「ッ……ぐっ……!?」
(気絶していた? 意識を回復させる術が作動したのか!?何秒『ト』んでた!?)
ギルスの打撃を顔面に受けた『三秒後』、地面を転がった阿部が己の肉体に仕込んでいた術によって意識を取り戻す。
意識が途切れるほどのダメージを受けた時に、自動で『ディアラハン』と共に意識を復活させる術。
しかし、この術の欠点は『ディアラハンによる回復終了と同時に意識が覚醒する』ようにしか出来なかった事。
つまり、ディアラハンでも『回復に時間がかかる』ほどのダメージを受けた場合、意識が戻るまでラグが発生するのだ。
(推定だが2秒から3秒!顔面への打撃一発でこれか!?
……いや、肉体の各所にダメージが伝番したような痕跡がある、
回復遅延の原因はこれだ。一撃で全身が『破壊』されていた!)
ディアラハンによる自動回復と同時に、ハルカ/ギルスの拳の『追加ダメージ』が発生。
全身が破壊と再生を繰り返し、再生が上回って『修復』されるまでに3秒かかったのだ。
たかが3秒、と侮るなかれ。このレベルの超越者同士の戦闘では、3秒どころか0.1秒のラグですら致命的だ。
本来なら、この3秒で阿部は100回死んでも足りはしない。ペルソナも消えているだろうし、暴走対策に仲魔も意識を失ったら『管』に戻るよう設定している。
つまり、そもそも意識が戻る事すら本来はあり得ないのだが……。
「……殺されてない、って事は、話し合いの余地はあるって事か?ハルカ」
「そもそも問答無用で殴り掛かられたのは僕の方なんですけど?それ僕のセリフなんですけど?」
「はっはっは、スマン。いや今回は本当にスマン」
(さーて、どうしたもんかねこりゃ……)
HP・MP・MAG残量と言った数値上での有利不利は、圧倒的に阿部の方が有利である。
ディアラハンは正常に機能したおかげで五体満足、MPも細かく回復していたので8割は硬い。
MAGに関しても、ペルソナと四神を十分維持できるだけ蓄えて来た事もあってまだまだ余裕がある。
半面、ハルカは既に『ギルス』への変身すら維持できなかったようで、最後の一撃を放った直後に人間形態に強制変化。*1
HP・MP・MAGはすべて枯渇寸前、いや、恐らくとっくに枯渇したモノを気合と根性と精神力で*2無理矢理維持している。
人間形態に戻った際に服も再生されるのだが、これも血と汚れと焦げ跡でボロボロになっていた。
(ただ、『この距離』でヨーイドンして勝てる気しねぇんだよな。この状態でも)
そも、阿部清明という黒札の才能はまるで戦闘向きではない。
同じ黒札で言えばやる夫さんよりはだいぶマシだが、その才能の方向性は『予知・予言・千里眼・補助・結界/陣地の設営』等に割り振られている。
オマケに黒札内の才能ヒエラルキーでは下限ギリギリ、トップが赤兎馬、上位陣がG1馬だとしたら、彼はギリギリG3馬かそのあたりである。
徹底的なレベリングを施し、前々世の記憶から陰陽術を習得し、ハム子ネキ達に同行してペルソナ使いとしても修練を積み。
戦う前から予知した未来に必要な準備・対策を施し、時には人の心とかブン投げた方法もためらわず実行し。
その上でただの人でなしになったら詰む場面が多いので、ブン投げた人の心を犬の様に拾いに行くことで保持しつづけて。
そこまでやってようやく黒札運命愛され勢の最下層に指が届く。それが戦闘者としての阿部清明だ。
逆に、鷹村ハルカは徹底的に『戦士』である。
無論、組織運営や演説による人心掌握、阿部から学んだ陰陽術の知識*3、影の国で学んだ魔術*4といった、支部長として必要な技能は一通り学んでいる。
が、命懸けの激戦・強敵との死線を乗り越え続けた『戦士』としての能力と比べればオマケ以下だ。
未来視に等しい直感、不可視の存在すら見抜く第六感、磨き抜かれた刃のごとき戦闘センス、苦痛・激痛に耐える精神力。
特に、他の修羅勢黒札には中々見られない『己が嫌う行為』すら実行し続ける強烈な責任感は稀有だ。
『自分の好きな事の為ならどんな苦難でも耐える』という黒札は修羅勢以上ならそれなりにいるが、『必要な行為だからやりたくない事もする』という黒札は非常に少ない。*5
(まあどこまで行っても中身俺らだからそんな責任感持ってる方がおかしいんだが、それはそれとして)
現在、互いの間合いは1m前後、ペルソナも出していないし、仲魔も全て管の中。
ハルカが満身創痍を超えたナニカの状態でも、最後のあの一撃を見れば油断などできるはずもなし。
阿部が何らかの行動を起こすよりも早く、体内から取り出したゲイボルク*6で阿部の首をハネるだろう。
「それで、何か聞きたい事や言いたい事があるのか?聞くだけ聞くし、大抵の事は話すつもりだが」
「腹立つぐらいいつも通りですね師匠……」
「まあな。本当に話しちゃまずい情報は抜かれないよう自殺できる仕組みになってるし。
客観的に見てもロクでもない行為をやって来たんだ、ここで殺されても自業自得だろ。
その前に聞きたい事があるなら無理のない範囲で言うってだけで」
「本当に腹立つぐらいいつも通りですね師匠!!」
(……とはいったものの、コイツから殺意らしい殺意感じないんだよな)
鷹村ハルカは『自分を大切にする』という感覚が決定的に抜け落ちている。
ここまで全身をボロクソにされても、戦闘の気配が収まれば殺意も戦意もまるっきり感じない。
暴力的なまでのギルスの気配すら収まったせいで、完全にサイゼ〇ヤか何かで放課後にだべってる学生のノリだ。
「それで、本題に入りたいんですけど……今回襲われた理由、やっぱり黒札の意見対立ですか?」
「……誰から聞いた?」
「いや、予測ですよ。BC案件もありましたし、僕の存在が疎ましい黒札がいるんでしょう?
逆に、妙に僕に味方してくれる黒札もいますし……シノさんとか、カズフサさんとか。
……リンちゃん*7はあれ味方なのかただのファンなのか微妙なラインですけど」
「そーかい……」
(ホント、武術方面はそこそこ*8だったが、こういう方面は少し鍛えただけで伸びやがって)
巫女長が『一番向いている職業は政治家か宗教の教祖』というだけあって、ハルカ本来の適性はやはりそっち側である。*9
今回の戦闘に発展した理由を過去の経験から推測し、その理由に至るまでの経緯もおおよそたどり着いていた。
その上で、ハルカが出さねばならない答えはシンプル。
『どうやってガイア連合内に自分の存在を許容させるか』、この一点だ。
「まあ、適当な所で俺が勝って『いうほど大したもんじゃないぞ』ってアピールが出来れば最善。
それがダメでも俺が負けて『下手に手ぇ出したら痛いじゃ済まねぇぞ』と警告できれば次点。
元々ショタオジは積極的に殺す気無さそうだからな、なあなあで済ませる気だったんだよ」
「ショタオジ……って、ガイア連合の盟主殿ですか。会った事ないですけど」*10
「あー……そうか。そういえばお前会った事ないんだな」
「ですが、性格の推測はある程度立てられます。
基本的には身内*11びいき、かつ修行は苛烈ですが思考は比較的穏健。*12
どちらかというと好々爺*13の様に感じますが……意外と繊細な所もありそうですね*14」
「キッショ、なんでわかるんだよ」
「なんとなくですけどそれは師匠のセリフじゃない気がします。*15
師匠を含めて、盟主殿の事を語る黒札は結構多いですから、そこからの推測です。
その上で、盟主殿や僕を排除したい黒札が納得する解決策があればいいんですよね」
「……え、あんの?」
はっきり言って、阿部とショタオジが出した案は『先送り』に近い。
地球の魔界落ちによって各支部が物理的に引き離された以上、黒札とハルカの間の問題は一時的なモノだ。
無論、今後も遺恨は残るだろうが……BC案件の黒札の様に、霊山同盟支部にまで殴り込みをかけるバカはそうは出ない。
そも、あれはBC案件を起こした黒札の保持するシェルターが霊山同盟支部と隣接していたからこそ起きた『偶然』なのだから。
なら、ショタオジや阿部の懸念事項とは一体何か。
「僕を許容する黒札と、僕を排斥したい黒札の衝突。これが師匠や盟主殿が危惧してる事態ですよね?」
「……ああ、そうだ。お前と排斥派の黒札は地理的な要因でモメる可能性は低い。
が、『お前への意見が正反対の黒札同士』が近い場所にいる可能性はそれなりにある。
山梨支部みたいに黒札が多数いる支部や、そうでなくても複数の黒札がいる支部があるしな」
「なおかつ穏便な排斥方法である『ガイア連合幹部への陳述』はまず通らない、と」
「そりゃ利益考えたら通す理由ないしなぁ……なんなら霊山同盟支部がガイア連合から独立するハメになりかねん」
「いや規模が規模ですから独立したら四分五裂して本拠地周りしか残りませんよ多分!?」
「残せるだけでもヤバいんだよなぁ……」
極論、ハルカを含めた筆頭戦力で大暴れして、本拠地周辺の悪魔を屈服させて支配下に置けばいい。
S県一帯というアホみたいな広範囲を管理するからこそ、ガイア連合は霊山同盟支部に『支援という名の首輪』をつけているのだ。
もっと範囲を絞って現実的な規模の『大規模支部』に変えれば、案外独立できてしまうのである。
……もっとも、そんなことをしたら終末を生き延びた人間を数十万人規模で見棄てる事になるので、ハルカはよほどの事が無い限り取らない手だが。
「と、とにかく!要は黒札同士の衝突を回避すればいいんです!」
「いや、言うだけなら簡単だけどさぁ……」
「任せてください、僕にいい考えがあります」
「すごい心配……いやアレ実は成功フラグなんだっけ……?」*16
そして、ハルカの『アイデア』を聞いた阿部であったが……。
「……効果的だが、正気か?」
「この上なく。これで収まるのならそれでいいです」
「いや、まあ、そうだが」
色々と押し付けてきた側の阿部から見ても、少々どころじゃなくハルカの負担が増えかねない『アイデア』。
だが、黒札同士の激突を防ぐのなら、これ以上の手段は今の所思い浮かばない。
「なにより、ようやく『答え』が出そうなんです。ぼんやりとですけど」
「『答え』?」
「はい。 『強くなる』ってどういうことなのか。その答えが」
ボロボロの身体のまま、しかし背筋だけはピンと伸ばし、胸を張って言い切る。
「師匠は言ってたでしょう?同じ男からも惚れこまれるような男になれ、って。*17
なら、僕にとっての強さの指針の1つは『イイ男になる』ことです」
「ん、まあ、そうだな……修業時代に言った事覚えてたのか」
「それなりに記憶力はいい方ですから。だからこそ思ったんです。
……胸を張って『強がり』を言えるのも、男の価値なんだ、って」
虚勢と言えばそれまでの『答え』かもしれないが、それでも貫き通せるだけの『信念』を、彼は持っていた。
「たとえ強がりでも、最後まで貫き通せば『男の意地』でまかり通ります。
古臭いマッチョイズムだろ、って言われたらそれまでですが……」
「……いや……」
ふぅ、とため息交じりの苦笑を浮かべ、胸元から取り出した薬草タバコ*18をくわえて一息つく。
「俺も敵わないぐれぇイイ男の選択だぜ、間違いなくな」
「……はい!」
【二日後 山梨支部某所】
「それで、細かい調整を終えて作成された『申請書』がこれ?」
「ああ。千川に頼んで事務・経理班を少し借りて、書類としての文面も詰めてみた。
あとはコイツを元に魔術的な契約効果もある『契約書』にすればいい」
「それに関してはコッチでも手伝うけど……なんというか、ナナメ上の発想で来たね、彼」
山梨支部の某所にて、机に上に置かれた『申請書』を広げるショタオジと阿部。
まだ『契約書』としての加工は施していないものの、これから山梨支部の技術部が製造する事になる『申請書』の内容そのものはほぼ完成していた。
細かい文面等は、読者諸君も仕事場で読むハメになるような書類を読みにこの小説を開いたわけではないので割愛させていただく。
ざっくばらんかつシンプルに、某ダメダメ転生者のゆかりさんでも分かる感じで説明するのなら……。
『その1!この申請書は鷹村ハルカへの決闘を申し込む為の申請書だよ!』
『その2!申請書は黒札の要望があればいつでも有料配布されるよ!』
『その3!黒札以外が使うにはガイア連合幹部の承認がいるよ!』
『その4!申請が通った場合、鷹村ハルカとの決闘をセッティングするよ!』
『その5!場所や日時、決闘の運営は山梨支部の人間が行うよ!』
『その6!決闘に勝利した場合、鷹村ハルカの生死は勝者が決められるよ!』
「うん、何度も見たから率直に言うけど君の弟子正気???」
「我ながら育て方がユニークすぎたかもしれない」
合法的に黒札が鷹村ハルカを殺害する方法を作る、それがハルカの出した提案であった。
穏便な方法である山梨支部への陳述が通らない以上、大なり小なり暴力交じりの手段に出る黒札は出てくる。
ならば、経済的な損失や組織運営の障害になる『霊山同盟支部全体への攻撃』こそ最も避けたい事態なのは間違いない。
この方式なら最悪でも『鷹村ハルカ一人の死亡』でコトは収まるし、敗北した黒札の生殺与奪権はハルカに無いので黒札が死ぬ事もない。
勝敗判定は山梨支部の黒札や式神が行えば死ぬ前に止められるし、死んでもサマリカームでどうとでもなる。
鷹村ハルカへの不平不満で同じ黒札に暴力の矛先が向かう事を避けるには、鷹村ハルカを合法的に武力で排除できる手段を作るのが最善と考えたのだろう。
「これにビビって申請しない程度のレベルのヤツなら今後も何もしない。
本気で殺したいと考えて申請出すヤツがいても、最悪犠牲はハルカ一人で済む。
ハルカが勝って今回は残念でしたねまたどうぞ、で終れば全てが丸く収まる」
「ホントに『ナナメ上』の解決方法で来たね……でも、これ彼に何の得もないんじゃない?」
「申請書はそれなりの高額で有料配布になってて、しかも料金の何割かは霊山同盟支部のマージンだ」
「抜け目ねぇなオイ」
思わずショタオジが素でツッコミ入れてしまう程度にはアコギな商売である。
とはいえ、無料配布にしたらエンドレスで決闘申請を出す人間が出かねない。
山梨支部の方で日時を調節できるとはいえ、大量の申請でパンクさせないためには『黒札視点でもそれなりの値段』に設定する必要があったのだろう。
というわけで、最善かどうかはともかく、とりあえずベターな解決策は提示できたのだが……。
「で、今の所は大丈夫なのかい?」
「いや、今日の午前10から配布予約を募ってるんだがさっそく3件ほど申請がな……」
「……早くない?今12時だろう?」
「うーん、まあ内容がその……」
『イヤッホー!合法的にギルスとガチ殴り合いできる機会に行かない理由があるのか!いやない!うおおおおお今月のマッカ使い過ぎで尻叩き覚悟で買うぞおおおおお!!』*19
『直接支部を訪ねる事も考えましたが、公認でアフターケアありの決闘申請が可能と聞きましたので。そろそろリベンジマッチもいいかと』*20
『古都支部の黒札に土下座して申請してもらったぞ!再召喚されて早速だがもう一戦やらせろ!今度はタイマンで!!』*21
「こんなのばっかりでな」
「うん、申請だけ通して後は放置で」
まさかの需要が生まれたことで、これまた予想外な方向で霊山同盟支部の財源が1つ増えて終わるのだった。
ちなみに時々ガチ殺意持ち修羅勢やメシア大嫌い修羅勢との決闘もあるが、
「当時の酒呑童子ほど格上じゃないし」
「這い寄る混沌以上のクソカスはいないし」
「マザーハーロットやサタンほど理不尽じゃないし」
というポジティブシンキングで乗り越えている模様。
勝てば殺さなくていい&負けても死ぬのは自分だけで済むから気楽まであるしな!