【試練の3日前 ガイア連合山梨支部 会議室】
「……アイツに対する黒札の意見が割れつつある、か」
「ああ。だけどその顔を見るに『予想通り』って所かな、君にとっては。
あるいは『予言通り』? ……どちらでも同じか」
「そこまでピンズドじゃないさ。予想の範囲内に収まってるってだけだ」
ガイア連合山梨支部の中でも、特に防諜を意識している箇所がいくつか存在する。
その中の一つがこの『会議室』であり、各種結界や加護を用いた防諜でガチガチに守られた一室だ。*1
この場にいる人影は2つ、どちらもガイア連合では上澄みも上澄みな実力者二名。*2
片方はガイア連合のトップ、現代最強の霊能力者。
神主、ショタオジ、麻倉ハ〇と様々な呼び名も高き【峰津院 堂満】。
もう片方は、その神主に占術・予言・予知『だけ』は上回るのではないか?とまで言われた現代の千里眼。
平安最強の陰陽師・安倍晴明の転生体。くそみそニキこと破界僧【阿部清明】。*3
絵面だけ見れば一部のお姉さま方が喜びそうなイイ男と外見美少年の邂逅なのだが、本人たちは至って真面目である。
「古参組で言えば、霊視ニキや狩人ニキ、あとやる夫は肯定・擁護組だな」
「現地人に肩入れしてる黒札筆頭みたいな所あるからね、あの子の出自を考えても擁護に回るのは予想できていた」
ガイア連合と同等かそれ以上に恐山に肩入れしているフシがある霊視ニキや、アメリカに凸ってTSした親友を救いつつアメリカ国民の救援をやっていた狩人ニキはハルカの存在に肯定的だ。
元々彼に力を与えたのは阿部と山梨支部の一部式神技術者であり、その後の動きも基本的にガイア連合に多くの利益をもたらしている。
その最たるものが『山梨支部に降りかかる災厄を引き受けるサンドバッグ』である霊山同盟支部の存在なのは、ハルカにとって皮肉極まりないが。*4
「中立、あるいは保留なのが美波*5……あと、千川*6のヤツも対応保留だったな」
「美波からすれば『個人的には擁護してあげたいけど立場上擁護できない』からね。*7
ちひろの方は……ワルボウやオザワと比べればマトモじゃない?って言い切ったよ」*8
「良くも悪くも『肩入れもしないが排除もしない』で分かりやすいなアイツ」
そう、ここまでは問題ない。この面々やこれらと近い感性の黒札からすれば、ハルカは『ちょっと手助けするか遠い所から応援してるかノータッチ』当たりの対応で済む。
問題は『ダークサマナー寄りの価値観を持った俺達』や『ガイア連合の黒札という身内以外を敵視している俺達』である。
「前者はハルカとの人間的な相性が水と油だ、どうやっても『BC案件』*9の様にモメる。
後者はガイア連合内部に黒札じゃないのにとんでもない戦力があるのが不安で仕方ない」
「後者に関してはスティーヴンや明けの明星がいる時点で今更だけどね」
「ハルカよりよっぽどリスキーなんだよなぁ。
だがまあ、それでもまだマシだ。後者は言っちまえば身内以外に厳しいだけだ。
こういう奴らはハルカだけじゃなくメシアにも根願寺にも多神連合にも厳しい。
なんなら現地人を人間扱いしてないタイプだ。ハルカを狙い撃ちにする可能性は低い」
後者の連中というのは、よーするに『黒札にあらずんば人にあらず』的な思想の持主とも言う。
覚醒者としての質はピンからキリまでだし、なんなら未覚醒でガイア連合のおんぶにだっこな黒札ニートまでいるが、言ってしまえば悪い意味で『俺ら』らしい集団だ。
こういう面々は黒札以外の全方位を敵視しているので、ハルカ『だけ』に何かする事もないのである。
問題は前者……黒札の中でもダーティな手段を好む趣向の持ち主とか、
ガイア連合に属する前からダークサマナー含めた反社会的勢力所属だったりとか、
前世の悪魔が邪神・悪神系でその影響が現在の人格にもモロに影響してたりとか、そういう面々だ。
「『後者』は感情論10割な事が多いが、『前者』はそこんところ微妙でなぁ。
純粋にガイア連合がこんな強者を『作ってしまった』事へのリスクを考えるヤツ、*10
本人はリスクヘッジのつもりだが明らかに私情と個人的な嫌悪が入りまくりのヤツ、*11
そもそもお人好しとか善人が大嫌いだからその権化みたいなハルカを嫌ってるヤツ*12」
「要するに『鷹村ハルカと気が合わない』以外の共通点が無いわけだ。
そして、『前者』の面々と違って鷹村ハルカ個人を狙って不満を零している、と」
サタンを討つためにありとあらゆる方法でギルスの戦闘を配信して元気玉(スパチャ)を募った弊害がここにきて出始めた。
あの時にギルスを応援していた人間や、利害を考えて支援した人間はまだいい。
あの中継を見て『世界を救ってるのは分かるけどヒーロー気取りが気に入らない』が理性を上回ってしまった人間が黒札にもそこそこいるのだ。
それが善性・英雄性への嫌悪なのか、ああなれなかった己を認めたくないが故の嫉妬なのかは置いておくとしても。
「あと、メシア教ギルス派なんてモンまで誕生したからメシア教嫌いのも意見が割と割れてる」
テンプルナイト・サチコがギルスを持ち上げてたら敵に回ってたからまだマシだけどな。
……まあ、纏めると『この意見対立が諍いになるまえに何かしらケリをつけたい』」
「へぇ……ちなみに腹案は?」
「や、シンプルもシンプルだよ。要は利害論が2で感情論が8なのがこの問題だ。
なら、比較的冷静に利害語ってる人間には『排除するのが割に合わない』と思ってもらう。
感情で突っ走るヤツは……『突っ走っても排除できない』と身に染みて分かってもらおう。
幸い、BC案件を起こしたアイツのおかげで『楔』は打てたからな」
『BC案件』を起こした黒札は、レベル的にも経験的にも修羅勢の一角を名乗るのにふさわしい実力者であった。*13
そんな黒札ですら、阿部や流石兄弟に居場所さえ割られればギルスの殴り込みで鎮圧されている。*14
つまり、ハルカ/ギルスより明確に強い運命愛され勢の黒札はともかく、ただ単に強い『だけ』の修羅勢では既にハルカ/ギルスを討ち取るのは不可能に近いのだ。
十重二十重の対策と策略を練ろうと『ここぞという時に』逆転の一手を打たれてひっくり返されて敗北する。
悪意を持ってハルカと相対すればするほど、運命の切り札は最後の最後でハルカの手元に来る。
ショタオジですら『自分が悪堕ちしてたらワンチャン掴まれるかもしれない』と警戒する程度には、ハルカの運命力『は』とんでもないのだから。
「それをを全員に理解させるために、俺が用意できる限りの手札を揃えてアイツにぶつける。
言っちゃなんだが、ギリギリ『運命愛され勢』に踏み込む程度には強いという自負もある。*15
BC案件のアイツどころか俺でも勝てないとなれば、大半の奴は手を出す事はなくなる。
自分じゃ勝てないんだからな。愚痴を垂れるみたいにハルカ危険論を説くのが精々だろ」
「実際、黒札にとっては危険ではあるよ。
同時に、僕らにとってこの上なく便利でもある」
「まあ、な。黒札がアレな事したら、裁けるのはガイア連合内だと黒札だけだ。
とはいえ、黒札同士の殺し合いが頻発したり、ショタオジが何度も出張るのも非効率的。
だからこそ、アイツという『黒札相手の鉄砲玉』は、管理する側からすれば便利だ。
……自分の手を汚さなくても済む、って点も大きい」
「……仮面ライダーというより魔進チェイサー*16になって来たよね、彼」
「か、仮面ライダーチェイサー*17になるかもしれないし……」
ともあれ、これにて方針は決まった。
阿部の全力をもってハルカを攻撃し、それを撃退させることで『暴走する黒札への抑止力』として完成させる。
だからこそ、ショタオジは1つだけ阿部に質問をした。
「……ところで、君が勝ってしまった場合はどうするんだい?」
「うん?そうだな、まあいくつか対処策は思い浮かぶが……」
ふむ、と顎に手を当てて考えてから、事も無さげに出てきた返答は。
「最悪ハルカは始末する。別の抑止力を育てる事にしよう」
「……僕も転生者じゃない人間や悪魔相手にはそれなりにドライだという自覚はあるけどね。
君ほど人でなしにはなれないと常々思うよ」
電脳世界の魔人アリスの事といい、恐山の長老やゴトウといい、ショタオジは黒札以外には排他的に見えて以外と色々お人好しだ。
そして、ショタオジからすれば阿部とハルカの関係は自分にとっての『黒札以外の親しい人間・情の湧いた相手』に該当する。*18
情の湧いた相手だろうと『まあ必要なら最悪殺してリセマラだな』と言い切れる阿部は、ショタオジからすれば下手な悪党よりもヤバい認定である。*19
そして阿部は準備した、それはもうガッチガチに準備した。
ギルスの設計図もアナライズデータも手元にある、フォームチェンジはエクシードギルス以外はやや不明瞭だが戦闘データもある。
それらを元に、それこそかつて短期間でLV99に上げるために山梨支部のダンジョン深層に籠ってた頃レベルで対策した結果……。
【現在 大江山決闘場】
「がはっ、はあ、はあっ、けひゅ……!」
(……ちょっと準備整え過ぎたか?)
生体装甲は7割が損傷、式神パーツの筋肉・骨格は重度から軽度まで全身満遍なく破損・欠損。
体内に埋め込んである武器型式神『ギルスクロウ/ギルスフィーラー』と『ギルスヒールクロウ』はMAG供給不足により機能不全。
自己再生能力もMAG不足により機能不全を起こし、先ほどから傷の直りがまばらになっている。
これによって内蔵機能にも影響が出始めたようで、悪魔だったとしても既に肉体を維持できなくなりMAGとなって霧散してるレベルのダメージだ。
女神転生と言うゲームで言えば、既にHPがマイナスに突入しているというバグとしか思えない状態である。
「んんーぅ、流石だ『仮面ライダー』。これほどまでに粘るとは」
「いや、逆にお前はなんでパっと受け入れられてるんだよ」
「ん?ふふ、当たり前だ。 アイツは常人(おまえら)とは違う。
それはレベルだの、霊的な才能だの、魂の強度だの、そんな無粋な基準ではない。
今も俺を捉えているこの拳の重さが、それを証明している!」
そう、そんな状態になってもなお、ギルスは膝すらついていない。
みしっ、ぎしっ、と嫌な音をたてる両足で地面を踏みしめて、クビヅカダイミョウジンと殴り合う。
「ヴォアアアアァ!!」「あっはははははは!!」
獣のような咆哮と、心底楽しそうな喜悦の声が、拳の衝突音と共に野蛮すぎるロックサウンドを奏でているのだ。
「コイツは『英雄』だ!先天的にも後天的にも!!
そうとしか生きられん!そういう天命を与えられている!
神や悪魔にではない!世界とコイツ自身が選び取った天命なのだ!
運命も信念も、全てがコイツに波乱万丈の生を約束した!
ご存じの通り……コイツはヒーローだ!相応しい!それでいい!最高だ!」
「……それは、俺がそう導いたからだ」
「違うね、断じて違う!寧ろ貴様は舞台装置として『導かれた』側だ!断言してもいい!」
何?と阿部が疑問符を発するのと同時に、ギルスのアッパーカットだクビヅカダイミョウジンのアゴを捉える。
ゴキッ、と音を立ててその顎と首の骨が圧し折れるが、すぐさま阿部のディアラハンによって再生。
のけ反った体を元に戻す勢いで腹目掛けて頭突きを叩き込むものの、それを膝蹴りで迎撃される。
ギルスの膝とクビヅカダイミョウジンの額が激突し、クビヅカダイミョウジンの額だけが割れて血が噴き出した。
「っ、はは!そうだ、それでこそだ英雄よ!最高だ貴様、魔羅がいきり立つッ!!
覚えておけ陰陽師、本物の英雄というのはな、人が敷いた道で誘導できるモノではない!」
「何……!?」
「定められた運命(みらい)程度でコイツらを縛れるのなら苦労はしない!
この姿を見ろ、血を溢れさせ、骨は折れ、肉は削がれ……だが!!」
『この世の何よりも美しい』
どんな美酒を飲み干した時でも感じられなかった『酔い』を、目の前の英雄との殺し合いの中で感じ取る。
鬼(かいぶつ)からすれば、英雄を推し量ろうというこの行為そのものが愚行だ。
なるほど、彼は英雄として惨酷な運命に翻弄されるのだろう。
なるほど、彼は英雄として逃れようのない戦いに挑み続けるのだろう。
そんな彼からすれば……『自分の価値を図るために仕組まれた試練』程度、乗り越えられないはずもないのだ。
英雄とは、無理難題のような試練を超えていくモノなのだから。*20
「貴様がどんな思惑でコイツとの喧嘩に誘ったのかは、聞かなかったし興味もない。
だが、1つだけ……今のうちに腹の底から覚悟しておけよ、陰陽師」
『ああなるほど。確かに私の生前もいましたよ、こういう人。頼光四天王*21とか』
「その名前を出すなブチ殺すぞ。まったく生前から気に入らん!」
「……おい、それで。何を覚悟しろって?」
自分のペルソナ(前前世の記憶・人格持ち)が茶々を入れたことで話が脱線しかけたが、無理矢理本来の流れに引き戻す。
そして、ズタボロのまま赤心少林拳の構えを取るハルカ/ギルスに対峙するクビヅカダイミョウジンが、上機嫌に言い放った。
「英雄(ヒーロー)は追い込まれてからが本番だ。ここから先は死ぬほどキツイぞ?」
「 ――――― ヴォアアアアァアアアァアアァアアッッッ!!」
渾身の咆哮が、最終ラウンドのゴングを鳴らした。