(強くなる、って、なんだろう)
とっくの昔に限界など振り切った肉体を、意思の力だけで無理矢理稼働させる。
ギルスという式神ボディの想定スペック上限は、エクシードギルス形態でのリミッター解除状態が限界値だ。
エクシードギルスが本来の上限である以上、ギルスとは『燃費を重視し、基礎スペックと追加機能を制限した状態』に等しい。
普段の人間形態はそれをより推し進めたモノで、非戦闘時を想定したMAG燃費最重視の形態である。
『では、バーニングフォームとライジングフォームとは何か?』
これはシンプルに、ギルスに『外付け』された力を解放した形態だ。
大天使メタトロンと並行世界の四文字及び大天理ウリエル*1から押し付けられた『シナイの神火』。
どこぞの世界の破壊者*2が置いていったクウガのカードから抽出した『封印の雷撃』。
リミッターを解除することによって得られるリソースをこれらの機能に振り分けることで、基礎スペックよりも『特殊能力』を重視した形態に変身できる。
シンプルイズベスト、基礎スペックを大幅に跳ね上げる『エクシードギルス』。
凶悪な破壊力と広範囲攻撃、火炎属性と万能属性を併せ持つ『バーニングフォーム』。
圧倒的な速度と連続攻撃、電撃属性と封印属性を併せ持つ『ライジングフォーム』。
どの形態だろうと、間違いなく『ハルカ』や『ギルス』の姿よりも強くなる。
それが『超変身(フォームチェンジ)』機能。ハルカ/ギルスが今まで生き残ることができた要員の1つだ。
(問題は、今の僕は『超変身する余裕もない』って事)
当然、そんな便利なパワーアップに何らかのリスクが無いはずもない。
ノーリスクなら常にエクシードの状態で戦い、必要に応じてバーニングかライジングに切り替えればいいのだから。
主なリスクは2つ、1つ目は、これらの形態は『使うだけで大量のMAGを持っていく』。
元々搭載してあったエクシードもそうだが、バーニングとライジングの燃費の悪さはそれに輪をかけて凶悪極まる。
使うタイミングを間違えれば、相手を削り切る前に自分のMAGが枯渇する諸刃の剣だ。
2つ目は……これは『仮面ライダー』だからこそ逃れられない『概念』としての弱点。
即ち、フォームチェンジの瞬間に明確な『隙』が発生してしまうのだ。
(ほんの『一呼吸』、ほんの『一行動』!それだけの時間があれば超変身が使えるのに……!)
阿部とアベノセイメイ、そしてクビヅカダイミョウジンと四神の波状攻撃は、ギルスにその『一行動』を許さない。
迫りくる攻撃に全力で対処し続けなければ、超変身を使う前にギルスの肉体が粉微塵にされる。
このギルスの肉体を作ったのは、阿部を含めた山梨支部の技術班。
そして、この肉体をサタン&マザーハーロットと相打ちにさせるために育て上げたのは阿部だ。
当然、長所も弱点も本人以上に把握している。超変身が使えるタイミングで確実にインターセプトを入れるのは十分可能だ。
そして当然、ハルカ/ギルスが切れるリソース全てを吐き切って『拮抗』させるのが精いっぱいということは、消耗の速度は圧倒的にハルカ/ギルスの方が速い。
HP・MP・MAGの全てがあっという間に削れていき、ギルスに本来備わっている機能も機能不全を起こしまくっている。
本当ならとっくに死んでる状態を気合で延命させる事で無理矢理延長戦に持ち込んでいるのが現状だ。*3
(答えも、何も……死んでしまったらそれまでだ。師匠が見たいのは多分、それだ)
だが、延々とジリ貧の殴り合いを続けていれば、ハルカ/ギルスにも阿部の狙いは見えてくる。
間違いなく殺意ある攻撃を繰り出しているが、ギルスにとって一番やられると困るのは『一気呵成に攻め込まれて潰される』事だ。
今以上に激しい波状攻撃を仕掛けられれば、向こうはいくらかのリスクを背負う代わりにより早くハルカ/ギルスをすり潰せたはず。
しかし、それこそ不必要なほどにリスクを避け、徹底的に詰将棋以上の慎重さでハルカ/ギルスを仕留めに来ている。
野球で言えば相手の4番バッターをノーアウト1・3塁でも毎回敬遠するぐらいの『不自然な慎重さ』なのだ。
少し野球を知ってる人間なら分かるが、4番バッターを避けた所でノーアウト満塁でクリーンナップの5番に回るのは変わらない。
だったらノーアウト1・3塁で4番と勝負!というのも、リスクはあっても十分アリな手筋。
つまり、度を越した慎重策は戦闘の遅延を招き、長引けば長引くほど『不確定要素』の発生率は高まっていく。
(師匠は僕の中の『何か』を見たい。その『答え』を探り出さなきゃいけない!)
「ヴォアアアアァアアアァアアァアアッ!!」
「ハッハッハァ!まだまだ行けるぞ仮面ライダァー!!」
問題は、その『答え』を出すよりも早くハルカ/ギルスの絶命が迫っていることだ。
とっくの昔に限界など振り切っている以上、ほんの少しでもハルカの精神が揺らげば肉体の制御が途切れる。
意識を失ったボクサーが、本能だけで対戦相手を殴りつけている状態に等しいのだから。
(この拮抗状態は『もってあと5分未満』!賭けに出るなら今だ!)
(ん?雰囲気が変わったな……仕掛けてくるか、仮面ライダー!!)
口角を耳まで裂けてるんじゃないかと錯覚するほど吊り上げながら、クビヅカダイミョウジンが剛腕を振りかぶる。
見た目が幼女だからと侮るなかれ、LV80overの鬼神の拳は、鉄球クレーン車の一撃すらも上回る。*4
無論、エクシードギルスならともかく、ギルスでは力づくで受けたらダメージは避けられない。
だからこそ『梅花の構え』で常にこれを受け流し、カウンターでもってクビヅカダイミョウジンにダメージを与えていたのだ。
そう、だからこそ、クビヅカダイミョウジンは神業とも言えるカウンターの痛みに耐えるために歯を食いしばり……。
「―――――――― は? 」
自分の拳があっさりとギルスの脇腹を貫いた事に、ほんの一瞬だけ思考がフリーズした。
カウンターどころかガードすらない、いや、それどころか生体装甲の再生すらも行われていない。
仮にだが、読者諸君も不意に顔をめがけて空き缶をなげられたら、咄嗟に顔を庇う・目を閉じるといった防衛行動を行うだろう。
今のハルカ/ギルスはそれすら行っていなかった。反射的に行う『体に力を入れる』という行為すら行わなかった。
ならば、打撃が当たる直前についに限界を迎えて意識か生命を失ったのかといえば……それもまた、否。
「これしか、ごふっ……思いつかなかったぞ!」
「ッお前!?咄嗟の防御を捨てて一手分の時間をッ!?」
獣の眼光を使おうと、手数の差で連続行動での対応『程度』では押し切られてしまう。
行動回数はこれ以上増やせない以上、連続行動で増えた手数の『内容』を吟味するしかない。
そうなった時、真っ先にハルカが下した決断がこれだった。
(思いあがるな鷹村ハルカ!!)
(僕は、貰った才能以外はただの凡夫、ただの人間だろうが!)
(だったら、こういうとき切り捨てられるモノなんて1つしかない!)
(……『自分』しかないだろうが!!)
防御をかなぐり捨てることで、自分の命を保持するために打っていた『一手』分を省略。
腹筋とあばら骨をブチ抜き、内臓をすり潰しながら背中まで抜けていくクビヅカダイミョウジンの拳。
食道をせりあがって口から吹き出す血と肉の混合物を無理矢理押し込み、逆転のための『一呼吸』をひねり出した。
「超変身ッッッ!!」
その体から湧き上がるのはシナイの神火。*5
太古の昔から『聖四文字』の象徴の1つであるシナイの火が、ネフィリムの血肉によって作られた異形に宿る。
生体装甲は深緑から深紅に染まり、そのひび割れからは抑えきれない炎が噴き出す。
普段はマフラー状に形成しているシナイの神火も、今は細かい制御をしている余裕がないのだ。
だがしかし……『全力で放出する』だけならこれで十分。
「ぐおおおぉぉっ!お、お前、己の身体ごと焼く気か!仮面ライダーッ!?」
「そうだ、この状態なら逃げられないッ!!」
「ッ……させるか!『ブフバリオン』!」
腹をブチ抜いて背中まで抜けているクビヅカダイミョウジンの腕を両手でつかみ、体から放出した神火で自分ごと直火焼きに叩き込む。
制御できない炎のせいで自分の肉体は直火焼きどころか杭を刺した焼き鳥のように内外から焼かれているのだが、それでも腕を離す気はない。
当然、それを黙ってみている阿部ではない。アベノセイメイと共にブフ系の魔法で無理矢理鎮火しにかかる。
しかし、まるでそれをそよ風の様に神火は相殺した。
「収まらない!?なんという熱量……!」
「命も魂も燃やした炎だ、収まってたまるものか!!」
「があああぁぁぁっ!!(か、火炎耐性が障子紙ほどにも役に立たない!火炎と万能の複合属性か!)」
阿部とアベノセイメイの魔法をかき消し、クビヅカダイミョウジンの耐性を容易く火力で塗りつぶし。
一瞬で炭屑と化していく自分の肉体を見ながら、小さな鬼神はもう一度笑った。
「ハハハ……やはり最高だな、英雄(オマエ)は……!」
残った力を振り絞って放った拳は、ギルスの胸に当たったのと同時に砕け散る。
クビヅカダイミョウジンの身体は彼女を構成する式神パーツごと炭化し、MAGに還元されて消滅。
いまだに体から抑えきれない炎の名残と煙を上げながら、満身創痍のギルスが前を向く。
「まだ、やれる、まだ、まだッ……!!」
「……流石にこれは俺の予知にもなかったな。だが……」
一歩ごとに、生体装甲どころか、その下の皮膚や筋肉に当たる式神パーツすらボロボロと剥がれ落ちていく。
既に死んでない事そのものが異常、歩いて言葉を発する、そこまでいけば異常を通り越して奇跡だ。
だが、それは『勝利』に繋がる奇跡ではなく、『不屈』という言葉で終わりを遅延させているに過ぎない。
(とはいえ、ここまでやれば連中への『警告』にも十分か)
阿部とアベノセイメイ、そして四神の援護を受けたクビヅカダイミョウジンを討ち取れる怪物。
既にマザーハーロットとサタンの一件で『戦闘力的にどうしようもないんじゃないか?』という意見そのものは、ハルカ排斥派にもあった。
だが、あの時は戦闘開始と同時に各地からのMAG支援によって強烈なバフがかかった状態。
即ち『今ならやり方次第では排除できるんじゃないか?』という意見がそこかしこで見られたのである。
(あとはここで『一度殺して』、何かあった時は俺が始末をつける、という実績も作る。悪いなハルカ、恨むんなら俺と自分の運の無さを恨めよ)
もうMPも余裕がない、魔法攻撃だと先ほどのように肉体を燃焼させて炎を噴き上げることで相殺される危険性がある。
だが、阿部も修羅勢の一角を名乗れる程度には鍛練バカだ。近接戦の心得は十分以上に嗜んでいる。
ある程度のリスクは覚悟のうえで、トドメの一撃の為に戦闘用錫杖を振りかぶり、ハルカ/ギルスの首目掛けて横薙ぎに振るう。
その錫杖を、ギルスの左手が鷲掴みした。
「なっ……!?(コイツ、まだ動いて!?)」
「ようやくだ、ようやく……!!」
左手のパーツを崩れ落ちさせながら、阿部とアベノセイメイが対応する前に後ろへ引っ張る。
バランスの崩しながら前のめりになった阿部に対し、握りしめるのは右拳。
その拳が炎……ではなく、眩い『光』を発し始めた。
「射程距離内に……入ったぜ!!!」
『阿部ッ!振りほどいて離れろ!!』
「この光……まさかお前、この土壇場で!?」
吹き上がる炎が収まり、装甲と血肉が内側から溢れ出た光に押し出されるように剥がれ落ちる。
バーニングフォームが『脱皮』するように、その下から現れた光を纏う白い肉体。
神々しさを纏ったソレは、ギルスの『異形』すらも神聖なものだと思わせるほどの輝きを放つ。
『ソレ』が一体何なのかに思い至った瞬間……。
「『シャイニングライダーパンチ』ッ!!」
顔面に光り輝く一撃が叩き込まれ、阿部は意識を失った。
ショタオジ「適当な所で負かして調節するって話じゃなかったっけ?」
くそみそニキ「師匠越えは定番のイベントだからな……」
ショタオジ「おいこら」