『ヴォアアアアアアアアァァァァァ!!』
烈火のごとき咆哮と共に異形の戦士『ギルス』が疾走する。
向かう先にいるのは、20mを超える鎧をまとった『巨人』。
【地霊 ティターン LV53】……今回、結界を破って侵入してきた悪魔の群れの主だ。
このレベルの悪魔が『稀によくある』レベルの頻度で結界をブチ破ってくる超危険地帯。
それが霊山同盟支部の管理する、S県一帯の魔界である。*1
ティターンが、その手に持った巨大な剣を横凪に振るい『ギロチンカット』*2を繰り出す。
それを跳躍で回避するのと同時に、ティターンの頭部とほぼ同じ高度まで跳躍したギルスは、自分の右腕から飛び出した『朱色のトゲ』を思い切り引き抜いた。
『魔槍ゲイボルグ』*3……影の国の女王『スカサハ』より貰い受けた呪いの朱槍の名だ。
ギルスの体内に縮小した状態で格納されており、その気になれば針山のように体から生やしたり、ニードルガンのように射出したりもできる。
師匠である阿部からは「『噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)』じゃん」と評されたが、当のハルカからすれば意味不明である。
なにはともあれ、その引き抜いた魔槍を跳躍の勢いを乗せて振りかぶり、ティターンの頭部目掛けて投げ放つ。
一瞬で音すら置き去りにする速度に加速した魔槍は、朱色の流星となって拡散。
30の呪弾となったゲイボルグは、攻撃後のスキを晒したティターンの頭部目掛けて殺到。
悲鳴の1つを上げさせる事すらなく、首を中心に胸から頭頂部までを穴だらけにして消し飛ばした。
着地したギルスの元へ、ゲイボルグが複雑怪奇な軌道を描いて帰還。それを片手で難なくつかみ取り、くるりとひと回ししてから体内に戻す。
まるで鞘にでも納めるように、ギルスの手のひらにスルスルとゲイボルグが飲み込まれていくのは、ある種のシュールさすら感じられた。
念には念を入れて待機していたギルスレイダーが、自動操縦で傍まで走ってくると、それに跨りどこかへと走り去っていった。
「……とまあ、これが霊山同盟支部の最高戦力、支部長でもある『ギルス』の参考映像だね!」
【参考にならなくて草】
【LV50代の悪魔を瞬殺しないでくれませんかねぇ】
【力・体が高めのティターンを物理で瞬殺しちゃうのかぁ】
終末発生後*4も続く、霊山同盟支部のPR活動。
シノが商品宣伝等で使用している動画サイトのチャンネルには、今日も【ギルス/ハルカ】や【アギト/イチロウ】の戦闘動画がアップロードされ、順調にスパチャを稼いでいる。
終末はシェルター型の結界で凌いだはいいものの、その後どこの支部に所属しようかなー、と悩んでいる黒札はまだまだ多い。
大半は山梨支部に行くことになるだろうが、山梨支部の環境が合わないと言う理由でそれ以外の支部を選ぶ黒札も多い。
はっきり言って、終末後の支部の環境は【黒札の数】で大幅に上下する。
既に技術部俺達や特撮ガチ勢俺達、昔の縁で来てくれた鬼灯や流石兄弟。*5
個人的にハルカに心酔している『伊予島 杏』や、師匠の縁で残っているシノ。
未亡人口説き放題じゃん!ってことで移籍してきた『鎮西 与一』*6等も霊山同盟支部に所属しているため、黒札の数という意味では既に安全ラインと言える。
この中の一人二人が『やっぱ山梨支部行くわ』したとしても、霊山同盟支部に骨を埋めるつもりの黒札は残るのだから。
(とはいえ、黒札の数が多いにこしたことはないからねぇー)
黒札というのは、基本的に全員現地人より霊的な能力が高い。
一人増えるだけで戦力的にも労働力的にも段違いのリソースが確保できるのだ。
あれだけのボスラッシュを突破して強くなったハルカですら、黒札修羅勢には相性で負ける事もある。
黒札運命愛され勢に至っては、自力で押し切られるのが目に見えている相手すらいる。*7
そんな規格外の黒札を、一人でも多く支部に招きたいと考えるのは当然だ。
黒札向けのPR動画なので、コメント欄の黒札たちの反応をチラ見しながら紹介を続けていく。
「そして、ナンバー2に該当するのが杏ちゃん鬼灯くんちゃん、『アギト』ことイチロウ君だね。
黒札修羅勢である杏ちゃんはふっつーにLV80前後級の特級戦力で、アギトもそれに匹敵。*8
鬼灯くんちゃんもデビルシフターらしく波は大きいけど修羅勢らしい戦闘力だし。
超巨大シキオウジぐらいなら複数出てきても対処できるのがこのあたり」
【バケモノ集団がよぉ】
【半終末の頃のハム子ネキぐらいの戦力ってことか】
【つまり普通に超火力メギドラオンとか飛んでくるのかぁ】
「ここからもう一段下げると、たっちゃんの式神である『レムナント』ちゃんとか、
同じく式神ボディで召喚されてる『女神スカサハ』に落ち着くね。
ちなみにレムナントちゃんは【大天使 ラミエル LV61】だよー。
流石ブラザーズとか与一君とかもこの辺。シノさんはもう一段下かなぁ」
おおよそこのあたりが【シキオウジに勝てるかどうかのライン】でしっかり区切られている。
レムナント(大天使ラミエル)や女神スカサハ、流石ブラザーズや与一は、被害の差はあれどシキオウジの撃破が可能だ。
が、戦闘職ではないシノはいくらLVが50前後あろうと、純粋なステータスの暴力で押し切られて終わる。
同じく技術部である桜も同様で、このあたりから黒札でも相当真面目にレベリングしている人間以外は到達できない強さなのだ。
「で、ここからさらに一段か二段落としたのが、ウチに所属してる現地人SSR勢だね。
LV30超えを基準にしてるけど、素でLV50まで到達まで到達できてる子はいない、ぐらいの。
ハイエンドデモニカ込みなら七海ちゃん*9とツツジちゃん*10かなぁ」
【逆に言えば中華戦線にいた上澄みクラスの現地人はいるのか】
【まあ、控え目に言ってS県の前線って鉄火場だしな】
【黒札と張り合える戦力があるって時点である意味安全、か?】
「まあぶっちゃけこの辺になると大量生産中のバジンたん*11でいいんだけどさ」
【色々と台無しで草】
【いやまあ、技術部上澄みがガチで式神量産すりゃあそうなるわな】
【逆に言えば俺らレベルの黒札が無理する必要もないってことなんだよな】
ある意味黒札へのハードルが低いというか、『適度に救世主できる』という意味では四国支部に環境が近い。
本気でヤバい悪魔は修羅勢以上の戦力とシキオウジが対応してくれて、数で押してくる相手にはオートバジンがいて。
大半の現地人では対応できないけど黒札なら余裕な『LV20~30ぐらいの悪魔』を適度に叩くだけでいい。
そして、オートバジンや現地人SSRのおかげで黒札がブラック労働する必要もないときた。
家族、特に子供がいる黒札にとって、黒札様扱いされすぎる山梨支部や、山梨支部から物理的に遠い四国支部よりこちらを選ぶメリットもあるというわけだ。
「で、バジンたんより下はLV30未満の『部隊』があれこれあるって感じかなぁ。
結界の修理や設置、オカルトアイテムの量産*12を担当してる『霊山同盟巫女衆』*13
下部組織である企業『スマートブレイン』所属のデモニカ部隊『ラッキークローバー』*14
シノさんが個人的に抱え込んでる高レベル実験部隊『G3ユニット』*15
霊山同盟支部の事務方がいつのまにか戦闘も兼業するようになった『ナンバーズ』*16
それに『一神教調和派』*17や『メシア教ギルス派』*18みたいな、比較的マシな宗教派閥。
エジプト神話とかの他宗教も引っ張り込んで、うまい事睨み合いするように誘導してるしー。
霊山同盟支部も戦闘班や支援班としてお抱えのデビルバスターを抱え込んでる。
外部だとS県駐留の自衛隊に、警察の対オカルト対策課……そのぐらいかなー」
【タケノコみたいに戦闘担当の名前が挙がってるな】
【というかこれ、個人名じゃなくて部隊名とか組織名なのがおかしいんだよなぁ】
【県1つカバーする支部はダテじゃないってわけか……】
はっきりいって、個人レベルの質ならば霊山同盟支部を上回る支部・派出所は存在するだろう。
だが、ここまで組織的に拡大し、下部組織を多数抱え、広域を管理下に置いている支部はそうそう無いはずだ。
東海道霊道を中心とした広範囲の結界と、リスク覚悟でメシア穏健派や多神連合を利用した結果がモロに出ている。
「まあ穏健派や多神連合は外様シェルターに上手い事押し込んでヘイトタンクやってもらってるけどね!!」
コメント欄の【この人でなし!】【まあソイツらならいっか】という反応にニコニコで返答しながらも、シノの内心は真剣そのものだ。
破綻する外様シェルターも発生し、その部分を終末後に確保した【比較的信頼できる神々】や【霊山同盟支部の直轄】として譜代シェルターに取り込む。
それによりS県全体の治安と結界の安全性を向上させ、意図的に殴り合いをさせている多神連合とメシア穏健派、双方の弱体化を狙う。
最終的には姥捨て山のような扱いでこの2勢力の管理地を最低限残し、悪魔の群れや高レベル悪魔の発生する危険地帯をすり潰す。
(はっきり言って、シノさんが生きてる間に完遂できる野望じゃないんだよねぇ)
だが、ハルカはやる。やり遂げるまでやってしまう。
既に式神ボディとアギトの力のせいで肉体が変異し、人間の寿命などとっくに超越しているのがハルカ/ギルスだ。
100年だろうと200年だろうと、彼は人類の自由と平穏のために邁進し続けるのだろう。
(そのためにも、シノさんが出来る事はシノさんが生きてる内にやってあげないとね)
『それが、全ての責任を押し付けてしまった大人の責任だ』。
にこやかな顔で動画配信を続けながらも、兎山シノは一人の大人として、自分の全力を尽くす覚悟を決めたのだ。