(さーて……とりあえずBC案件で『見える範囲の』地雷は取り除いたし、しばらくはぶらっと羽を伸ばすか……)
『BC案件』から一週間ほど経過したある日、霊山同盟支部管理下のとあるシェルターに、ふらりと歩く阿部の姿があった。
良くも悪くもありふれた『外様シェルター』……霊山同盟支部所属の者以外は銀札未満の人間ばかり、銅札ですらエリート扱いされる、霊山同盟支部の最底辺。
管理担当はナンバーズ*1の一人『クアットロ』。
とはいえ、彼女も身分証として【金札】*2を所有している【特権階級側】であり、わざわざ外様シェルターにまでやってくる事はない。
結界内の治安維持を含めた『現地での運営』を担当しているのは地元の霊能組織所属だった面々であり、東海道霊道の整備が本格化した際、まとめて霊山同盟支部に屈服した面々である。
まあつまり、それなりによくある『黒札の寵愛が薄いけど規模はそれなりに大きいシェルター』の1つ、というわけだ。
元霊能組織所属だった現地の運営者も『銀札』、一般人から努力して覚醒し、霊山同盟支部の下部組織*3に何とか就職・所属できた人間が『銅札』。
それ以外の……大多数の『一般市民』は、カード無しの最下層階級として生きている。
親藩シェルターや譜代シェルターと違い、外様シェルターの環境は管理者によってそれなりに変わる。
共通点は『結界の端は普通に低レベルの悪魔が湧いてくる危険地帯で、運が悪いと強力な悪魔にいつ結界を突破されるか分からない』と言う点だ。
内部環境の方は、多神連合やメシア穏健派の管理下ならば『横』の繋がり、もしくは管理する悪魔/神の力で環境が激変しつつも整っていることが多い。
では、その2つに属さない外様シェルターはどういう状態なのかと言えば、元々その土地を管理していた組織や一族を霊山同盟支部が支援。
付近で管理異界を任されている神や悪魔*4等が祠等を立てて信仰を求める代わりに加護を与える。
その加護を元に何かしらの産業を興したり、もしくは親藩・譜代シェルターが費用対効果の関係で外部委託する事になった作業などを請け負う事で運営資金を稼いでいるのだ。
つまり、親藩・譜代・外様でピンキリあれど、個人用シェルターと違い最低限の産業が存在するのだ。*5
では、子受けどころか孫請けの産業が数少ない外貨獲得手段で*6外様シェルターの雰囲気がどうなっているかと言うと。
(ほとんど崩壊前のドヤ街、あるいは戦後の闇市なんだよなぁ)
小腹も空いてきたので、『占い』で『吉』と出た方角にあった食堂に入る。
元はコンビニか何かのテナントだったのだろうが、中に廃材で作ったテーブルとパイプ椅子を並べた食堂であった。*7
軽く『解析』をかけて、酒も飯も妙な混ぜ物をしてないことを確認。適当に注文*8をつつ席に座った。
東海道霊道のおかげで『崩壊前に近い土』はあるから野菜ぐらいは作れるし、未覚醒者でもできる日雇い労働もないことはない。*9
そして質を考慮しなければ、外様シェルターの覚醒者の比率は親藩・譜代シェルターよりだいぶ高いのだ。*10
そして危険区域が近いこともあって、東海道霊道の支流霊道を通って『出稼ぎ』にくるデビルバスターもそれなりにいる。
流石に結界から離れすぎるとLV20~30を超える悪魔がわらわら出てくる死地に突っ込んでしまうのだが、結界のすぐ外の湧き潰しや、結界から離れすぎない探索といった仕事はこなしきれないほど溢れている。
オカルトアイテムの作成といった比較的安全な覚醒者向けの仕事をするなら、親藩・譜代シェルターの方が求人は多い。
しかし、多少危険でも実入りのいい仕事を!となれば、外様シェルターに向かうのが最も『稼げる』のだ。
「はいよ、野菜あんかけ飯に酒ね!見ない顔だが、出稼ぎのデビルバスターかい?」
「どーも……ま、そんなところさ。こっちで悪魔狩りしてた方が稼げるんでね」
「お、ってことは『湧き潰し』の仕事をやってんのか、兄ちゃん凄腕だな!」
「兄ちゃんってトシでもないんだがな……」
中華鍋を振るいながら快活に話しかけてくる店主に返答しつつ、カウンターに置かれたあんかけ飯をレンゲで食べ始める。
今の阿部は、流れのデビルバスターに見えるよう、装備している武具やCOMPの形状も偽装している。
下手に黒札向けの装備で全身を固めて、LV90超えの威圧感をバラまきながら歩いたりしたら大パニックだ。
性能は普段使いしても問題なく、外見だけはLV15~20ぐらいのデビルバスターが使うモノを模した装備に身を包み。
スマートブレイン経由で購入できる対悪魔銃*11を腰に下げ、出稼ぎデビルバスターの上澄み程度をイメージして変装しているのである。
念には念を入れ、普段使っている黒札の証である『ブラックカード』とは別に、山梨支部に申請して発行してもらった『身分偽装用のゴールドカード』まで懐に潜ませている始末。
それもこれも、黒札と言う『特権階級すぎる立場』から離れて、こういう彼にとって落ち着く場所で過ごすための処世術だ。
この店のように廃虚を改造したような建物もあれば、屋台や露店を出す者、大きめのテント等で出店をやる者もいる。
軽犯罪の類は治安を考えれば絶えないだろうが、時折見回りに出ている『ガイアトルーパー』の姿も見えた。恐らくスマートブレインの社員だろう。
(アナライズに関してはジャミングをかけてあるから、量産型のデモニカに搭載されている程度のアナライズならば誤魔化せるけどな)
何せあのデモニカを設計した女が恋人なのだ、抜け道の10や20は思いつく。
時間は夕方、少し早めの夕飯時ということもあって、自分と同じように飯と酒を求めてやってくる労働者やデビルバスターも多い。
強いて言えば、デビルバスターは阿部から比較的遠い席を選び、彼の近くに座るのは覚醒者向けの結界内労働に従事している者ばかり、という差はあるが。
(見た所、テーブルやいすに修理の跡があるな。ま、こんな地域の飯屋じゃ喧嘩沙汰も絶えないんだろうが……目端の利くデビルバスターもそれなりにいるってことか)
しっかりと装備のチェックを怠らないデビルバスターであれば、阿部の装備が『外様シェルターに出稼ぎに来るデビルバスターの中でも上澄み』ということに気づく。
そして、この食堂で今日『運悪く』喧嘩沙汰になった場合、普段彼ら・彼女らが戦っている悪魔よりも一段強いデビルバスター*12にぶん殴られる危険性が出るわけで
そうなった場合、巻き込まれにくい遠めの席に座りつつ、いつでも店から逃げ出せるようにするのは正しい判断だ。
それを気にせず阿部の近くに座ってる客は、覚醒者だが結界内の労働だけをやっているか、あるいは非覚醒者向けの仕事で食いつないでるか……。
「……お兄さん、隣いいですかー♥」
(ほらきた)
上半身は下着か水着かと思うような肌色面積の衣服、下半身は太ももが良く見えるショートパンツ。
顔は案外悪くない、スタイルも同じく。*13そこに媚びるような笑みを浮かべた女性が阿部の隣に座って来た。
年齢は……20歳弱といったところか、女子高生と言うには大人びていて、女子大生と言うには子供っぽく見える外見だ。
「お兄さん、スゴ腕のデビルバスターなんですよね?もし懐が暖かいなら、もっと別の『暖まり方』も味わっていきません?」
「んー、どうするかな……まあ、確かに一仕事終えて、懐は温かいが……」
親藩シェルターならば、中にいる人間はほとんど全員が銅札以上だ。
譜代シェルターならば、『カード無し』はいても結界の縁にある危険地帯だけ。
しかし、この外様シェルターは前述通り、銀札ですらトップエリート扱い。銅札でも十分な成功者。
彼女の様に、管理者や権力者が一声上げれば結界の外に放り出される『戸籍に相当するカードを持たない市民』が多いのだ。
そうなると、日銭を稼ぎつつスマートブレイン支社やガイア連合派出所で行っている『覚醒修行』を受けて覚醒するのを待つしかないわけで。
では、未覚醒かつ外見が整っている彼女が、こういう治安の土地で手っ取り早く稼ぐとなれば……『コレ』、というわけだ。
「どうせなら一晩『楽しんで』いきませんか?ガイアポイントでも、マッカでも……。
何なら『お試し』でタダでも構いませんよ♪」
「ふぅん、タダより高いモノはない、って言うけどねー?」
「だってお兄さん、装備も強そうですし、『流れ』ってことはブロンズより上*14……。
シルバーぐらいは持ってそうですから♪『お得意様』になってくれたら最高ですし。
恋人や奥さんがいるなら、二号さんとして囲ってくれてもいいですよ♪」*15
ガイア連合のシェルターにおいて、カードの有無は人権の有無だ。
銅札ですらあるとないとでは大違いで、カード無しは文字通り『いつ結界から追い出されて悪魔のエサになってもおかしくない』。
各シェルターの細かい管理は管理者・管理悪魔の裁量によるモノが大きい以上、彼女も『追放』された犯罪者がどうなったか、という『見せしめ』は体験している。
覚醒できなければどうなるか、人権(カード)が無ければどうなるか、金(マッカ)が尽きればどうなるか。
とっくの昔に心は折れて、『娼婦』としてふさわしい性格に仕上がっていた。
そして、そんな彼女を見ている阿部の内心は……。
(そう、これだよこれ……こういう退廃的なアバンチュールがしたくて態々俺は外様シェルターに来たんだよっ!!)
最高に最低な来訪理由をぶっちゃけていた。
外様シェルターでそれなりに腕の立つデビルバスターっぽい風貌でいれば、こういう女がそこそこの頻度で釣れる。
黒札を見せびらかして『差し出される』霊能一族の女を抱く、なんていうのは崩壊前に散々やってきた。
なんなら各地の霊能一族にそれなりに『種』を撒いており、認知と支援は最低限やってるだけの子供もそこそこいる。
重要なのはシチュエーション、崩壊後の人権ゆるキャラ大量発生してる環境だからこそ味わえる『娯楽』を味わいに来たのだ。
なお、恋人であるシノのコメントはシンプル。
『病気貰ってきたり他に本命作らないんなら、生きてるだけのオナ〇ールやダッ〇ワイフをコレクションするぐらい別にいいよ?』
阿部が阿部ならコイツもコイツであった。
なお、この忠告はしっかり守っており、目の前にいる彼女にもしっかりアナライズその他で解析。
悪魔が化けてるとかやっかいな『病気』持ちじゃない事を確認した後、彼女にも食事を奢って「その分サービス期待してるぜ?」と自然に口説きつつ。
酒を奢った彼女がほろよい程度に気分が良くなってきた当たりで*16、腰に手を回して裏路地の安ホテルへと消えていったのだった……。
ちなみに崩壊後の序盤こそ、くそみそニキはハルカ君のことや霊山同盟支部の事に罪悪感も感じていました。
……が、最近(崩壊してから1~3年後ぐらい)は「まあなるようになるか」ぐらいのテンションでそれなりにエンジョイライフに復帰しています。
根っこが『俺達』だし、本人も「いやでも俺、なんだかんだ言いつつ世界救うために頑張ったし、いいんじゃね?」って割り切り始めたので。