霊能力者、鷹村ハルカは改造人間である。   作:ボンコッツ

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「終わったよ……」

 

異界の主とギルスの泥仕合は、まずギルスの一撃から始まった。

 

睦月の隣をすさまじい速さで駆け抜けて、咄嗟に盾を掲げたベイコクの盾ごと全力でブン殴る。

 

乗用車同士が衝突事故起こしたような音と共に、ベイコクが体ごと後ろへ押し流された。

 

 

(ッ?!な、なんという剛力!?こやつ一体何者だ!?)

 

「ヴォアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」

 

ベイコクに考える暇も与えず吶喊、拳の連打を物理耐性と盾を頼りに防ぎ、捌き、耐える。

 

とはいえ少なくとも、この時点ではベイコクにはだいぶ余裕があった。

 

明らかに物理型の敵、それもさっき『ベイコク』の能力をつぶやいていたのに火炎系の攻撃を使ってこない。

 

つまり『近接戦用の火炎系スキル』を持たない相手である、それならば物理に強いベイコクにとってはカモだ。

 

ベイコクは『ハマ』系の術に関しても弱いが、明らかに術者タイプじゃない相手のハマで消滅するかと言われれば怪しい。

 

 

(確かに私以上の剛力には驚愕したが、殴りかかってくるだけのイノシシならば!)

 

 

盾で防ぐのではなく、ナナメに受けて反らすことを重視して威力を逃がし、長引く前に右手の剣で首を狙う。

 

ギルスの防御をすり抜けて迫る一閃はしかし、肩と首で刃を『挟み込む』ことで止められた。

 

それでも微かに刃が首に届いてはいる、届いてはいるが……妙に通りが悪い。

 

 

(こいつも物理耐性持ちか!?泥仕合とはそういうことか!ええい!)

 

 

ガイア連合の式神、それも高級なモノは一律で物理耐性を付与されている。

 

あらゆる物理攻撃を半減させる耐性であり、スキルカードによって斬撃・銃撃等の耐性を重ねがけすることもできる優秀な防御機構だ。

 

ギルスにも当然採用されており、それに加えて体の表面を覆う生体装甲によって並みの式神を凌駕する防御力を獲得していた。

 

一瞬早く動いたギルスの前蹴りがベイコクの胴体を直撃し、互いの距離が再度離れることで仕切り直しとなる。

 

互いに鋭くにらみ合った後、再びギルスの拳とベイコクの剣が交差した。

 

 

(す、すごい……あの異界の主が押されている!)

 

 

睦月が特攻をかけても軽いやけどを負わせるのが精いっぱいだった異界の主を、その腕力だけで押し込んでいく異形。

 

怪我さえなければ今すぐ五体投地で必勝祈願の祈りを捧げたくなるほどの奇跡が顕現している。

 

『いや、凍ってる足が砕けるかもしれないけどワンチャン祈れるんじゃ』と思い始めたところで、後ろから誰かに肩を担ぎ上げられた。

 

 

「OK、要救助者確保」「流石だよな俺ら」

 

「! さ、流石さん!なぜここに!?」

 

「その質問今回で2回目だからスルーでいい?」「そんなんだからモテないんだぞ兄者」

 

 

ベイコクをギルスが相手してる間に、決死隊をマッハで確保して回っている流石兄弟であった。

 

二人のMPは3割を切っているが式神の『サムライ』と『シンセイバー』、そしてアガシオンはまだまだ余力がある。

 

沸いて出てくるザコ悪魔を切り払いながら、ベイコク及びギルスから距離を取って避難を始めた。

 

 

「ま、待ってください!アタシまだはなんとかなります、それよりもあの、異形になった少年に助力を!」

 

「やっべ程よく柔らかい女の子の感触がする(いや、俺らも連日の作業で余力がなくて)」

 

「一度死んだ方がいいぞ兄者、寧ろ流石家の恥をさらす前に一度死んでおけ。

 母者と妹者には兄者は【自家発電】しすぎて心臓発作で死んだって言っておくから」

 

「それ俺の死後の尊厳が盛大に凌辱されてない?ある意味【餃子】よりひどくない?」

 

 

コントじみたやり取りを続けながらも、睦月は流石兄弟にベイコクとの戦いに介入できる余力がない事は理解できた。

 

そんな、と悲鳴じみた声が漏れる。押しているとはいっても、あの緑の異形はじわじわと傷を負っていた。

 

 

あまりにも動きが速すぎて時折眼で追いきれない時もあったが、やっているのは消耗戦。

あれではよくて相打ちだ。自分が死ぬなら良い、霊山同盟の皆が死ぬのも覚悟の上。

しかし彼は外部の術者……(多分)人間だ。この山の為に死んでくれ、と軽々しくは言えない。

 

 

「なぁに、心配すんな。アイツ……『ギルス』は俺たちより強いから」

 

 

後ろから聞こえてくる打撃音が小さくなってきたあたりで「おーい」と向かう先から渋い声。

 

まだ同行者が?と顔を上げた睦月がみたのは……。

 

 

「それで最後か?この形態で山登りは結構つらいから、早めにトラエストで運んでくれー」

 

 

巨大な青い人面プッ〇ンプリン状のナニカの中でぷかぷか浮いてる決死隊の面々であった。

というか、プリンやゼリーみたいな形状に巨大化&変形したテンノスケであった。

 

 

「みんなァー!?ちょ、ちょっとあれ、たべ、食べられ……っ!?」

 

「あ、いや、アレ一応治療行為だから。ああ見えて中に突っ込んだ生き物を修復する機能持ちだから」

 

「『回復』じゃなくて『修復』だから死体にも有効で、おかげで突っ込んでるだけで蘇生魔法の成功率が上がるオマケつき」

 

「さすがに生きてたのは2~3人だったしな……というわけで」

 

 

話を区切ったサスガブラザーズが、よっこらせと二人で睦月を担ぐ。

えっ、えっ?えっ?!と状況が飲み込み切れてない睦月をブランコのように前後に揺すってから。

 

「「これで全員救出だオラァー!!!」」

 

「いやああああああああああああああッ?!」

 

テンノスケに投げ込まれた少女の絹を裂くような悲鳴と共に、決死隊救出ミッションが完了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(こ、この異形、妙にタフだと思ったら……!?)

 

細かいヒビの入り始めた盾、剣も刃こぼれが目立ち始めた。

 

MAGによって構成されているといっても別に不壊というわけではない、同等の獲物とぶつかればこうもなる。

 

問題は『持ち主であるベイコクの一部でもあり、物理耐性が適応されているはずの剣と盾が物理で砕かれかけている理由』だ。

 

先ほどからベイコクとギルスの鍔迫り合いが何度かあったが、そのたびにギルスが押し切ってきた。

 

ベイコクは『それほど膂力に差があるのか!?』と思っていたが、ようやく原因に思い至る。

 

 

(ヤツの力が強いのもあるが、それだけではない!『私の力が抜けている』のだ!)

 

 

剣と盾もそうだ、打ち合うたびに構成しているMAGを微量ずつ奪われることで劣化が早まったのだろう。

 

そしてこの現象は『ギルスの腕がベイコクや武具に触れている』時だけ発生している。

 

 

(この外見と戦闘方法で『エナジードレイン』持ちかキサマぁ!?夜魔の得意技だろうが!!)

 

 

当然吸い上げたMAGはギルスの力に変わっており、ブン殴るたびにじわじわと傷が治っている。

 

さらにドレイン系統のスキルは『万能属性』であり、一般的には防ぐ・軽減するのが難しい。

 

なにより殴るのと同時に発動する、というより『攻撃した時だけ発動する』ようになっている。

 

恐らく式神の魔法・スキルを微調整する機能の応用だろうが、コレのせいで殴り合っているとギルスの方だけゆっくりと回復していくのだ。

 

これはいかん、と剣で薙ぎを放ち、間合いを開けて魔法戦に持ち込もうとする。

 

ベイコクはブフ系に加えてシバブーとムドまで使える悪魔だ、魔力はあまり高くないが、物理一辺倒なギルス相手に撃ちこむだけなら十分。

 

「凍結と拘束で動きを止めつつ削る!」と作戦を決めたところで……。

 

 

「シャアッ!!!」「ぐゴッ!?」

 

バックステップで下がろうとしたベイコクの首へ、腕から生やした多節触手『ギルスフィーラー』を巻き付け拘束する。

 

まるで1つの意思を持ったイキモノのように動いているコレは、ギルスの両腕部に格納した『武装型式神』だ。

 

そも、ギルスが【魔】依存のスキルである『エナジードレイン』を撃ったところで大した威力にはならない。

 

【魔】【耐】を高めに調整した体内の武装型式神に、ギルス本体が殴るのと同時に発動させることで十分な威力を確保しているのだ。

 

ついでに一種の寄生・共生関係にあるため、お互いのMPを共有し武装型式神が吸い上げた分を本体に還元する、あるいはその逆も可能と来た。

 

(こ、この触手、切れん!?しかも巻きつけられると力が吸われッ……!?)

 

巻き付いた相手に『BIND』『STUN』の状態異常を付与する能力を持つギルスフィーラーは、格闘戦から逃れようとする相手には非常に凶悪な効果を発揮する。

 

強度に関してもデフォルトでギルスの生体装甲に比例した防御力を誇り、武装型式神故にスキルや耐性、リソースの分配を絞れる分、同レベル帯では破壊は困難。

 

さらに、変化スキルを利用した形状変化機構により……『ジャキン』と音を立てて腕から『鎌』が飛び出す。

 

逆側の腕の武装型式神がギルスフィーラーではなく、もう1つのメインウェポン『ギルスクロウ』へと変形したためだ。

 

本体のギルスに加え、四肢にそれぞれ『武装型式神』を仕込んだ『合計5体の式神を使用したハイエンド改造人間』、それこそ今の鷹村ハルカである。

 

「グルオオオオオオオオオオッ!!!」「がふぁっ!?」

 

ギルスフィーラーを引き寄せることで無理やりベイコクを引きずり出し、ギルスクロウを使った『アクセルクロー』の連撃。

 

物理ダメージは軽減されるが、オマケのようについてくる万能吸収攻撃は確実にベイコクの肉体を蝕んでいた。

 

咄嗟に盾を突き出し凌いだが、ついに限界がきたのか盾が砕け、モロに残りの攻撃をもらってしまったベイコクが吹っ飛んだ。

 

当然躊躇なく追撃、首に巻き付いていたギルスフィーラーを両腕で掴んで綱引きのように引き寄せ。

 

 

 

「グルァ!!」「げぶぅ!?」

 

まず胴体に膝をねじ込み、

 

「ガアァッ!」「ぐほぉ!?」

 

無防備な背中にダブルスレッジハンマーを叩き込み、

 

「ウルアアアアァァァッ!!」

「バッブァアアアアァァア?!」

 

ギルスフィーラーによる拘束がターン経過で解除されるのと同時に、渾身の回し蹴りが側頭部をとらえた。

 

物理耐性の上から馬鹿力と連打で無理やりゴリ押してくる上に、攻勢に回っている間は反撃で受けた傷も使った体力も魔力も回復する。

 

またもフッ飛ばされて地面にたたきつけられたベイコクに、最初の余裕など無くなっていた。

 

 

(か、かか、勝てん!この異形には勝てん!)

 

盾も砕かれ、剣もMAG不足でナマクラ以下、骨の体はところどころヒビが入り、最後の一撃で頭蓋骨に穴まで開いた。

 

向こうはその分ベイコクのMAGを吸収して下手すれば戦闘開始前より元気になってるまであるのに、だ。

 

(……と、なれば。 『あの手』しかない。使いたくはなかったが!!)

 

「ぶ、ブフーラぁ!!」

「グオッ!?」

 

倒れていたところから、ガバっと起き上がり不意打ち気味に小規模な吹雪をギルスの上半身へ放つ。

 

両腕を交差して防御、ダメージは入ったようだがベイコクはすでにそれを見ていなかった。

 

凍結でもなんでもいい、ギルスの足が止まっている間に『ある場所』へ向かうのが目的だったからだ。

 

ギルスに背を向け走り出す、異界の主としてはあまりにも情けない敗走の姿。

 

だがこれは心が折れて逃げたのではない、この『異界の主の領域』に隠されてる切り札を取りにいったのだ。

 

ギルスが追ってこないかちらちらと後ろを確認しながら、藪をかきわけ目印にしていた大木にたどり着く。

 

 

 

 

 

(あの根元に埋めてある『アレ』があれば……目にモノを見せてくれるぞ、異形めぇ!)

 

「あぁ、なるほど。アンタ、ここにアレを隠しとったのか」

 

「なっ……!?」「『ファイアブレス』」

 

樹上から放たれた炎の息吹がベイコクを飲み込み、悲鳴を上げて転げまわるベイコクをよそに、『切り札』が産められた地面に着地する陰。

 

額に角を生やし、露出度高めの改造和服を身にまとった、人外の美貌を持った美少女♂

 

ベイコクとギルスの戦闘前からずっと気配を隠して潜んでいた、鬼灯 焔の姿があった。

 

「き、貴様!どこから……!?」

 

「場所って意味ならずーっと木陰や木の上で、タイミングって意味なら闘い始める前から。

 ……『コレ』の場所を知りたかったさかいな」

 

LV30を超えた脚力が、木の根元の地面を震脚のように砕く。そしてひび割れた地面に腕を突っ込み……『禍々しい気配を放つ骨でできた短刀』を引き抜く。

 

「おかしいとおもったんや、あまりにもアンタだけがいくつもの意味で異質。

 ここの異界は『LV10以下の地方霊能組織でもギリギリ管理できる程度の強さ』、

 やったら異界の主の強さはせいぜいLV10代の中ほどがええとこ。LV25はレベル詐欺に過ぎる。

 

 そしてここは日本の霊地、主として適しているのは当然日本の悪魔。

 海外悪魔もナシやあらへんけど、それならLVは上がるどころか下がってもおかしゅうない。

 

 そして、霊山同盟が調べ上げた『海外から持ち込まれ、異界発生の原因になった呪物』

 霊山への破壊工作が行われたんは戦後や、やったのはGHQに紛れてきたメシアン。

 高確率で呪物の出どころはアメリカや、つーまーりー……」

 

「ぬ、ぐ、ぐぐ……」

 

「『ネイティブアメリカンがベイコクを祭り上げ祟りを避ける』目的で作った呪物を、

 異教同士で共食いさせるのにちょうどいい、とメシアンのクソペ天使共が使った結果。

 アンタは霊地と異界、そして呪物の3つが揃ったことで顕現に成功した……。

 

 当然この短刀もMAGを集めて貯蔵するのにはちょうどいい、いざってときは取り込めばパワーアップするやろなぁ?させへんけど」

 

なにせそのためにわざわざ気配を隠して隠れ続け、ハルカがベイコクを追い込み『切り札』に向かうのを待ったのだ。

 

サスガブラザーズは調査員、ガイア連合が集めている呪物関連の資料もこまめに勉強し頭に入れていた。

 

『この異界が色々おかしいのこういう原因じゃね?』という仮説を山に突入する前に聞かされたのでカマをかけてみれば、ビンゴ。

 

ベイコクの切り札は明らかに自分より格上の術者の手に渡ってしまった。

 

 

「それと、うちの役目はもぉ1つ……アンタ相手の時間稼ぎや」

 

「な、なに?」

 

「本命……アンタにとっての死神は、もう追って来とるよ」

 

ボロボロの上にファイアブレスを食らい、もはや瀕死と言っていい状態のベイコクはようやく気付いた。

 

背後から、藪を踏みしめ木々をへし折り、こちらへ何かが近づいてくる音がする。

 

悪魔だというのに体の震えが収まらないベイコク、恐る恐る背後を振り向き。

 

 

「く、くく、く、くるな」

 

「───ォ──ォオ─────」

 

「くるな、くるな、来るな!」

 

「オォ───ォ───オォ!」

 

 

 

 

 

「来るなバケモノおおおぉぉぉ!!!」

 

「ヴォオオオオオアアアアアアアアアアアァァァァァァッ!!!」

 

 

手入れされていない山の木々を吹き飛ばし、現れたギルス。

 

ほとんど反射的に放ったベイコクのブフーラを跳躍して避け、足の武装型式神を変形。

 

脚からもギルスクロウを出現させ、カカト落としの要領で肩を砕きつつ、ギルスクロウを敵の肩甲骨あたりに突き刺し。

 

 

「グルオァァッ!!」

 

「ガギャッ!?」

 

 

『もう片方の足』で敵を蹴ってトンボ返りすることで、カカトから生やしていたギルスクロウでベイコクの胴体を背後からブチ抜く。

 

『ギルスヒールクロウ』……今のギルスの持つ最大威力の攻撃だ。

 

 

「ア、ガ、ガガ、ガアアァァァァッ!?!」

 

 

直後に、異界の主の領域にて謎の爆発が発生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……決死隊を救出してくれたことは、礼を言います。しかし……」

 

「まあ、2日も3日も待ってくれってわけじゃないんでホント」

 

「ハッタリでもなんでもなく、俺らより上の霊能力者が来てるんですよ」

 

 

人柱を使った結界儀式を行っている祭儀場にて、下山したサスガブラザーズは巫女長と対面していた。

 

決死隊は全員確保、死亡している者もガイア連合で『蘇生の術』が使える者を手配すると説明した。

 

それに加えて、異界の主と戦っている『自分たち以上の霊能力者』がいるので、人柱を捧げるのはもう少し待ってくれ、と。

 

 

(正直、信じられない……あくまで常識的に考えれば、ですが)

 

 

二人への信頼度とかそういう問題ではなく、何年もかけて積み上げられた諦念がその理由だ。

 

1つの希望を10の絶望で上塗りされる日々は、強靭な心をもってしても少しずつ摩耗する。

 

50年間をその絶望の中で生き延びた後も心が折れていないだけ超人の域にいると言っていいのだ。

 

 

(だが、もしかしたら)

 

 

そして、心が折れていないということは、ほんのわずかだが心の底に希望があるという事だ。

 

 

(もしかしたら。何もかもが上手くいったとしたら)

 

 

あまりにも残酷な世界、期待を裏切られた事など50年で数え飽きた、しかし。

 

 

(もう一度、世界を信じさせてくれるのなら、どうか、どうか)

 

 

ゆっくりと、両手が合掌の形を取り、無意識に目を閉じ、霊山に一礼。

 

ほんの願掛け、その程度のつもりであった。

 

そんな彼女の頬を、生涯感じた事が無いほど清らかな風が撫でる。

 

(……? なに、今の風は)

 

霊山が異界と化してから、霊感のある者にとっては山から吹き下ろす風はどこか淀んでいた。

 

ゆっくりと目を開ける、なぜか周囲の術者たちが唱えていた祝詩が止まっているが気にならない。

 

周囲にいた人柱候補たちの困惑も、今の巫女長の目には映らない。

 

霊視ができる者の全神経は、巫女長すら例外なく目の前の霊山に囚われていたからだ。

 

 

「山の瘴気が……消えて……!?」

 

 

一般人からすればただの山にしか見えないが、霊視持ちからすればどろりとした霧が一年中かかっているような魔境の霊山。

 

その瘴気の霧が恐ろしい速度で薄れ、美しい霊山の姿が瞳に移る。

 

人柱候補の面々にも低位の霊能力者は混じっていたため、徐々にこの変化……いや、『奇跡』に気づく者も出始めた。

 

 

 

「……あぁ……嗚呼……ッ!!」

 

もはや抑えきれない、両目から滂沱のごとく流れる涙が頬を濡らす。

 

全ての動作が自然に行われた、霊山に祈りの作法で跪いて、ただただ歓喜と感謝を込めて祈り続ける

 

術者たちも同じだ。霊障を抑えるための霊力を込めた祝詩ではない、偉大な霊山を称え、日々の感謝を紡ぐための祝詩を唱えて祈りを捧げる。

 

人柱になるはずだった面々もそれに続き、段々と『すべてが救われた』実感を得た者から泣き始めた。

 

そんな中で、藪をかき分け下りてくる気配がいくつか。

 

 

「……よ、結構かかったな。キツかったか?」

 

「見た感じ体そのものは無事だけど、割とボロボロだな。ハルカだけ」

 

「泥仕合でしたからねぇ、主に凍傷が……」

 

「うちはピンポイントでMVPばりの活躍したさかい、ゆるしてや?」

 

 

顔立ちの整った少年と、人外じみた美貌を持った小柄な美女♂が山から出てくる。

 

完全に偶然だが、人の気配を多く感じる方へ降りて着たらここに行き着いたらしい。

 

そして同時に、その場にいた一同は察した。

 

彼らこそがこの『奇跡』を起こした英雄なのだと。

 

 

 

 

(……巫女長として、やらなきゃいけない事が沢山できたわね、本当に、たくさん)

 

ガイア連合の面々に告げる感謝の言葉を頭の中で考えながら、それでもせめて、一時祈ることを許してほしいと巫女長……『山根 紫陽花』は謝罪する。

 

 

届けたいのだ、届けてほしいのだ、せめて祈りと共に、一言でいいから。

 

悪魔という名の神ではなく、本物の神仏がいるのなら、あの世という者があるのなら。

 

 

この奇跡を見る前に逝ってしまった者たちへ。

 

この光景を待ち望んだまま終わってしまった者たちへ。

 

たった一言、届けたい言葉を紫陽花は呟く。

 

 

 

 

「終わったよ……」

 

 

 

 

その言葉が届いたことを、彼女は天を仰ぎ願い続けた。

 

 




登場人物資料『鷹村 春花(たかむら はるか)』 その1

『式神 超人 ギルス(ハルカ)』

年齢 10→12歳
(過去編→第一話)

LV 1→25→26
(改造前→第一話→ベイコク戦後)

※主な習得魔法・スキルのみ抜粋

エナジードレイン
アクセルクロー
食いちぎり
丸かじり
逆薙
咆哮
物理プロレマ
万能プロレマ
地獄のマスク
食いしばり
ミナゴロシの愉悦
ハイリストア
etc.

地方霊能組織『鷹村家』出身の霊能者。
同時に、肉体の大半を戦闘用高ランク式神に置換……
というよりもはや式神ボディの方に重要臓器だけ移植した『改造人間』。

カオス転生外伝のTS槍使いさんと似たような状態だが、
アレよりも前の時系列(移植技術が発展途上)&式神ボディが異常性能で定着するか怪しかった。
つまりだいたいやめろーショッカー!で誕生した偶然の産物。

ステータスは【力】【耐】型、【速】もそれなりな典型的な前衛。代わりに【運】が悲惨。
徹底的に【物理攻撃】【万能攻撃】【HP・MP吸収】【状態異常耐性】に割り振った成長をしており、
とにかく『近寄って耐えて殴って蹴って刻んで食らって吸ってブチ殺す』に特化している。

攻撃力もそうだが、それ以上に高いのは継戦能力。
本人の精神的なタフガイっぷりと合わさって、削りあいの消耗戦に異常に強い。

これが集団戦だと異様に硬い前衛かつHP・MPのリソースを『殴りながら』削り取ってくる上に、
倒せないとクリティカル多発アクセルクローやら力依存の万能攻撃である逆薙なんかが飛んできて非常に痛い。
それどころか油断してたり状態異常で動きが止まると『ギルスヒールクロウ』であの世一直線である。

※ギルスヒールクロウ=敵単体に物理属性の大ダメージ&高確率クリティカル&クリティカルすると威力上昇

さらに『再生能力』を強化されているため、何度も吸収攻撃を当てればもげた腕ぐらいは生えてくる。
(外伝の『人間にもスキルカード差せるのか』で言及されてた『持続時間の長いディア』等の派生技術)
属性攻撃に対しても『特別な耐性は無いが弱点も無い』よう調整されたので、弱点を突いて倒すのも困難。
全対応装備&地獄のマスクで状態異常も通りが悪いので、絡め手の類も有効ではない。

手足から生える『ギルスクロー』や腕に格納された『ギルスフィーラー』も上記のスキルと併用できるため、
切りつけながら吸収とか拘束しつつ吸収して追加攻撃まで可能。

欠点は遠距離攻撃の類が牽制レベルしか存在しないので、【速】型に引き撃ちされるとほぼ詰む事。
アーマードコアで言う重量二脚とかタンクみたいなモノを想像するとわかりやすい。
後衛型である阿部と組んで阿部や補助用の式神やアガシオンの盾になるために作られたボディなので当然だが。
テンノスケ?アイツだけに前衛やらせると物理以外に弱点が無いヤツが来た時がキツい。

式神ボディや装備も本人の希望で『痛覚カット』分のリソースを各種スペックに割り振っているため、
阿部が精魂込めて作ったハイエンド式神ボディと合わせ、同レベル帯の中では頭1つ抜けたタフさを誇る。
(ちなみに腕切り落とされたり胴体に大穴が開いた『程度』なら気合で耐えて反撃してくるので無問題)

……なお、変身方法は普通にギルスの変身ポーズを取る事が多いが、無くても変身可能。
原作ギルスの『変身者とギルスが並び立ち、変身者が消えていく』もできるが、原理は不明。
ギルスヒールクロウでトドメを刺すとなんか相手が爆発するけどその理由も不明。
阿部とショタオジいわく「がんばりました」とのこと。

性格はだいたい『俗っぽいジョナサン・ジョースター』。
2~3割ぐらいジョセフとジョニィ混じってるジョナサンでもいい。

むやみに命を賭けるほどお人よしのバカではないが、それで多くの人間を救えるなら躊躇なく死地に踏み込む。

自分の命をリソースとして『上手く使い切る』計算が非常に的確。だからこそ阿部は目を付けた。

現在は阿部の元で修行しながら、ガイア連合の金札として各地の異界に赴いている。
地方の高難易度異界に踏み込むことも多いため、レベルアップの速度は相当に早い。
さらに式神の自動レベルアップに加え、上記の戦闘方法なので『効率的にMAGを吸い上げられる』。


……ついでに、阿部に感じている恩義はガチであり、なんなら阿部が本気で迫れば受け入れるレベル。
ただし恋愛感情の類は一切無いしアーッ!な性癖も無いので、泣きながらベッドに来るとかそういうのになる。
なので阿部も「弟子をホモレイプはちょっと……」ってことで手は出されてない。
たまにセクハラされるし、何かしらの理由で必要ならやるだろうし、ハルカも受け入れるだろうけど。
(※式神と【プロレス】したら式神に経験値入る機能はついてない。というかつけるなら女の式神にする)

好みの女性は母性を感じさせる年上、この辺は彼の境遇を考えると若干闇が深い。


外見は『星光の殲滅者/シュテル・ザ・デストラクター』。
性別が男&成長に障害が無い程度は鍛えてるので脱いだら分かる程度に筋ショタ化しているシュテルである。

シノと会話してると声帯田村ゆ〇りが二人になるので微妙にややこしい。

移植の際に【汚れたバベルの塔】は残してくれたので、式神ボディだけど子作りは可能。

式神ボディ+高レベルになった魂+MAG容量もあり、子供ができれば黒札の子供ぐらいには上振れを期待できる。



…………大前提として【まだ精通してない】という問題が残っているが。
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