終末→最終決戦→ハルカ帰還→イマココ、ぐらいのお話。
【霊山同盟支部 研究・実験棟】
「はっはっはっは……まーさかこんな需要があるとはね。見抜けなかった!この海のシノさんの目をもってしても!」
「いやそれ見抜けない側の代表だろう……S県内に配備されたオートバジンが1000機を超えたというのに、突然どうした?」
「最終的には2万機を配備するつもりだけど、とりあえずコレ見てよコレ」
1~3等までの研究室がある区画の長い廊下を歩いているのは、もはやお馴染み、霊山同盟支部のマッドサイエンティスト『兎山シノ』。
隣を歩く親友であり助手でもある『士村 桜』に見せているのは、先月のオカルトアイテム売り上げ一覧表だ。
『傷薬』や『呪殺弾・破魔弾』といった消耗品に加え、『G3MILD』や『ガイアトルーパー』等のデモニカ系。
三等研究室が受注生産で作っている『アガシオン』*1や、外部販売を開始した『オートバジン』*2等の使い魔系。
これらの名前がズラっと並んでいるが、終末に突入してから『ある装備』の需要が増えつつあった。
「……『ガードアクセラー』の注文が妙に増えているな?G3MILDの方はじわじわ程度にしか増えていないのに」
「いやー、意外な需要って言うか、当然と言えば当然って言うか。
『人間を殺さず鎮圧できる武器』が必要になったみたいでさ?
新潟支部とか長野支部みたいなリース先以外からの注文が来てるんだよね」
あぁ、と桜はここにきて合点がいった。
支部によって事情は様々だが、やはり終末に突入してから最初に問題になるのが『民衆の統制』である。
終末前は当たり前に可能だった生活から切り離され、悪魔と言う怪物が結界の外を闊歩する状態での日々。
人心がすり減るのは当然といえば当然で、各支部で頭を悩ませている問題であった。
「鉱山やらの強制労働にブチこんでる支部もあるけどさ、霊山同盟支部、そーいうのとは無縁だしね」
「代わりに『外様シェルター』に隔離してノータッチ、という扱いだからな。
……なるほど。デモ隊等の制圧のために需要が出て来たのか、ガードアクセラー」
「そ。『電圧調整機能付きガードアクセラー』なら、最小出力で使えば麻痺で済むし。
『プリンパ』や『ドルミナー』を込めたガードアクセラーもサクっとリストに追加!」
元々『触れた相手に込めてある状態異常を発生させる』という機構にジオ系の魔法を仕込んだ電磁警棒(スタンロッド)、それが『ガードアクセラー』だ。
お値段リーズナブル、悪魔との戦闘に使えるほど頑丈で、なんなら殴らなくてもデモ隊に押し付けるだけで鎮圧できる。
低レベルの異能者にG3MILDを着せてこれを持たせるだけで、デモ隊の鎮圧担当には十分だ。
というわけで、S県各所の結界に配置されているデモニカ部隊や、外部のデモ鎮圧担当部隊。
あとは警察の対オカルト科や自衛隊にも売れ筋商品となったのである。
「といっても、わざわざ必要に応じてガードアクセラー買い直させるのもアコギすぎるからさ。
リース生産許可してる支部には、ガードアクセラーver2の設計図送っておいたよ。
式神マザーマシンを調整すれば、向こうで新造するのも十分可能だからね」
「確か、麻痺が利かない悪魔を相手にするための新機構搭載型だよな?」
「そそー。元々は打突部分と柄がセットで武器として成立させてたんだけど。
柄部分だけで各種状態異常を発生させられるぐらい小型化に成功したからさ」
実物がコレ!と言って、護身用に持ち歩いているガードアクセラーver2を抜くシノ。
かしゃん、と柄の底が開くと、内部からジオストーンを加工したアンプル型カートリッジがするりと抜ける。
そして、ベルトのホルダーにセットしてあった別のカートリッジを柄の中にセット。
「これで『麻痺』の状態異常を『睡眠』の状態異常に切り替えられるってわけ!
いちいち状態異常別のガードアクセラーを作るのは非効率的極まるからね!」
「……相変わらず、小型・軽量化に余念がないな、お前は」
「長期的に見ればその方がお得だからさ!それに、ガイア連合の技術者はどいつもこいつも頭ジオニックだし」
「お前は頭アナハイムすぎる」
デモニカに関しても、未だにG3系列以外はニコイチ修理不可能なモノが市場に氾濫しているのが現実だ。
無論、純粋な性能だけならそういったワンオフデモニカの方が上回る場合も多い。
しかし、シノからすればあれらは『戦える芸術品』だ。『兵器』ではない。
一定の品質が保証され、パーツの流用が効き、ある程度の数が揃えられる。
多少雑に扱っても壊れる事がなく*3、一目で味方だと分かるようにデザインに統一性がある。
言動と外見で勘違いされやすいが、兎山 シノはインフィニット・ストラトスを『欠陥兵器じゃん』と言い切るタイプの女だ。
「他の支部じゃ『マーベルヒトモドキ』なんて呼ばれてるけどさー。
腹立つとはいえ、市民様も一応『人間』なわけでね?いや、ホント腹立つけど。
名前も扱いも区別しすぎたら、異教徒キルユーなメシアンみたいになりかねないし」
「……その割に、穏健派や多神連合のシェルターに送り込んでいるな。
あのハルカ支部長ですら止めはしないのが意外だったが」
「あー、たっちゃんはねー……支部長としての考えと個人の考えを完全に分けてるから」
鷹村ハルカは確かに正義の味方で、仮面ライダーだ。
だがしかし、同時に霊山同盟支部の支部長として『苛烈な決断』をしなければならない事もある。
シェルターを東海道霊道に近く安定したモノから順に『親藩』『譜代』『外様』と分けて、前者ほど信頼できる管理者で固めているのもその証拠。
この構造自体は終末より前に霊山同盟支部の幹部全員で話し合って決めたモノだが、ハルカも改善案の提案はしても廃案にはしなかった。
はっきりいって隔離政策、あるいは階級社会に近いモノを作りだすこの仕組みを、あの『仮面ライダー』が承認したのである。
「現状を最善だと思ってるわけじゃない、それはそれとして『責任は自分にある』と思ってる。
どうやっても全部は救えない、だから救えなかった分の命は自分が不甲斐ないからだ、って」
「……子供をトップに祭り上げて責任から逃げた我々が、何かを言う権利はないな」
「まあ、ねぇ……霊山同盟支部にいる黒札って、良くも悪くも『ソレ』を理由に移籍してきた面々だし」
基本的に、黒札/俺らは自分が責任を背負い込むのを嫌がる。
一部の比較的人格者な黒札は支部を作って地方救済に動いていたが、それも市民様の悪影響や予想外の激務で放棄することもある。
そんな中、トップが子供とはいえ責任ある立場を丸投げできて、黒札と言うある種の特権階級そのものは保持されて。
オマケに山梨支部ほどじゃないにしろ戦力十分かつ結界が広く、自分達でもほどほどにヒーロームーヴができる。
……つまり『ちょっとだけやる気はあるけど管理職クラスはヤだ、それはそれとして尊敬はされたい』という絶妙にそこそこ数がいそうな『俺達』に需要があったのである。
一般的な会社で例えるなら『先輩として後輩に敬われたいけど係長になるのは嫌だ』みたいな。*4
「だからこそ、たっちゃんはその分を『個人的な活動』でバランスとってるんだよねぇ。
結界が破られた時、毎回のように真っ先に駆けつけていくの、たっちゃんだし」
「式神ボディかつ様々な変異を起こしてるせいか、飲まず食わず寝ずでも活動できるからな。
間違いなくこの支部で一番ブラックなのはトップである彼だ、私すら超えるぞアレは」
「3人に分身してるのに過密労働が一切マシにならないとかヤバいよね」
もっというと、この二人も技術班のトップとして結構な重労働こなしてるのだが、それでもハルカがダントツにヤバい。
三人分の肉体を動かす事で心身の疲労は常に三倍、だというのに食事や睡眠どころか休憩すら最低限。
いつか倒れるんじゃと周囲から心配されながらも、今足を止めたらS県のどこかしらで問題が起きるのも確実。
かといって、黒札は精神的に、それ以外は能力的に支部長の代わりが務まらない。*5
結果、黒札もそれ以外の幹部も『支部長には働いてもらいつつ自分達でサポートしよう』という結論で一致した。
「今日もデビルバスター希望者やシェルター管理者の面接に出ているからな、本当に支部長の仕事が減る気配がない……」
「いやー、ただ、前者についてはたっちゃんの影響で志願者増えてるのもあるからねぇ」
「……それはまあ、そうだな。彼の背中は凡人には少々眩しすぎる」
S県全土のMAG濃度やGPが高めなのもあって、外様シェルターでは結界も完全に安定したとは言いづらい。
それでもせめて真面目に管理していれば大きな問題も無いのだが、外様シェルターを管理しているのは『信用しきれない悪魔や天使』。
地獄湯送りになるような頭神代の加味や、この状況でもメシアの旗を挙げようとする天使達ばかり。
なので結界の維持失敗による防衛線の崩壊も度々起きており、その時にハルカは民衆の盾になるために出撃しているのだ。
「それでもたっちゃんに石を投げる連中*6はいるんだけどさぁ。
……マーベルヒトモドキ認定された人間を、多少なりともマトモにした前例もあるんだよね」
「『支援班』*7を目指して訓練している連中にも、元外様シェルター出身がいるからな。
終末後に加わった面々だから、いないよりマシ、程度の戦力ではあるが……」
なお、そういう元マーベルヒトモドキの方々だが、ハルカ/ギルスが自分たちを庇って戦うのを見て盛大に脳を焼かれた面々である。
メシア教穏健派から派生した『メシア教ギルス派』*8の信者も多く、ハルカの胃痛の元凶になってる事から目を背ければ外様シェルターの上澄みな人材たちだ。
現在は他の新規デビルバスター希望者と共に、自衛隊や警察、G3ユニット等の指揮下にてデモニカG3MILDを装備して動ける程度の体力をつけるため訓練に励んでいる。
養殖じみたレベリングの方法はいくつもあるが、このぐらいの訓練についてこれないようなら足手まといにしかならない、という幹部勢の判断からだ。
既に前線で殴り合う戦力は揃っている以上、今必要なのは治安維持にも使える統率された戦力である。
力に酔ってデモ隊や犯罪者にアギぶっ放すような集団になられたら本末転倒なのだ。
「で、それとは別に『外様シェルター』を管理する悪魔の面接もやらないといけないんだよねぇ」
「ああ、こちらは読心スキルを防ぐような連中だからな。支部長に加えて幹部も同席必須……」
『ザッケンナコラー!スッゾコラー!!』
『待って待って待つがよい!話し合おう!まずは話し合うべきではないか!?』
そろそろ食事の時間だなー、なんて考えていた二人の元に届いたのは、聞きなれたCV田村ゆ〇りボイスの絶叫と、聞きなれないCV丹〇桜の悲鳴。
え、なんでクローンヤクザ?*9と二人して目をぱちくりさせながら顔を見合わせた。
とはいえ既に修羅場も慣れたモノ、これはただ事じゃないぞと二人そろって駆けだす。
常に護身用の装備は身に着けているので、シノは先ほどから手に持っていたガードアクセラーを、桜は腰のホルスターから対悪魔銃を抜いて声のした現場に踏み込む。
現場は予想通り、新たな外様シェルターのための悪魔面接会場であった。
「ちょ、どーしたのたっちゃん!?なんでギルスに変身してるの!?」
面接会場に使っていた部屋で、面接に来た悪魔らしき女性にギルスクロウを突きつけているハルカ/ギルス。
他に同席していた幹部である『イワナガヒメ』と『巫女長』も警戒するように構えており、いつでもギルスをサポートできる体制だ。
そして、タンマタンマというジェスチャーでギルスを制している『女悪魔』の外見とアナライズ結果を見て、シノの方は合点がいった。
「『英雄 ネロ・クラウディウス LV50』……。
ローマ皇帝の『暴君ネロ』か?いやまて、ならその外見は一体?」
「うわぁ、まさかの『赤セイバー』かぁ……っていうか、その外見ってことはもしかして」
赤セイバー……もとい、Fateシリーズの『ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス』。
日本だと『暴君ネロ』の名称で有名なローマ皇帝をモデルにしたキャラであり、量産型アルトリア顔シリーズの一人である。
低めの身長、たわわなトランジスタグラマー体型、ブロンドくせっけに色々見えてる紅白のドレス。
当然、史実のネロ・クラウディウスは男性であり、悪魔として召喚されても男性型になるはずなのだが……。
「良いではないか!この美少女ボディがお主のモノになるのだぞ!?
それこそ、仲魔として戦闘から夜のお世話まで、棒から穴までたっぷりと……」
「お前顔の造形がマザーハーロットとクリソツだろうが!少しは隠せ!
いややっぱり隠すな、こっそり入り込まれた方が問題になる!!」
そう、ハルカがかつて討伐したマザーハーロット/レッドドラゴン/大淫婦バビロンと、目の前の少女(ネロ)は同一人物レベルで顔がそっくりだったのだ。
この少女を数年ほど年を取らせて、巨女属性と異形属性を足せばモロにマザーハーロットである。*10
そんな彼女が結界管理者としての打ち合わせに堂々と入って来たのだ、そりゃハルカも変身ぐらいする。
「というかおかしいだろ、誰だよコイツ通したの!?」
「推薦と案内をしたのはお主の師匠だが」
「あのクソホモ破戒僧がァ!!」
「まあ、うん、でもあっくんならやるよ、こういうこと」
なまじ予言ガチ勢なせいで『ああ、こいつを招いても大きな問題は起こらないな』と判断した上で送りつけてくるのが面倒くさい。
もっというと、阿部が許可した時点で『英雄 ネロ・クラウディウス』を拒否する選択肢が無くなっている。
この支部の支部長はハルカだが、その後見人になっているのが阿部。
つまり、間接的に支部の権威を維持しているのは、ハルカのバックにいる『ガイア連合の幹部にして黒札』という阿部の肩書なのだ。
そりゃあもう、征夷大将軍と天皇ぐらいの力関係である。後者の戦闘力が幕府上回ってるだけで。
「……というか、なんでわざわざ分霊送りつけてくるんだよ、イヤガラセ?」
「何を言うか!余が最も強く魅力的な状態*11で顕現したというのに、その誘惑すら跳ねのけて人々を救った『雄』であるぞ」
「……だから?」
「これ以上の男、いや雄を捕まえられる機会などそうそうあるまい!
『何故か』このぐらいの霊格かつ美少女で顕現できたから、嫁か妾か愛人希望だ!」
「ぶっとばすぞこのアマ。あと管理者の面接って言ってるだろうが」
(ああうん、多分黒札連中が『赤セイバー/ネロちゃま』の概念持ち込んだのと、
元々ネロ・クラウディウスは大淫婦バビロンやザ・ビーストの側面をつけられてたから。
その相乗効果で『赤王姿のネロ・クラウディウス』が分霊として作れちゃったんだろうなぁ)
早くも『英雄 ネロ・クラウディウス』がこの姿で召喚された理由を察したシノであるが、ネロがハルカにゾッコンな理由についてはびみょーに理解不能である。
恋はいつでもハリケーン!なんて便利な言葉もあるが、実の所理屈は単純。
マザーハーロットにとっては、男も女も自分に魅了されて当然というのが常識だった。
自分を倒しうるモノがあるとしても、それは魅了そのものを無効にするガンメタ積んだ無粋なナニカである、と。
しかし、ハルカは魅了を受けた上で根性で堪えて殴りかかって来た。*12
まあつまり、俺様系キャラがヒロインにそっぽ向かれて『おもしれー女』する現象の男女逆パターンが発生しているのである。
「……とにかく、師匠の推薦もあるから、まずは外様シェルターを管理して貰いつつ、時々支部からの依頼を受けてもらうよ。依頼を達成したら、シェルター運営に必要な物資の追加があるから」
「ほう、具体的にはどのような依頼だ?お主の雄の滾りを受け止めるとかか?」
「速攻でピンク色の脳味噌を発揮するの辞めろ淫乱痴女売女」
「そんな、淫乱に加えて痴女に売女などと……照れてしまうではないか♪」
「褒めてないんですけど?」
あ、これ意外とうまく回りそうだなー、とシノと桜が半分現実逃避していると、廊下の外からドタバタと集団が走ってくる音。
騒ぎを聞きつけて誰か来たのかな?とか考えていたら、ドアを開けて飛び込んできたのは、
霊山同盟支部の事務及び予備戦力担当であるシキガミ集団『ナンバーズ』*13の面々であった。
「ハルカ様の貞操の危機を感じました!!」
「アタシ達もまだ『お手付き』されてませーん!」
「いけませんねぇ、順番は守らないと……」
「勃〇してるのは確かだからイン〇でもホモでもないはずなのに!」
「よーし分かった、お前ら全員ブチのめしてシノさんに再調整させてやる!」
「待って、それ余も!?余も入ってるの!?理不尽ではないか!?」
「そこになおれ色ボケ共ー!」
「「「きゃー♪ケダモノー♪」」」
「なんで喜んでんるんだよ!?」
……とまあ、そんな大騒ぎが起きている霊山同盟支部ではあるが、黒札がトップじゃない支部としては安定度は非常に高い。
寧ろ、限定的とはいえ『トップが黒札じゃないのに黒札が多数所属している』という特殊状況なのもあって、山梨支部からもレアケースとして注目されていた。
元々地理的にココが魔界一色に染まると山梨支部も危険にさらされるので、緩衝地帯としての価値がグングン上がっているのである。
「……その結果として、原作メシア教じみた階級社会と原作ガイア教じみた自由主義が同居しているカオスな組織になりつつあるけどね!」
「言うな、精いっぱいやった結果なんだ」
秩序と混沌、それが妙に適切なバランスで『釣り合ってしまった』組織。
それこそが霊山同盟支部なのだと、改めてシノと桜はかみしめるのであった。
なお、紆余曲折ありながらもネロ・クラウディウスは外様シェルターの管理者として就任。
街並みが全体的にローマっぽくなるという点と、性風俗関連の店が繁盛しやすい事を除けば、結構な優良シェルターとして確立。
経営手腕及び優良管理者という認定を受け、譜代シェルターに格上げされるのはこの数年後のお話……。
ちょっとルビコン3で傭兵やってました!