてダイッキライダ!!」
「いや巫女長とかもお前が死んだと思ってだいぶヘコんでたからその影響もな?」
「柔軟に対応できない奴らはダイッキライダ!
そもそも巫女長達は霊的な才能物足りないから交渉に向かないだろバーカ!」
「たっちゃん、一応私達も頑張ってたんだから、ね。ね!?」
「どーせ外交とかやりたくないから巫女長に丸投げしてたんだろうが!チクショーメーッ!
多神連合は特にそうだが低レベルだとどんなに立場があっても話聞いてくれないんだよ!
連中は霊能力者としての才能をドレスコードか何かだと勘違いしてるんだよ!!
急に死ぬことになったせいでそのあたりの意識改革がタランカッタァ……!」
すさまじいマシンガントークで畳みかけつつ、いつのまにやらベッドから起き上がって大演説。
普通なら傷が開きそうだが、無駄に回復能力の高いギルスはハイテンションもあってコンディションが絶好調。
一応は黒札かつ師匠&恩人な阿部とシノ相手に総統閣下シリーズみたいな勢いで持論をゴリ押していた。
「連中と言えば学んでいるのは人間を食い物にする方法ばかりでクソの信用もできん!
こうなったら俺もやるべきだった!やらかしそうな多神連合の粛清を!
スターリンのようにやるべきだった!!」*4
「うん、それだけ元気なら大丈夫そうだな。
それじゃあ今から最近多発してる多神連合の元所属神関係のトラブルとか、
日本神話の神が他のオイシイ地区に行きまくってて中々こっちに来ない事とか、
メシア教穏健派から誕生しやがった『メシア教ギルス派』とかいう連中の対処も頼んだ」
「何のナニのなに!?僕が寝てる一ヵ月の間に何があったの本当に!?」
ああもう!とヤケクソ気味に叫びつつ、寝ている間に着させられたと思われる患者衣の上着を脱ぎ捨て、ベッドから飛び降りる。
勢いで総統閣下シリーズしてしまったが、そもそもこの二人に八つ当たりしてもどうにもならない。
シノに自分の服がある場所を聞き、急いで着替えて病室を飛び出る。
一応は女性であるシノやガチホモ(バイ)である阿部の前で着替える羞恥心と警戒心は、悪魔の群れが結界を突破してくる危機感の前に吹っ飛んだ。
じゃあそもそも総統閣下シリーズやってる場合じゃねーだろ、と言われたらその通りだが。これに関してはだいたい教育役の阿部が悪いのですべては阿部の責任である。
「あ、たっちゃん!言い忘れてたけど、一等研究室の倉庫に『ギルスレイダー』があるから、それ使って!」
「……あ、そう言えば無事だったんですねギルスレイダー!すいませんすっかり安否確認忘れてました!!」
「一応自分の相棒なんだからもうちょっと気にかけてあげようよ!?」
ボロボロになっていたギルスレイダーも、ロボ部が管理している『日向』によって引き上げられ、そのまま『あきつ丸』に乗せられて運び込まれていた。
シノの手によってハルカと共に強化改造され、宇宙航行のデータをもとに陸海空宇宙まで割と何とかなるスーパーバイク型式神に変貌している。
……そう、強化改造されたのはギルスレイダーだけではない。ハルカ/ギルスもまた、トリニティフォーム等の反動に耐えられるよう強化改造が施されている。
唯一の欠点は、そもそもそんなトンデモパワーを発揮するような事態が今後もハルカに襲い掛かるのが避けられない点だろう。
倉庫に飛び込んだハルカは、そこに安置されていたギルスレイダーに飛び乗る。
MAG供給用のチューブ等をやや雑に引き抜き、シノの手によって地下倉庫の出口が外へと直通になった。*5
阿部とハルカ/ギルスがそうであるように、ギルスとギルスレイダーもまた、主と式神の繋がりがある。
あの死地を超えた一人と一騎は、人馬一体……いや、人機一体ともいうべき同調率を記録していた。*6
「……いこう、ギルスレイダー!!」
迷いなくアクセルを振り絞り、最高速度のギルスレイダーが外へと飛び出していった。
そして、視点は『最後となる現在』へと歩を進める。
【S県某所 結界内 支流霊道 結界の穴の付近】
『魔獣 オルトロス』の死体が次々と地面に叩きつけられ、MAGとなって消滅する。
あまりにもレベル差がありすぎる相手だった上に、無視して後方の一般人がいる区画に向かおうにも、ギルスレイダーであっさり追いつかれて始末される。
そのうちに、レムナントと七海が合流すれば、息の合った連携で残る悪魔の殲滅も終わった。
駆けつけた巫女……緊急事態だと判断したのだろう、巫女長直々に精鋭の巫女部隊を率いて来たらしい。
霊山同盟の巫女も、自衛隊も、警察も、G3ユニットも、ラッキークローバーも。
今回の事件のために駆け付けた面々が、修復された結界の中で一人の『英雄』を囲んでいる。
生体装甲が消えていき、あらわになったのは小柄な少年。
可愛らしい顔ながら、強い意志を瞳に秘めた『仮面ライダー』……鷹村ハルカが生きている。
「……あー、その、ごめんね?一ヵ月も顔出せなくて……「主殿ッ!!」ぷあっ!?」
殆ど不意打ちで、集団の中から飛び出してきたレムナントがハルカに抱き着いた。
本日二度目の豊満バストによる顔面ホールドに、思わず混乱しながらもなんとか引きはがそうとする。
しかし、レムナントの力は尋常じゃないほどに強かった。その腕の力は、レベルでもステータスでもなく『想い』の強さだ。
生きて帰ると信じたくて、しかし信じきれなくて、そんな『愛しい誰か』を出迎えるための両腕だ。
その腕に込められた感情が、ぐすぐすとしゃくりあげるレムナントのすすり泣きと、主と式神のラインを通じてハルカにも伝わっていく。
神への愛(アガペー)ではない、もっとちっぽけで、しかし温かい……『誰かが誰かを愛する』時の、陽だまりのような愛情だった。
それらを感じ取ったハルカもまた、無理に振りほどかず、レムナントの背中をぽんぽんと撫でて慰める。
鷹村ハルカはかつて、『自分が死んだ時に泣く人間もいないままに死ねない』と阿部に言った。
そして今、ハルカが『死んだと思ったのに生きて帰って来たこと』に、暖かな歓喜の涙を流してくれる者がいる。
レムナントだけではない、周囲にいる面々は、喜ぶ者・泣く者・感極まって失神する者まで様々だ。
もはや数秒後には全員にもみくちゃにされそうな気配を感じ取ったのか、レムナントとハルカは『自分の心から出た言葉』を交わす。
「……おかえりなさい、主殿」
「うん……ただいま」
『行ってきます』で始まった、鷹村ハルカ/仮面ライダーの戦い、
それは今、『おかえりなさい』と『ただいま』をもって、一つの節目を迎えたのであった。
これから先も、ハルカは終末を迎えた世界で戦い続ける。
自分を愛し、信じてくれる者達や、守るべき者達のために。
そして何より、人間の未来と自由のために。
仮面ライダー、鷹村ハルカは改造人間である。
彼を改造したガイア連合は、世界平和を願う善の秘密結社である。
鷹村ハルカは人間の自由のために、闘い続けるのだ。
【 霊能力者、鷹村ハルカは改造人間である。】
~完~
最終リザルト/ステータス
鷹村ハルカ/仮面ライダーギルス
LV 99
【弱点】 無し
【通常】 万能
【耐性】 近接 銃撃 疾風 地変 氷結 衝撃 爆発
【無効】 水撃 念動 呪殺 核熱
【反射】 破魔
【吸収】 火炎 雷撃
主なスキル パッシブ系
オートディアマイ(常時ディアマイ(毎ターンHP回復)を付与)
生命の泉(歩くごとにHP回復)
チャクラウォーク(歩くごとにMP回復)
地獄のマスク(状態異常耐性を得る)
覚醒(全てのステータスを上昇)
物理貫通・極(相手の物理耐性/無効/反射/吸収を貫通する)
仮面ライダーの加護(不思議な事が起きる)
etc.
『パッシブスキルをがっつり埋めて削り合いに持ち込んで殺す』と言う分かりやすい構成。
状態異常にもスキル・装備の両方で対応しており、特に精神系に関しては貫通で叩き込んでも『気合で耐える』ため非常に強い。
反面、このレベルになっても『遠距離攻撃の手段が非常に少ない』ため、一貫して単独だと速特化タイプに引き撃ちされるのが非常につらい。
とはいえホア・オブ・バビロン戦で習得した『スタートアップ(プレスターン増加&スクカジャ2回)』もあるので、引き撃ちする側にも相当の強さが求められる。
総合して『食らって耐えて回復しつつ殴る』というタフな前衛。
そのためギルスレイダーやレムナントといった自分の不得手を埋めてくれる仲間と連携するとひじょーに厄介。
……また、相手が『仮面ライダーが倒すべき敵』の場合、奇跡が起きたり不思議な事が起きたりしてなんやかんやで逆転フラグが整う。
恐らくショタオジが悪堕ちしようものなら『仮面ライダー 世界に駆ける』レベルで不思議な事が起きまくるので、そういう意味では最終兵器である。