私が白亜の神鳥と呼ばれるまで 作:柑橘風きしめん
ありがとー。
気温が上がり、海面も上昇した。
僅かな気温の変化だが、低い盆地は沈み、通常種の人間の巣の密度も増えた。
日が沈まぬ極地に住まう
威嚇だけで追い返せたが、追い返した先でどうなるかは知ったことでもない。
それの命運がどうなるか、それが引き起こす事象が何であるかも含めてだ。
温暖化の原因は理解している。
巣に溶岩を集めて、巣を新たな火山へと変える性質を持つ火山蜂は、一定の周期で拡散していく。
そしてその巣が巨大化すると、また拡散していく。
以前巣を破壊した時に、巣の基本的な構造は理解した。
溶岩を使って魔法陣を作り、魔法陣で更に魔法陣を巨大化させていく火山蜂。
数えるのも億劫になる働き蜂が、驚く程正確に一つの意志をもってそれを行ったのだろう。
大地に魔法陣を刻む私からみても、それは精密で複雑であった。
規模を大きくして初めて機能する式もあり、これは巨大な魔法陣を描いた者にしか理解出来ぬものだった。
どの巣を壊しても、全てが同じ魔法陣を作用させている。
それでいて、女王蜂一匹を食べただけで、外敵もなく崩壊する。
味は女王蜂、幼虫、働き蜂の順に美味しい。
溜め込んだエネルギーの差だろう。
私には脅威ではなく、巣が近くに無ければ湿地への影響もない。
温暖化しても、常に地下1キロの深さの水路が循環する湿地への影響は及ぼさない。
そんな火山蜂がまた増えただけの事だ。
湿地は海からは離れているし、循環する水流によって温度も保たれている。
人間達はとても問題だと認識しているようだが、湿地にも湿地に住まう私の原種にも影響は無いので、私としては全くどうでも良い話だといえる。
海が湿地帯を呑み込む程上昇してくるとすれば、その時に火山蜂を殺せば良い。
人間共がいうような、世界の管理者としての責任など、私には全く無い。
私は世界にも人間達にも責任を持たず、姉の子孫にのみ責任を果たそうとする一羽の水鳥でしかないのだから。
流石に、湿地の中や近くに火山を造ろうとした新女王蜂については、追い払ったり食べたりした。
高温を吐き出す故に、高温を呑み込む事など造作もない私は、火山蜂からすれば天敵となるのだろう。
熱を忌避せず、既に蒸発を超えた超臨界水を吐く私には、全世界の火山蜂が一斉に襲ってくるというのならともかく、巣一つを相手にする分には問題などない。
それも巣を作る前や、作ってすぐの女王蜂であれば尚の事だ。
一応、
効率的な環境改変能力も、総合的な戦闘力も、相性の良い私で無ければ驚異となるのかもしれない。
火山蜂も、それによって起きる温暖化も、直接湿地に影響が出るまではどちらでも良いのだ。
いざとなれば、今は鎮火した世界で最も大きな火山を巣にしていた
虫を鳥が食えぬ道理などないからだ。
確かあの時は人間達は寒冷化が何だと喚いていたが、寒い場所には寒い場所で育つ草がある。
温かい場所で育つ草を何処でも植えようとするのが愚かだ。
そうしたいなら、自分達で温かく変えれば良いし、無理なら諦めて移住する手もあった。
別に同じ土地を維持する必要はない。
私も必要であれば、今ある湿地帯を放棄して新しい湿地帯を作り、姉の子孫達も移住させる。
環境を変える力があるものは、環境を変える。
出来ないものは出来ない。
それだけで終わる話だ。
私は空の上にある、夜を照らす星に行きたいとはそもそも思わないが、人間の主張とは、星に行きたいのに行けないのは理不尽だと言っているに過ぎない。
不可能な願いを溜め込む事に、私には理解する必要のない人間の無駄さが存在する。
空を照らす星に興味はない。
私の興味は、姉鳥の血脈が続く事だけだ。
必要があれば、必要な事を行えば良い。
私にとって願いはいつか叶うものではなく、既にあるものを維持するだけのものなのだから。
❖人類側の視点(メアファドリス聖王国による世界環境研究所報告書)
世界の温暖化と火山蜂には直接的な因果関係が存在する。
火山蜂の存在は古くから数多の文献に登場しており、古来では様々な国で火山そのものと同一視されてきた。
シバレル地方のクズゴブドリンの伝承では、火山の女神である蜂は、娘を遣わし害悪なる
クズゴブドリンはその際に火山に巻き込まれて死んでしまったが、死後女神の娘の夫となり、シバレル地方を見守ったと記されている。
それにより呪われた寒さで何も育たなかったシバレル地方にも熱が生まれ、豊かな生活が出来るようになったと結ばれているが、現在では温暖化は望まれるものではなく、防がねばならぬ明白な環境問題である。
火山蜂は火山から溶岩を採蜜し、巣へと持ち帰る。
それによって段階的に巣は火山へと変容していく。
一定の大きさへと巣が成長すると、働き蜂の数も増えず巣も大きくならない停滞期へと移行するが、その間に女王蜂は自身の完成へとエネルギーを回し成長する。
火山蜂の女王が十分に成長し、『究極完全体』と呼ばれる状態になると、対処方法は無くなる。
成長した女王全てが非対称性干渉存在となる火山蜂には、目立った天敵はほぼ存在せず、神鳥による征伐が数度確認された他には、吸熱海月や宝石鯨など、他の非対称性干渉存在にしか倒された例はなく、女王が巣の中で成長する前に人類総出で立ち向かうしかない。
この際に火山蜂の巣から離れた場所にある国は無関心であることも多く、これらは全人類が一丸となって立ち向かう上では大きな問題となっている。
まずは怠惰な獣人達に、火山蜂に立ち向かう意志を持たせる事が肝要であることは間違いない。
神鳥は、メアファドリス聖王国を守護する事を第一義にしているためか、近場に火山蜂が営巣しない限りは、積極的な討伐は行っていない。
しかしメアファドリス聖王国の植民地のいくつかでは、水没の危機が迫っている。
植民地から避難民が押し寄せては、経済と治安に甚大な悪影響が予測される為、現在はそれを食い止める関所が建築中である。
また、周囲の気温を低下させて、拡がった海氷を住処とする
世界寒冷化問題の際に、クズゴブドリン伝承のモデルになったヨー・ホー・クズゴブが破壊された巣から、女王候補となる幼虫を何匹も救い出し、成虫にまで育てた事によって、今日の問題が引き起こされた要因の一つとなっていることを考えると、再び同じ問題が起こるのではないかという懸念もあり、また一部の過激派から神にも等しい非対称性干渉存在を、人の身で生み出そうとする事は神への反逆であり、大変烏滸がましいとの声明も出ている。
人為的に
このストレス緩和成分を有効活用する方法についても、現在研究中である。
ストレス緩和成分と、獣人を幸福化させる魔法陣の影響については、理論的には共通点がある可能性が存在しているが、まだ全く目処はついていない。
この二百年で、世界の平均気温が4℃も上がった事により、世界温暖化対策機構が生まれたが、人数に対して税金を多く納めない獣人国家に対して、税金の代わり非究極完全体の女王蜂の住む巣への攻撃隊としての人員を差し出す案が次回の全人類評議裁決で出される予定であり、間違いなく通過する。
また、獣人に関しては別件の問題もあり、獣人が多い北方の第十一植民地では牧場の家畜が一斉に獣人へと回帰した事による食料事案も発生しており、カリバネット植民地統括官が「家畜が無ければ、獣人を食べれば良いのではないか」と問題提起をしたところ、暴走した獣人達によって当植民地統括官は死亡した。
しかし現在でも食料難は解決されておらず、第十一植民地では食料を巡った抗争が絶えず、暗黒期を迎えている。
『幸福の魔法陣(仮称)』の導入も計画されているが、同じ形を小さく再現しても上手く機能しない問題と、現在では地域の九割を占める獣人達の反対により上手くいっていない。
その他の対策として、温熱効果ガスを減らす計画があり、大量に空気の構成要素を変える非対称性干渉存在
事実、発見当時群体生物ではなく島の環境とされていた
結論として、我々が最も望むべき解決策とは、神鳥への嘆願である。
栄光ある聖王陛下万歳!! 偉大なる神鳥様万歳!!
聖王歴2000年の教科書より
❖
主食でもある溶岩を腹に溜め、巣へと持ち帰る特性がある。
溶岩の食事中や活性化時には、翅の脈が赤熱化する。
基本は溶岩しか採取しない大人しい性質だが、極稀に餌として生物を襲うこともある。
シバレル地方の
女王になりたての個体は強くなく、人間国家の総攻撃により多大な悲劇と引き換えに討伐した例もある。
一定以上巣が大きくなり安定し始めると、それまで働き蜂を産んでいたエネルギーを自身に回すようになる。
このサイクルを複数回繰り返す。
そして脱皮によ究極完全体となると、もれなく非対称性干渉存在として指定される。
幾つもの巣が密集し、火山だらけとなった島も存在している。
かつては農作に不利な寒冷地では、好転のシンボルと神格化されていたが、分蜂と成長によって大火山を増やす
名前は今は無人の孤島で使われていた言葉で、冷える大地に再び火を焚べるものの意。
❖
幼獣の頃は丸々としているが、一年も経たずにネコの様な長い手足を持つ姿へと成長する。
成獣は脚裏の鋭い爪を加速と減速の起点に使い、滑るように駆け、脚先のヒレを使い自在に泳ぐ。
育成期間は短く、母親は一月も経たず仔を置いていき、体力を回復次第、次の繁殖を行う。
この一月の生育期間の最後に、母親から与えられた試練を達成する事で、成獣化へのスイッチを促す効果があることが近年の研究で分かった。
このスイッチが入らないと、基本的には成獣になる前に命を落とす事になる。
皮膚は極めて冷たく、一定の数が存在すると、周囲の気温を低下させる。
基本的に人間には懐かないが、飼育の可能性がある生物の中では比較的強い環境改変能力を持つとして、
幼獣はストレスが貯まると、自身のストレスを緩和する成分を分泌する。
捕食者を忌避させる役割を持つと共に、親を呼ぶサインにもなっている。
❖
幼獣が出す母親を求める時の声を頻繁に出している。
温暖化により、極地の氷が大量に崩壊した時期から誕生したと思われる。
皮膚は極めて冷たく、存在するだけで周囲の気温を低下させる。
温暖化解決の手段として、
身体中から、周囲の生物のストレス値を跳ね上げる成分を分泌する事があり、それによって集落全てが発狂死した例がある。
家畜を獣人に変えるだけでなく、真人や魔族などの獣人以外の人類を発狂死させるこの成分は、極めて危険といえる。
❖獣人
近年、
この非対称性干渉存在
しかし、
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絶滅したタヌキに似たクマのモンスターであり、二足歩行で動き、簡易な道具を使うとされている。
道具を袋にしまうという、有袋類であるらしき記述がある。
その記述から、実は当時繁栄していた獣人の一種ではないかという意見もあり、そうだとすれば力のある労働人材が失われたということになる。
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発見当初は小島かと思われていたが、後に植物とも菌類とも言い難い群体生物であると発覚。
海に浮かんでおり、海中や空中の様々な空気を奪い取っては、超高濃度の酸素を吐き出している。
緑と呼ぶには黒に近い色をしており、植物でいう種子に当たるものを身体の端に生やした後に、それと本体が同化する。
上には独自の生物群が繁栄しているが、酸素濃度が高過ぎる故に、現世人類では適応出来ない。
当初は地中から湧く特殊な毒ガスではないかと思われていたが、それは純粋な酸素とオゾンのみで構築されている。
非対称性干渉存在とする者と、自然環境に過ぎないとするもので未だに議論は分かれている。