【悪魔娼館内部 支配人スペース】
「結論から言うと私は絶対相手にしたくないですね」
「開始して1行で結論出されたら今回の話の意味なくない?」
悪魔娼館が管理しているモノは、なにも悪魔娼婦/娼夫を使った性風俗だけではない。
悪魔合体や式神等を含めた、ガイア連合特有の技術の研究・実施もサービスの内なのだ。
邪教の館が邪教は邪教でも俗説的な真言立川流系統になってしまったのは、開幕のセリフを言い放った『ミナミィネキ』のせいではあるが。
なにはともあれ、この悪魔娼館はガイア連合スケベ部の筆頭とも言っていい施設であり、だからこそ技術部との交流も盛んだ。
当然、霊山同盟支部の技術班トップであるシノもまた、こうして時折訪れては意見交換や技術交流に勤しんでいるのである。
そんな時、ふとシノが口にした疑問があった。
『実際の所、たっちゃんってどんぐらい強いの?』
言葉にすれば極めてシンプルな疑問であり、同時にシノには測りかねる領域の話である。
なにせシノのモチベーションは修羅勢には程遠く*1、終末後も地道にレベリングは重ねているが、それでもシキオウジには少し届かないぐらいのライン。*2
オマケに戦闘を専門にした黒札でもない以上、武術だのなんだのは素人よりマシ程度。
戦う時は『オートバジンをバカスカ呼び出して突っ込ませて後衛から銃と魔法で圧殺』が基本の火力偏重主義である。
というわけで、LV70超えの女神をブチのめして尊厳破壊してるような*3修羅勢や、
自分の美ショタハーレム強化&ハルカへのお貢ぎ目的で更なる境地に入っちゃった霊山同盟支部戦力ナンバー2の変態(ショタコン)*4や、
自分の恋人である阿部に匹敵し、なおかつこうして定期的に交流できる*5ミナミィネキに、ハルカの評価を聞いてみた結果が、冒頭の一言だ。
「いや、ミナミィネキってわりかし本気でショタオジ二代目も検討されるような上澄みでしょ?
たっちゃんって戦闘スタイルはシンプルだし、近いレベルなら意外となんとかなるんじゃ……」
「幕ノ内一歩がインファイトしかできないから攻略は楽勝って言うようなモノですよ、それは」
「わぁーわかりやすい。そう言ってぶっ潰されたボクサー何人もいるよね」
確かにわかりやすい例えだが、それでも疑問は残る。
自分に都合のいいルールを敷いた結界の構築に、魅了耐性だろうと貫通する魅了に、周囲の野良悪魔を誘引しての数の暴力。
さらには高レベルの仲魔をフル投入することによる数と質を両立したゴリ押し……。
どれもこれも、シノがあの手この手を尽くしても抵抗できそうにない凶悪なラインナップのはずだ。
「まず大前提として……彼、耐性とか関係なく精神干渉が通らないと言うか。
そもそもレベル100超えのマザーハーロットの魅了が効かなかった理由を聞いてみたら。
『気合』の一言で済ませてしまう相手はもう搦手を考えるべきじゃないと言うか」
「ああうん、耐性もクソも『達成値が足りなくて不発』で済まされる感じだもんね、うん」
一応ハルカ/ギルスにも精神系の耐性はついているが、そのあたりはミナミィネキやマザーハーロットならば簡単に突破はできる。
問題は、突破した先で『ハルカの精神を魅了の力で支配する』段階が恐ろしいほど難易度が高い。
単純に『ハルカの精神力を魅了パワーで越えられない』のが原因なので、魅了の出力そのものを上げれば支配も可能、なはずなのだが。
『私の精神力は53万です』みたいなデタラメな達成値を要求されてるせいで、精神干渉系の状態異常がほぼ通らない。
「継戦能力を重視した相手に、特製夜魔軍団や野良悪魔をけしかけるのはエサをやるのに等しいですし。
エロ奥義の数々は……そもそもギルスボディだと性感帯の類が消滅するので大半が通りません」*6
「あー、生身の性器とかがあるのは人間モードの時だけだもんね、たっちゃん」
「まあ別に性器だけが性感帯ではないのでそこはどうとでもなるのですがそれはそれとして。
元々大淫婦を相手にする前提でボディを調整したのか、エロ奥義にはしっかり対策済み。*7
となると仲魔を利用した暴力解決……はい、向こうの一番の得意分野ですね。
流石の私もマッハ50越えて走り回る相手に前転は併せられません」
ギリメカラを中心にした対物理を重視した仲魔軍団もいるものの、流石に相手が悪すぎる。
なにより物理以外にも普通に万能と火炎と電撃と各種貫通まで持ってくるのだから。
「あれ、エロルール展開した結界は?」
「以前、調整後の式神ボディの試験運用のために模擬戦を頼まれた事がありまして。
その時に試してみましたが、ギルスフィーラー*8と各種ドレイン系はエロルールの範囲内でした」
「えええぇぇ……」
「どうせならそこで負かした後に慰めた流れで童貞を頂こうかと思ったんですが……!」
「勝ててよかったねたっちゃん、いろんな意味で」
軽く頭痛を抑えるように額に手を当てるが、ふと、そこでミナミィネキのある発言が気になったシノ。
彼女は「『私は』絶対相手にしたくないですね」と言っただけだ。それはつまり。
「もしかして、ミナミィネキがとんでもなくたっちゃんに相性悪いだけってこと?」
「まあ、そうなりますね。そもそもマザーハーロットとサタン対策に用意した『英雄』でしょう?
私にとって攻略しやすい相手のはずがないじゃないですか、寧ろ天敵ですよ。
マーラにとっての仏陀みたいなものですよ彼、性欲はあるのに一線踏み越えないですし」
「あー、それもそっかー。んじゃあ、相性抜きにした純粋な実力なら?」
「『黒札修羅勢』以上、『黒札運命愛され勢』以下。そのぐらいかしら。
『未満』とまでいかないのは、霊山同盟支部の特殊すぎる環境のせいですね」
終末後はGPが魔界相応になった地球であるが、それでも安全圏と危険域はしっかり存在する。
その中で、霊山同盟支部はギンッギンの危険度レッドゾーンにカウントされていた。
山梨支部が近いとはいえ、いざという時は救援ではなく『富士山を中心に結界展開してS県一帯を隔離しよう』という計画を進めている程度には。
「終末前後に駆け込み的に四騎士とマザーハーロットとサタンが降臨したせいで、あの辺だけGPがモリっと上がったからね」
「しかも定期的に管理を任せている多神連合の神や穏健派天使がやらかすので休む暇もなし……。
他の支部ではLV20代の悪魔の襲来ってそこそこ大きな事件*9のはずなんですけどね」
「霊山同盟支部では週一ぐらいの頻度でLV20代の悪魔が群れを成して結界の穴に突っ込んでくるよ!やばいね!」*10
だからこそ、外様シェルターはそういう時の防波堤として存在しているのだ。
ここに送られる人間は、マーベルヒトモドキと呼ばれる『シェルター運営に取って不都合極まる人材』。
違法実験を裏で行っていた穏健派やら、紛れ込んだダークサマナーやら、破壊デモに参加した市民*11やら。
ハルカがどれだけ強くなろうと、霊山同盟支部の戦力が増強されようと、彼の下に集う黒札が増えようと。
1つの県を管理するレベルのシェルターともなれば、手の届く広さに限界は来るのだ。
「……『そういうところ』も、私にとって彼が天敵な理由かもしれないわ」
「? どゆこと?」
「だって彼、どれだけ私が愛して、蕩けさせて、溺れさせて、抱きしめたとしても。
『困ってる人の声』を聞いたら、私の手の中を飛び出して助けに行ってしまうもの」
あぁ、とシノの口から納得とあきらめの声が漏れる。
彼は良くも悪くもヒーローすぎる、精神性も行動原理も。
それでいて、政治家じみたリアリストとしての二面性まで併せ持つ。
支部長として小を切り捨て大を生かし、切り捨てられた小にはヒーローとして手を差し伸べる。
幼少期からずっと詰られ、嬲られて、心身共にボロボロになって、一番誰かに助けてほしいはずなのに。
誰よりも『誰かを助ける才能』に恵まれてしまった少年。それが、鷹村ハルカという男なのだ。
『それは確かに救えないなぁ』……そんな声が出そうになったところで、ふとシノは気づく。
「え、マザーハーロットでもミナミィネキでもハルカ君とベッドインするのが困難とか。
あの子、あの強さなのに子供作るの無理じゃない???」
「……し、師匠と同じ手*12で、なんとか」
「托卵でもないのに童貞受胎2件目は根本的な解決になってないよ!?」
お見合いや種馬をさせる気はないが、このままだと妻や子供という彼の捨て身のブレーキになりそうな要素が発生しない。
終末後でもナンバーズや周囲にいる女性陣との関係がまったく進展していないハルカに、一抹の不安を覚えたシノなのであった。
ミナミィネキ「まあ、いざというときは結界で閉じ込めて10年ほど封印処理でいいですけど。その間に増援集めて対策取って袋叩きとか」
シノ「ああうん、『戦わなければ』どうとでもなるのね……」
なお、ハルカ君が精神系状態異常に強いのはトンデモメンタリティのせいもあるが。
ニチアサルールとエロルールの相性が最悪だからというのもある。