私が白亜の神鳥と呼ばれるまで   作:柑橘風きしめん

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ノキヨッサ中興史

 私は私が生み出した湿地から出ることはほぼない。

 それは、生活環境として清流鳥(フィニフリカ)に優位な環境である事が一つ。

 そして、この湿地に住まう姉の子孫を護り抜く事が、私の空白を埋める存在理由だからだ。

 

 だが、特例として湿地の外に出ることはある。

 私が湿地を作る際に水流を生み出す魔法陣を彫ったのだが、それが破壊されかねない事態が魔法陣を生み出した初期に発生したのが始まりだ。

 それ以降私は定期的に湿地の外周を巡察するようにしている。

 

 それは完全に偶然だった。

 凄まじい衝撃音を発生させながらそれは来た。

 鉄槌の進樹(イグ・イス)と人間達に呼ばれていたそれは、環境を変える為だけに、生み出された様な植物だった。

 

 一日それを観察して分かったのは、凄まじい震動音を生み出す事と、それらの寿命が一日しか持たない事だった。

 

 自身の根を引き上げては、恐るべき速度で叩き付けて岩盤を砕き、夜には種子をばら撒いて、朝には枯れる。

 

 私はそれを引き抜くと、上空まで引き上げてもまだ地面から根が抜け切っていなかった。

 ただ、とても抜きやすくはあった。

 

 

 岩盤も小岩も全てを打ち砕き、枯れた鉄槌の進樹(イグ・イス)の下には非常に細かな砂だけが存在を許されていた。

 私はそれが湿地の方まで広がる事を、強く危惧した。

 岩盤を溶かして彫った、水流を生み出す魔法陣が砕かれては堪らなかった。

 

 

 随分と広くそれは行われていた。

 役目を果たして枯れきった植物で埋められた土地は、かなり広かった。

 

 岩盤の土地を全て完全に細かい粒子だけに変えたなら…。

 雨が振らない場所ならば、流砂が頻発する砂漠になるだろうし、雨が頻繁に降るならば水通しの悪い粘土質の土地になるだろう。

 大きな石の粒だけで構成された隙間の多い土は、その隙間から直ぐに抜け落ちる水を保てない。

 小さな砂の粒だけで構成された隙間の少ない土は、その隙間が少なく水を下に逃がせない。

 鳥である私でも分かる事だ。

 

 私としては、原種となる水鳥の住まぬ土地がどうなろうと何の問題もない。

 だが、これがいずれ湿地に到達するならば問題だ。

 水流が巻き起こる様に刻んだ魔法陣を崩されては、清流鳥(フィニフリカ)よりも、停滞した水場を好む他の水鳥に優位な環境へと変わってしまう。

 

 

 だからこそ、積極的にこの草を抹殺しなければならない。

 私は水場の端を使って超臨界水を吐き出した。

 近場の鉄槌の進樹(イグ・イス)共は鏖殺を完了した。

 

 だが、遠くの連中は殺し切るに至らなかった。

 何せ身体が半分になった程度では滅びない。

 特に再生等はしない。

 しかし再生する必要はないのだ。

 何故なら短命で繁殖のサイクルが短いから。

 

 欠損した自分の身体を再生させるよりも、欠損していない種をばら撒く方が効率的なのだから。

 

 

 

 故に私は拠点を作る事にした。

 規則的に幾つもの水場を作り出した。

 大森林上空の雨雲を食らっては、その水を加熱・圧縮して大地に吐き掛けた。

 それは狙い通り水場となり、今度はその水場から近くの草共を狙い撃つ事にした。

 目標から近い場所からであれば、十分にして無駄なく壊滅させられた。

 

 

 私はこうして草共を抹殺したが、草共の敗因は朝に一斉に急成長して、夜になってからしか種子を落とさない事だった。

 草共が攻撃を受けた時に、昼夜問わず種子をばら撒く生態であれば、討滅は困難であった。

 落ちた種子一つ一つを討滅するのならば、土地丸ごとを煮え尽くすしかないが、夕方までは種子を結ばない性質が明暗を分けた。

 

 

 

 

 

 それから数十年か数百年の月日が過ぎた。

 鉄槌の進樹(イグ・イス)を抹殺する為に、私が作った水溜まり。

 そこには人間達が共同巣()を作っていた。

 

 私が近くを飛ぶと、人間達は途端に横たわり寝る様な姿勢を取った。

 砂塵が多い地域では、大型の飛行生物が通る際に巻き上がる砂で器官を傷めない様に姿勢を低くするのだろう。

 それか吹き飛ばされない為か。

 

 何れにせよ、私が飛ぶ高度を考えるに影響はそうない筈なのだが、本能的に学んでいる事が少ない人間には、高度の差による影響などは、理解出来ないのだろう。

 だから一律に地面に這い蹲るのだ。

 

 他にも理由があるのかも知れないが、私は人間の生態に興味は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

❖人間側の視点

 

 『ノンギフテッド』

 それは、変わってはいるが特段優れた何かを持っている訳ではない人々の総称。

 飛び抜けた能力から齎される視点により、変わり者が多い『ギフテッド』との対義語として誕生した。

 変わってもいないし平均的な能力は有している『ノーマル』とは明確に異なる存在。

 ノンギフテッドには、多くの能力が低く、幾つかの能力のみが人並みという、小さく尖った能力配分の者が多い。

ギフテッドからはギフテッドが生まれやすく、ノンギフテッドからはノンギフテッドが生まれやすい。

 勿論ギフテッドからノンギフテッドが生まれる事もあるが、傾向というものは存在する。

 挙げ句、弱者に権力を持たせると、弱者がそれを維持する為には破格のコストが必要になるのだ。

 『金貨一摘みで弱者を救う行為は、未来の金貨一袋を無駄にする』とは、砂漠地域の諺である。

 未来の損益を無視した救命は、国家全体の毒となる。

 故に先進国ではギフテッドを如何に国内に残して、ノンギフテッドを如何に減らすかが国家成長の課題となっており、優遇と追放を上手く使い分ける事によって、進歩を続けている。

 通常、ノンギフテッドのみでマトモな社会が作られる事はあり得ない。

 

 そんなノンギフテッドを無料で養うと称して集める者がいた。

 狂えるオランドゥルと呼ばれた、稀代の錬金術師だ。

 

 彼は錬金術師として成功しており、その資産をもってノラッポという団体を作り、無料の住処や食べ物を提供してノンギフテッドの人々を養っていた。

 

 ノラッポの拠点が元の国家ノキヨッサと離れた場所にある事から、ノキヨッサ国も自国の中心地から離れた場所にノンギフテッドを隔離出来ると考えて、それなりに支援をしていた。

 

 しかしオランドゥルがノラッポを作り、ノンギフテッドを集めていた理由は、生贄の確保だった。

 それはノキヨッサの最上層部も理解していた。

 寧ろ最上層部は、ノンギフテッドの最も効率的な使い途とさえ認識していた。

 ノンギフテッドを消滅させて、良質な畑を作る土壌改良を行えるのなら、国家として大金を注ぎ込む理由にはなった。

 国家を運営する者達は、それが未来の国民達の幸せとなると信じていた。

 彼等は良心的な支配者だった。

 ただ、損害しか産まぬノンギフテッドを国民とは認めなかっただけだ。

 

 オランドゥルは、鉄槌の進樹(イグ・イス)という、土壌改革を行う魔植物を人工的に作る事を計画していた。

 当初の計画では、鉄槌の進樹(イグ・イス)は直下1kmを掘り砕きながら根を伸ばし、地下1km分の栄養を根こそぎ吸い取っては夜になる前に種を付けて、拡散して枯れる。

 これにより岩盤で覆われた岩砂漠の土壌を、改良出来ると考えたのだ。

 現代の農業技術においては常識だが、水持ちが良過ぎても、水捌けが良過ぎても、根腐れや干魃で植物に悪影響を及ぼす。

 だが、岩の上よりも砂の上の方が植物を育てやすいと、当時の者達が考えたとしても不思議では無かった。

 挙げ句に鉄槌の進樹(イグ・イス)は、昼に地下深くの栄養を吸収しては、朝に地上に枯れた身を晒す。

 地下深くの栄養を地上に押し上げる事も期待されていた。

 

 彼等の誤算は、余りにも鉄槌の進樹(イグ・イス)が大きくなり過ぎた事、余りにも繁殖速度が早過ぎた事であった。

 生贄の数が多過ぎたのか、改造術式を間違えたのか、そもそも農業知識が不足していたのか…。

 現在では最後の説が有力視されている。

 

 あっという間にノラッポの拠点を呑み込み尽くした鉄槌の進樹(イグ・イス)の草原は、遂にはノキヨッサも呑み込んだ。

 

 雨が降らない日が続くと、地盤はサラサラした砂へと変わり、幾つもの建物が倒壊した。

 鉄槌の進樹(イグ・イス)は人間を襲うことは無かったが、人間が生きていく為に必要な環境は破壊した。

 

 後に乾燥した粘土質に適応した可食植物が見られるようになったし、粘土土壌に特化した建築様式も発展したが、この時点ではそのようなものは、この地には存在しなかった。

 

 

 

 流浪の民となる事を選ばなければならないノキヨッサ国民達は、大空にそれを見た。

 

 偉大なる神の鳥は、失敗作である環境改善植物を駆逐するだけでなく、幾つものオアシスを作った。

 

 規則的に並ぶオアシスは、後世の人々の生活を大いに幸福なものとした。

 当時のノキヨッサのノンギフテッドは、ほぼ全てノラッポに押し込んで居なくなっていた為に、ノキヨッサ国民には足を引っ張り進みを止める者は殆ど居らず、手を引いて進める者が多かった事も、復興の一因を担っていた。

 

 今でもノキヨッサの国民は王族に至るまで、白き神鳥を視認するや五体を大地に伏せて感謝を伝えている。




聖王歴2000年の教科書より

鉄槌の進樹(イグ・イス)
 数千人の生贄によって誕生した、錬金術により成立した化け物。
 環境改変能力に特化した存在であり、偉大なる白亜の神鳥により討滅された。
 原種は地下数百mに根を伸ばして、地中の可燃性油を吸う植物モンスター『ナナフサニークアイ』と思われる。
 油分を分解したエネルギーを地盤破壊と種子の生成の為だけに利用する生態だった。
 地盤破壊行為により、原種よりも遥かに深い場所まで根を伸ばす事が出来たようだ。
 今もその影響は超音波などによって確認可能。
 このモンスターによって、極小の砂だけで作られた土壌が生まれ、極めて水捌けが悪い土地を利用した水田農業が発達した。


黒石葉草(ナナフサニークアイ)
 高分子の油分を長い根で吸収しては、それを変質させて自身の身体を作る。
 基本的には毒草であるが、食べると毒物となるだけで、衣服等には防水性と軽さからよく使われる。
 襲われても根が深過ぎて逃げられないが、身体を捻り攻撃してくる。
 身体を捻り切った所で、根本を切断すると、暫くは吸い上げた油分が溢れ出る事から、工業的に価値のあるモンスター。
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