『強さ』とはなんだろう。
鷹村ハルカは、ヒマさえあればそんな疑問を悩み続けて来た。
武を鍛え極める事だろうか?
魔を学び修める事だろうか?
財を成し集める事だろうか?
権を求め高める事だろうか?
鷹村ハルカは、『現地人』というカテゴリで言えば間違いなくこの4つを規格外なほどに『得てしまった』存在だ。
だがしかし、どれだけ『力』を得ても、彼は自分が『強くなった』等とは思えない。
骨と関節を圧し折られた右腕を左腕で握り、無理矢理な骨接ぎで整え、素の自己治癒だけで骨を再生する。
腕を切り落とされたり内蔵に穴が開いた程度なら問題なく活動できる、痛みは必要に応じて無視できる。*1
生体装甲は4割が破損、順次再生しているが、このギルスの再生能力をもってしても完全再生が追いつかない。
即ち『ギルスを削りきって殺せるだけの相手と戦っている』事になるのだが……。
「流石に粘るなぁ、仮面ライダぁー……!魔羅がいきり立つ!!」
「立つモンねぇだろ。だがしかしここまで消耗するのは『予知』に無かったな。
やっぱりこのレベルの運命力相手じゃ予知も覆されるか」
『常に数秒先の未来を見つつ戦術を立てても凌がれるあたり、彼の成長は予想以上だぞ、阿部』
【鬼神 クビヅカダイミョウジン LV82】
【超人 アベハルアキ LV99】
【ペルソナ アベノセイメイ LV108】
かつて大江山にてハルカと激闘を繰り広げた悪鬼が鬼神へと変じた鬼。
現代の陰陽師でも10指、下手をすれば5指に入る*2術師と、その影(ペルソナ)である平安最強の陰陽師。
そして彼らを古都を守る【四神】*3がそれを援護する鉄壁の布陣。
おまけに戦場は【古都】の一角である【大江山】。地の利まで向こうに味方している。
(火傷、凍傷、細かな骨折、裂傷、打撲、内蔵の損傷、呪詛による肉体の寝食、MAGの欠乏。
他、解析できる範疇で全身が負傷、だが戦闘続行可能。 つまり一切問題なし)
始まりは、何度も大江山から届く果たし状(ラブコール)。
かつて大江山で討伐された酒呑童子は、阿部の手によって【鬼神 クビヅカダイミョウジン】として再召喚され、式神ボディというセーフティをつけられて大江山異界の担当となった。
放っておいて他の邪鬼や妖鬼が主になるよりは、まだ『一度負かした』事で話ができるようになったコイツの方がましだ、という判断である。
事実、大江山は修羅勢の一部が『現代の鬼退治』に挑戦するための修行場であり、ここでだけ生産できる霊酒『神便鬼毒酒』の生産拠点であり。
後にS県各地に作る事になる『管理異界』のモデルケースとしての実験場としても、上々の成果を出し続けた。
唯一の問題は、霊山同盟支部にしつこいほど連絡を取ってくるヤツランキング第一位に、この鬼神が常時君臨している事である。*4
ともあれ、定期的にハルカも自身の修行とクビヅカダイミョウジンの息抜きをかねた殴り合いに挑んでいたのだが……。
『(試練を)やらないか』
大江山異界深部にある『決闘場』に、クビヅカダイミョウジンと共にガチ装備*5の阿部がいて上記のセリフを放った時点で、ハルカは何度目かも分からない死の予感を感じ取った。
そこからは言うまでも無く、阿部はペルソナと式神を展開して完全に後衛支援の体勢。
クビヅカダイミョウジンは嬉々として最前線に殴り込み、ギルスと血みどろの削り合い。
純粋な肉体のスペックで言えば、この面々の中でギルスは頭2つほど抜けてはいる。*6
が、『それだけ』で押し切れるほど、この世界の闘争はシンプルではない。
「アッハッハァ!!『マッスルパンチ』*7ォ!!」
「づっ……『ギルスクロウ』!『狂乱の剛爪』*8!!」
両腕の内部に格納した武器型式神『ギルスクロウ』を出現させ、スキルを乗せた連撃でクビヅカダイミョウジンの打撃を相殺。
当然、そこから互いに『次』の行動を起こすが。
「『獣の眼光』*9!『ライダーキック』!!」
「がはぁ!?」
即座に『獣の眼光』を切って、回し蹴りタイプのライダーキック*10でクビヅカダイミョウジンを蹴り飛ばす。
そして二回目の行動で即座に後退、直後、一瞬前まで彼がいた場所に『ジオバリオン』*11と『ムドバリオン』(敵単体に呪殺属性の特大ダメージ&確率で即死)が降って来た。
消費の関係であまり多様出来ない『眼光』系スキルを切っても、一気に畳みかけるどころか回避を念頭におかなければならない。
威力が一番乗るハイキックではなく、ややミドルキック気味に放ったためか、クビヅカダイミョウジンの方も「ぺっ!」と折れた奥歯を吐きだして構え直す。
……そう、『ミドルキックが当たった』のに『奥歯が折れた』。
同じ体格同士だったら、腰や脇腹あたりに当たりそうな高さの攻撃で、だ。
クビヅカダイミョウジンの『今の姿』も、ギルスにとってやりづらさを加速させていた。
「……何度やってもキツい!!」
「まあ、身長差エグすぎて明らかに殴りにくそうだからなぁ」
「それもあるけど!論理感的に!!」
そう、元酒呑童子・現首塚大明神は、ガイア連合技術部の作った式神ボディに対応した外見になっている。
さて、読者諸君は少し考えてもらいたい。
あの変態技術者共が、こんな機会にマトモな外見の式神ボディを作ってよこすだろうか?
結論から言おう、んなわきゃない。
「なんで角の生えた幼女!?ものすごく殴りにくいんだよ!!」
「いやー、俺もなんでこうなったのかサッパリだ(ぐびり)」
「回復アイテムとして魔石や宝玉じゃなくて態々霊酒を持ち込んでまで酒を飲むな!」
(そう言いながら側頭部にライダーキック叩き込んでるあたり、もうだいぶ慣れてそうだけどな)
(どこまでいっても鬼相手ですし容赦なくブチのめすぐらいでいいと思いますけどね)
人の頭よりも長そうな二本角、茶髪のロングヘアーをなびかせ、何故か髪にリボンまで結ばれて。
白いノースリーブに紫色のロングスカート、腰には霊酒のたっぷり詰まったひょうたんをつる下げた幼女鬼がそこにいた。
黒札ならば「『東方』の『萃香』じゃねーか!」と口をそろえて言う外見である。*12
ちなみに付属の衣服は頑丈なだけでなくバラバラにしても再生する。
おまけに洗濯いらずということもあり便利なので着っぱなしなだけで、決してクビヅカダイミョウジンが女装趣味というわけではない。
そして、これだけ小柄なボディなのにギルスと肉弾戦ができるほど精密かつ強靭な調整がされているあたり、使われている技術自体はガチもガチだ。
「まあ俺の死体を材料にしたらしいから強靭なのは当然だけどな!」
「LV120超えを記録した妖鬼の肉体を元にした式神ボディとかさぁ……!!」
大江山の鬼退治の際、阿部は元の巨鬼からすればごくわずかと言える量だが、酒呑童子のフォルマやデビルソースの回収に成功していた。
それを山梨支部の技術部に持ち込み、人工筋肉やスキルカード、そしてこの『伊吹萃香ボディ』の製造に使われたのである。
当然、クビヅカダイミョウジンとの相性はバツグン。体格が大幅に変わったのに違和感なく動けている。
ちなみに、こういう会話をしている間もギルスとクビヅカダイミョウジンは盛大に殴り合っている。
そこらの悪魔なら激突の余波だけで粉々になるような殴り合いだ。
「クビヅカダイミョウジンが粘り続ければ、お前は『超変身』を使う時間が取れない。
四神は援護に専念できるし、俺とアベノセイメイも火力役を担当するだけでいい。
タイマンならお前が勝つんだろうが……ま、これもデビルサマナーの強みってわけだ」
「ちぃッ……!!」
なんとかクビヅカダイミョウジンを振り切って超変身を使おうとするが、そのスキをきっちり阿部とアベノセイメイが埋めてくる。
多少のレベル・スペックの差は四神によるバフデバフで埋められてしまう。
後衛を先に潰そうにも四神を盾にして時間を稼ぎ、またクビヅカダイミョウジンが割り込んで、その間に蘇生と回復で建て直される。
ギルスも継戦能力と生存能力に長けた前衛ではあるが、単独で戦い続けて勝機が見えてくる状況ではなかった。
そして、こういったギリギリの戦闘というものは、ほんの小さな事で拮抗が崩れる。
クビヅカダイミョウジンの攻撃を後退して避けようとした瞬間、ギルスの足が突然上がらなくなった
「……!?(右足の、足首から先だけ凍って!?)」
「しゃらあぁ!!」
「ぶぐっ!?」
派手な魔法だとスキをついてもギルスは確実に避けると判断した阿部は、ここにきて初歩的な魔法である『ブフ』を範囲を絞って発動。
ギルスの足元の地面から発生させることで、回避するために後退する一瞬だけ右足首から下を凍結させたのだ。
当然、そのスキを逃すクビヅカダイミョウジンではない。小さな体が跳躍し、飛び回し蹴りが顔面を捉える。
「しゃあ!顔面粉砕コォース!!」
「ぐ、ぅっ…!?(まずい、すぐ建て直さないと『次』が……)」
『【ムドバリオン】!』
強烈な一撃で脳を揺らされても次の一手を判断できるのは流石と言った所だが、アベノセイメイの方が一瞬だけ早かった。
最上級の呪詛の塊が地を這うように放たれて、ギルスの足元に到達した瞬間、間欠泉のように吹き上がる。
2mを超える長身であるギルスの体が、まるで全力で蹴り上げたサッカーボールのように宙を舞い、地面にたたきつけられた。
「がっ……ぅ、お……!?」
(今の、明らかに、『殺意』が……!?)
先ほどまでの『模擬戦』の延長線上にある攻撃ではない。
ギルス/ハルカも相応以上の修羅場を超えて来た身だ、殺気や殺意を感じ取る感覚は異常なほどに研ぎ澄まされている。
特に『呪殺』系の魔法は分かりやすい、込められている呪いの種類や術者の感情を肌で感じる事ができるからだ。
「なんの、つもりだ、師匠ッ……!」
「……流石に気づくか。立て、そして構えろハルカ」
全身を襲う呪殺の力を振りほどきながら、肉体を再生させつつ立ち上がるギルス。
あくまでいつも通りの表情と雰囲気、しかし、それは『淡々と敵を処理するときのいつも通り』な阿部。
クビヅカダイミョウジンは戦闘を楽しんでいるだけなので論外だが、阿部の変化は顕著であった。
そして、それは阿部のペルソナであるアベノセイメイにも伝番する。
クビヅカダイミョウジンがストッパーにならないのは分かり切っている。
この3人は、確実に自分(ギルス)を殺しにくる……そう確信するのに十分な根拠であった。
「今のお前は強くなりすぎた、俺の『予知』『占術』でも十分に見通せるとは言い難い」
阿部の愛用する武器である戦闘用錫杖を構え直し、次の魔法を込めながら言い放つ。
「お前が『この先の人類に必要なのか』……俺自身の目で、見定めさせてもらう。
……『マハザンバリオン』*13ッ!!」
「う、おおおおぉぉぉ!!?」
迫りくる特大の衝撃波の嵐が、ギルス/ハルカの体を盛大に吹き飛ばした。