だいたいこの小説の『ちょっと精神力が上振れした一族』の基準としてどうぞ。
ハルカは一人だけ盛大に上振れした枠です。
巫女装束や袈裟をまとった一団が、祝詩を唱えながら山へと向かう。
霊山と異界の境目をぐるりと囲うようにつくられた村々は、すべて霊山同盟の本家と分家、その関係者が住む集落だ。
(そこから麓に下りれば何も知らない一般人の暮らす農村があり、彼らは『山の祈祷師様』として霊山同盟をお祓いや葬式で頼っている)
そして霊山同盟の集落中から、人柱役に選ばれた者と本家から選りすぐった術者が進んでいく。
巫女を中心に少数の山伏、近隣の生き残った霊能者一族が戦後に合併を繰り返し続けた集団ということもあり、宗派も装いも微妙に異なる。
しかし、各々の心は1つ。死が確定している人柱たちですら足を止めることなく霊山目掛けて歩いていく。その原動力はシンプルだ。
自分と娘が『半覚醒』までしか至れなかったせいで母に無理をさせ、老齢の母を墓に入れる骨すら残せず悪魔に奪われた女がいた。
男手一つで娘を育て上げ、どこぞの馬の骨に嫁にやって浴びるほど酒を飲んだ数日後に、娘夫婦をまとめて食われた男がいた。
優しかった母が悪霊に心を蝕まれ、発狂した果てに骨と皮だけになるほど痩せて死ぬのを見せられた少女がいた。
この場にいる人間で、あの霊山の異界に親しい者を奪われてない人間はいない。
皆が皆、己の心血と命を注ぎ込み、異界から湧き出る魑魅魍魎と戦い人々を守ってきたのだ。
祖先がそうしてきたように、父が、母が、兄が、姉が、弟が、妹が、妻が、娘が、孫が……。
それらすべてが積み上げてきた執念の果てに立っているのだ。
「総員、傾聴! これより我々は人柱を用いて、霊山を覆う結界を設置する!」
先陣を切っていた女性が振り返り、合わせて周囲に並んだ『本家』の術師たちも振り返る。
中央に立つ彼女は『霊山同盟』のトップである巫女長だ。
既に60近い年齢のはずだが、厳しい修行と覚醒が影響してか、30代でも通る外見を保っている。
本人は『見せかけの若さより力が欲しい』と常々言っているが……。
「霊水と札、盛り塩と祝詩によって邪気を払った後
人柱の霊力(MAG)を吸い出し本家の霊術師に集中!
全力の大儀式を用いた結界により、霊山を封鎖!
……『いずれこの山を制覇する者』が現れるまでの、時間を稼ぐ!!」
そう、霊山同盟は決してヤケになったわけではない。
ガイア連合の超人的な霊能者を見て思ったのだ、『あるいは彼らが十分な準備を整えれば』と。
それは希少な霊薬かもしれないし、とんでもない霊力を秘めた秘宝かもしれない。
あるいは単純に修行による霊力の上昇、もしくは自分たちでは想像もつかぬほど高性能な式神。
一朝一夕で用意できるモノではない以上、一分一秒でも異界と霊障の拡大を食い止めなければならない。
だから、自分たちでは真っ当な手段での時間稼ぎすら厳しくなりつつあるこの異界を『持たせる』ためにここにいる。
少しでも異界が広がるのを抑え、ガイア連合が異界の主を討つまでに死ぬ人間を一人でも減らすために。
死にに来たのではない。今まで先祖たちがどれほどの血を流してでも護り続けた、無辜の人々を守るために。
『戦い』に来たのだ。
「人柱は、骨と皮になるまで霊力を吸われ死ぬだろう!
私を含めた術者も皆、あふれ出た霊力に身も心も魂も焼かれ苦痛の中死ぬだろう!!」
声を張り上げる。見た目こそ若くとも老婆と呼ばれる年齢に差し掛かっている彼女から、覇気をまとった声が一同を打ち据えて。
「……なんという安楽の道か」
一転して穏やかな語り口になった巫女長を、ただただ見守り続ける一同。
腹を括った顔つきになった面々は、恐怖こそ消しきれていないが、それを意思でねじ伏せている。
「悪魔を知らぬ人々をみよ、彼ら彼女らは悪魔を見る事すらできぬ、備える事もできぬ。
いつの世も無力なままで、悪魔がその気になればエサとなる以外の道を見出せん。
いや、エサとなれるだけ幸運であろうな。生き地獄の1つや2つ味わうだろうよ。
そんな生涯を過ごさねばならぬ多くの只人に比べて!
ほんの一時の苦痛で済む我々の!なんと無様なことか!
あのくそったれの異界に!せめてひと噛み!ひと刺し!
それを成して死ぬことができる我々の!なんと幸運な事か!」
それを笑う者はいない、それを狂っているという者もいない。
なぜならそのために生きてきた、そのために鍛えてきた。
悪鬼悪霊に立ち向かう力を持たぬ人々の、明日の平穏を守るため。
霊山同盟を作り上げた初代から続く信念である。
『問題はない、少数だが『血』と『信念』を繋いでくれる者は残してきた』。それが一同の共通認識だ。
「……今まで名家として散々ふんぞり返ってきたのです、御役目程度は果たさないと、ねぇ?」
威厳のある『巫女長』としての言葉は終わりだ。
いつものように、訪ねてきた霊能者見習いの子供たちに牡丹餅をふるまい、若い巫女や山伏に小言を言って、
自分と同じように『生き残ってしまった』数少ない知り合いを生涯の宝と思い続ける。
家の数が多すぎる事もあって一部の分家とは少しぎくしゃくしているが、それでも不器用なりに後輩を見守る、ただの老婆の笑みがあった。
「おうさ、祈祷のたびにいっつも山菜や川魚を下流の村から分けてもらってるからねぇ!」
「ちょっとした悪霊避けをやるだけで山もりの握り飯が出てくるぜ!」
「流行りのドラマは見れないし、週刊誌も発売日に届かないのが玉にキズだけれど……」
『故郷とそこに生きる人々のためなら』
それだけはきっと間違いじゃない。そう信じて、霊山同盟は片道切符だけの死地へ踏み込んだ。
登場人物資料 山根 紫陽花(やまね あじさい)/巫女長
LV 10(カンスト)
年齢 57歳
※主な習得魔法のみ抜粋
ディア
パトラ
ザン
アギ
ハマ
ドルミナー
etc.
霊山同盟のトップである『巫女長』を受け継いだ女性。
外見は普通の巫女服になった『八雲紫』。
才能はロバの上澄み程度だが、50年以上悪魔と戦い続け、幸運の助けもあって生き延びてきた大ベテラン。
破損・紛失の激しいオカルト関連の資料や技術の復元に人生をかけて取り組んでおり、人柱を使った大結界はその集大成。
ガイア連合の結界や帝都の結界の足元にも及ばないとはいえ、現地人が作れる結界としては破格のシロモノ。
性格は穏やかで面倒見がよく、こんな世界だからこそ若い者には自分のような老爺・老婆になるまで生きて欲しいと思っている。
しかし有事の際は巫女長としてのカリスマ性を存分に発揮、今だ恐怖を隠しきれない人柱や術者たちを奮い立たせた。
霊能者としてだけではなく神秘学者としても研究を続けたからこそ『この異界は自分たちの手に負えない』ことを理解してしまっている。
睦月と若干ギスってるのもこの辺りの意識の違いというか、彼女の諦念と睦月の青さがバッティングを起こしており……
巫女長「アレは災害だから犠牲者を0にするために対処療法を研究しなさい!」
※ただし対処療法に自分の命ベットまで含む
睦月「私達で何とかすればこれから出続ける犠牲者を0にできる!」
※ただし何とかするために決死隊率いて特攻できる
というガンギマリ同士の『これ以上犠牲を出さないために』の発想がバチバチにぶつかっている状態だった。
巫女長からすると睦月の才能も青さも『個人的には』評価したかったが、若手が彼女の思想に染められすぎると特攻くり返して詰みが見えている。
今回の『特攻の黙認』も苦渋の決断であり、理想を言えば彼女には自分が儀式で死んだ後の霊山同盟の柱になって欲しかった模様。
夫には病気で先立たれており、今は娘や孫と共に暮らしている。
……彼女もなんだかんだで人であり、孫には少々甘く、ねだられると牡丹餅や大福を友達の分までたんと拵えてくれる。
※そして孫が夕飯を食べられなくなって自分の娘に孫と一緒に怒られるまでがセット。