私が白亜の神鳥と呼ばれるまで 作:柑橘風きしめん
私も食べずに生きている訳では無い。
寧ろ原種よりも遥かに大きな私は、原種よりも遥かに多い食事を必要とする。
湿地を大きく作った理由もそこにある。
そして湿地で育つ原種以外のものは私の餌だ。
親鳥の背を主な雛鳥の住処とする
流水草は淀んだ水では、他植物に駆逐されるが、流水の中でのみ他植物に優先出来る特性があり、その理由は流水によって育まれる非常に強力な
しかし…極めて強力な殺菌性の高い体液を持つ
だが、なんと言えば良いのか…。
つまり、流水草は私達にとって美味しいという言葉に尽きるだろう。
流水草を食べていれば、病気に掛かりにくくなり、病気になりにくい個体群が生き残った…という話にはならないのだ。
これは単純に偶然の一致だ。
特にエビや魚などを流水草と纏めて食べるのは、極めて美味だ。
故に、エビや魚、後は水生昆虫が繁殖する事は歓迎している。
水鳥を襲える程に成長した特異個体は、私が食せば良いだけだ。
故に、水鳥を襲える程の存在は湿地には誕生しにくい。
水底から巻き上がる様に循環させる水流が発生している湿地だが、何時の間にか円の水底を封鎖する様に大蛇が存在していた時は驚いた。
円を描くように流れる水の中で生き延びていくうちに、循環の式を取り込んで己の成長に組み込んだのだろう。
巨大になっていたそれが、円の外周の長さに辿り着き、己の尾を咥えて制御権を強奪する前に、私は水から引きずり出した。
そのままでは、魔法陣の基底の大部分が占拠されており、上手く発動出来なかったからだ。
水から引っ張られたヘビは、再び水底に戻ろうとしたが、私はその前に湿地に新たな魔法陣を刻む事にした。
私の得意技に似た性質を、湿地帯の水路全ての水底に発生させた。
即ち高温高圧水の噴射だ。
再び水底に戻り制御権を奪おうとしたヘビが、そのまま水底で息絶えたのを私は理解した。
水底の環境は極めて冷たいが、その環境で生きていた生物もいたのだろう。
水底が極寒の環境から、中層まで拭き上げる熱水に変わったのならそういった生物の多くは死滅するのも分かる。
しかし、それが私や
私は私の行動によって起こる、他の生物の興亡に責任も興味も持たない。
そんな大蛇の発生はレアケースであり、たいていは既存の生物が巨大化していく程度のパターンに過ぎない。
何時の間にか土中で巨大になっていたナマズやザリガニが大量にいた時も、水鳥に大きく被害が出る前に食した。
人間の巣が襲われていたのはどうでも良かったが、ナマズもザリガニも美味いから、それはそれとして食う。
そして適度に間引く。
成長がやたら早くて、際限なく大きくなる個体が何体かいたから、放置しておくと原種達が返り討ちにあうことになるからだ。
全滅はさせたくない。
全滅させたなら、もうそれ以降は食べられなくなる。
適度な大きさのナマズとザリガニだけを残すのがベストだった。
ナマズは別として、ザリガニの方は個体毎に大きさがマチマチ過ぎた。
大きい個体を放置しておくと、同じくらい大きくなるザリガニを生む傾向があった。
だから一般
全然大きくならないザリガニも殺した。
特殊な能力を備えたザリガニも殺した。
土に住む以外に特別な能力も無く、適度に原種の腹を満たせる大きさで、原種に危険を及ぼす程の大きさにはならない個体だけを厳選して、残りを殺し続けた。
こうやって、都合の良い個体だけを残して、それらが同じ様な子孫だけを生き残らせる事を続ければ、それは次第に固定化されるからだ。
人間のいうところの、『家畜化』を私なりに実践してみた。
私が原種達がザリガニやナマズを襲う姿を微笑ましく見ていると、黒い水鳥がやって来た。
私の原種とは違う水鳥だった。
そいつは目玉を抉って弱らせたナマズを、可愛く雛達が突いている様を見ておきながら、雛達を無理矢理追い払ってナマズを叩き殺して喰い散らかした。
親鳥が丁寧にナマズの眼をくり抜いて、尻尾を裂いて、エラを突いて、雛鳥の為に用意していたというのに。
雛鳥は一生懸命に血が出るエラを突きながら、同時に熱水を吹き掛けて、殺して食うために弱らせる訓練をしていたというのに。
エラを熱すれば魚は弱る。
誰だって心温まる光景だったはずだ。
だが、別種の水鳥から見るとそうでも無いらしい。
私はそれを
例え、そこに人間に攻撃された跡があったとしても、姉の血を引く原種以外など、どうでも良いからだ。
他種の不幸な過去や、そこに至る理由や理不尽や主張など、私には何の影響も及ぼさない。
人間も、他の水鳥も、ザリガニも、他の何であっても、消す必要があるものは、私は消しておく。
私を殺し得る人間の特異個体が、獣人と呼ばれる人間の亜種に発生した時も、獣人の群れ毎消した。
育てば人間が非対称性干渉存在と呼ぶ、全てを倒せるにまでに強くなったかも知れなかった。
そうなる前に私が消した。
アレはメアファドリスという人間の巣と共に、湿地丸ごとを消そうとしていた。
だからその前に私が消した。
単純に獣人が一番人間で多いからだ。
特異個体は一体で数の差を無意味にする強さを持つ。
しかしその発現する確率は、母数に依存する。
今回も他種族の水鳥が、私を殺し得る攻撃性をもって襲って来たが、硬いだけの身体を持つだけの飛べぬ鈍足では、その翼は私には届かず相性的に容易だ。
毒があったとしてもどのみち
幸いな事に、
生かした所で同じ餌を競合する事になるだけだから殺した方が良い。
スズメバチはミツバチを食い、チンパンジーはサルを食う事で、必須栄養素を全て賄える。
ゾウとサイは同じ水を求めて殺し合い、カブトムシとクワガタは蜜を求めて互いを排除する。
だから、それは必然だった。
私と群れを維持するだけでも多くの餌が必要なのに、私に匹敵する大きさの他種の水鳥を養う意味はない。
だから────────死ぬがよい。
❖エルフ側の視点
無能な味方は有能な敵以上に恐ろしい。
私達エルフの祖先が真人と名乗る者共と同じであった頃に、この基本原則に基づき社会運営を行いました。
有能な外国人、無能な自国民、無能な外国人を含まない、有能な自国民だけで婚姻を重ねていたのです。
優秀な純血の自国民を殖やそうと。
ある時、真人の指導部であった先祖達は気が付きました。
自国民を幸せにする方法に。
それは政治家としての
今不幸な人達を幸せにする必要は、最初から無かったのです。
今不幸な人達はそのままにして、幸せな人達を新たに作る事にしたのです。
優秀な者だけを集めて、真人達の元から去りました。
本当は真人達を処分して、自分達が残っても良かったのです。
優秀な者が維持・発展させてきた社会なのですから、当然支えられて来た者達よりも社会の所有権が存在するからです。
ですが、優秀な者達が根こそぎ抜けた後の、これまで支えられて来た真人達が奮起する事を何処か期待していたのかもしれません。
結果、残された真人達は、その穴を埋められず社会そのものが一度崩壊しましたが…。
一方、古巣を捨てた優秀な真人達の方は、最高の能力を持って生まれる、最高に幸せな人類を作る事にしました。
その為に、元々優秀な自分達の子供の遺伝子を、魔力で整えました。
まず最初に大切な法則があります。
メーテールの法則といい、顕と潜の二つの性質があります。
この顕と潜は父親と母親の両方が二つとも持っており、顕顕、顕潜、潜顕、潜潜の四つのパターンの子供が生まれます。
ここで問題となるのは、顕顕、顕潜、潜顕のパターンでは顕の側が発現して、潜の側が発現するのは潜潜のパターンのみです。
一見マトモであっても、発現していない問題のある潜を持っている真人が殆どでした。
完全に問題の無い遺伝子の者はいなかったのです。
そして潜同士が噛み合えば問題は顕在化します。
しかし、全く同じ潜が噛み合わなければ問題はありません。
両親が違う問題のある潜を持っていても、それは片方だけでは発現しないからです。
真人を含むエルフ以外の全ての生物が近親相姦を避けるのは、遺伝子が近しいと、顕在化していない潜の問題ある遺伝子が被る可能性を避ける為でした。
ですからエルフは、遺伝子全てから問題ある要素を、全て問題が無いように作り替えたのです。
エルフの遺伝子は均一ではありません。
偏差は存在します。
ですが、問題が発生する遺伝子は存在しません。
ジャンク遺伝子まで遡って、完全にスクリーニングされています。
当たりと外れがあるクジで連続で外れを引いた時だけ外れになるとしましょう。
外れが存在する以上は、その可能性はゼロにはなりません。
そこで外れを遺伝子から一掃したのです。
当たりと大当たり遺伝子のみで構成しており、その当たり・大当たりの内容が違うだけなのです。
こうなると、全く同じ遺伝子を持つ者同士でも、潜性から発現する遺伝子疾患は起こりません。
しかし、環境の変化に耐えられなくなるのではないか、という問題がありましたが、これも結論から言えば問題がありませんでした。
まず最初に、エルフの頭脳と魔力と技術を持ってすれば、環境の方を屈服させられるからです。
寒冷化が起きたなら、寒さを防ぐ都市と衣服と防寒魔法を作れば良いのです。
温暖化が起きたなら、暑さを防ぐ都市と衣服と耐熱魔法を作れば良いのです。
二つ目ですが、エルフは全員が、ほぼ全てのものに耐性がありますので、そもそもの時点で変異し得る真人達より優位にあります。
最後に、どうにもならなければ、また子供達の遺伝子を新しく書き直せば良いのです。
とはいえ、現状が環境に対して最も完成しているエルフとしては、あまり環境が変わる事を喜ばしく思ってはいません。
ですので、非対称性干渉存在の様な環境を改変し得る存在は迷惑なのです。
安定した環境では番狂わせは起こりにくく、エルフは常に人類の頂点に居られます。
余計な番狂わせを起こす要因は要りません。
ですのでエルフ達は、エルフの居住地に最も近い
鋼の様に硬いその羽の隙間を縫う様に、鋭い弾丸の洗練をお見舞いしました。
人工ダイヤ弾。
その硬度は極めて高く、鋼鉄程度では砕くことも切り裂くことも出来ません。
水面が紅く染まりました。
エルフ達は勝利を確信しました。
まだ更に強力な攻撃手段があったからです。
『ダイヤクラスター』
巨大な人工ダイヤの集合体を撃ち放ち、弾けさせて広範囲を無差別に貫く魔法兵器です。
他の人類が逆らった時に使われるものですが、これがあるおかげでエルフに逆らう人類はいません。
安定したエルフを頂上とした人類の階級は保たれています。
ダイヤクラスターは、巨大な水鳥の頭上で炸裂し、水鳥やその雛鳥達を抹殺しました。
歓喜するエルフは、巨大な魔力の奔流に気が付きました。
その非対称性干渉存在には番がいたのです。
片翼の無い番が。
しかしその番が生き残っていたことで、エルフ達は恐れはしませんでした。
万全の非対称性干渉存在を倒したのに、それの欠陥版なら取るに足らぬと。
水鳥の殆どは夫婦愛が強く、番が殺されると直ぐに死期を迎えます。
その片翼の水鳥は、長く長く鳴きました。
そして、その片翼を掲げました。
水が、消えていました。
紅く染まった水面が、渇いた大地へと変わっていたのです。
そこには、真っ黒の水鳥だけがいました。
エルフの戦闘団は再びダイヤクラスターを放ちましたが、それは砕けました。
爆散させる前に粉々にされたのです。
エルフ達は都市への伝令として、僅か一人を逃すと、残り全ての人員で時間稼ぎの為に戦いましたが、それも僅かな時だったのかもしれません。
救いは、片翼の黒き翼は飛べなかった事でした。
それだけが救いでした。
逃げ出した伝令が己の自宅に逃げ込んで、母親にそれを伝えたと同時に、都市の入口付近が消し飛びました。
説明を受けたばかりの伝令の母親は、生きた心地がしなかったにちがいありません。
エルフ達は逃げに徹しました。
取り敢えずは、近隣の人類の王国『メアファドリス聖王国』へと逃げ込み、真人を防護壁に出来ないかと。
しかし、水鳥を保護しているメアファドリスに、水鳥を攻撃して逃げましたと言って、助けられるとは思いません。
ましてや、真人に借りを作るのは危険でした。
なので上手く行かなかった時には、取り敢えずメアファドリス聖王国の国民達を全滅させる事も視野にいれていました。
メアファドリスは、地下から襲ってくるナマズとザリガニのモンスターの影響で、人口の30% が死んだばかりでしたから。
その時、それは来たのです。
白き翼は、黒き翼を打ち倒しました。
全てを呑み溶かす水で、黒き翼を抹殺したのです。
メアファドリス聖王国には、借りを作った訳ではありません。
完全存在たる、聖なる白き守護者に助けて貰っただけですから。
白き守護者は、人類全体の正義を守護する聖鳥であり、メアファドリス聖王国の所有物ではありません。
全獣人の奴隷身分からの解放と、獣人以外の全人類からの自由略奪を掲げた獣人王を、滅殺してくれたのも聖鳥でしたし。
ですから、エルフはそれ以降聖鳥を信仰するようにはなりましたが、それはメアファドリスへの借りではないのです。
メアファドリスではなく、神鳥に感謝をしているだけですから。
エルフ神選国においては、神鳥の好物と同じ物を食べられる事を何よりの栄誉としますが、一般のエルフ程度では、それを行うのは烏滸がましいとされて、消費量で見るとほぼ出回っていません。
水草を磨り潰した時に香るツンとした辛味と、新鮮な魚介を共に味わう至高の料理法『スゥーシィー』。
アレは大変美味なものなのです。
「第一王女殿下、女王様がお呼びです」
お母様は、人使いが荒い。
私を除いて全滅した戦闘団を、立て直す事は私の使命だというのに。
「…分かりました。直ぐに行くと伝えて下さい」
「以前に王女殿下が滅ぼした獣人の国を、リゾート開発地にする件とのことです」
私は先程の言葉を翻す事にしました。
リゾート地の開発責任者として、暫く私を戦場から遠ざけて、その間に婚約までを終わらせようとする、母の意図が読めたからです。
「……、逃げる気ですね
「臨機応変な転進と言って下さい
呆れたフリをしつつ、部下達に遠征準備の指示をする
その時は、子供には背に翼を授けましょう。
完全存在たる神鳥様の如き、純白の翼を。
聖王歴2000年の教科書より
❖エルフ
人類の完成品。世界の盟主。
遺伝子の中には一切の問題がなく、性別を反転させた同一人物が子供を何人作っても、障害を持つものが生まれない程。
近親相姦を禁じる法律が存在しない。
逆に少しでも疾患や能力低下の可能性がある遺伝子があるまま、それをそのまま放置している他の人類を心底嫌悪しているが、他人類に対して自分達の遺伝子技術を提供することは禁忌としている。
ベースとなっているのは真人。
しかし、既に真人とは余りにも大きくかけ離れた。
全てのエルフが、真人最高の知能、真人最高の魔力、真人最高の身体能力、真人最高の容姿を基礎水準として、一切の先天的疾患が発生しない。
エルフの独占する『核魔法』はこれまでにエルフに従わなかった全ての他人類国家を一瞬で消滅させている。
白亜の神鳥を信仰しており、近しい思想を持つ魔族とは交流がある。
真人に対しては、自らの下位互換として認識しているが、メアファドリス聖王国とは交流を持つ。
エルフは竜人を嫌っていないが、伝統的な竜人はエルフの在り方を疎んでいるが、近年は必ずしもそうではない。
伝統的な竜人国家がエルフへと反逆し、核魔法で開戦と同時に終戦した事も大きいとの見方が強い。
獣人に対しては、その価値である労働力以上の結果を魔法や科学技術で生み出せる為に、不衛生な害獣という認識で駆除を行う事もある。
神鳥への信仰のあまり、翼を有するエルフが遺伝子操作により誕生し、後に独立して『天使』と名乗るようになった。
❖天使
現在の人類の意思決定種族。
現在の全人類評議裁決は、天使族によってのみ行われる。
❖獣人
身体能力と繁殖力にのみ優れた人類。
知能が低く享楽的で、単純労働以外に生産性を生まない。
理性が低く粗暴で感情的で、増加すると治安が悪化する。
よって獣人相手には、手続きをとった上での洗脳魔法も許可されている。
白亜の神鳥を悪神や邪神と呼ぶ一派もあり、それらは世界的に族滅の必要性が認められている。
メアファドリス聖王国で行われた、第二十三回全人類評議裁決によって過半数の賛成により議決された。
❖第二十三回全人類評議裁決
理性と知能だけに基づかず、会議内容の対象者となる低知能の人類も議決に参加させた会議。
真人20席、エルフ20席、魔族10席、竜人10席、獣人1席、その他9席による、公正公平な決定であった