名前だけ出てたメシア教ギルス派のお話。
S県内のロウ系(正確には一神教系勢力)は、大きく分けて3つ。
第一に、国内一神教系最大手、自称・ガイア連合の盟友を自称する『メシア教穏健派』。
終末の前から規模・人員共に最大規模だったこともあり、S県内でも多数のシェルターを管理している多数派である。
終末後は出自を隠した元過激派が紛れ込むわ、終末前から暗躍してる穏健派()もいるわ、KSJ研究所*1が思いっきり介入してるわと内部事情が非常にカオスな事になっているが、それでも規模『だけ』は大きい。
第二に、日本国内ではドマイナー宗派だったはずなのに、いつのまにか県の内外に誘致され始めている『一神教調和派』。
シスター・グリムデルという女傑が教育を担当しているためか、俗っぽい者も多いがその分メシア教ほど『振り切れた』者もいない。
日本人の嫌う『宗教臭さ』の薄い組織であり、一応のトップであるシスター・グリムデル*2からして……
『クリスマスケーキ食べた次の週に除夜の鐘を聞いて、その次の日に初詣に行くこの国のスタンスに合わせなアホ共!郷に入ればなんとやらだよ!』
『天使?神?バカいうんじゃないよ!人様に迷惑かけるんなら天の父だろうがオカンにケツひっぱたかれて当然さね!』
『相手の信仰や信念を否定しないと維持できない信仰は信仰じゃなくて依存だよおバカ!まずカウンセリング受けな!』
……という有様なのだが、それが逆に黒札にウケたことで一定の影響力を保有している。
そして第三に……終末以前からじわじわとS県内で広がり続け、終末の『例の放送』と共に一気に広がったのが。
メシア教の定義する救世主(メシア)、それこそ『ギルス』であると確信し、ギルスを信仰対象に仰ぐ一派。
すなわち『メシア教ギルス派』である。
今回は、S県某所の外様シェルター内にある『メシア教ギルス派の教会』をサンプルに、彼ら/彼女らがどういう集団なのかを見ていこう。
【メシア教ギルス派管理異界内 大聖堂】
「いらっしゃいませギルス様!!!!!」
(どうしよう既に帰りたい……)
見ていこう、と動物バラエティのVTRみたいなナレーションで始まったこの話だが、教会を訪れたハルカ/ギルスは訪れて3秒で帰宅したくなった様子。
何せ土下座である、この教会のトップのはずの大シスターである『シスター・カーラ』*3が、初手土下座でお出迎えである。
ブロンドのロングヘアが特徴的なスペイン系の美女だというのに、土下座の姿勢が妙にサマになっている。
というか、その後ろでもこの教会のテンプルナイト筆頭である『テンプルナイト・シモーナ』*4が跪いている。
普段は厳格な女騎士という雰囲気の彼女までがそんな状態な上に、後ろに控えるテンプルナイトやシスター達もほとんど似たようなモノ。
ゲザる者、祈る者、跪く者、とにかく全員ハルカに少しでも『頭が低く』なるような格好を秒で取った。
重ねて言うが、ハルカがこの教会を訪れてまだ3秒である。
なのに関係者一同総出でお出迎えからのコレだ、そりゃ普通なら帰りたくなる。
はっきりいって大淫婦バビロンやサタンと殴り合った時以上に後ろ向いて前進したい気持ちが沸き上がってくるが、なんとか堪えて踏みとどまる。
「普段から定時報告は届いていますが*5、今回は僕自ら活動内容を視察に来ました。
先に言っておきますが、定時報告の内容より良すぎても悪すぎてもダウトです。
可能な限りいつも通りにしてください、特別なことはせずに」
「はい!ご自由にどこでもどれだけでもご観覧くださいませ、ギルス様!!」
(すごい帰りたい……)
元より、霊山同盟支部の支部長として敬われる事すら微妙にケツのすわりが悪いと感じているのが鷹村ハルカという少年だ。
そも、あの自己肯定感皆無にしか育たない環境を経て、黒札修羅勢クラスの修行の日々を送り、正義の味方として世界の滅びに抗い。
トドメに「…お前を倒して…! この地上を去る……!!!」*6な竜の騎士メンタルで最終決戦に挑んだのだ。
当然ながら自分の事を持ち上げるような空間は苦手極まる。それが救世主への崇拝という形なら猶更だ。
ともあれ、仕事は仕事。メシア教ギルス派の活動内容と、現在の戦力をしっかり精査しなければならない。
「精鋭部隊であるテンプルナイトの平均レベルは『18』。
廉価版デモニカ……『G3MILD』の配備も順調なようですね。
でもなんで全部のG3がギルスカラー(緑・深緑・レッドアイ)なんですか???」
「はい!もちろん人数の問題で一般信徒はまだ未覚醒の者も多いですが、
少なくともこの管理結界を維持できるだけの戦力は整いつつあります!
あと、カラーリングについては自由にしたら全員この色になりました!!」
「訓練内容も、ちゃんと霊山同盟支部から配布したマニュアルに従ってますね。
穏健派(に合流した過激派等)は無視して『ろくでもない戦力増強』してたりしますけど。
……今からでも塗り替えません???」
「まったく、嘆かわしい事この上ないと思います!
天使様の言う通り、でガイア連合の足を引っ張った挙句、
終末の引金を引く一助となった事を忘れたんでしょうか!*7
……救世主たるギルス様が命じるのならば即日にでも塗り替えます!」
「今天使様の言う通りじゃダメって自分で言ったばかりじゃなかったかな!?」
(シスター・カーラとテンプルナイト・シモーナも、レベルはそれぞれ『26』と『22』。*8
本当、コレじゃなければ外様シェルターを任せることも無かったんだけどなぁー……)
メシア教ギルス派の『総本山』扱いであるこの『管理異界』は、霊山同盟支部の基準では『外様シェルター』となっている。
はっきりいってギルス派というハルカ自身もちょっと目を背けたいギルスファンクラブを押し込める先ということもあって、規模そのものは外様シェルターの中でもかなり大きい。
そして、東海道霊道に付随する『管理結界』ではなく、協力的な悪魔(神々含む)に維持してもらっている『管理異界』ということは、ここを管理する悪魔も存在するのだが……。
「ああ、そういえば……『アブディエル様』には会っていかれますか?
今は丁度、テンプルナイト部隊と共に結界外周の見回りをしていらっしゃるはずですが……」
「ええ、それはまあ勿論。こういっては何ですけど、『大天使』は警戒されてますからね」
ですよねー……と苦笑するしかない二人に同じく苦笑いを返すが、ハルカの方も『まあ、そうなるな』と内心ではさらりと認めている。
『大天使 アブディエル LV60』……この終末後でもこのレベルを維持している『高位分霊』の一体だ。*9
はっきり言って、彼女*10がこのシェルターに来るまでの経緯も、ひと悶着ふた悶着あったものだ。
というわけで、そんなハルカの悩みと胃痛の種の1つでありながら、レムナントと並んで『天使らしくない』アブディアルに、しばらくぶりに会う事にした。
カーラとシモーナ、そして未だにその後ろで跪いてるテンプルナイト達に一端別れを告げて、表に待機させていたギルスレイダーに跨る。
結界の外周部付近……すなわち、侵入を計画する悪魔たちとの最前線で戦い続け、ロクにそこから離れない大天使の元へ向かうために。
(思えば、最初はイチロウを上手く誑かして潜り込もうとした疑いが濃厚だったんだよなぁ……)
ギルスレイダーを運転しながら、思い出すのはアブディエルとの初対面。
いつものように*11結界防衛線に穴が開いて、位置と距離の問題で向かうことになったのがイチロウだった。
とはいえイチロウ一人では防衛線の穴をふさぎきれない*12ことを覚悟し、それでも犠牲を一人でも減らすため、あの日もハルカはギルスレイダーに乗って現地に駆けた。
そこで見たのは、ズタボロになりながらも撃退に成功した戦闘班の面々と、わたわたしているイチロウと……。
『頼む。私の首一つで、人の子達の保護を願いたい』
地に頭を擦り付け、この場で一番の重傷である肉体を引きずりながら、自分が保護してきた人々の保護を求めるアブディエルの姿であった。
(過激派に反対する天使はそもそも地上に降りてこない、って話だけど……。*13
まさか黙示録が始まったのと同時に降りてきて、避難民を保護してたとは……)
唯一神の定めた法と秩序に忠実な天使ほど、地上に降りて人を救おうとはしない。
唯一神の存在を免罪符として振り回し、自分勝手に世界を荒らしまわる天使が大多数という終わった世界。
……そんな中で
『黙示録が始まったんなら選ばれし人の子を救うのはセーフ!!私は様子見を辞めるぞ、ジョジョーッ!!』*14
というテンションでS県に突っ込んできて、結界に入り損ねた避難民を庇護しながら放浪していたのがアブディエルだ。
が、対過激派テロリストも加味して作られている結界は、疲弊したアブディエルでは通るどころか近づく事すら容易ではなく。
どうしようかと悩んでいる時に、上記の定期イベントで結界が破損。
自分を遠ざける結界の効果が弱まったタイミングで結界の穴に突っ込み、原因となった悪魔の討伐に協力。
そして、自分の首一つで保護していた避難民の収容を求めた……というのが、彼とアブディエルの初対面であった。
【メシア教ギルス派管理異界『ベテル』 外周部】
「あ、いたいた……アブディエルさん、しばらくぶりです」
「む……ネフィリ、ではなかったな。鷹村支部長か」
ついついギルスから感じる気配で『ネフィリム』と言いそうになるのを訂正するアブディエル。
怪我は治療され、現在はレムナントと同じく十戒プログラムその他のセーフティをガンガンにかけた式神ボディに入っている。
当然最優先で監視され、何かあったら遠隔で『自爆』のスキルを起動させられる事すら承知の上でここにいるのだ。
……まあそもそも、大聖堂で信者から信仰を集めるのではなく、危険地帯で悪魔と切った張ったしてる時点でだいぶシロなのだが。*15
「ええ、定期視察の日ですから……まあ、管理異界の維持以外、一切の権限も義務もない貴女は、そりゃ教会で待つ必要もないんでしょうけど」
「……もとより、私は何故堕天していないのかも不確かな身だ。そんな私が、責任ある立場になる気はない」
そう、アブディエルは『管理異界を維持するのに必要な異界の主になる』ために、様々な縛りを式神ボディに埋め込まれている。
十戒プログラムのテンプレート以外にも、監視装置や遠隔自爆装置を仕込まれたのもその一環だ。
端的に言えば、その力を持ってこのシェルターで『余計な事』をされないように。
それが、霊山同盟支部が彼女を抱え込むのに出した条件だったのである。*16
「テンプルナイト達は結界の補修中だが……呼んでくるか?」
「いえ、作業が終わった後でいいですよ。戦闘の気配が薄いってことは、しっかり異界の維持も防衛用の結界も機能してるってことですし」
「最近は少しずつだが襲撃頻度も減って来たし、テンプルナイト達の平均レベルも上がって来た。
以前のように、泥沼の戦闘でごっそりと死ぬ……ということはまず無い」
アブディエルが来る前は、このシェルターは管理異界ではなく管理結界によるシェルターであった。
しかし、東海道霊道に接続される管理結界は、霊道から遠ざかるほど供給が不安定になり弱体化する。
外様シェルターであるここは当然東海道霊道からは離れた土地であり、結界の性能不足を戦力をじわじわすり減らして補っていたのだ。
「……どれだけ頑張ってもどうにもならない、っていう限界を見た気分でしたよ、僕は」
「……すまない、責めたつもりではなかったのだが」
そんなシェルターも、今ではアブディエルを主とした管理異界型のシェルターに改造。
平均レベルや各種装備も整ってきたことで、シェルターの状態は大幅に安定。
結果としてギルスファンクラブガチ勢ことメシア教ギルス派のメッカになっているのは海のハルカですら見抜けなかった誤算である。
だが、若干『早まったかなぁ』と思いつつも、ハルカの心に後悔の二文字は無かった。
「厳しい事を言いますけど……僕が信じているのは、貴方でもギルス派でもない。
あの時のイチロウの言葉、それだけです」
「ああ、そうだろうな。 そして、それで十分だ」
ハルカは仮面ライダーであるのと同時に、霊山同盟支部の支部長だ。
実質的な格差社会である親藩/譜代/外様の区分けを作ったように、時には冷徹な判断も必要となる。
あの場において、アブディエルを生かすリスクはあまりにも高い。
なにせ霊山同盟支部は山梨支部の目と鼻の先。*17
ここが2人目の大天使を迎え入れた、なんてウワサが出回れば、過激派に乗っ取られた認定されてメシア教アンチな黒札がなだれ込みかねない。*18
それでもアブディエルを討たなかったのは、イチロウが必死に割り込み放った言葉を、ハルカが認めたからだ。
『【天使だから】を理由にして信用できなくなったら、いつか絶対、何かを間違えるぞ!?』
「……その通りだとしか、僕は思えなかったよ。
もちろん、貴方を切り捨てる事が【論理的】で【正しかった】のかもしれない」
だけど……と、軽く横に首を振り、湧き出た迷いを振り払うように前を向いた。
「今まで僕は、悪い事をしたのなら、それを時には裁いて、時には許してきた。
だけど、僕が知る限りで悪い事をしたのは、あくまで【過激派に与した天使】だ。
そうじゃない天使まで纏めて恨むのは、筋違い極まりないし、傲慢だと思った」
「それは、確かに【優しい理屈】ではある。しかし……」
「分かってるよ。理屈は優しくても、世界は優しくない。
それでも、僕は……討ち滅ぼす辛さも、取り返しのつかなさも、知っているから」
思い出すのは、結局最後まで分かり合うことが出来なかった、母と弟の事。
英雄願望に取りつかれた母と、家族すら見下し蔑むほどにねじれ切った弟。
変えることもできず、救う事もできず……未だに、過去の事だと割り切ることもできず。
ハルカの心に突き刺さった一本の杭として、心に鈍痛を与え続けているソレは、しかし。
同時に、ハルカに『力任せに解決してもロクなことにならない』と言う事を忘れさせない楔にもなっていた。
「だから……貴方たちを信じられる自分でいたいんだ。
悪い事をした人を、許してあげられる自分でいたいんだ。
今でも好きになりきれない『人間』を、愛せる自分でいたいんだ。
だけど同時に……本当にどうしようもない時は、せめて。
この心の痛みを知るのが、仮面の下で涙を流すのが、自分であってほしいんだ」
信じる難しさも、許す辛さも、愛する大変さも……切り捨てた時の痛みも、ハルカは背負い続けて来た。
だからこそ、今更アブディエルの事を放り投げる選択肢はなくなったのだ。
それでも信じられないからこそ、彼はアブディエルでもギルス派でもなく、友であるイチロウの言葉を信じた。
【受け入れられないモノを排斥・排除する】……その果てにおぞましいモノになり果てたのが、メシア教過激派だ。
善も悪もない、あんなモノになり果てる事になると……ハルカはイチロウの言葉で気づかされたのだ。
その事実と、恐ろしさに。
「……だが、その道は険しいぞ?」
「かもしれない。でも、僕は進むと決めたんだ」
既に、ハルカは自分の行く道がどれだけ長いとか、どれだけ険しいとか、そんなことは度外視している。
目の前に道があるのだから、それをただただまっすぐに進む。
歩いても、走っても、這ってでも、よじ登ってでも。
いつかたどり着くはずの『答え』に向かって、鷹村ハルカは歩き続ける。
「矛盾しているのかもしれない、中途半端なのかもしれない。
ただの綺麗事かもしれない、でも、きっとその方がいい。
本気で綺麗事を目指すからこそ、ヒーローだ」